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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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念願のハンバーグ

 昨日、長い間出していた課題を達成してその成果の確認をして欲しいという連絡があった。進度を計算して基礎レベルのほぼ最後の授業辺りで頑張ればレシピを解読出来る具合にしてある。

 ネフェルの班が試験を受けるという情報が既に亜人部隊の中では流れたのだろう、他の者も焦って最後の詰め作業に入り昨日の夕食でも誰もが勉強をしながら食事をしていた。

 いかにもテスト前の生徒らしくて面白かった。寮の学校はこんな感じなのだろうか?


 午前中の授業でも皆必死で聞いてくれて教える側としては非常に嬉しい限りだ。この間まで、文字を書く意味が分からんといった態度だったのに今では最前列の取り合い、授業後の質問に並ぶものがいたりと良い意味の成長を感じられる。

 礼儀作法も身についてきて貴族を立てるというのが出来てきた。これは兵士の方が上達が早くついで亜人、ディパッシ族の順だ。ディパッシ族は学校の授業の成績で言えば1番悪いが戦闘能力で十分カバー出来ているのでそこまで文句を言うつもりもない。


 そんな授業も基礎の範囲は明日で終了だ。そう思うと少し寂しい気もする。これからはダンジョンに順番に通いレベルを上げて実際に諜報活動をして仕事する。その合間により高度な勉強を教えるつもりだ。各分野の専門家を講師として呼んで変装する技を学ぶということもやっていきたい。


 スパイは頭が悪いと出来ないのでかなり高度な職業だ。最初のうちは街に潜伏したり盗み聞きなどで情報を集めてもらうつもりだが、重要人物から直接コンタクトを取って情報を集めるということもやっていく必要があるだろう。そして、何より大事なのはその存在を誰にも知られないことだ。

 秘密を守ることの重要性はしっかり説いておく必要がある。


 さて、そろそろ試験の時間か。そう思っていると部屋をノックする音が聞こえる。入れと言うと執事がドアを開けて来客を招き入れる。ネフェルたちの班が1番最初の受験者だ。


「よく来た、1番初めに試験を受ける訳だが、早ければ良いというものではないぞ? 間違いが多ければ後から受けて間違いの少なかった者より優れているとは言えない。それは分かっているな?」

「勿論です、皆しっかり練習してきましたからね」


 ネフェルが自信たっぷりに班員の方を見ながら返事をした。


「俺たち何回も練習してきました……おかげで寝不足です」

「返事すると頭からこぼれる……」


 結構ギリギリそうなやつもいるみたいだが大丈夫か?


「で、誰からやる?」

「私からやりますね」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺から先にやらせてくれ忘れそうだ!」

「じゃああんたからね」

「よし、では聞かせてもらおう」


 ブツブツと暗唱しながら今にも忘れていきそうなギリギリの男から始めることになった。

 満点から間違えるたびに減点する方式で受ける試験が早いほどその分点を上乗せする採点だ。

 早く受けるほど有利だが間違いが多くては意味がないからな。


 1人1人レシピを音読していく、緊張でところどころ詰まったり、読み方をうっかり忘れてしまい沈黙したり、分からなくなったところは飛ばしたりで所々減点したがおおよそしっかり読むことが出来ていた。試験の本番の怖さというものも分かっただろう。


「よし、良く頑張ったな全員しっかりと読めていた。規定の点数内なので1番多い肉の量で本日の夕食に出してやろう。料理担当のものに私の許可が降りたと言って作り方を説明してやれ」

「よっしゃあ!!!」

「頑張って良かった……」

「皆良くやったね!」


 ネフェルたちは大喜びではしゃぎながら部屋を後にした。やはり猫科なだけあって肉が食べたかったのだろうか?班長として凄く気合が入っていたように感じる。他の者もその気迫に押されて必死に覚えていた。

 良い雰囲気だ。


 夕食の時間になると彼女の班だけは別メニューのハンバーグだ。香ばしい肉の香りに誘われ皆ハンバーグを囲うようにして様子を見る。ネフェルの班の周りには人だかりが出来ていた。


