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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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ディパッシ族 前編

 ズキズキする頭痛で目が覚める。まだぼんやりとしていて自分の置かれている状況には気付いていない。

 寝返りをうとうとした時に自分の手が縛られて身体の自由が効かない事に気がついた。


 「なんだ……!?」

 「目ぇ覚めたか」


 目の前にはいかにもな悪人づらの傷だらけの男が刃物を手の上で遊ばせ顔を覗き込みニヤニヤとしていた。


 「ここは?」

 「俺たちの村」

 「なぜ殺さない」

 「お前貴族やろ?人質にして金を奪うんやそんなことも分からへんのか」


 この世界の言葉ではあるが若干訛りがあるようで受け取る印象が違った。


 「他の者は」

 「騎士は数人殺したけど後は監禁しとるわ。お前はこれから族長に挨拶や」


 男に縛られたまま引っ張られテントへと連行された。

 テントに入ると一瞬で誰が族長か分かった。巨大な身体に隆々とした筋肉でまるで巨人の白く長い髭の男が座っていた。座っているだけでも自分より大きく見える。


 「連れてきました」

 「起きたか。お前は下がれ」


 手で向こうへ行けとジェスチャーをして鬱陶しそうに追い払う。声は低く威厳のある声だった。上に立つ者としての心構えというか大事なものを何となくこの人物からは感じる。


 「ワシはこの一族の長のザンギやお前、領主の息子か」

 「お初にお目にかかる私が領主のロウゼ・テルノアールだ」

 「じゃあお前の親父は死んだんか」

 「そうだ。父に身代金を要求するつもりだったのか? 生憎だがお前らが満足出来るほどの金は我が領地にはないぞ」

 「それはお前が嘘ついてるかも知れへんやろうがそのまま信じるわけないわ」


 思っていたより疑り深いようだ。

 さて、どうすればこの場を乗り切れるだろうか。まず、素直に金を払えば解放してもらえるかも知れないがそれは論外だ。金は少ししかないしそれらは領地全体の為の金だ。

 かといって断れば殺されるだろう。

 ここは相手に利益があると思わせることを何か提案しなければ……


 「金はない。が、金は作れる。私はこれから領地をあげてデカイ産業を起こすつもりだ。私を見逃してお前たちも一枚噛めば金は入ってくるぞ」

 「領地をあげてやと?アホ抜かせ。ここら辺は何もあらへん。土地も痩せてるし人間も大しておらん。やからワシらはよそから来る商人や農民襲っとるんや。それが出来ひんことくらい分かっとるわ」


 勿論完全にハッタリだ。具体的なビジネスプランなど何一つない。だがやるしかない。


 「土地にあるものをそのまま売れるほどの資源がないことは分かっている」

 「じゃあどうすんねんワシらみたいに他の領地襲って自分らのもんにすんのか木と土しかあらへんやんけ」

 「そうじゃない。それにこの領地にそんなことが出来るほど食糧も人も金もない。だからこの領地にあるものを使って価値を生み出す」


 学生の時に一つのレポートを書いた。日本の天然資源に頼らない独自の産業についてだ。

 日本は国土はそれほど膨大ではなく天然資源は輸出できるほど大量にあるとは言えない。金や銀も掘り尽くされ化石燃料もない。

 物それ自体に希少性や価値があればそのまま売ることが可能だがそれが不可能な場合、将来的に不可能になる場合どうすればいいかということを仮説として提案したのが文化資源を中心とした産業だ。

 日本の漫画やアニメは世界的に人気で多くのファンがいる。クリエイターもいる、表現も自由度が高い。

 コンテンツ産業を中心にすることで物理的な資源に頼らないビジネスが出来ると考えた。

 ここでの本質はモノに価値を与えるということだ。お札と同じで価値と原価自体は金額と合致していない。

 紙に加工をしてそれに価値があると互いに理解しているから価値を生む。

 漫画も紙とインクで作られているがそれで構成された中身にお金を払う。

 ブランドだって同じだ。そのブランドというだけで価値がある。

 あるものを利用して新しいものにすれば付加価値が生じる。


 「どういう意味や」

「新しい価値のあるビジネスだ」

 「もう一回言うわ、どういう意味や。次訳分からんこと言うたら足切り落とすからな」

 「っ…!つまり、つまり……」


 落ち着け…考えを整理するんだ。

 この世界に転生し領地の様子を見て聞いて何となく考えていた自分の引き出しを最大限に活かせること。

 それはずっと学んできたメディアを利用したビジネスしかない。

 メディアを使えば情報を掌握できるし大衆を誘導することも出来る。この世界で生きるには絶対に有利になるに違いない。

 ゆくゆくは通信機器も生み出したい。生活が豊かになりあらゆる点で画期的なはずだ。一気に情報、メディアのレベルを20世紀まで引き上げてやる。

 力や資源に頼らなくても幾らでも工夫次第でやっていけるはずだ。

 メディアを利用して、教育して、知的な水準を上げてコンテンツを作り複製しまくる。

 その金でどんどん領地を改善して俺が住み良い世界にしてやる。

 そしてまずは足掛かりとなるとすれば…メディアを利用してのし上がるとすればメディア自体を作るしかない。そうだ……


「我が領地は……まずは紙を作る」





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