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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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定時報告会

「これより定時報告会を始める」


 本日は屋敷内の様々な代表が情報共有し今後の活動方針を検討する場となる定時報告会が行われる。

 メンバーは領主であるロウゼ・テルノアール。執事筆頭のロラン。ディパッシ族代表リュンヌ。内務、魔道具開発担当のトゥルーネ、会計担当エマ、ロウゼ商会の商人エッセン、薬師ゲオルグ、亜人代表のライカ。

 以上8人が今回のメンバーだ。


「最初の議題だが、財政状況だ。エマ報告を頼む」

「はい。ロウゼ様がさまざまな商いに手を出し収入は以前よりも大きく増えました。しかし、その分支出も多く何とか黒字、下手すれば赤字になるような状況であまり芳しくありません」

「主な支出は?」


 事前に報告は受けているので知っているが、全員に問題を共有するための質問だ。


「主な支出は人件費と食費です。ディパッシ族、亜人を大量に雇い給料も一般的な兵士に比べて高く、また食料の消費も激しい為なかなか厳しいです。ロウゼ様は貧すれば鈍するとおっしゃいますがこのままでは貯えがじわじわと減っていくと思います」


 貧すれば鈍する。貧しい生活をしていれば振る舞いや思考に余裕が無くなり悪循環を生むという言葉だ。

 贅沢はしないが、ケチ臭くはなりたくない。ケチればその分回り回って自分たちに良くないことが起こるという考えから給料と食事はやや多めに予算を取っている。


「ディパッシ族と亜人には過ぎた待遇かと思われますが」


 トゥルーネが発言する。


「なんやと?」


 リュンヌが机をドンと叩き席を立つ。それを制して着席させる。


「確かに、現状ではディパッシ族と亜人は本来の仕事をこなせていない教育期間だ。だが、有事の際最前線で戦うのは彼らで、彼らの存在自体が争いの抑止力となってもらう狙いがある。必要な出資であることを曲げるつもりはない」

「しかし平民以上の待遇は示しがつきません!」

「何度も言っているが種族によって優劣など存在しない。重要度の高い仕事に相応しい対価を払っているだけだ」

「誰がこんな小さな領地を狙うと言うのですか?」

「誰だってあり得る。今はまだ歯牙にも掛けない規模だがテルノアールは変わりつつある。新しいものを生み出せばそれを独占しようとするものが必ず出てくる。その時身体を張って利益を守るのは領主と兵だ。絶対に守らなくてはならない。その為なら私はいくらでも金を使う」

「ロウゼ様は儲かると確信があるのですね?」


 エッセンがニヤリと笑う。エッセンもまた儲かる算段があるのだろう。


「ある。現に月ごとの収入は増えてきている。商品の噂が国中に広がれば更に利益は出るはずだ。トゥルーネ、君は街でポップコーンがどれほど人気か知らないのか?」

「下々の者が好むものなど……」

「甘いな、侮っていると足元をすくわれるぞ。エッセン、ポップコーンの売り上げについて説明してやれ」

「は、はい! えー、ポップコーンは現在富裕層の商人の嗜好品として一定の顧客がついております。また、他領から買い付けにくる商人もチラホラと現れて来ましたので今後ますます増えていくと思われます。そして、砂糖を使っていないので価格は比較的安く、貧困層でも頑張れば買える憧れのお菓子となっており背伸びしてでも欲しいという人が多くいます」

「どうだ、今まで貴族や富裕層の商人しか食べなかった菓子を皆必死になって買おうとしている。それほどの商品があったか?」

「い、いえ……」


 トゥルーネは予想外の情報から答えに窮する。


「それに、商人づてで他領の情報も入ってきている。これは君が何より欲しかったものではないのか?」

「ッ!? ……申し訳ありませんでした」

「先ほど、誰がこんな小さな領地を狙うと言っていたが、そこにいるゲオルグはジュアンドルの噂を聞きつけてここに貴重な薬草と良い薬師がいると思いわざわざこちらに来た。これがゲオルグではなく他領の貴族だった場合どう行動するか分からんはずがないだろう」