「凄え良い匂いすんぞ!」

「これが完成品か……」

「美味そう、一口くれよ!」


 口々にハンバーグの見た目の感想を言い合う。


「あんたたちもさっさと試験に合格するんだね!」

「一口もやらねえ!」

「お前ら離れろ!」


 必死でハンバーグをかばい誰にも取られないようにしている様は見ていて面白い。


「早く食べろよ!」

「どんな味なんだ!?」

「うるさい!お前ら自分の食べろよ!」

「落ち着いて食べられやしないね……」


 そう言いながらハンバーグをナイフで切るとジュワッと肉汁があふれ湯気が立つ。見ているとよだれが口内で溢れてくる。一切れをフォークで慎重に口に運ぶと皆、沈黙して見守る。


「……!!」

「美味い!!!」

「肉がまるで別もんだ!」


「おー!!!」

「美味いのか!」

「そりゃロウゼ様がわざわざ褒美にしてるくらいなんだから美味いだろうぜ!」


「頑張ってきて良かった……」


 テストを最初に受けた彼は呆然としながらこれまでの苦労を思い返すように上を見上げ喜びとハンバーグを噛みしめている。どれだけハードな勉強だったんだろう?


「おおお! 俺も頑張るぜ!」

「そうだ、早くしないと肉の量がどんどん減っていくんだろ!?」

「こうしちゃいられねぇ!」


 ハンバーグを食べる様子を眺めていた他の者たちは早くしないとこれが食べられるないということを思い出し、慌てて食事を始める。皆食べ終わったら勉強会をするのだろう。


 微笑ましく彼らの食事の様子を見ながら自分も食事を取った。

 次の日、通いで来ている兵士たちから物言いが入った。事情を聞くべく話す場を設けた。


「それで言いたいこととは」

「亜人たちはズルいです!」

「ズルい……とは?」

「俺たちは通いで仕事もあります、あいつらと同じペースで勉強出来ないのに課題の期限があいつらより遅かったら肉の量が減っていくのは納得出来ません!」


 そう言われたらそうだな。仕事があるので毎日は通うことは出来ないし、寮じゃないので一緒に勉強することも難しい。


「では、どうして欲しいのだ」

「どうって……何とかしてください!」

「気持ちは分かった。だがな、私に時間を取らせるのなら何が不満で具体的にどう改善して欲しいかを考えるくらいはしておけ。交渉するならば当たり前のことだ。兵士全員の意見を聞いてきた訳ではないのだろう?」

「そ、それは……そうですが」

「いいか、私は比較的柔軟な方だが他の貴族では、まず話を聞いてもらうというだけでも貴重な機会だ。準備は出来るだけしてから来るべきだ。本来なら面会自体も即日行われることがあり得ん。既に十分な待遇を受けていることを理解せよ」


「申し訳ありませんでした……」

「だが、そなたたちの言い分も理解出来る。条件を平等にはしたが公平では無かったのは私に落ち度がある。しかし亜人たちが勉強において必死に努力していたという事実は変わりない。そこで提案だが、期限を今日から1ヶ月以内。それが達成出来れば肉の量は亜人たちの真ん中程度の順位と同量。そして亜人たちは知らない更なる工夫を加えた料理とする。これでどうだ?」


「更なる工夫ですか?」

「ああ、人によるだろうがこちらの方が美味しいと思う者も少なくないだろう。簡単な工夫だがまるで違う仕上がりとなる料理になるはずだ」

「俺たちだけ違う料理って事ですか?」

「そうだ、材料、作り方はおおよそ同じだが1つ食材を加えて特別な味になるはずだ、私は正直そちらの方が好んでいるくらいだ」

「そ、そんなものを頂けるのですか……」

「課題が達成出来ればの話だ。1ヶ月以内だ、決して楽ではないはずだが?」

「く……頑張ります!」

「1ヶ月ももらえたんだやれねえことはねえよ!」

「そうだぜ、チャンスがあるだけ運が良い!」


「少ない授業の機会で亜人たちに食らいついているのだ、そなたたちなら出来るだろう、期待しているぞ」

「……! ありがとうございます!」

「では、これからは貴族と話す時に準備することも忘れずにな」

「はい!ありがとうございました!失礼します!」


 1ヶ月後、兵士たちはチーズインハンバーグを泣きながら食べることが出来たのであった。

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