武闘会当日
今回はリュンヌ視点です。
俺の名前はリュンヌ。ディパッシの長の孫や。
今日は王都にロウゼのアホが召喚されてわざわざついてきたら武闘会っていう面白そうなもんがやるらしいから飛び込み参加した。
普段はディパッシ族のやつらと訓練で組手やら試合やらはやってるけど大体他の奴らの力量は分かってるし勝つのはいつも俺やから面白くないんや。
他の領地にならそこそこ強いやつがおるかも知れんし楽しみやわ。
ディパッシの力が他所でも通用するかっていう偵察も兼ねてるけど護衛騎士を見てたら今んところは大して凄そうなやつはおらんかった。
強いやつが居てくれたらええんやけど。
昨日の晩は肉山盛り食わせてもろうて朝飯もガッツリ食べたから力は漲っとる。
給仕のエマってちっこい召使いが食い過ぎや、そんなに食料はないんやぞうちの財政はどうのこうのってめっちゃ怒ってたけど関係あらへん。
なんでも、武闘会で優勝したら王から褒美が出るって話やし、自分の飯代を後で自分で稼いだらええだけや。これは先払いで飯食うただけなんや。
腹いっぱいになってええ気持ちでジャンガ……今はジュアンドルか、をスーッと吸ってリラックスしてたらロウゼがやつれた顔でフラフラと食堂に現われよった。
なんか昨日裸にさせられて刺青見た後は本をずっと読見始めて声掛けても無視しよるからほっといて先に寝たんやが夜更かしでもしよったんやろ。
「ロウゼ様お早うございます、昨晩は夜更かしをされたのですか?」
筆頭の執事のロランがロウゼに挨拶と質問をした。
心配そうな顔をしている。
別にちょっと夜更かしして寝不足なくらいで何を心配しとるんや馬鹿馬鹿しい。
この、主人に仕えるって感覚が俺にはどうにもよう分からん。
強いか、弱いか。弱い物が強い者に従う。それでええやろ。こんなヒョロガリのガキなんかロランがどついたらぶっ倒れるで。
せやのに身の回りの世話やら書類仕事やらやって、ほんまにようやるわ。
「ああ……遅くまで魔法書読んでたんだ。でも夜更かしの甲斐はあったぞ。魔法が使えるようになった」
「本当ですかロウゼ様!?それは良かった……魔法が使えないと言われた時には一体どうすれば良いかと心配しましたがこれで貴族としてのメンツは保たれますね」
本当にロウゼが魔法が使えるようになって嬉しいって顔をしてる。他の奴がなんか出来たからって嬉しいってのはよく分からんな。自分が強くなったらそら嬉しいけど。
ロウゼも飯食って準備も出来たし武闘会に行く時間や。早よせい!って何回も言ってやっと着いたのは城の中にある石で作られたステージとそれを取り囲むように客席がある場所や。
ロウゼはコロセウムみたいだって言っとったけど、コロセウムが何かは分からんかった。
多分戦う場所やから【殺せ】と関係してる気がする。知らんけどな。
客席には貴族とその側仕えと護衛の騎士がいっぱいおって村では考えられへんくらいの大人数にちょっとビックリした。こんなに人間おったんかいな、城の用意された部屋に基本おるから他の人間には会わへんし、町も人は多かったけど一箇所にこれだけ集まるってのは初めてや。
しばらく周りの様子をキョロキョロ見回してたらステージの一番近い真ん中から王が出てきてよう分からんけど何かダラダラ喋っとる。そんなんええから早よ戦わせろや。
「まだか?」
「黙って待っていろ」
ロウゼは寝不足のせいか知らんけど機嫌が悪いみたいでいつもよりデカイ声で俺の言葉を遮った。
王のクソ長い喋りがやっと終わったかと思ったらまた偉そうなおっさんがルール説明始めてぶっ倒れそうになったわ。
全然聞いてへんかったからロウゼに聞いたら聞いておけ!ってまた怒鳴られてルールの説明してくれた。
武器はなんで良い、殺したらあかん、参ったって言うまでやる。勝ったら他の試合で勝ったやつと戦って最後まで勝ったやつが一番。
まあ、シンプルなルールで安心したわ。
で、やっと武闘会が始まった。俺の出番はまだ先って言われたから座ってロウゼと一緒に他の奴の試合を見ることにした。
出てるやつは貴族が多いみたいで戦闘に魔法使うみたいや。魔法ってのがよく分からんかったけど剣使いがなんかブツブツ言うとるな思ったら剣が燃え始めた。
流石にええっ!?言うてもうたけどこれが魔法かいな。
もう一人の対戦相手は剣が光りだした。訳がわからんわ。
で、しばらく見てたら剣燃えてるやつが勝った。技の速さとか力の強さとかは正直全然大したことなかったけど剣が燃えてたら危ないな〜これは油断出来んひんな。
「中々面白いやんけ」
「勝てるか?リュンヌ」
「アホ抜かせ、あんなん当たらんかったらどうってことあらへん。普通に切られたら死ぬねんから燃えてようが結局は同じことや。自分が切られんで、切ったらええだけの話やろ」
