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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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服の誂え

  二度の合宿を終えて皆のレベルが上がったことを実感出来た頃には夏も終わりに差し掛かっていた。


「ロウゼ様、そろそろ喪も明けますので新しい服の誂えをしなくてはなりませんね」

「ああ、もうそんな時期か」


 先代の領主である父が亡くなり半年が過ぎようとしていた。喪に服す、とは言葉通りで喪中は親族は黒い服を着るのが慣わしだ。領主の息子と領主では着る服が同じであってはいけない。その為、新しい服を誂える必要がある。


「今年は予算も多少ありますので、良い服を沢山用意出来そうですね」

「こればかりは無駄な出費とは言えないか……」

「もちろんでございます」


 貴族は服装や身だしなみで侮られるようなことがあってはならない。見栄を張るべきなのだ。しかし、この世界のファッションが正直あまり好きではない。装飾が自分の感覚ではダサい。袖や襟にヒラヒラしたレースがふんだんに使われ、膝丈のワンピースのようなものを着て、下は白い靴下を履いてそれが見えている状態だ。白い靴下が特に嫌だ。


「貴族の服のデザインはどうにも気に食わん」

「しかし、流行に合わせなければ他の貴族に侮られます」

「流行とは厄介なものだ……」

「もうロウゼ様が流行を作るしかありませんね」


 ロランは冗談半分でおどけたように仕方ない人だと笑いながら言う。


「流行を作るか……よし、そうしよう」

「えっ?」

「流行を自分で作って自分の着たい服を着る。この街に服飾の工房はいくつある」

「ほ、本当にやるおつもりなのですか……」

「ああ、やると言ったらやる」


「……ほんの冗談のつもりでした」

「いや、良いアイディアだ。それで、いくつある?」

「全部で5つです」

「よし、ではそれぞれの工房へ連絡して屋敷へ呼べ」

「全部の工房をですか?」

「ああ、優秀なものを選びたいので贔屓はなしだ。アイディアを伝えてそれを発表する場を作る。その中で良いものを買い取ろう」


 コンペとコレクションを同時に行ってしまおう。パリコレを見るのが好きで様々なブランドから面白いデザインやカッコいいデザインの服を見るのが好きだった。服には人よりもこだわりがある。


「それでは仮に優秀なものが無ければその店は報酬は無しですか? それでは反発が出ると思いますが……」

「いや、本当に作る前にデザイン案の提出と仮縫いの状態で見せてもらう。良かったものを指定して作らせる。まあ、領主から注文を取る機会に対して報酬がどうのと言うことはないだろう。こちらが注文するといよりは注文してもらう機会があるが参加するか? という風に仕向ければあっちが勝手にやる気を出すと思うがそこら辺はお前の力量次第だな?」

「そういう事ですか……なるほど、そのように取り計らいましょう」


 ロランは頭を下げてはいたが、僅かに見える口角は上がっていた。このような交渉事はロランの得意分野だからだ。


「さあて、どんなデザインをしようか」


 アイディアを箇条書きしていき改善のプランを練る。取り敢えず妙なヒラヒラを無くしながらも、貴族として問題のない豪華さをどうやって出すかというところが一番の問題だろう。


 要するに、服に情報量を持たせればいい。最初に思いつくのは刺繍だ。刺繍は服に立体感を持たせてくれるし、豪華な雰囲気も出る。前から考えていたのだが、魔法記号を描き込んでおけば身を守ることもしやすいだろう。ディパッシ族の刺青を参考にさせてもらおう。

 服に入れるべき魔法記号と術式を検討しながらメモを取っていく。これを仕立て屋に正確に刺繍しろと言っておけば良いだろう。

 後は、重ね着をすることでレイヤー感を出し、情報量を増やす。風のなびきで美しいシルエットになるようにしていきたいな。

 服の形は袴のような形のパンツとジャケットが欲しい。あ、いっそワイシャツとネクタイがあっても良いかもしれないな、それも作らせよう。


 作らせるものがどんどんと思いつきいていきメモは大量になっていく。


「流石に多いか……いや、各工房で仕事を分散させれば大丈夫だな」


 出来ればライン制にして工房によってやるセクションを分けて効率化して欲しいが利権やら何やらで現実問題は難しいだろう。改革するにしても手回しが必要だしどうしても時間をかけていくしかない。


 2日後、屋敷に街の服飾工房の仕立て屋が全て揃って来た。我が家が馴染みの店の主人が代表して長ったらしい挨拶とこれからよろしくお願いしますということで贈り物をしてくれた。

 なるほど、目上の者に気に入ってもらうにはこういう気遣いが必要だな、参考にさせてもらおう。


「既に説明を聞いていると思うが今回、全ての工房に声をかけたのは優秀なものを取り立てたいと思ったからだ。馴染みの店ばかり贔屓して、貴重な人材を見逃すのも惜しい。当然、馴染みということはそれだけ技術力が高いことは分かっている。しかし、私は平等に機会を与えたいと思う。私が提案した新しい服を作り上げて気に入ったものは買い取り褒美を授ける。ロラン頼んだ」

