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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
5/101

ディパッシ族 中編 ★

※20年7月24日にリュンヌのキャラデザを後書きに追加しました。

 「紙を作るだあ? 大量の羊皮紙を作るほど家畜はおらんやろ。それが儲かるんか」

 「紙は計画の第一段階に過ぎないがな」

 「それはワシらが他の領民と紙作ったら儲かるっちゅう話か?」

 「そうだ。領地で力を合わせて大量の紙を安価で作ることが出来れば……」

 「論外や。こいつは縛って元の場所に繋いどけ」

 「な!?何故だ何が不服なのだ」


 ザンギは俺の問いかけを無視し不機嫌そうに椅子の肘掛に頬をついてタバコのようなものをふかし深く息を吸った後に煙と共に吐き出した。


 再び拘束されていた場所に連れ戻されてロランと再会した。ロランも多少殴られて怪我をしているが無事なようで安堵した。

 騎士も数人生き残っているようで単純に残虐で殺戮を楽しむだけの集団ではないことが伺える。


 「無事だったか……」

 「少し身体が痛いですがロウゼ様も御無事でなによりです」

 「今は無事だが今後安全とは言えないがな。交渉にどうやら失敗したようだ。族長を怒らせてしまった何故かは分からないが」

 「左様でございますか。それでこの後はどうされるおつもりで?」

 「もう一度交渉の機会をもらえないかと考えている。それまで説得出来るような内容を考えないといけないが」


 そもそも族長のザンギは何故怒ったのか、その点を理解出来なければ話は平行線のままだろう。

 先ほどの会話を思い出しながら考える。

 労働をすることを求めたから怒ったのだろうか?それとも紙を作って売るというビジネスプランに信用が出来ない、儲かるとは思わないから怒ったのか、苦し紛れのデタラメと思われた?


 「おい大丈夫か、にいちゃん」


 声をかけてきたのは若いディパッシ族の青年だ。歳は自分と同じくらいのように見える。背が高く筋肉の鎧で身を纏っているが顔は他の戦士よりは幾分大人しい雰囲気がする。そして族長のザンギがくわえていたタバコのようなものを吸っていた。

 煙を吐いてフンっと鼻で笑いながらしゃがみ込む。


 「これ吸えや、身体の痛みマシになるさかい」

 「これは……?」

 「ジャンガ草を乾燥させたもんや知らんか?」

 「ロラン知っているか?」


 ロウゼとしての知識や記憶からはピンとくることはなかった。


 「ジャンガ草は知っています。この領地に群生する生命力の強い雑草で農民は駆除に頭を悩ませています。しかし、それを乾燥させたり痛み止めの効果があるというのは聞いたことがございません」

