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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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電話

 もう少しで学校の基礎的な範囲が終了する。諜報部隊としてはもう少し勉強が必要だしこれからも教育は続けていくが一先ずは運用していくことが出来るだろう。武器と服も用意している。後は連絡手段だ。


 例えば手紙で1週間かかる場所から送られてきた情報は1週間前の情報になる。これでは緊急事態の時に気がついたら取り返しがつかないことになりかねない。タイムラグのない連絡手段が必要だ。

 現状、遣いカラスが最速だが確実性もないしそこまで早くもない。となると思いつくのは電話だ。インタラクティブであり、ほぼタイムラグがない。


 あらゆる指示と連絡がすぐに出来るというのは緊急性を要する場面で圧倒的な効果を発揮する。戦闘中などでは現場の動きを俯瞰で見て、場所ごとに指示が出せれば作戦が思うように働く可能性が高くなる。


 仕組みとしては確か、音の波動を電気に変えて送り、電気の振動の大きさから音に変換していたはずだが、電気を作るって部分で実用を考えると現実的じゃないんだよな。そこまで科学的な知識があるわけじゃないし、魔法と違うエネルギーで働く道具って存在自体がヤバイ気がする。


 音を魔法で何かしら伝達させる方法を考えないといけないということか。うーん。


「何を唸っている」

「うわ! びっくりした、カズか。耳元で声を出すな!」

「最近私の存在を忘れていないか」

「正直、忙しくて忘れてた感はある」

「もっと美味なものを食えこんな部屋で姿を消していることを我慢しているというのに」

「悪かったって、それより今はちょっと忙しいから後にしてくれ」

「何だと? 私をないがしろにして一体何をしているというのだ?」

「ちょっと魔道具の開発で」

「では、私になおさら相談するべきではないのか、そんな事で君は私への扱いを雑にしているというのか」

「悪かった、悪かったって」


「それで、君は一体何を開発している」

「遠くにいる相手と会話出来る魔道具だ。昔にそういうのってあったか?」

「私はそういったものは知らないな。頭の中で直接話していたはずだ。道具には頼っていなかった」

「何っ!? そんなことが出来たのか、仕組みはどうなっている? 術式は?」

「落ち着け、私は詳しくは知らないので説明出来ない」

「なんだ、役に立たないじゃないか」

「だが、知恵を貸すことは出来る。私が数字の処理をどうやってしていると思っている?」

「さあ、魔力を使ってお前に数字を送ってるんじゃないのか」

「要するに、この数字が声なら君のやりたいことが出来るんじゃないか?」

「……! そういうことか」


 魔力は空気中や地面の中にあふれている。貴族は体内にある魔力を使って、体外にある魔力に干渉し魔法現象を引き起こす。これが魔術の正体だ。

 カズキュールに計算の処理をさせているのは空気中にある魔力を通して情報を魔力に変換し、その魔力をカズキュールが変換し直して数字として認識している。ということを以前に聞いた。

 つまり、この数字の部分が音で、音を魔力として変換して特定の場所に送るという術式を組めれば通話することが出来るということだ。


 音は波だ。魔力も面白いことに、波なのだ。音の波を魔力の波に乗せてやることが出来れば……ってどうやって音の波を魔力に変換するのかが分からない。

 数字になら変換出来るやつがいるんだが。

 待てよ……そうか、電話の音声は符号化されていたはずだ。入力された音声に対して、似た波長のものを持ってきて擬似的に音声を再現するという処理がされていたはず。つまり数値化された音の振動を魔力を介してカズキュールに一旦送る、そしてカズキュールから相手の方に送ってもらえば通信が可能ではないか?


 カズキュールに今思いついたことを説明してみる。


「理論上は出来るが、音声を数値化してその情報の乗った魔力として私に送る仕組みが必要だぞ」

「それについて音に関係した魔法の本を参照してみる。父がまとめていたはずだからな。それが出来れば実用可能だろう。仮に同じ時に大量にその処理が要求されれば出来るか?」

「当たり前だ、私は計算の石版だ。計算の限界などない」

「それは高性能な計算機なことで」

「それより美味なものを……」

「後でな、まだ昼前だろ」

「仕方ない」


 父のまとめた研究を参考にしつつ術式を組んでいく。音声の変換よりも音声の入力装置を作る方が大変だった。要するにマイクを作らなくてはならないからだ。そして魔法という意味不明な現象に作用するように落とし込まなくてはならない。科学よりは単純に設計されているがそれでも複雑だ。恐らく、科学が難しいので誰でも出来るように意図的に魔法は単純化されているのだろうと思う点がいくつかある。


