冷蔵庫の魔道具
やったことある人もいるかも知れません。
今日は冷蔵庫を作ろうと思い、トゥルーネを呼び出した。食品の保存や衛生面を考えれば冷蔵庫は必須だろう。保存の魔道具は大きなサイズのものは作れないらしいので、冷蔵庫の方が現実的なのだ。
「と言うわけで、今日は冷蔵庫を作ろうと思う」
「はあ、また始まりましたね」
トゥルーネはまた、こいつ変なもの作ろうとしてる。良い加減にしてくれと言わんばかりに嫌そうな顔をする。
「それでレイゾウコとは一体何ですか?」
「そうだな、寒い空気を閉じ込めた箱だな」
「何のためにそんなものを?」
「食べ物を保存する為だ」
「食料庫ではダメなんですか」
「ダメだ。温度を一定に保って、常に冷たい状態にするには魔道具が必要だ。頼む! トゥルーネの知識が必要だ!」
「そ、そこまで言うのであれば仕方ありませんね」
トゥルーネは頬を赤らめて、満更でもない顔をしながら渋々承諾をしてくれる。
「どういう仕組みなんですか?」
「そうだな……まず、空間の熱を奪う機能が必要だ。そしてその熱を排出する必要がある」
「冷やすだけではダメなのですか?」
「ダメ、というか熱は消えて無くなったりはしないんだ。だから冷たい空気を生むということは温かい空気を出すという対の関係になる。冷気を出す機能と熱を吸収するのを同時に行い部屋を一定の温度に保つ魔道具が良いと思う」
「仕組みとしては非常に簡単ですけど、そうなるとかなり質のいい魔石が必要ですね」
「ああ、それならここにある」
ポケットからダンジョンでリュンヌが取ってくれた魔石を差し出した。
「ど、どこでこんなものを……」
「先日外出した際に拾った」
「拾ったって……こんなの落ちてる訳ありません!」
「しかし本当に落ちてたんだが……」
落ちてたのは本当だし、拾ったのも本当だ。部分的に事実を隠しているだけで。
「もう、いいですロウゼ様のやる事なす事は考えるだけ無駄ですからね。真面目に考えていたらこちらが馬鹿を見ます」
「酷い言い様だな。この魔石なら魔力も十分賄えるし品質も悪くないはずだが」
「それは確かにそうですが」
「奪って吸収した熱は冬に部屋を暖かくするのに逆に使えそうだな」
「なるほど無駄も少ないということですね。よくそんな事がポンポン思いつくものですね」
「天啓と言ったところだな」
「天啓ですか、意味分かりませんね」
「天啓と言うのは」
「天啓の意味が分からないのではありません、もういいです。さっさとやりましょう」
「ああ頼む」
せっかくなので冷蔵庫と冷凍庫の2つを作った。もう1つ、魔石を出した時はトゥルーネは無反応だった。考えるのをやめたらしい。
「出来ました」
「よし! 助かった、ありがとう」
「いえ……」
「いつも通り素材に使った分と魔力分は請求書出しておいてくれ。俺は早速取り付けてくるから」
「分かりました」
ロウゼはすぐさま出て行ってしまった。
「まあ、仕事したらその分はちゃんと対価払ってくれるし良いかな。兄はそんなこと考えもしないだろうし」
トゥルーネは1人部屋でポツンと呟いた。
「よし、取り付け完了。冷えるまで暫く時間がかかるし待つとするか」
これで食べ物は痛むのが遅くなるし食中毒のリスクも下がる。家計にも健康にも優しい魔道具の完成だ。
氷が冬じゃなくても手に入るというのは結構大きいのではないだろうか。
訓練で頑張っている皆にキンキンに冷えた水を出すだけでも喜んでくれるだろう。夏はかき氷なんかも売ってもいいかも知れないな。砂糖はやや高級品だが、珍しさで言えばそれなりに売れる可能性ありだ。
リュンヌが美味いものと言ってたしあれをやろう。楽しさという点でも文句なしだろう。
訓練が終わり氷が出来たタイミングでリュンヌを呼び出す。リュンヌだけってのもズルイような気がして皆にはいつも飲む水を魔法で冷やしておいた。冷蔵庫で冷やしておいたって事にしておく。
「リュンヌは後でな。皆、訓練ご苦労! 今日は俺とトゥルーネで新しい魔道具を作った。食べ物や水を冷やす事が出来る部屋だ。そこで冷たい水を用意した飲んでみてくれ」
「水を冷やす?」
「なんでそんな事するんだ?」
皆はものを冷やすというのがイメージが湧かないのか、よく分かっていない感じだった。
