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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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合宿 前編

「ふわあ……眠い」


 冷たい空気が漂う朝、欠伸をしながら出発の準備をする。本日はダンジョン合宿の1日目だ。食料や武器を乗せた馬車などがあるので、大荷物だ。

 人数も軽く兵団と言える程度には集まっていて、魔法契約に同意しなかった者はおらず全員が強くなる意思があるようだった。


 準備を整えて集合場所の庭に行く。既に全員が集まり眠そうに頭をカックリさせている者もいる。

 皆、自分が来ると膝をついて静かになった。礼儀作法は随分と身についたようで少し嬉しい。その反面、貴族らしくしなくてはならないということなので緊張もするが。


「大班長、報告!」


 大班長とは、亜人諜報部隊の4人1組からなる班5つをそれぞれ束ねる4人の班長のことだ。犬人族のライカ、猫人族のネフェル、蜥蜴人族のセベック、鳥人族のフォールスだ。リュンヌはそれらの部隊プラス、兵士、ディパッシ族を含めた団長に任命した。ちょっとリーダーとしては頼りないけど、実力は一番ということは間違いない。


「ライカ班、欠席体調不良者なし、問題ありません!」

「ネフェル班同じく問題ありません!」

「セベック班同じく問題ありません!」

「フォールス班同じく問題ありません!」

「ディパッシ族、兵士問題なぁ〜し!」


 リュンヌちゃんとやってくれ。一番上のお前がそれだと馬鹿みたいだろうが。


「よし、それでは早速出発する。残って警護するものは細心の注意を払い屋敷と領地を守るようにしっかり勤めてくれ。では、出発!」


 それぞれ馬と馬車に乗り込み屋敷を出る。俺はホウキに乗り空を飛んで俯瞰して隊列を監視する。


 馬車や荷物があるのでリュンヌと2人で行った時ほどスムーズにはいかない。到着は恐らく夕方か夜になるだろう。

 ホウキの乗り心地は快適だが、長時間となるとどれほどの効果があるのかはまだ分からないので今回でテストしなくてはならない。椅子に長時間座るのですら途中で腰や尻が痛くなってくるのだから、休憩を何度か挟む必要があるだろう。

 鳥人族は空を飛ぶことが出来るのだが、長時間飛び続けることが出来るのだろうか? 細かい種族によって得意な飛び方も変わってくるかもしれないが。


 街を出て、しばらくすると黒い森が見えてくる。2つの木がねじれるように成長したところに人の影があった。

 ディパッシ族との合流ポイントだ。


「ディパッシ族だ!」

「襲撃か!」


 突然現れたディパッシ族に亜人と兵士たちはパニックになりだした。


「ちゃうちゃう、ここで合流する予定やったんや、皆も一緒にダンジョン行くから!」

「ディパッシ族と一緒だと!?」

「俺もディパッシ族やから人数が増えるだけやんけ!」

「それはそうだが……」


 リュンヌたちには慣れてきた者でも、知らないディパッシ族はまだ怖いらしい。しようがないな、降りて説明するか。


「落ち着け、ディパッシ族もむやみにお前たちを襲ったりはしない。同盟を結んでいるのだ、お前たちが失礼なことをしない限りは何もしない。逆にディパッシ族に何かされたら私に報告しろ」


 ロウゼ様がそう言うなら……と皆渋々承諾してくれて旅を続ける。何事も無く昼の休憩までスムーズに進行することが出来た。


 草原で馬を止めて昼食を取ることになった。


「あ〜ケツがいてえ!」

「酔った……うぷ……」

「腹減った〜」


 慣れない馬車に苦しんでいるものもいるようだ。


「水は空き樽の中に入れておくので確実しっかり水分補給をしておけ」


 長距離移動で最も重要で最も荷物になるのが水だ。馬車は重くなり移動スピードも落ちてしまう。しかしそれは全て魔法で解決してしまえるのだ。

 トゥルーネには全員分の水を作り出すなんて不可能だと言われたが魔力に制限のない俺は出来てしまう。

 普通の貴族はコップ1〜2杯が精々だろう。これは無から水を作り出すということが非常に魔力を消費するからだ。

 大気中の水分を液体にする方法もあるが、科学が進んでいないこの世界ではそれを行おうとするものはいないだろう。それに集められたとしても量は知れてるし、空気が乾燥している場所や空気が悪い場所でやるには問題がある。

 魔力で水を生み出した方がよっぽど早いし安全な水だ。


「き、気持ち悪い……み、水」

「ほら、息を吸え」

「あー、美味い!」

「水なしで移動出来るなんてマジでロウゼ様反則過ぎじゃねぇか!?」


 酔った者を介抱したり、水を喜ぶものなど様々だ。

 昼食はほどほどにして、先を急ぐ。夜が来る前には到着しておきたいからだ。


「フォールス!」


 鳥人族のリーダーフォールスを呼ぶ。


「はい?」

「お前どれだけ長く飛べる?」

「全速力じゃなけりゃ半日くらいは飛べますかなぁ」

「では、鳥人族で空から周辺を飛び回り先の道に異常が無いかを確認する訓練をしてもらいたい。お前たちの広い視野は今後大きな武器となるはずだ。今のうちに練習をしておきたい」

