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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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表彰と授与 貴族界に衝撃走る

 リュンヌが見事に優勝したものの一悶着あった。

 何事も無く円満に終了するとは思っていなかったがテルノアール領的には特に問題が無い。他の貴族としては大問題だろうが。

 魔法を使わない戦いなど騎士の戦いの場である武闘会には相応しくない、貴族以外が参加するという事自体が問題など様々ないちゃもんをつけられた。

 貴族しか参加してはいけないという決まりは無かったのは、そもそも魔法も使わずに平民が戦ったところで勝てないので誰も参加するものなど居なかったからだ。

 しかし、非公式な試合なら揉み消すことも可能だろうが、多くの貴族、そして観客の平民が見ている武闘会でそれは無理だった。

 不本意ながらもリュンヌは優勝ということとなり、テルノアール領の領主として自分が王よりお褒めの言葉と褒美の賞金を獲得することが出来た。

 賞金の金額は平均的な上級貴族の半年分の税収程度らしい。国の中でも最小規模のテルノアール領には大金だ。厳しかった財政の再建には十分な資金となった。

 リュンヌの我が儘に付き合わされたと思っていたが予想外の収穫があり頬が釣り上がる。

 どう金を使うというよりは、どう金を増やすかということを考えるべきだ。何かビジネスを起こすにしても元手がないと何も出来ない。この世界には銀行も投資家も存在していないのだから誰も融資などしてくれない。

 最初に行うべきは生活基盤の改善だろうか。領民一丸となって働くにはテルノアールはあまりにも元気がないと思う。


「はあ、この数日で色々あって疲れたな。領地に帰ったところで休む暇などないが」

「ロウゼ様お疲れ様でございます、帰り支度は既に完了しておりますがいかがなさいますか?」


 流石ロランだ。筆頭執事の名に恥じない働きぶりだ。出来る従者は段取りの良さが違う。


「ああ、ご苦労。……そうだな賞金で食糧を調達するとしよう。皆飢えているのだから少しでも腹を満たしてやりたい」

「……それは平民も、ということでしょうか?」

「そうだ。むしろ平民にこそ必要だろう。民の信頼を得る目的もあるがこれからどんどん働いて貰わなくてはいけないからまずは領地として全体の力を上げようと思う」

「なるほど、でしたらコンテ伯達に下賜した上で平民の為に使うように指示した方が良いのではと。平民にだけ渡しては他の貴族も黙っておりますまい」


 あ、そう言えばそれぞれの土地を治めるコンテ伯というのがいたんだった。まだ、直接会ったことはないが一度話しておく必要があるな。


「ああ、そうだな。帰ったら一度領主の屋敷に来るように書簡を手配してくれ」

「かしこまりました」

「おいおい、俺の金勝手に使う話してへんかお前ら」

「当たり前だ、テルノアールの領民として出場しているのだからテルノアールの金に決まっているだろう。まあ、そう怒るなお前の分は一部確保してやる」

「俺の分があるのは当たり前やろうが!」

「本来、貴様らディパッシ族は税を納めていないのだからこれまでの税として全部回収してもいいのだぞ?」

「なっ……!?一部でええわ」

「一部でも大金だぞ」

「大金ってのがどんなもんなんか分からんけど食うに困らんならええわ」


 渋々という感じではあったが了承してくれた。まあ心情的には働きに見合った報酬を払うべきなのだが、それほど余裕はないので騙しているような気はするが仕方ない。こいつ馬鹿だから飯さえ出せば大丈夫だろう。


「さあ戻るぞ。エマ、食糧の買い付けをしておけ」

「かしこまりました!」


 腕の見せ所なのだろう張り切ってエマは返事をした。


「お待ちください!」


 声の先にはピンクのカールした豪華な髪をした見たことがないほどの美女がいた。


「あの……大変失礼ですがどちら様でしょうか」

「ソレイユと申します」

「ソレイユ様……姓の方は?」

「ありません」

「なっ!?」


 姓というのはそれなりに身分のあるものしか持っていない。貴族以外なら金持ちの商人くらいだ。平民は姓は無い。どこに住んでる誰々、鍛治師の誰々のような場所や職業でラベリングしているだけだ。