「まあ……それはそうだが」
「ほんなら俺はそろそろ準備するわ」
「ああ、そうしろ。行く場所は分かってるな?」
「分かっとる、アホ扱いすんな」
「そうか。お前が離れるなら護衛に向いてそうなやつを選んでくれるか、出来たら貴族に対して偉そうな口聞いたりしない静かなやつがいいのだが」
「あー、そんならテルンにしとくか。あいつ喋らんけどこの中なら俺の次に強いで背は低いけどすばしっこいんや」
「テルンと言うとあの女か?まあ強いのは理解してるが牽制って意味で見た目が強そうなやつも一人つけてくれると助かる」
「まあ知らん奴やったら舐めよるかも知れんな、うんならマノツァにしとくか、あいつデカイし力だけなら俺とおんなじくらいや。おいテルン!マノツァ!こっちこい!俺がおらん間こいつ守っとけ」
「分かった」
「うし」
「よろしく頼む。これから俺は他の貴族に挨拶に回る。不審な奴がいないか警戒してくれ」
「勘違いするなよ、私はリュンヌの命令を聞いてるのであってお前の部下ではない」
「テルンに同じく」
「……そうか、まあリュンヌが言うなら心配はないだろう。これだけは言っておくがディパッシ族の名を自ら落とすようなことはするな。これはお互いの為だ」
「ふん、偉そうに」
「まあ話はついたみたいやし、そんなら行ってくるわ」
あいつらがロウゼと仲良くやれるとは思わんけど別に喋らんかったら大丈夫やろ。さあ、やったろか。
準備する場所について軽く体慣らししてたら俺の番がやっと来たみたいや。
審判が対戦相手の名前言ってる、どうでも良いけど。
俺の相手はどっかの領地の貴族みたいやけど俺を見下した目が気に入らん。ぶっ殺すぞ。
「対戦相手はテルノアール領のリュンヌ・ディパッシ!」
「ディパッシ……?まさかあの……?」
「いやまさかこんなところには……」
会場がザワザワし始めた。ディパッシって聞いたからどうやらビックリしたみたいやが。
「ふざけるな、野蛮人に試合させるなんて神聖な試合を汚すつもりか!」
「引っ込め!」
「ぶっ殺してやれ!!」
なんや偉いうるさいな、ま、歓迎されるとは最初っから思ってなかったけど。何言われても俺が強いって最後には分かるやろうしな。
「ふん、みすぼらしい格好をしているとは思っていたがまさかディパッシとはな。切り刻んでやるわ」
「ほー言うやんけおっさん」
互いに睨み合ってガン飛ばしあいや。
軽くジャンプして身体を臨戦態勢に持っていって試合が始まるのを待つ。
「それでは……始め!!!」
デカイ鐘の音がなったら試合開始、さあ始めよか。
「ふん……」
おっさんがブツブツ言い始めた魔法やろうけど、アホやなぁ。
一瞬にして間合いを詰めて顔をぶん殴る。殺したらあかんって言われてるから勿論手加減してやってる。
ドガァッ!!!思ってたより軽くて吹っ飛ばしてもうた。
「アホやなぁ、試合始まってんねんで何ブツブツ言うて隙見せてんねん。ほんまの殺し合いで通じると思っとんのか?」
うるさい会場が一瞬でシーンとなった。ああ気持ちええなあ。そしたらぼそぼそ声が聞こえてきてどんどんデカくなってくる。
「卑怯だぞ!呪文を唱える前に攻撃するなんて!」
「野蛮人め!!」
「試合の作法も知らんやつが出てくるな!」
なんか色々言うてるけど別にルール違反ちゃうやろ。
開始の合図があったらそっから先は戦い始まってるねんから攻撃して卑怯な訳あるか。
吹っ飛んだおっさんは目を丸くして少し固まった後怒りが湧いて来たのかこっちを睨みつけてくる。
「この蛮族めが!調子に乗るなよ」
またブツブツと呪文を唱え始めた。分かってへんなあそんなんしても勝てへんて。
「そんなに魔法使いたいなら待ったるわ」
「くっ!バカにしやがって……」
魔法が終わったみたいで剣が光りだした。
「もうええか?」
「来い!」
「ほんなら……」
ボグゥッ!!!さっきよりちょっと強めのパンチ腹に食らわせたった。
気絶しとるわ、弱いな〜魔法使える貴族の騎士ってこんなもんかいな。
「し、試合終了!!リュンヌ・ディパッシの勝利!」
はあ、弱過ぎて準備体操にもならんかったな。試合勝って行ったらもうちょっとマシなやつが出てくるの期待するしかないな。
「そんなバカな!!!」
「素手だと!?鎧を着ているのだぞ!」
「これがディパッシ族か……恐ろしい」
「テルノアールは一体どうやって飼い慣らしたというのだ!」
ほんま、こいつらうるさいなあ。試合終わって静かになった思ったらまた騒ぎだしよった。
まあ、ええけど。どんだけいちゃもんつけても結果強いのは俺ってことが分かるやろこの後に。
あー、強いやつ出てきてくれへんかなあ。