「まあ、飲んでみてくれ」
「じゃ、じゃあ……ゴク…っ!? ゴクゴク!!」
「う、美味え〜!」
「火照った体の熱が取れていく」
「水は冷やしただけでこんなに美味いのか」
「おい! これ酒ならもっと美味いんじゃねえのか!?」
「お前天才だな!!」
「頭が痛え! 毒か!?」
「馬鹿、焦って飲み過ぎなんだよ」
好評のようで皆我先にと水を争って飲み始めた。作ってよかった。
「で、俺の分は?」
「お前は特別だ。冷たい上に甘いものにしてやろう」
「冷たい上に甘ぃ? なんじゃそりゃ」
「というわけでこれを転がせ」
リュンヌに差し出したのは金属の入れ物だ。
「何やこれ」
「中に氷が入ってる。更にその中には美味いものが入っているが食べられるかはお前の努力次第だ」
「はあ? 転がさな食えへんのか?」
「食えないな。いいと言うまで転がせよ。ディパッシ族なんだからそれくらい余裕だろ?」
「舐めんなよやったるわ。うぉりゃああああああ!!」
リュンヌは入れ物を転がしまくり始めた。正直そこまでやる必要ないのだが面白いから良いだろう。
作らせているのはアイスだ。転生する前に小学校の頃キャンプで作った缶蹴りアイスだ。
生クリームと牛乳を同量入れ、砂糖を少々。バニラエッセンスは無かったから今回は入れていないが問題無いだろう。
それらを入れた入れ物を氷に塩を振って氷で満たした更に大きな入れ物に入れて密封して転がし続ければ完成だ。
菓子はレシピを知っていないと出来ないが、これは計らなくても出来るので丁度良かった。
ここの価値基準で言えば、氷を更に冷たくする為に塩を振るのは勿体ないと言われるだろうが気にしない。ちなみにちゃっかり自分の分もリュンヌに作らせている。
「そろそろええか?」
「貸してみろ」
頑張って転がしまくったリュンヌが尋ねる。
入れ物を揺すって中の音を聞く。液体の音がしなくなれば完成だ。
「うむ、よし大丈夫だろう、開けてみろ」
「おう、ん? もっかい開けなあかんのか」
「その小さいやつを開けてみろ」
「この白いやつが美味いんか?チーズに見えるけど」
「全然違う味だぞ。原料は同じだが」
入れ物を取り出し器に移し替える。二等分したら取り分が減る事に怒り出したが、元々自分の分を入れてただけなので減ってないと説明しなくてはならなかった。
スプーンを渡しいざ、実食。
「パクッ……冷た! んまぁ〜!!!」
「おお、結構イケてるな。お手軽スイーツだ」
「なーにがお手軽や、俺にやらせたくせに。美味いから許すけど、なんで転がしたんや?」
「ああ、最初は液体なのだが凍らせながら転がすことでこの状態になるんだ」
「へえ〜面白いな」
「ま、お前に勉強させてやろうと思ってな」
「絶対嘘やろ!」
「バレたか……これは子どもなんかにやらせたら喜びそうだな。材料の生クリームと牛乳は農家などなら簡単に手に入れられるし砂糖と氷の料金だけ払わせたら出来てしまうな。いっそ売らせるのも悪くない」
「また商売の計算か?好きやなあ」
「領地を豊かにするのが好きなだけだ別に悪くないだろう」
「まあ、悪くはないけど」
「おい、リュンヌ何食べてる?一口くれ」
マノツァがリュンヌがアイスを食べてる事に気付き声をかけてきた。普段は無口な彼がわざわざ話しかけるということはよっぽど興味があるのだろう。
「はあ!? あかんって!お前の一口俺の2回、いや3回分はあるやろ無くなるわ」
「そう言わんと」
「あかんて」
「お、リュンヌ何食べてるんや〜美味そうやなあ?」
「コ、コンテヌまで……」
「私も欲しい……」
「テルン!? や、辞めろ〜!これは俺が外に出て働いたご褒美なんやぞ!!!」
どんどんディパッシ族が集まってきてリュンヌはアイスを必死に守っているのが滑稽だ。
「材料が砂糖を使っているから少し高いからな。皆も給料から金を出してくれれば食べても良いぞ」
皆は即決で金を出すと言った。お金の使い道が分かっていないので金は溜まるばかりだと言う。まあ、屋敷内で経済が滞っても仕方ないので経済を回してもらおう。
次の日は皆でアイスパーティとなりディパッシ族も亜人も兵士も全員でアイスを必死にゴロゴロ転がして食べた。
もう少ししたらポップコーン工場に続いてアイスも子どもたちに作ってもらおうと思う。




