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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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不評な授業

 シャコシャコシャコシャコ……ここ、テルノアール領主の屋敷では誰もが朝は歯を磨くのが決まりとなっている。

 歯ブラシといっても木を齧り繊維を剥き出しにしてブラシ状にしたものだ。歯磨きの歴史は古く紀元前からバビロニアや中東で存在している。

 歯ブラシがないので、ミスワクという中東の歯磨きを参考にしたものだ。


「なあ、歯磨きってそんな大事か?」

「戦士なら歯はかなり重要だぞ」

「いや、噛んで攻撃とかはあんまりせんけど……」

「そうではなく、歯を磨かなければ虫歯になる。虫歯になれば歯が痛くなるし最悪死ぬ」

「歯が痛くなって死ぬ!?」

「死ぬ」

「そんな馬鹿らしいことで死にたくないわ! シャカシャカ!」


「歯は大事だぞ、噛むのが大事なんだ。口に力を入れずに踏ん張ることは出来ないからな」

「どういうことや?」

「口に力を入れず身体に力を込めてみろ」


「うーん、フンッ! んー?あー?」

「入らないだろう。逆に普段通り力を込めてみろ、その時口の中でグッと力を入れてるだろう?」

「おー、確かに」

「だからその歯が無くなれば戦闘力は落ちる。戦士に取って歯は重要というのが分かったら真面目に磨け」

「了解!」


「もっとも、お前らより甘いものを食べまくっている貴族の方が歯磨きした方がいいのだろうがな。貴族は歯は虫歯まみれで息は鼻が曲がるほど臭いし見るに耐えん」

「教えたれや」

「ふん、何故利益になることをわざわざ教えてやらんといけないのだ、歯を健康にして他の領地が強くなっては困る」

「俺は強いやつ増えて欲しいけどなー」

「俺は増えて欲しくない」


 貴族にも売り込みたいが虫歯が富の象徴となる文化圏で虫歯にしないようなものを売って受け入れられるのかについてはまだ判断材料となる情報が足りないが。

 それに流石に木だけってのもなあ、ちゃんとした歯ブラシと歯磨き粉が開発出来ればいいのだが。

 消耗品を普及させれば使用するのが習慣になって安定した需要を生めるし売れれば嬉しいところだが。


 さて、今日も先生として仕事をしないとな。

 養成学校の準備が整い、毎日午前中は授業をしている。自分は読み書きの担当で、計算はエマ、礼儀作法はロランに頼んでいる。流石に全部やるのは無理だ。

 集合場所であり、教室の庭に着くと騒いでいた亜人たちは静かになった。先生が来たら静かにするというのは身についてきたようだ。


「起立! 気をつけ! 礼!」


 日直の者が挨拶を仕切る。亜人たちの連絡などを俺に報告させる為に日直も導入してみた。体調不良や何か問題があれば朝のホームルームで報告させている。

 報告・連絡・相談の必要性を説き、それを癖づける訓練として機能している。

 今日は特に問題がないようだ。誰と誰が小競り合いしたなどは日常なので問題というレベルではない。


 読み書きの先生をしているが読み書きは実は一番人気がない授業だ。計算は金勘定をこれまでちょろまかされて来た者もいるみたいで自分たちの生活に密接に関係しているからか皆真面目に受けている。

 礼儀作法も貴族に無礼を働いて殺されたりはしたくないようで頑張って覚えている。しかし、文字の読み書きはこれまでしなくても普通に生きてこれたせいか重要性がイマイチ実感出来ておらず必死さがない。勉強も仕事だからやってはいるがやる気がもう少し欲しい。

 何かモチベーションを上げるのに良いことはないものか。こいつらを釣るには飯くらいしかないし……飯か、良いことを思いついた。


「今日は昨日教えた文字を含む全ての文字を覚えているかテストする、それぞれ石版に書き込み全員正解した班のみを合格とする。間違えたものは班の出来たものに教えてもらうように」

