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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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決勝進出

 リュンヌが試合に出ると辺りは騒然となりブーイングの嵐だった。それも無理はない。ディパッシ族が貴族ばかりいる場に出てきてしまったのだから。 

  魔法に多少苦戦するかと思ったが魔法を唱える前にパンチを食らわせていた。詠唱の長さに問題ありとは思っていたがやはり近接戦闘では隙を与えてしまうし接近されたら終わりだろう。

 周りの声からしてお互いに魔法を詠唱する時間を与えた魔法自体の技の比べ合いをするのが作法っぽい。

 今回は魔法試合ではなく、魔法使用可能な武闘会なので隙を見せた方が悪いって思うが。


 それにしても馬鹿みたいな強さだな。金属で出来た鎧を殴りつけて凹ませてノックアウトって。


 さて、テルノアールの名前が出たタイミングで便乗して挨拶周りとするか。警戒されまくるだろうが存在感をアピールして小領地と侮られないことも重要だ。

 まずは、一番地位の高いオルレアン卿からだな。

 貴族は順序にこだわる生き物だ。

 日本のハンコの順番や上司のハンコにお辞儀しているように見えるように斜めにすると言った慣習の方がよっぽど意味不明だが。


 オルレアン卿の周りには既に多くの貴族が群がっており中々近づけそうになかった。

 他の貴族の挨拶が終わるのを待ちしばらくしてやっと順番が回ってきた。


「オルレアン卿、ご機嫌よう。先日はご挨拶だけでしたがありがとうございました」

「おお、これはテルノアール卿、ご機嫌よう。皆、知っているだろうが新しいテルノアール卿だ」


 オルレアン卿が紹介してくれたことで他の貴族と顔を繋ぐことが出来た。


「先代のお悔やみ申し上げます」

「ありがとうございます」


 数人に父のことを触れられたが何も知らないので適当な相槌を打ちながらその場をやり過ごすしかなかった。


「本日はテルノアールで新たに販売する商品の試供品をお待ちしたのです。皆さんよろしければ如何ですかな」

「ほう、テルノアールで商品とな」


 テルノアールには大したものは作れまいという侮りを含みつつも様子を伺っている感じだ。


「こちらはジュアンドルというものである種の嗜好品……薬とも言えますでしょうか」

「嗜好品であり薬とな、薬効のある酒だろうか?」

「いえ、こちらは煙を吸うのです」

「というと香の類か?」

「いえ、香とはまた違い空間に漂わせるのではなく直接口にするのです。ロラン頼む」

「はい、こちらに」


 ロランが用意していたケースに入ったジュアンドルをオルレアン卿に差し出す。


「これは、見たことがないな、どのように使うのだ?」

「私が実演しますのでご覧ください」


 そう言って覚えたばかりの魔法でジュアンドルに火をつけ煙を吸い込む。


「このようにジュアンドルに火をつけて煙を吸うのです。最初は煙でむせ返ってしまうのですが慣れると問題ありません」

「ほお、面白い」

「一体どこでこんなものを……」

「貴重な魔力をわざわざ火をつける為に使うとは」


 しまった。マッチを使えばいいのだった。そうか魔力は貴重なのか、こんなことではわざわざ使わないものだったか。失敗したな。


「マッチを使えば良かったですね、最近魔法の研究で色々やっていたものでつい癖になってまして……」


 適当に誤魔化したが苦しい言い訳だ。

 他の貴族が興味を示しだしたのでまずはオルレアン卿に試してもらおう。この場ではオルレアン卿が最上位の立場なので順序が大事なのだ。


「ふむ、では一つもらおうか」

「燃やしている間に吸い込むことで火がつきます」

「なるほど……スゥ〜……ごほっごほっ!なんだこれは!臭いがひどいな!これのどこが嗜好品なのだ!酒の方がよっぽど良かろう!」

「確かに初めての方には臭いが少し気になるところはありますでしょうが素晴らしい効果があるのです」

「どのような効果が?」

「これは気分を落ち着かせてリラックスさせる効果があるのです。人によっては力が抜けてふわっとするという表現やずっしりと身体が重く感じるようです。そして、これは鎮痛作用がありますので、病気で痛む部分がある方や日々生活でストレスを感じる貴族の方、戦で精神が不安定な兵士などにも向いているかと」

