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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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視察と襲撃

 朝早くから新しい領主として領地を視察する為に馬車に乗り込んだ。

執事のロラン、その他数名、そして護衛の騎士たちである。幾ら弱小とは言え、領主ということもあり最低限の貴族としての待遇はされることに安心をするが正直、この旅で何からすれば良いのか分からず不安もあった。

 今回の視察で必ず何かしらの収穫と領地活性化のアイデアが見つからなければ数年以内に領地は滅んでしまう。それまでに他領の侵略に遭うかもしれない。まあ、うちのような土地と領民を欲しがる物好きがいればの話だが。


 道はアスファルトで舗装されておらずタイヤでもない馬車は予想以上に揺れることに驚いた。

 最初の村までは約3時間ほどだが乗って20分ほどで酔ってしまい到着した頃にはフラフラであった。

 この村は主に人間が住んでいる。規模は300人程度だ。多いのか少ないのかは分からない。

 領主の屋敷は町の中にあるため、農村はやはり町とは全く違う雰囲気であった。町は人がそれなりに多く様々なものがあり、活気はそれなりにあったが何より酷い臭いがした。糞尿を処理するシステムがないからそこら辺に投げ捨てられている。

 衛生的にも良くないだろうし、下水処理は古代のローマにすらあったのだからインフラとして整備する必要がある。名前は確か……クロアカ・マキシマ。日本語っぽい。

 屋敷から出た途端に悩みの種がまた一つ増えたのだった。一方農村はそこまで酷い臭いではなく空気が澄んでいるように感じる。

 先触れを出していたので村民が出迎えの用意をしていた。多勢の人間が自分に跪いているのを見ると改めて身分の差を実感しその空気にやや押されてロウゼは頭がクラッとした。


 「ようこそいらっしゃいました、この村の村長を務めるプサムと申します。村を代表して先代領主様にお悔やみ申し上げます。そしてこの度は就任おめでとうございます」


 大勢の中から先頭にいた老人が立ち上がり恭しく挨拶をした。

他の村民は緊張した様子で村長を見守っている。


 「領主となったロウゼ・テルノアールだ」

 「では、早速ですがどうぞこちらへ」


 プサムに案内され村の中では一番立派な家に着いた。立派と言っても平民の住む家なのでまるで綺麗とは言えないだろう。

 大学生だった自分が接待を受けたことは勿論なかったが、客や取引先相手の接待と貴族相手の接待とでは全然話が違うであろう。極端な事を言ってしまえば気に入らなければ殺すくらいは出来てしまう立場なのだ。

 それだけ絶対的な立場の関係にあるとなれば村民の緊張した顔も理解出来る。


 「プサム、この村の収穫や財政状況はどうだ?」


 村の様子から良いとは言えないことは分かった。


 「……あまり良いとは言えません。昨年は不作でその影響で備えもあまりなく飢えております、村で団結してなんとか仕事をしているのですが……税はしっかりと納めますのでご安心を」

 「我が領地は今金がない。先代が甘かったのだ、税を引き上げねば破綻する」

 「それは……何卒ご容赦を! これ以上は村のものが全員死んでしまいます!」


 プサムは顔を青くして懇願する。これ以上出せないことくらいは村の様子を見れば一目瞭然だ。


 「旦那様に口答えなど……!」


 背後で護衛をしていた騎士の一人が前に出る。無礼とは感じないがこの世界では無礼なのだろう。


 「良い、下がれ」

 「はっ」


 慣れない貴族的な態度は疲れるが上に立つ者である以上、厳格な態度を取る必要があることは理解している。

 しかし、貴族に気を遣って全て遠慮して事実を述べないと実情が掴めず非常に困る。

 相手の真意を探り、遠回しな言い方で会話をして発言に気をつける、日本は察しの文化があったがそれに身分差が追加されてる分面倒さでいうとこちらの方が大変かもしれない。


 「税は今は引き上げるつもりはない。しかし……」


 しかし、領地自体に金がない。何か新たな事をするには足掛かりとなる資金が必要だ。

 ネットの無いこの世界ではクラウドファンディングは出来ない。当然、ベンチャーキャピタルが投資してくれるはずがない。そもそも提案出来るビジネスプランがまだ無いのだ。

 だから金は領民の税から引っ張ってくるしかない。領民を救う為の事業の為に領民を苦しませる重い税を課すのはリスクが高い。失敗すれば取り返しがつかない。


 「今年の気候で収穫は増えそうか?」

 「この辺りの土地は痩せていて中々作物が育ちませんし、増えたとしても税を納めるがやっとというところでしょうか」


 農業に関する知識はほぼ無いに等しい自分には農業を改革することは無理だった。

 糞を堆肥にするということは知っているがどうやって作るかは分からない。生半可なことをしたら細菌などで病気になるということは知っている。町の糞をなんとかはしたいが、それをそのまま堆肥に出来るほどうまくはいかないことは分かる。

 専門家が必要だな……または農業に関する書物……


 何をするにしても金がなければ何も出来ない。これは日本にいた時でも分かっていたことだ。身体が弱かったから病院に通っていた。しかし病院に行くにしても金がいる。貧乏では病院すら行けない。身体が弱くては病院に行く為の金を稼ぐことも出来ない。

 金がないと何も出来ないのだ。これはどんな世界でもそうだ。人のいるコミュニティで生きるには避けて通れない問題だ。

 そういった弱者でも生きることが出来るのが社会というシステムであり社会保障だ。

 この世界にそんなものはないし、貧しいからと言って保険料が免除されたり、生活保護の手当は貰えない。


 平民は教育を受けていない、だから新しいことをする知恵もない。先祖の仕事を引き継ぐしかほぼ選択肢はない。働くにも生きる為の食料が、金がない、だから収穫量を増やす努力すら出来ない。

 ジリ貧とはまさにこのことで、貧しさは更なる悪循環を生む。


 ……流れを変えなければ。そしてそれが出来るのは自分しかいない。

 村の様子を説明を受けながら視察し何も出来ない悔しさを胸に村を去った。


 「想像以上に領民は飢えていた。痩せ細って元気がない、あれではまともに働くことすら出来んな」

 「姑息的手段とは言えますが、取り敢えずの財源として亜人を奴隷として売るのはいかがでしょうか?」


 ロランは執事として真剣に考えたように提案する。


 「奴隷か……」


 あまり乗り気ではない。倫理観が違うというのもあるがこれ以上人員を減らすのは本当に賢明なことなのだろうか、口減らしとして売れば村ごとの負担は減りその分税は増やせるかもしれないが後の事を考えると禍根を残して領地全体で産業を起こす際にトラブルの元になりそうだ。


 奴隷、貴族、亜人、身分の違い……言語化は出来ないが何だかモヤモヤするなあ。


 「襲撃だー! 警戒しろ!」


 馬車を並走している騎士が大きな声を上げた。


 「ディパッシ族だあ旦那様を守れ!」

 「うわあっ!」


 命の危険を感じるなんてことはこれまでなかった元日本人は緊張の走る車内で身体が硬直し何も出来ずただ、座っていた。

 騎士の声は小さくなり、馬車は停車した。そして扉が開けられる。

 刃物を持った目をギラギラさせ返り血を浴びた男たちが居た。刃物の柄の部分で頭を殴りつけられ俺は気を失った。



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