「えー!」

「テストかよ!」

「俺の班は文字が苦手なやつ二人もいるんだぜロウゼ様!」

「班ごとはやめてくれ〜」


 この世界でもテストと言うとこの反応なのは面白い。


「つべこべ言うな、早く書け」


 渋々ながらも黒い石版に白い石筆でカツカツと文字を書く音が聞こえ始めた。


「あ〜え〜」

「くっそ分からねえ……」

「お、おい俺の見るな!」


 亜人だけでなくディパッシ族も勉強させてるが勉強だけで言うならディパッシ族が一番酷い。


「10個しか分からん……」

「お前10個も分かんのか!?」

「あかん……終わった……」


 良くテスト後に聞く2つの意味の『終わった』が開始早々聞こえてくる。


 試験終了、一つ一つ答え合わせをしていくが全問正解は誰もいなかった。


「お前ら……やる気が感じられんな、これも仕事だぞ」


「でも文字なんて読めなくても生きてこれたしな〜」

「暗記はどうも苦手だぜ……です」

「身体動かしてる方がまだいいな」


 必要性や重要性というのは説明したのだが、実際どれくらい字を知らないというだけで損をするのか、そして知っていれば得するのかということを分かりやすい形で示してやる必要がある。


「……そう言うと思ってお前たちが試験を受けている間に褒美を用意した。これだ」


 出したの一枚の紙。ハンバーグのレシピを書いておいた。作り方は比較的簡単だし、豆でカサ増しも出来るので良いメニューだと思う。


「なんて書いてあるんだ?」

「読めるわけねえだろうが文字も全部覚えてねえのに」


 紙が褒美になる訳ないだろうと、一瞬期待してこちらを見たのだが紙を見るなりハァとため息をついて興味を失った。物質的なものにしか価値を感じられないのは早く考えを改めて欲しいものだ。


「これはまだ誰もここでは食べていない、ある肉料理の作り方が書かれている。全ての文字を班の全員が口に出して読むことが出来ればその料理を食わせてやる。先着順で早い班ほど肉の料理を増やしてやろう」


「に、肉?」

「肉料理!?」

「肉が食えるのか!」


 肉は貴重なので平民では滅多に食べられない。当然食いついてきた。


「どうだ、これがどれほど価値のある紙から分かったか? しかしお前たちは文字が読めないせいでその肉を食うことは出来ない。文字を読めなかったら目の前にあるものも無価値だ。期限は決めていない、いつでも分かれば良いぞ。ただし、文字が読める屋敷の人間に聞くのはダメだ」


 一人だけ読めても意味がない、班で協力して分からない単語や表現を一緒に解読していくということをしてもらいたい。そして、一人の功績で班が合格というのも力にならないから全員が出来たと判断出来る音読で試験をする。学校で暗唱テストなんてのがたまにあったがああいう感じだ。先生の前に行くと緊張して分かってるはずの言葉が出てこないというのも体験してもらうか。


「や、やってやろうじゃないか!」

「いつもディパッシ族のやつらだけ美味い飯食っててムカついてたけどこれは勝ち目あるぜ!」

「ディパッシ族は勉強はからっきしだからなあ」


「ロウゼそれは俺たちに不利やろ!」

「そうやそうや!」


「黙れ! お前たちはいつも訓練の指導で良い思いしてるんだから不利でいいんだよ!」

「力で勝てなくても頭で勝ってやるぜ!」

「バカには負けねえ」

「なんやと! やったろうやないけ!」

「リュンヌお前が一番覚えてないんやから啖呵切るなや!」



 にわかに教室は活気付いた。亜人たちはうおー! やってやるぜ! と意気込み反対に文字の読み書きが大の苦手なやつばかりいるディパッシ族は頭を抱えている。


 次の日から皆は真剣に文字を覚え次々と新しい単語を暗記していった。

 目標が大事なんだな、ただやらせてモチベーションの維持が出来るとは限らないか。そこら辺の管理も俺が意識してしないといけないな。

 定期的にご褒美与えてコントロールするか。情報を得る為に情報で釣る。なかなか良いじゃないか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読ませていただいてます! [気になる点] もうちょっと句読点を増やしていただけると、もう少し読み易くなるかと。 [一言] 文字を勉強するのに、肉料理のレシピを褒美にするのは良い…
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