 リュンヌ・ディパッシと紹介されていたがディパッシ族は姓がないので全員名前プラスディパッシになる。

 この御方が貴族であることはどこをどう見ても間違いはない。

 しかし、貴族で唯一姓を持たない存在がいる。


「お、王族の方とは知らなかったとは大変申し訳ありません」

「構いませんわ、それよりあなた!」


 ビシッと指差したのはリュンヌだった。


「俺ぇ?」


 貴族に直接話しかけられるとは思っていなかったのだろう素っ頓狂な返事を間抜け面でしていた。


「そう、あなたです!あなた私の絵のモデルになりなさい!貴方の肉体は素晴らしい、芸術的です是非絵にしなくてはなりません!」

「姫様!?何を言うのですか!この者はディパッシ族でございますよ!」


 近くにいた従者の年配の女性がギョッとしていた。


「勿論知ってますわ、しかし芸術にはその者が誰であるかは関係ありません!さあ、もっと近くに!」

「な、な、何やこいつ!」

「こいつはやめろ!王女様だぞ!」


 リュンヌはグイグイ来る貴族の女性に面食らってしまい気味悪がっている。俺は別の意味で怖くて仕方がない。モデルって……一応領主の部下なのだが。

 王族には関係ないか、命令する権力があるのだからどうとでもなるのだろうが困ったな。


「ソレイユ様、この者は私の護衛でして、あの取り上げられると大変困るのですが……」

「あら、でしたら暫く私の屋敷に客人として止まりなさいな、その間に描かせてくださいな」

「い、いえ私どもはこれから領地の方に戻り仕事もありますのでそういう訳にも行かず……」

「……領主の護衛でしたら離れる訳にも行きませんわね」


 俺はついでかよ。話しながらもこちらを全く見ていないし目がイっちゃってる。

 もしかして俺異世界転生してるのに主人公じゃない?


「はい、そういう事ですので申し訳ありませんがこれにて失礼致します」

「そうですか……」


 物憂げに視線を下に落とすその様はまるで絵画のような神聖さを感じるのだがさっきの言動を見てる限りヤバイ奴でしかなかった。

 ソレイユ様、お願いだからうちのリュンヌに近づかないで。粗相して俺の首が飛んでしまうから。


 リュンヌと二人して早歩きですぐに屋敷に戻った。

 帰る準備は出来ているので食糧の調達をそれぞれに命令し次の日には王都を出た。

 数日の旅を終え無事にテルノアールに帰郷した。


 領地全体の経営は急には出来ないので食糧事情を徐々に改善していくことが最初の課題だろう。

 幸いなことにジャガイモ、ポムドテルを確保出来たし年に2回収穫出来るのだからジワジワと改善出来そうだ。


 後は衛生か、食べるだけではなく病気にならないよう健康に気をつけていきたい。

 健康第一!これほど真理はないだろう。元の世界では病弱だった為に他の人がなんなく出来るようなことがままならないことが多々あった。たまに調子が良い時は身体に不調がないということの有難さを痛感した。

 専門的な事が分からない俺でも間違いなく言えることがある。皆臭い!髪も身体も口も臭い!

 清潔にする。これは精神的にも衛生的にも徹底させたい。

 しかし歯磨きをする慣習がないので歯ブラシもない。

 手洗いうがいはすぐに出来るので実践させよう。

 風呂は貴族の贅沢品なので平民には無理。

 あ、江戸時代や古代ローマには公衆浴場があった。

 公衆浴場作るか。俺の為に領地の為に。

 ということは水道も作らないとダメじゃないか。

 領地の公共事業として職を生んで産業発展させるには丁度良いか。


 そして、王都で痛感した貴族として最優先事項。情報の足りなさだ。そこで考えた。帰りの道でずっと考えた。諜報機関を設置する。貴族社会でやっていくには情報があればあるほど良い。相手の戦力を知れば戦いにおいても有利になる。貴族の生活を知れば商品の戦略も立てられる。弱みを握れば有利な交渉が出来る。

 武力以外が強さではない。出来れば戦争とかはしたくない。戦う前に勝つ。それが一番だと思う。


「ロラン、領地を大きく動かすぞ」

「一体何をなさるのですか?」

「水道と公衆浴場と諜報機関を作る」

「……は?何ですかそれは」


 一つ一つ説明していったのだが例が無いのでいまいち分からないという感じだった。

 まあ無理もない。だがやらなくてはならない。


「新たに職を作るというのは分かりました。職人を集めれば平民でも入れる風呂を作ることは可能でしょう。しかし水道は作る知識がないと思われますが。それに諜報機関は一体誰を働かせるのです?聞いている限りでは文官仕事のように思われますが」

「水道の知識に関しては……当てがある。王都に行かなければならないがな。で、諜報機関は亜人を雇いたい」

「亜人!?亜人ですか?何故?」

「この領地には亜人が4種類いるそうだな?」

「ええ、リザードマンと呼ばれる蜥蜴人族、猫人族、犬人族、鳥人族ですが」

「この種族は人間にはない特徴がある。それぞれを活かすことが出来れば秘密裏に情報を収集する事が可能なのだ。貴族の文官には拾ってこれないものもだ」

「はあ……」


 ロランは納得がいっていないようだ。亜人を農民と奴隷以外に使うという発想がないようで、出来るはずがないと思っている。


 まあ、今は無理だろう。当然教育が必要だから直ぐには無理だ。スパイ養成学校を設立するところから始めなくてはいけない。


 さあ、忙しくなるぞ。



 一方、王都ではロウゼ・テルノアールの名前が急速に知れ渡った。ディパッシ族を従え武闘会を圧倒的な強さで優勝。見たこともない不思議な薬効のあるジュアンドルという嗜好品の存在。試供品を渡した貴族が他の貴族に伝え噂だけが拡大していった。まだ市場に出回っていない為、実物を目にしたものはほんの僅かであったが発売もしていないうちに価値はどんどん釣り上がり各地からマークされて始めたことをロウゼはまだ知らない。

王都編終了です。ロウゼを取り巻く世界はここから加速します。


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