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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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魔法の箒

少し遅くなりました。すみません。

 兵士たちを連れてダンジョンへ合宿に行くこととなった。全員行ってしまうと防衛の面で問題があるので2回に分けて行われる。監督者である領主直々に合宿へ行く。2回もだ。ダンジョン自体は魔法の練習も出来て問題ないのだが、移動がとにかく辛い。尻が破壊されてしまう。とても憂鬱だ。


「はあ……」

「何やねんさっきからため息ばっかりして」

「ああ、合宿の移動がな……面倒だ」

「馬乗るのシンドイ言うてたな」

「そう、馬がな」

「貴族やねんから馬車でもええやろ」

「いや、馬車も別に快適では無いんだよな。ガタガタ揺れるし、結局尻が痛い」


 サスペンションやゴムのタイヤなんて無いし、道は整地されてないしで揺れが激し過ぎる。酔うのも問題だ。


「貴族やねんから魔法でなんとか出来ひんのか」

「衝撃吸収する魔法を常に発動するってことは常に意識して操作しないといけないということだから結局疲れる」

「難儀やなあ。もう空飛ぶしかないやろ」

「前にも言ったが空を飛ぶのは姿勢の維持が難しいんだって……」

「じゃあもう空飛ぶ馬車しかないんちゃうか」

「それはもう馬車では……待てよ! 閃いた!」

「何がや?」

「ちょっとトゥルーネのところ行ってくる!」

「あっ! ちょっ!おい!俺の勉強見てくれるんちゃうんかったんかよ」

「後で!」

「おい! ふざけんなよロウゼ! おい!」


 リュンヌを制止を無視してトゥルーネの部屋へ向かう。


「トゥルーネちょっといいか」

「はあ……またですか。ロウゼ様、ご用の際は事前に連絡をしてくださいとあれほど言ってるではありませんか」

「いや、悪い悪い」

「全く悪いと思ってるとは思えませんが!」

「善処する。それで新しい魔道具を思いついたのだが」

「今度は一体なんですか」

「空を飛ぶ魔道具だ」

「はぁっ!? また突飛なものを……」

「出かける度に馬に乗るのは疲れるのでな。今回は自分で作るからやり方を教えてくれ」

「素材は持ってるんでしょうか?」

「素材も……金払うから」

「まあ、やり方さえしっかり教えれば今後煩わされることもないでしょうし、良いでしょう」


 いつも文句を言いながら結局はやってくれるのだからトゥルーネは優しいと思う。


「今回は箒にまたがって飛ぶような道具を作りたいのだ」

「箒にまたがる……?意味が分かりませんが」

「だから、こうやって」


 箒にまたがるジェスチャーでイメージを伝える。


「何故箒なのですか?馬車でいいのでは?」

「いや、1人用の乗り物が欲しいんだ。機動性のある作りにしたいから出来るだけシンプルな形がいい。馬車は中に入らないとダメだし操作がしにくい」

「仮に、箒を飛ばすことが出来たとして、棒の上にまたがるのでは安定しないのでは?」

「たしかに、しかも接地面が小さいから股間にかかる圧力も強いか」

「箒ではなく椅子の方がよろしいのではないですか?」

「椅子……はダサいだろう」

「箒もあまり褒められた見た目とは思えませんが」

「カッコイイと思うがなあ」

「全く分かりません」


 魔法使いイコール箒のイメージがない世界では受け入れられないのだろう。デザインをもっとこの世界風にしなくてはいけないか。


「別に箒じゃなくて良いのだが、箒のように全体のシルエットは一本線で長い形が良いのだ。このように棒を前のめりになりながら持って操作したい」

「せめて座る部分にクッションを敷いたらどうですか」

「クッションか……そうか、サドルだ!」

「また意味の分からないことを」

「サドル! えー、小さな椅子だ。何か書くものは……」

「どうぞ」

「お、すまない。いいかこのように三角形のような椅子を棒の上に乗せれば安定して座れるだろ」

「何故こんな奇妙な形に?」

「こうすれば足の自由が効くだろ。それで足を乗せる為の足場をつけてやれば更に安定する、どうだ!」

「どう、と言われましてもそれは職人に注文するしかないのでは?」

「あっ、そうか」

「私はその形で実現できる魔結晶作るまでです。しかし方向を操作し続けるには耐えず変化する魔法を発現させ続けないといけませんがそんなこと出来るんですか?まず、魔力が持つとは思えませんが」

