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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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領地の問題

 話を聞いて身の回りの最低限の情報は得ることが出来た。しかし知識の上で知った気になって上手くいくほど甘い世界ではないだろう。何しろこの世界は元の世界よりも明らかに文明のレベルが低い。

 領土を見て回るくらいはしなくてはならないだろう、どの道新しい領主となったのだから顔を見せる必要はある。

 俺は今後の活動を考えて執務室でブツブツと独り言を唱えながら記憶を整理する。


 それにしても健康な身体というのは素晴らしい、一日中本を読んだり作業をしていても高熱を出すことがないのだから何倍も働ける気がする。

 領主としての仕事にそこそこ乗り気なのは生前何も成し遂げることがないまま死んでしまったからせっかく貴族としては最低と言っても権利ある立場なのだからそれを利用して充実した暮らしをしようと思っているからだ。

 羊皮紙の本なんて初めて触る、本当に異世界に来たのだなと実感する。


 「待てよ、羊皮紙……ということは」


 ロランを呼びつける。彼は筆頭執事で記憶喪失のポンコツ領主は論外だがこの領地に誰よりも詳しい。


 「お呼びでしょうか?」

 「ロラン、この羊皮紙や本はどのくらい高価だ?それに羊皮紙以外に文字を書き留めるものは何がある?」

 「羊皮紙でしたら平民は買えませんでしょうな、本で言えば我が家も財政的にはあまり裕福ではありませんので今から買うとなると10冊が限界でしょう。屋敷の人間全員の一年分の食費程度でございます。他に書くものといえば木簡と石板、粘土板、ボロを使った紙くらいでしょうか」


 なるほどやはり羊皮紙や本は高級品か。活版印刷も発明されていないようだし相当文明のレベルが違うようだ。しかしこの世界で客観的な情報を得るには恐らく本しかないだろう。


 文字というのは情報を具体的に表したもの、そしてその文字を書き留める媒体が紙。あらゆる情報を記録しそれを後世へと託す人類が最も発展することが出来た要因の一つだ。記録することで知識や技術が失われることはない。それ故に知識や情報、それを記録するものには莫大な価値がある。

 前世のメディア論を学んでいた際、教授が言っていた言葉だ。

 

記憶のない自分がこの世界と繋がるには過去の事を記録した本や読み物が欲しい。

 情報はいくらでも欲しいこの状況で、社会的なインフラもないこの世界では情報弱者は死に直結すると考えるべきだ。


 「我が家の財政はそこまでひっ迫しているか。これまでの収入は?」

 「領民による税です」

 「この領地の産業はなんだ?」

 「農業が大半です、しかし土地はあまり豊かではありませんしそもそもそれほど土地も人もいません。目立つものもありませんので商人も大しておりませんし農業以外に職がないのが実情です」

 「税は重かったか?」

 「他領と比較するのであれば先代の領主様はそこまで取り立てておりません。しかし領民にとっては重い税かと思われます。それを先代も理解していらっしゃったのでそれ以上は民を潰します。しかしそれ以下にすると我が家は立ち行かなくなるお互いギリギリの状況です」


 金なし、土地なし、人なし、職なし、資源なしか。絶望的な世界に転生させられたものだと苦笑いを浮かべる。

 金策としても領地全体が豊かになることを考えねば一時凌ぎとしかならないだろう。

 結局のところ商業を発展させて雇用を創出し金の回りを良くするしかない。食べ物は育たなければよそから輸入しなくてはならない。輸入するには金がいる。

 となると根本的には産業、職についてそれなりに大きな改革をするべきか。


 「ロラン、この領地で新たに産業を起こすとしたら何が可能だ?」

 「恐れながら、分かりかねます。この領地は他領が注目するような資源は特にありません。しかし、それ以上にここは問題がございます」

 「というと?」

 「まず食糧が足りないので新たな産業を見つけたとして働けるほど力がこの領地にはありません。そして何より、人間が少なく他種属の亜人は協力しないでしょう。種族ごとに生活していますが対立が激しく人間を疎んでいます。それに街道の近くはディパッシ族の略奪が酷く商人も寄りつきません」

 「そのディパッシ族というのは?」

 「人間ですが蛮族で普通の人間では考えられないような身体能力をもった野蛮な連中です。平気で人を殺し略奪を繰り返しておりこの領地が見下される一番の原因とも言えます。奴らは税も納めてません」


 この世界独自の存在か……種族自体が違ったり身体能力まで差があるとなると理解しあうのは難しいだろう。

 元の世界は同じ人間で殺し合っていたくらいなのだから。


 「もし、仮にだが労働力に出来るとしたらどうだ?」

 「奴隷として肉体労働させるなら相当の力を発揮出来ると思いますが知性が低いので指示に従えるかどうか。亜人に関しても同じことが言えますが」

 「ロランはディパッシ族と話したことがあるのか?」

 「いえ、ありませんが昔からそのように言われております」

 「それはこの土地全体の認識か?」

 「亜人やディパッシ族はそういうものと親から子へ教わります。それにしてもそのような事までお忘れになられているとは。何か思い出せたでしょうか?」

 「言われてみるとそうだったようなと。記憶が繋がる感覚がないことはないが」


 実際には何も思い出していないのだが、全く別人と分かったらどう扱われるか分からないうちは下手な反応は出来ない。

 それにしても差別意識が結構根深いようだ。当然倫理観の違う世界で差別は良くないと頭から否定しても誰も理解出来ない。特に差別している意識すらないだろう。身分社会ではそれが当たり前の法なのだ。


 あらゆる種族が同じ領地で対立しあっているのであれば当然大規模な産業は無理だ。

 小さな領地ならなおさらお互いの協力が必要なのにいがみ合って別々に生きていたら未来はないだろう。

 最終的には全ての種族が共生出来る領地にしたい。


 まずは領民が自分についていくことに利益があると思わせるエサが必要だな。

 労働や協定の交渉をするにしても材料がなければ相手にされないどころか下手したら殺されるかもしれない。

 となると食事か……民全体が飢えた状態なら食べ物ほどシンプルなエサはないだろう。

 だがそれは一時凌ぎ。その後に何か雇用を創出する事業を考えなくては。その為には……


 色々考えたがこの世界の知識が全然足りない。ない知識で考えても何も生み出せない。

 これ以上考えても無駄か、なら『勉強』しにいくとしよう。

 俺はニヤリと笑う。フィールドワークだ。大学生時代身体が弱過ぎて苦痛でしかなかった。



 「ロラン、旅をする準備をしてくれ新しい領主の挨拶回りと領地の視察がしたい」

 「かしこまりました。準備に1日ほどかかりますが、明日に出発でよろしいでしょうか」

 「構わない任せた」



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