「なるほどなあ……了解!」


 鳥人族が辺りを警戒しながらの旅が始まった。人間サイズの巨体にも関わらず体重を支えて空を飛んでいることが不思議でならない。しかし速さはなかなかのものだ。魔力を魔結晶の限界まで注いだら勝てるが、自力でそのスピードを出せるのが凄い。


 全員が飛べるようにホウキは標準装備したいがそれはかなり先になるだろうな。少なくとも領地の貴族が先だしな。


 四方を飛び回り警戒をしながら進んでいき、夕日が沈む前にはなんとか到着が出来た。

 皆慣れない馬車での旅で既に疲労困憊だ。

 自分も腰がやや痛いが馬に乗り続けるよりは全然マシだったので作成して正解だった。


「今日はここで野営する。荷物を降ろし、馬を休ませて食事の準備をせよ」


 馬の飲む樽に水を注いでいきテントを各自で張り出した。食料は調味料と野菜が主なもので、肉はあまりない。ダンジョンで取るから必要ないと思ったからだ。


「ああ、腹減った〜」

「と言っても今日はスープらしいぜ」

「スープか〜腹の足しにはなるけどよぉ……」


 スープは基本的に人気が無い。それは味の薄さと食べ応えの無さから来る。硬いパンをふやかせるための水みたいなものだ。調味料は貴重なので、しっかりと味がするものというのは贅沢品なのだ。

 しかも、水に野菜をつけて軽く煮るだけでダシを取るということが知られていない。

 そう言われると思って肉を少量と骨を持ってきたのだ。ガラからダシを取りブイヨンと、野菜の煮汁を使った味わい深いスープを作成するつもりだ。

 水と火は無限に出せるので量はたくさん作れる。


 貴族の自分が率先して作ることは出来ないので、作り方を教えるだけだ。


「こんなので本当に美味しくなるんですかぁ?」

「初めて見たな」


 兵士が料理を担当してくれているが疑心暗鬼でスープを作っていく。


「塩と胡椒あるだけ贅沢だろ」

「まっ、俺らの普段の料理よりは上等に違えねえな。肉も細切れだけと入ってるしよ」


 これくらいは平民全員が食べられるくらいの豊かさにしていきたい。領主として努力しないとな。


「もういいだろう、完成だ」


 兵士に調理をやめさせる。


「おおーなんか良い匂いがするぞ!」

「美味そうだ!」


「なんだこの匂い」

「なんだよ、スープか」


 匂いにつられてやってきた者たちが鍋の中を期待しながら覗き込み、スープなことにガッカリしては向こうへ行くのを繰り返した。


「さあ、食べようか……何している?」

「いや、ロウゼ様から食べないと俺たち食べられないんで……」


 身分で食べる順番が違う社会だ。この場では、自分が最上位なので、自分が食べ終わらないと誰も食事を始めることは出来ない。


「……今日は、屋敷ではないし他に平民しかいない。スープが冷めては美味しさが半減する。皆私と一緒に食べよ」

「えっ、良いんですか……」

「何をしてる早くしろ」


 ズズッとスープをすする。肉や野菜の様々な複雑な味わいを舌の上で転がしながら楽しむ。

 うん、美味い。肉が豊富に取れるようになれば日常的にブイヨンスープを飲みたいな。


「こいつがええって言ってるんやからはよ食おうや!ライカ要らんねんたらお前の分もらうで!」

「やめろ! これは俺のだ、誰にも渡さんわ!」

「うわ、これめっちゃ美味いやんけ! 寄越せ!」

「リュンヌやめろ!」


 リュンヌは他の者たちとワイワイやりながらスープを飲みだした。


「うお! 美味いなんだこれ!?」

「スープなのにスープじゃねえ!」

「まじでか! 俺も! ……うまー!」


 スープに舌鼓を打ち、皆仲良く食事を取り始めた。

 こうして他の者と一緒に食べるのは中々悪くない。楽しいな。

 ディパッシ族は屋敷に来ている者と村に残っている者で行儀が全然違って見えた。着実に作法は身についていると分かる。


「おい、リュンヌお前らこんな美味いもんいつも食うてんのか!?」

「んー、たまにやな」

「ふざけんなお前交代しろ!」

「あー俺もついてったら良かったなあ」


 残った組のディパッシ族はスープの美味しさに対して出て行った者たちに怒るという方向性で表現しているのが面白い。


「お前らなあ! こっちはこっちで大変なんやぞ!勉強させられたり文句言われたり」

「なんだベンキョウって」

「字書いたりするんや、俺はもう俺の名前書けるで」

「すげぇ! リュンヌアホやのに賢くなってやがる!」


 お前、自分の字と肉しか書けてないのに威張るなよ……


「そういう訳でこっちでやっていくのも中々大変や、お前らに出来るとは思えんなあ」


 食事を独り占めしたいだけのように聞こえるが。


「おかわりはまだあるからな、ケンカするなよ」

「よっしゃ!」

「あっ! お前ずるいぞ!」

「馬鹿が早いもの勝ちだ!」


 ケンカするなってば。


 食事を終え、明日の予定を共有した後、すぐに眠りについた。いよいよ、朝からダンジョンへ出発だ。

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