「そこらへんは気にしなくても良い。術式は自分で研究したものがあるし魔力は魔石を使ったりする」

「効率が悪そうですね」

「それでも作りたい。発展していけば貴族会の交通手段に革命を起こせるんじゃないか?」

「魔力の問題に革命が起きればの話ですけどね」

「まあそうだが。それでどうすればいい?」

「まずは必要な素材の属性選びからですね」


 トゥルーネに教えてもらいながら調合していき魔結晶を完成させた。原理と属性はシンプルなので難しくはなかった。


「出来たぞ! では早速職人に注文してくる!」

「はいはい、頑張ってください」



 職人街へリュンヌを連れて出かけた。


「なあ、別に行かんでもお前貴族なんやし呼んだら良いんちゃうんか。俺の勉強もほっぽらかして」

「あ、そうか」

「あってお前アホやろ……」

「いや、あまりおおごとにしたくないから直接行った方が良いだろう」

「お前が行く方がおおごとやろ」

「それもそうか。いや、せっかく来たのだし街の状況を確認する為にも行くぞ」

「はあ……どうなっても知らんからな」


 職人が集まる職人街では四方から作業をする音、指示を出す声が聞こえ活気があった。商人街とはまた違った雰囲気で活気というよりは熱気かも知れない。


「えー、エマが言っていた街一番の店はここか。リュンヌ俺が来たと連絡してくれ」

「はあ?俺が?」

「貴族が直々に声をかける訳にはいかんからな」

「じゃあ直々に来るなや」

「それもそうだが来てしまったものは仕方ないからな」

「ったく、おーい!誰かいるか!?」

「はいはいって、ゲッ! ディパッシ族!」

「ゲッってなんやねん客やぞ」

「ディパッシ族がうちに何の用だ」

「俺ちゃう、あいつや、領主」

「りょ、りょ、領主様!? 一体こんなところにどうして……」


 店から出てきた男は俺を見ると顔を青ざめて地面に膝をつき恭順を示した。


「面を上げよ、注文に来たのだ」

「注文でしたら使いの者を出して頂ければこちらから出向きましたのに!?」

「街の様子を確認したくてな、驚かせてすまない」

「い、いえ滅相もございません!」

「それで注文をしたいのだが……」

「こ、こんな所で話すことなど出来ませんどうぞ奥へ……お前ら!!! 領主様がうちへ来てくださった! 今すぐ部屋の準備をしろ!茶も出せ!!! ……ではこちらへ」


 他の従業員たちは蜘蛛の子を散らすようにすっ飛んで行き慌てて準備と片付けを始めた。


「ほら、おおごとになった」

「貴族も楽じゃないな」


 ここまで自分が来ることで迷惑をかけるとは思っていなかった。貴族としての意識が足りていなかったと反省する。


「さあ、こちらです。お掛けになってください」


 応接室のようなところへ案内された。部屋は色々な道具が壁にかかっていたり、板が積まれており、職人の部屋という感じだった。弟子と思われる従業員が恐々カップをガタガタ揺らしてこぼしそうになりながら運んで来た。お茶を飲み一息ついて本題に入る。


「それで、注文というのは?」

「うむ、このような物を作って欲しいのだが」

「これは……一体何でしょうか?」

「1人用の乗り物で魔法で空を飛ぶものだ。この基本となる部分を作ってもらいたいのたが……出来そうか?」


「この中心の三角形の部分は何ですか?」

「それは椅子だ、快適に座れるようにしたいのでその部分は綿を詰めた皮のクッションにしてもらえるか?」

「となると、そこは皮細工の職人に頼むしかないですね、ウチは木工なんでね」

「なるほど、ではこの中心となる木の部分に関しては出来そうか?」

「出来るとは思うのですが、その、耐久性に関しては保証出来ませんね。空に飛ぶってなると今までとは違うこともあるかもしれないし私どもでは実験のしようもありませんから」