「争いが起きるのはそう遠くないと……?」

「まだ分からんが可能性としては既に十分にある。過去のテルノアールではないのだ、認識を改めよ。そしてその備えは出来るだけしておかなくてはならない」

「はい……」


「あの、ゲオルグの件で一つ言いたいのですが研究費が高過ぎませんか?」

「そんなことないですよ〜!」


 ゲオルグが口を尖らせエマの指摘にすぐさま反論する。


「いいえ、高過ぎます! 大体何に使ってるかも分かりませんし、あなたが経費で好きなものを集めているだけではありませんか!?」

「必要なんです! 今必要じゃなくても後から必要になるかもしれないから必要なんです!」

「今は必要ないんじゃないですか! やめてください!」

「2人とも落ち着け、ゲオルグ悪いが君が満足出来るほど完璧に用意出来るだけの資金はない。これからは稟議書を書いてもらう」


「稟議書ってなんですか?」

「稟議書とは、必要なものと何故それが必要なのかを書類に記述し、それが本当に必要なものかを検討する為のものと思ってくれ。私と会計のエマの承認があれば予算を出そう。これはゲオルグだけではなく全員だ。必要だと感じるものがあれば申請してくれ。身分で差別することはないので安心せよ」


 おお、とそれぞれから声が上がる。


「俺が肉食いたいなと思ったら肉って書いてお前に渡したら肉買ってくれんの?」

「お前肉しか書けんだろうそれは稟議書になっていないぞ」

「ロウゼ様が仮に許可しても私が絶対に許可しないのであなたは肉は食べられません!」

「何やとこのチビ野郎が!」

「私は野郎ではありません!それにあなた方の食費で財政を圧迫しているのです自重してください!」

「何〜!?」


「はあ、今度はエマとリュンヌか。お前たちやめんか、会議を進めたい」

「ったく!」

「む〜!」


「財政の話はひとまず終わる。担当部署の報告を。ロランから」

「はい。屋敷にいる人間が増えたので忙しくなりました。特に料理が。そろそろ料理人を増員してもよろしいかと」

「また人件費が!」


 エマが頭を抱えて悲鳴を上げた。


「金の話は今はいい。状況の把握したい」

「手の空いているものは厨房に行き、厨房は現在夜中以外は常に回転しており慌ただしいです。本来の業務が出来ていないので屋敷にいる者の規模に合わせて執事も増員しなくては回りません」