 結局、魔結晶を振動させて内部の術式で変換する仕組みを作った。入力の際はこちらの声で振動させ、その振動を変換する。出力は受け取った情報を元に魔結晶を振動させ、空気を通して伝達し耳に届ける仕組みだ。今回は1セットで2つ作った、1個だと何も出来ないので当然だ。そして、数が増えた時の事を考えて識別番号を振って、それらの数字を音声入力で発信出来るようにした。カズキュールの計算の処理が無ければ実現出来なかっただろう。これは絶対にテルノアールしか作れないものだ。

 王都に持って行ったら高値で売れそうだ。

 実際、貴族は喉から手が出るほど欲しいのではないだろうか? 需要はありそうだ。テルノアール内で十分な量が出来次第普及していきたいな。


 そうだ、トゥルーネに持っていって見せてみよう。実験するには丁度いい。


「おい、どこにいく?」

「トゥルーネのところに」

「待て、昼食の時間だ。こちらで食べてから行け」

「分かったよ……」


 昼食はロランに頼んで食堂ではなく部屋で食べることにした。勿論カズキュールを人目に晒さない為だ。

 今日のメニューは魔獣肉のコロッケだ。ポムドテルの収穫が順調なようで少し早めに農民から献上されてきたものを早速調理したものだ。

 やはりダンジョンの起動のおかげで魔力が上手く巡っているのだろう。この秋の収穫は豊作だそうだ。作物の実り具合が全然違うらしい。

 では、いざ実食。

 歯を通すとサクッと音がしてホクホクの肉と芋が口に溢れる。香ばしい匂いと芳醇な肉の味わいによる絶妙なハーモニーを奏でている。


「うむ、これは悪くない」

「コロッケって言うんだ」

「コロッケか……気に入った。このカリカリした部分が特に良い」

「衣な、いい加減に揚げてくれているな」

「この音も心地良いではないか」

「確かにな」


 昼食を堪能して、満足したカズキュールは置いていき、ロランに連絡させておいたトゥルーネのもとへと向かう。今回はちゃんと連絡したので学習している。


「トゥルーネ、私だ入っていいか」

「……どうぞ」


 しばらく待つと許可の声が出たのでトゥルーネ付きの執事にドアを開けさせて入室する。


「今回はちゃんと事前に連絡したので文句あるまい」

「事前というか直前ではありませんか、2時間前ですよ連絡があったのは。普通は3日ほど余裕をもって予約を取り付けるものだとあれほど何度も言ってるではありませんか」

「まあまあ、凄い発明をしたから見て欲しくてな」


 これだ、とトゥルーネの机の上に道具を乗せる。見た目は魔結晶のついた黒いシンプルな魔道具だ。


「これは……?」

「遠くのものと通話出来る魔道具だ! 凄いだろう!」

「遠くのものと通話?一体何のためにそんなことをするのですか?手紙で良いのでは?」

「手紙では遅いだろう。送られてくるまで待ち、届くまで待つ。また送られてくるまで待つ。時間の無駄だ!」

「なるほど、せっかちなロウゼ様にはピッタリ魔道具ですね」

「分かっていない! まるで分かっていないぞ、これは戦場など一瞬の判断と連絡で生死を分けるような場面で活躍するのだ、分かるか!?」

「緊急を要する時にあれば便利ということは分かりましたけど」

「いいから試してみろ。その結晶が光ったら少しだけ魔力を流してみろ私の声が聞こえるから。では、私は一旦退出する」


 部屋を出て魔道具に魔力を流して起動する。


「トゥルーネ、私だ聞こえたら返事を」

「……トゥルーネです、聞こえていますか?」

「ああ聞こえている成功だな」

「本当にこんなもので会話が出来るなんて」

「声は聞き取りやすいか?」

「話している時よりは少しガサガサとした音が聞こえますが会話する分には問題ありません。ここにロウゼ様がいるみたいです」

「そうか、良かった。話を終える時は魔結晶にもう一度魔力を流せば良い。やってみてくれ」

「はい……」


 通話は終了したので、改めてトゥルーネの部屋に戻る。


「どうだ、凄いだろう」

「まあ……いつものことですわ。驚くことにも慣れました」

「私がおかしなやつみたいではないか」

「自覚がないというのは恐ろしいものですね」

「何!?」

「ところで、どうやって作ったのですかこれは。仕組みはどうなっているのです?」

「……それは秘密だ……!」

地味に大発明です。情報で戦うテルノアールには必須アイテム!


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