「何も感じないが?」

「幾らか吸った後に少し待ってみてください。暫くすると薬効が現れ始めます」

「ふーむ、そうか」


 オルレアン卿は何度かむせ返りながらもジュアンドルを吸い検分するように眉にシワを寄せていた。


「む……?これは、おお、なんとも不思議な……確かに気が穏やかになるような感じがする」

「大丈夫なのですか、オルレアン卿?それは毒なのでは……?」

「何事も分量が大事なのです酒と同じで摂取のし過ぎは毒にもなり得ますが適度な量であればこれは良い薬となるのです」

「なるほど酒と同じとな」

「テルノアール卿、これは中々に面白い商品だな、しかしこれほどの効果のあるものを兵士に与えるにはちと、高価過ぎるのではないか?」

「いえ、こちらは市販の薬などよりは随分と安く作ることが出来て薬としては比較的量産が可能なところがまた素晴らしいところなのです。こちらから卸して商人を通して販売する予定です」

「テルノアール卿、それは本当にそれほど良いものなのですか?」

「ああ、これは面白いぞ。すまんがテルノアール卿他のものにも試させていいか?」

「勿論でございます、本日は皆様にこのような商品があると紹介しに来たのです」

「おお、ではテルノアール卿よろしいですかな?」

「わたしにも是非頂けますか?」


 オルレアン卿の好評価により他の貴族が興味を示してくれたので順に渡していく。皆慣れない臭いと煙にむせ返り険しい顔をしながらその効果を感じようと真面目な顔をしていた。

 しばし、吸いながらの雑談が始まる。


「ほう、これはこれはまた珍妙な」

「確かに気が鎮まるの」

「私は昔の傷が痛むのがマシになりましたぞ」


 中々良い感触だ、顧客ゲットというところか。

 雑談の中でふと、貴族から質問をされる。


「ところであのディパッシ族の男はテルノアールの代表のようですが一体どうやってあのディパッシ族を手懐けたのですか?」


 後ろに控えたテルンとマノツァがジロリと睨んでいる。頼むから貴族に喧嘩を売るのはやめてくれ。


「いえ、手懐けたのでは無く同盟を結んだのです。お互いに争うことに何の利益もないということでせっかくの戦闘力を活かして今は兵士として一部を雇っているという状況です」

「あのディパッシ族と同盟ですか!?よく殺されなかったものです」

「うちは人口も少なく軍事力にも欠けていますので領地を守ろうと色々頭を悩ませた結果です。使えるものは使うべきだと思い、長い間関わりが無かった交流を繋ぐのには大変苦労しましたよ」


 本当に苦労した。まあ、ここで殺されかけたなんて言っても警戒されるだけだろうし敢えて言う必要もなく平和的に同盟を結び、いざという時にはディパッシ族と共に戦うぞ、というアピールさえ出来れば良い。

 ハッタリというのはこの世界では大事だ。

 弱さを見せたら舐められて簡単に食われてしまう世界だ。


「しかしディパッシ族がいると知ればテルノアール領にわざわざ手を出すようなものも減りますでしょうな。まさかあれほど強いとは……」

「確かに驚きましたぞ」

「魔法が通用せんとはな」


 そう言って皆ステージの方を見つめるとリュンヌがまた相手を一方的に蹂躙していた。


「あれはディパッシの中でも特別強いのです」

「ハハッ!それはそうだろう!あれで普通ならオルレアンでも敵わんわい」

「ご冗談を!」


 オルレアン卿は自嘲するが流石に大領地とやりあったらこちらはひとたまりもないだろう。


「いや、ディパッシ族は個は強けれど軍としては今は機能していないだろう。しかし軍となり行動を始めたならば恐ろしい敵となろうて」

「軍として、ですか?」

「左様。戦は個がいくら強くても限界がある。数で押せばさほど脅威ではない」

「勉強になります、しかし他の兵士との集団行動は中々難しいでしょうな。今も暴れるのを制御するので精一杯ですので」

「テルノアール卿がどのようにして領地を収めるか見ものであるな、まだ若いのだいくらでもやりようはあろうて、期待しているぞ」

「ありがとうございます、精進致します。皆様ジュアンドルはお気に召しましたでしょうか?」

「ああ気に入った」

「これはいつ販売するのだ?」

「私も購入したいのだが」

「商人と価格や販売ルートなど詳しく話を詰めてからですので早くとも1ヶ月程はかかりますでしょうか。販売が開始された時には是非よろしくお願い致します。本日はご挨拶ということもありまして宜しければこちらお一人様1セットずつとなりますのが心苦しいのですが是非お受け取りください」