「そうだな、形がこの通り出来れば何も言わん。どれくらいで出来そうだ?」

「その形を作るだけなら今日中にでも。ニスを塗ったり仕上げたりする方が時間がかかります」

「では2日後、改めて来る。形が良ければ仕上げ作業だ。私はこれから皮細工の職人に注文してくる」

「い、いえ! 私から連絡しておきますので!わざわざ領主様が行くまでもありません」


 迷惑だから行かないでくれ、という含みを感じたので素直に聞いておいた。木工職人はホッとしたようだった。


 2日後、改めて職人の元へ赴いた。


「どうですか?」

「うむ、形は注文通りで流石だ腕がいい」

「ありがとうございます!」

「では、早速飛行実験をしてみるか」


 事前に作成していた魔結晶を取り付ける。そして魔力を流し込みまたがりハンドル部分をグッと握ってバランスを取る。


「お! 浮いてるやんけ! 俺も乗らしてくれ」

「おお……信じられない」

「実験は成功だな。うん、安定しているしバランスも悪くない。クッションもつければ快適だな。お前は魔法が使えないから無理だ」

「ちぇ〜、でもそれ高くまで飛べるんか? どんくらい速いんや?」

「確かに、家の中で浮く程度では実験にならんか。悪いが、少し街の上を飛んでみるので待っていてくれ」

「は、はい……」


 店の外に出て道から空を飛び上がった。

 周りの人間は何だ!?と驚いて声を上げる。

 グングンと高くまで上がっていき街の全体が見えるまでの高さになった。そして真っ直ぐ出せる限りの速度を少しずつあげていき加速する。

 風がバシバシと自分の顔に当たってくる。


「うお〜! 速い! 怖っ! てか目が開けられん!」


 耐久性は問題なし。強化の魔法をかけておいてもいいかも知れない。ゴーグルみたいなのがいるな。風で目が開けてられん。


 ゆっくりと木工職人の店に舞い戻ると辺りの人間は皆こちらに注目していて見世物のようになっていた。


「あれは領主様じゃないか?」

「領主様がなんでこんなところに……」


「おい、また騒ぎになってるで」

「屋敷の周りでやれば良かったな」

「そらそうやって。俺らディパッシ族ですらまだビビられてのにお前が来たら大騒ぎやって」

「まあ次からは注意するから」

「頼むでホンマ」


「良い出来だった。このまま仕上げてくれ。報酬はいくらだ?」

「それはありがとうございます、そうですねなにぶん、取り扱ったことがないものですので値段も決めかねていて……」

「材料費とかかった手間が似たものはどのくらいだ?」

「となると……」


 値段の打ち合わせを始めて大凡の価格を決めていった。


「では、今回はその基本の値段に無理を言って作ってもらった迷惑料を乗せてこのくらいでどうか」

「そ、そんなにですか!?それはとても頂けません」

「何を言っている。私が取っておけと言っているのだから素直にもらえばいいのだ、商人なら喜んで受け取るぞ」

「我々は商人ほど金儲けに興味がないもんですので……」

「金儲けと正当な対価を得るのはまた別の話だ。自分たちの働きに誇りを持て」

「働きに誇り……ではありがたく頂戴致します」


 飛行の魔道具制作の注文と支払いが終わり、後日完成したものが屋敷へと届いていた。

 黒塗りの木材を滑らかなカーブで仕上げて高級感のあるツヤを持たせた。先端にはテルノアールの家紋であるカラスを刻印している。

 強度を補助する魔結晶も追加で作っておいたので、飛行と合わせて設置する。


 魔法の箒の誕生だ。


「……おお、魔法使いっぽいな」

「お前魔法使いやんけ」


 これは後にホウキと呼ばれ貴族会で流行る乗り物となった。長距離の移動は魔力的に難しく、魔石を大量に持っている金持ち貴族しか出来なかったが、短距離での速さを競う競技や障害物をかわす競技が生まれた。

魔法使いっぽくなってまいりました


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