「そうか……急な増員のツケがそちらに回っていたか、悪いことをしたな」

「いえ、ロウゼ様に泣き言を言うのははばかられてしまい報告が遅れて申し訳ありませんでした」

「私とエマとロランで検討し今後余裕があれば増員していきたい」

「かしこまりました」

「他には何かあるか?」

「学校ですが、皆礼儀作法が上達しており特に犬人族は上の者に仕えるという姿勢が良く出来ています」


 ライカの方をチラッと見てそう言う。


「……犬人族は目上の者には忠義を尽くす種族ですわ。仲間意識も強くて皆で頑張ろうって感じになってますわ」

「そうか、良い傾向だな。教師が良いのだろう」

「ありがとうございます」

「計算はディパッシ族『以外』! 良く出来てきています」

「おい! 以外のところ強調したやろお前!」

「してませんけど?もしそうだと思うなら出来てないと自分で思っている証拠では?」

「はぁ〜!?」

「やめろと言っているだろう」


 何故こんなにエマとリュンヌは馬が合わないのだろうか。


「読み書きだが、皆メキメキと単語も覚えてきて良い傾向だ。リュンヌは肉と名前しか書けないのは問題だが」

「充分やろ!」


 リュンヌはダンジョンで味をしめてから肉が欲しければあそこにいけば良いと思ってる節があり前ほどの勉強のモチベーションが下がってしまっている。


「お前が代表者なのだからお前が書類を書かなくてはならない時もある。稟議書も書けないと部下からの信用も無くなるぞ」

「何!?」

「引き続き勉強を頑張るように」

「えー」


「次はリュンヌお前から何か報告することはあるか」

「あー? 何言うたら良いんやっけ?」

「はあ……訓練の状況は?」

「あー! はいはい!皆強くはなってきてるんやけどなあ」

「何か問題でも?」

「実戦が足りひんな。所詮寸止めやホンマの戦いは命の駆け引きするけどそれが出来てない。やから本番では戦えるかはまた別の話や」

「それは俺たちも思っていたことですわ」

「と言っても殺し合いの戦いをさせる訳にはいかんからな」

「分かっとる。やから問題なんや。いっそダンジョン……おっと、これは言うたらあかんのやった」

「馬鹿者」


 それはもう殆ど言ってるのと同じだ。


「ロウゼ様ダンジョンとは?」


 トゥルーネが反応してしまった。


「いや、ええ……」


 どう返したらいいだろうか。何でもないというのは流石に無理がある。文脈的に戦いに関係があることは誰からも明らかだ。


「ロウゼ様」


 ロランが耳打ちをしてくる。


「どうした?」

「情報を秘匿したいのであればいっそ魔法契約を結んでは如何ですか?」


 魔法契約とは重大な契約を結ぶ時に交わす魔法のことで絶対的な拘束力を持つ。主となる相手が魔力を使うことで契約の相手に対し条件を守らせる事が出来る。破った場合は死ぬ。

 魔法が使えない平民同士では使えない契約だ。もっとも厳密には魔術なので、魔法を使えば誰でも魔法契約は結ぶことが出来る。


「しかし……いや、分かった。仕方ないな」

「では準備を」

「頼む」


「ダンジョンについてだが、極秘事項なので知りたいものは魔法契約を結んでもらう」

「魔法契約ですか!?」


 この場ではトゥルーネのみが知っているので彼女しか驚いている者はいない。他の者はなんだそれ?という顔をしている。


「それほど重大な事と理解してくれ。知らない者の為に説明するが魔法契約とは魔力で契約に逆らえないようにする事だ。契約者同士の血を混ぜたインクで名前を書いてもらう。嫌な者は退出せよ」


「それは面白そうですね! 是非やらせてください!」


 ゲオルグは興味津々のようだ。


「あの、それは商売と関係してきますか?」

「かなり関係するな」

「ではやります」


 エッセンが同意する。


「商売と関係するってことはお金が関係するではありませんか、私もやります!」


 エマも入った。


「リュンヌが知ってて戦いに関係するなら亜人代表の俺が知らないなんてのは許されないわ」


 ライカも契約するようだ。


「貴族の私だけ知らないなんて許されないですわ」


 トゥルーネは仕方ないと魔法契約に同意する。


「全員同意のようだな、では契約を結んでもらう」


 それぞれの血をインクに垂らし、そのインクで名前を書いてもらう。

 これで契約完了だ。


「では、ダンジョンについて説明する」


 ダンジョンとは何か、どこにあるのか、カズキュールのことは伏せながらその有用性を詳細に説明していく。


「そんなものが……」

「それで、ダンジョンで兵士や亜人を鍛えたいと思う。ディパッシ族は戦いの場が欲しいそうなので思う存分暴れてもらう場所にするつもりだ。食料や魔石が調達出来るのは良いと思うがどうだ?」

「それは他領の貴族に知れたら大変なことになります」

「分かっている。だからこそ自分たちで守る力は必要だし、魔法契約で秘匿したかったのだ」

「そういうことですか」


 トゥルーネは納得しましたと素直に引き下がった。


「それは危険ですわ。皆行きたがるかどうか……」

「危険なのは分かっている。ライカはどうだ?」

「俺は……ちょっとでも強くなりたいから行きますわ。ロウゼ様の役に立ちたいんですわ」

「そうか。では行きたい者にのみ危険な場所に行きその秘密を守り、死んでも責任を取らないという同意書で魔法契約を行う」

「命令はしないんですか?」

「無理やり連れて行かないと行けないようなやつはどの道危険だ。最初から連れて行かない方が良いだろう」

「そらそうやろ。そんな奴まで面倒見きれんわ」

「お前の面倒を見なくてはいけない監督者の私が言いたいのだが」

「お前毎回来んのかよ」

「貴族がいなくては何かあったら誰も責任取れんだろう。自分たちだけで問題解決出来ると思っているのか」

「ぐっ……それはそうやが」

「来週よりダンジョンにて訓練を行う。各自準備せよ。これにて定時報告会を解散する」


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