 「知らんのかいな。俺らの中では当たり前のもんやで。これは気持ち落ち着けることも出来るし戦いの多いうちの部族では先祖代々加工してるんや」

 「確かに戦士には役に立ちそうだ、しかしそんな便利なものが……」


 ちょっと待てと俺は自分に問いかける。『そんな便利なもの』の心当たりがある。日本では禁止されていた薬物だ。

 しかしそれはその時代、その国の価値観や倫理観などによって禁止されているだけだ。広い目で見ると医療的に使用されている場合もあった。

 この世界でよしとされるなら違法などの考え方は正しくないのかも知れない。

 この世界で生きるにはこの世界の倫理や考え方をしなくてはならないだろう。自分の持つ価値観は一つの時代、一つの国の一つの価値観でしかない。それは普遍的ではないのだ。

 逆に考えればこの世界では存在を外に知られていないということは誰にも禁止されていないということだ。


 「何故私にわざわざそれを?」

 「お前の話を俺は聞きたいからや。ジジイの話も途中で終わってもうたしな。外の人間、ましてや貴族と喋る機会はそうないからな。俺の名前はリュンヌ。族長の孫や」

 「ロウゼテルノアール。領主だ。なるほど、それで何を聞きたい?」

 「お前は領主としてこの土地をどうするつもりや。平民だけやない。俺らや亜人もや」

 「私は誰もが平等にチャンスのあるようにしたい。出来るかどうかは別だが、領地を新たな産業で経済的に豊かにする、そして全体の生活の質そのものを変えて……」

 「ほーん……要するに、この土地住んどるもんで協力してやっていくってことかいなそもそも何で良くしたい?儲かりたいからか?」

 「何故……領主とはそういうものだろう。領地を豊かにする義務がありそれが出来るのは俺だけだ。貴族や平民に差別され亜人やお前らの生活が苦しいことは知っている。そしてこの現状を変えるには互いを認め合って協力して領地を豊かにするのが……」

 「アホが。それはお前が何で領民のためにそうしたいかを聞いたんや。それは領主としての義務を答えただけやろ。それに何も分かってへんようやな」


 割り込むように青年は苛立ちながら言う。

 何故か……何故……?

 言語化出来ないモヤモヤがロウゼの頭の中を支配し始める。この現状を変えたいとは思ったが領主という義務感から?いや、そうではないが……


 「なんだと?俺は領民のことを思って……」

 「それがアホや言うてんねん。そもそもな、俺らも亜人は嫌いやし亜人も俺らや人間のことが嫌いや。一緒にすんなや」

 「……何が言いたい?」

 「ジジイがキレてんのも納得やわ。俺らが見下されてるのも生きるのもギリギリなんは分かっとるけどな、あいつらと一緒に何かするんは無理や」

 「理由は?」

 「理由?そんなもん亜人やからに決まってるやろ。それ以外ないわ。お前ら貴族は俺らのこと領民で身分低いものって同じように考えとるみたいやけど団結してる訳じゃないんやぞ。全然別の集団やあんなボケどもと一緒にされて堪るか」


 自分にとってこれは想像だにしていなかったことだった。差別されるものは差別されることを知っているからこそ被差別側の人間に友好的と考えていたが実際は互いに差別し合っているだけだったからだ。

 しかし自分よりも下の存在がいることで安心し自尊心を保つということは歴史的に見てもなんら不自然な事ではなかった。異なる種族、異なる考え方をしているのに被差別民というカテゴライズで一緒にすることもまた差別的な考えだったと思い知らされる。


 「なるほど、お前らの考え方に理解が足りていなかったことは認めよう。それではお前はどうしたいんだ」

 「……俺はこの部族ももう長くはないと思うてる。略奪にも限界がある。それに……」


 青年は何かを思い詰め顔を暗くし言葉を探すように唇を触る。


 「俺は部族を抜けれるもんなら抜けたい。いや、ホンマのこと言うなら変えたい」

 「それは……一体……」

 「お前は泣いてる子供を殺したことあるか?親のこと呼びながら泣いてすがる子供殺して親も殺してなんでも奪ったことは?俺はある。他の奴らは楽しそうにそれをやりよる。でもある子供が俺の目見て助けてって言ったんや。ほんまにこれであってるんか?と初めて思ったわ。でもそうせな俺らは生きていけへん。そうせなあかんこの現状が気に食わんしそれを楽しむような奴らとはこれ以上やっていくのは嫌なんや。でも皆を見捨てるような真似もしたくない。でも今のままじゃ何も変わらん。俺らは殺す以外に生きる道がない」


 蛮族と知られたディパッシの中にもこのような考え方をするものがいるのか。差別はいけないと分かってはいたがやはり無意識のうちに様々な偏見を抱いていたのだろう。そのことを次々と思い知らされると同時に安心もした。


 「抜けれるものなのか?それに抜けてどうするつもりだ」

 「貴族様よ、お願いがある」

リュンヌは真剣な顔つきになる。


 「俺はお前を助けたる。だからお前は俺を助けろ」

挿絵(By みてみん)


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