「おお!頂こう!」

「有り難い」

「販売した時には購入しましょう」


 我も我もと瞬く間にジュアンドルは全て無くなってしまった。


「これからも何卒テルノアールと共によろしくお願いします」

「ああ、任せよこの者たちは全員私の派閥のものだ何かあれば私を頼れば他のものも助けてくれるだろう先代とも良い関係だったのだこれからもテルノアールとは良き関係を続けたい」

「はい、ありがとうございます。それでは、そろそろ失礼致します」

「また、会おう」


 やっと挨拶回りが終わって一息つける。

 オルレアン卿の派閥と仲良くなりあの場で仲良くしたいと言ったのだから自分は恐らくオルレアン卿の派閥に所属したということになるのだろう。

 他の派閥の貴族にも聞こえるようにわざと大きな声で言って手を出すなという牽制の意味もあるかもしれない。

 ディパッシ族を手の中の収めておきたいという思惑があると思っていい。

 しかし一番力の強い派閥に入ることが出来た分には良いだろう。今は弱いのだから長いものには巻かれておこう。後ろ盾があるのは大きいはずだ。


 さて、試合はどうなっているのか……おやもう準決勝なのか。リュンヌはいるかっと、あ、いた。まあ負ける訳がないか。

 決勝戦は午後から行われるようで昼の休憩になるようだ。

 さあ、一度戻るか。


「リュンヌご苦労。勝つとは思っていたがここまで圧勝して勝ち上がるとはな。驚いたぞ」

「はあ、全然っ強いやつおらんかって面白くなかった……」

「決勝の相手はどうだ?」

「まあ、見てた感じ力隠してる感じはするな。どこまでやれるか知らんが期待しとくわ」

「そうか、取り敢えず飯にしよう。一旦戻るぞ」

「テルノアール卿!」


 会場を出ようとしたその時声をかけられ振り返る。そこにはギーズ卿がいた。

 相変わらず輝くような髪と顔で絵本に出てくる王子様みたいだ。

 そしてこの笑顔がなんとも胡散くさいのだ。


「これはギーズ卿、ご機嫌。挨拶に行けず申し訳ありません」

「いや構わないよ君はオルレアン卿の派閥なのだろう?ならオルレアン卿に先に挨拶するのが筋ってもんだ。どうだい、私の派閥に入らないか?」

「いえ、それは……派閥をコロコロと乗り換えるようでは信頼などされますまい。それに派閥など関係なく私たちは仲良く出来ると思いますが違いますか?」

「全く、その通りだ。先日デモンディとも会ったようだね彼のパトロンが私なのだよ。面白いものをもらったと喜んでいたよ。私も一部頂いたのだが中々売れそうなものじゃないか」

「デモンディさんにもよろしくお伝えください。デモンディさんに渡したものは今後うちの領地から販売される新商品なのです、そのうち販売が開始されるので良ければお買い求めください」


 まさかギーズ卿がパトロンで研究していたとは。世間は狭いものだ。貴族と貴族の関係性に関する情報がまるで足りてないな。

 自分の情報不足と情報収集能力の低さの解決は最優先事項だろう。帰ったら考えなければ。


「ところで君の領地の代表が決勝なんだろう。その相手がギーズ領の人間なのでせっかくだから挨拶に来たんだ」

「そうだったのですね、どうぞお手柔らかに」

「いやいや、手加減なんてしていたらこちらがやられてしまうよ。それにしても一体どうやってディパッシ族と?」

「長く途絶えていた交流を復活させてお互いに利益のある同盟を結んだまでです」

「あのディパッシと同盟を結ぶなんてやるじゃないか、新人の領主にはしては素晴らしい活躍だ」

「いえいえ……まだまだ分からないことだらけです」

「そうだ、紹介するよ我らが炎の軍団の隊長、エヴァンタイユだ」

「あの、フラームという方ではないのですか?少し名を耳にしたのですが?」

「ああ、彼は師範ということで隊長は昔にやめて今は後進を育てながら私の護衛をしているんだ。フラーム前へ」


 後ろの方を向いて、ギーズ卿の後方に何人もいる護衛騎士の中から鋼のような筋肉に覆われた顔に傷の入った大柄な男が出て来た。

歴戦の勇士という感じで圧倒的に他の騎士よりも強いことが見ただけで伝わってくる。


「馬鹿な……なんでオヤジが……」


 掠れた、焦りと驚きが混ざった小さな声が聞こえた。振り返るとリュンヌが信じられないものを見たようにフラームに釘付けになっていた。

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