「かしこまりました」


 事前に用意したメモをロランが職人たちに差し出し、説明をする。

 こう言った作業を平民と一緒になって出来ないのが貴族のもどかしいところだ。


「あの、色はどうなさいますか?」


 1人の職人が質問をする。これに直接答えてはいけないのが面倒だ。


「ロウゼ様、色はどうなさいますか? 例年通り秋の実りのような色でしょうか」

「黒だ」

「く、黒ですか、喪は明けますが……」


 ロランも職人も何故忌避される黒を選ぶのかと言いだけに驚いてこちらを見ている。


「いや、敢えて黒を選ぶ」

「その、敢えてというのは」

「まず、テルノアールは黒い土地という意味で、うちの色は黒だ。そして色を混ぜていくと黒になる。様々な人種がいるこの領地をまとめる人間の色は黒が相応しいと思った。また、まとめるという覚悟を示すために敢えて黒を選ぶ。まあ反発はされるであろうがそれが流行になってしまえば関係ない。流行にはそれぐらい衝撃が無くてはならんしな。これでも戦略的に考えている」

「な、なるほど……しかし黒というのはそれでもあまり外聞が良いとは言えませんが……」

「父の死を偲んでいるとでも思わせておけ」

「はあ……考えはお代わりになりそうにありませんね」


 ロランはやれやれと言わんばかりに首を振って承諾してくれる。


「服の形はそこに書いてある通りだ。その模様は魔法記号だが意味は理解しなくても良い。ただし、確実にその通りにせよ。間違えがあれば買わぬ」


 その後は採寸、質疑応答で職人たちの質問に一つ一つ答えていく。特にワイシャツの襟がイメージ出来ないらしく何度も質問された。ジャケットは旧来の上着のデザインを少し変えたもので、それをベースにアレンジして欲しいと伝える。まあ、最初は基本通りの形になってくると思う。貴族を怒らせると怖いと考えている彼らがデザインで冒険してくるとは思えないからだ。


「これは私のサイズで測る必要はない。うちの部隊の制服として使う予定だ。デザインだけ考えておいてくれ。サイズはおおよその大きさで種類を作り、体格にあったものを選ぶようにする」

「採寸はしないのですか……」

「あの人数だ、1人1人採寸していたら終わらんだろう。効率的にやるにはその方が良い。後日サンプルとして何人かは採寸させた方が良いだろうが、それを元に作り似た体格のものは同じ大きさのものを着れば良いだけだ」

「な、なるほど」


 服は基本的に自分のサイズに合ったものを作るのが普通だ。平民は自分で縫っているが、服を買う場合はオーダーメイドだ。SMLのようなサイズで着ることはないので、ロランや職人は驚いた。


 少しずつ、ファッションを貴族の威光を示すものから芸術的な表現のメディアの1つとして、市民権を獲得していきたい。パリコレならぬ、テルノアールコレクションで大々的に各地から考えられたデザインの発表会なんてものがあっても面白いかも知れない。

 そうなるとモデルという職業が生まれる可能性もある訳で、新しい価値観を作れば新しい需要を生むことが出来る。テルノアールに入ってくるお金の種類も増えるかも知れないという事だ。特に服はブランド力が高いから原価や工賃以上に、ブランド代で儲けることが出来そうだ。

 ゲオルグに香水なども作らせてテルノアールブランドでロウゼ商会を更に大きくすることが出来れば良いなと思う。


 広告なんかも出して認知度を上げて……広告、紙……あっ、すっかり忘れてた。と言っても大掛かり過ぎて今の規模じゃ難しいよなあ。紙用に木を切る人的リソースも足りてないし、新しく労働者を雇うほど人がいるわけでも無い。農民の冬の仕事にさせるか?季節に影響される職業の平民は必ず空いてる時間があるはずだ。その間に職を与えれば断るものはあまりいないだろう。


 と言っても、まずは紙のプロトタイプの開発だな。ゲオルグに相談だ。あいつどんどん仕事増えてるな。販売ルートもある程度確認しておかないといけないしエッセンに話をつけて、羊皮紙との違いを説明しないと無用な軋轢が生まれるからトゥルーネに報告してと、かなりやる事が多いな。下準備だけでも重労働になりそうだ。


 んーまだまだ領地を大きくしていくには先は長いな。

ファッションに詳しい方なら元ネタが分かったと思います


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― 新着の感想 ―
[一言] 私はファッションなんぞまるでわかってない人間ですが(某紳士服マンガを読んだ程度^^;) 流行を生み出すってのは大変ですよね。 社会的な雰囲気とマッチしなければ「頓狂な服装」と笑われて終わって…
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