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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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市場調査

 王都二日目、本日はアベルが紹介してくれると言っていた商人との夜の会合まで予定が空いている。昨日の今日で朝一で会合の連絡があった。商売のためとは言え、この対応の早さは恐ろしい。せっかくの時間を有意義に使いたい。となると会合までに出来るだけ情報収集をしておくのが良いだろう。

 これからビジネスをするとなるとあらゆる商品の相場は知っておいた方が良い。商人に足元を見られてこっちが不利益を被るということは絶えず注意を払わなければ。


 「ロウゼ様本日はどのようにお過ごしになられますか?」


 朝食を皿にテキパキと取り分けいつものようにビシッと決めた執事服で完璧に仕事をこなすロランがロウゼに予定を伺う。


 「ああ、今日は会合まで街に出ようと思う。市場に出回っている商品や相場、需要をある程度知ってから商談をしたい。街や商業に詳しいものを連れて行こうと思うが誰か適役はいるか?」

 「私は申し訳ないのですが商人の応接の準備がございますので同行出来ませんし……エマを連れて行くのはどうでしょうか?」

 「あのいつも皿を割ってロランに怒られている娘のことか?大丈夫なのか?」

 「彼女は召使いとしては正直……その、有能ではありませんが元々商人の娘でして交渉や計算は得意なのです。いつも買い物係をしておりますので街を回るのでしたら適任かと」

 「ほう、そんな人材がいたのか」

 「はい、すぐに準備させます」

 屋敷には従者は何人もいるので、一々誰がどんな人物かというのを一切気にしていなかったが才能を発揮出来ずにいる人材がいるかも知れない。効率化の為にも今一度屋敷の人間全員のことを知った方が良いかもな。

 朝食を食べながら近くにいる召使いに雑談混じりに話してみようとしたが皆仕事に集中したいらしく帰って自分の質問が邪魔になっているような気がしたので辞めた。


 「では同行するものの準備が出来次第に街に出かける」

 「かしこまりました、護衛は……」

 「ああ、あいつでいい」

 「かしこまりました……」


 ロランはリュンヌか〜と不服であることをグッと堪え、主の決定に異議を唱えまいとしていた。

 いや分かるよ。あいつ自分が筆頭の執事なら絶対相手するの嫌だもん。主人に失礼なこと言ったり貴族階級ガン無視だからヒヤッとするだろうよ。貴族に向かって「おい!」とか呼んだら心臓バクンッてなるわ。

 でもあいつ強さは間違い無いから、自分の身を守れるほど強くないし貴族ってこと考えたらやっぱり安心感は間違い無いんだよな。村を出れた事に関しては恩を感じてるみたいだし一応護衛の仕事はちゃんとやってるから強く言えないんだよな。


 「ありがとう。ロラン分かってるが仕方ないだろう」

 「仕方ないことが分かっているから頭が痛いのです」

 「それもそうか」


 二人で顔を見つめ合わせハア……とため息をついていると部屋の扉が開けられた。


 「おいぃーすっ!」


 とリュンヌが入ってきた朝から元気だなこいつは。


 「ん?なんや二人して暗い顔して」

 「なんでもない。これから街に出るから準備しろ」

 「俺はいつでも大丈夫やで」

 「じゃあそこで皆の準備が出来るまで大人しくしてろ」


 支度が済むとエマが部屋に入ってきた。彼女に沢山いる召使いの一人として仕事を頼んだりするということはあったが彼女個人に対して仕事を任せるというのは初めてだからだろうか、平静を装ってはいるが肩に力が入っているのが目に見える。就職の面接に来た学生のように緊張している。面接官ってこんな気持ちなのだろうか。


 「お待たせいたしました、街へ向かいましょう」

 「今日はよろしく頼む」

 「はい。街のことならお任せください」


 顔を強張らせながらも意気込みを感じる。彼女は扉を開ける為、振り返る際にリュンヌを軽蔑するような目で一瞥した気がした。


 街は王都というだけあってテルノアール領よりも活気で満ちていた。人の数が多くや店の規模が段違いに大きい。その分、臭いがかなり凄いことになっている。衛生の観念が低く人口が密集しており城壁に周りを囲まれているせいで臭いが篭っている。

 テルノアールは比較的田舎で自然も多いので空気は綺麗な方だろう。


 「臭いが凄いなここは」

 「街の臭いですね、貴族の人は顔をしかめる人が多いでしょうね」


 あ、やっぱり貴族はこういうところ来ないから慣れていないのか。


 「うお〜凄いな〜!なんやこの食いもん!これは?おお!」

 「おいキョロキョロするな俺を守れ」

 「分かっとるわっていうかむしろ守る必要出て欲しいわ。最近全然身体動かせてへんから退屈やねん」


 戦闘民族として毎日生きてきていたら確かにこの生活は暇かも知れない。

 何か定期的に発散させられるようなことはないものか。スポーツでもさせようか?


 「それでロウゼ様、どこを案内すれば良いのでしょうか?」

 「あ〜、まずは一通りぐるっと回って市場に出回っているものとその値段の相場を見ておきたい。後は薬屋だ」

 「薬屋ってお前具合でも悪いんか?」

 「大丈夫ですかロウゼ様?すぐに城に戻りますか?」

 「違う違う、ジュアンドルを売るに当たって薬の効果やそれの値段が知りたいからだ」

 「なんだ……驚きましたよ……あなたが紛らわしいこと言うからです」

 「はあ?俺はこいつが具合悪いか聞いただけやろ勝手に決めつけて心配して人のせいにしてんなや!」

 「こいつとはなんですか主に向かって失礼ですよ前から前から思ってたんです、あなたのような下賤な……「頼むから喧嘩するな早く行くぞ」


 エマと道中話しながら感じたのだが、屋敷ではミスが目立つ彼女は話している時はかなり大人しいということだ。坦々と簡潔に話すようなのだがリュンヌに対しては、やや当たりがきついように思う。


 「ここのようですね、早速入りましょう」

 「これだけ大きい街でも3つって薬屋ってあんまりないんだな」


 中に入ると扉のベルがカラーンと鳴りその瞬間、薬草の匂いが鼻に飛び込んできた。苦い漢方を飲んでいた時のことを思い出す匂いだ。


 「凄い匂いやなこれ。俺は鼻が人より効くからキツいわ」

 「はいはい、いらっしゃー……これはこれは!いらっしゃいませ旦那様」


 出てきたのは三十代くらいだろうか、薬屋のくせに妙に不健康そうな痩せた男だった。客が貴族と分かって驚いたのか慌てて丁寧な態度に変わった。


 「本日は何か御入り用でしょうか?」

 「痛み止めや怪我に効く薬を見せてくれ」

 「少々お待ちください」


 奥から出してきた幾つかの薬の説明を丁寧にしてくれた。


 「例えば、塗ればすぐに傷が治る薬というのはあるだろうか?すぐにというのは言葉通りの意味だ」


 魔法のポーションのようなものがないかを探るために聞いてみた。


 「それは一瞬、ということでしたら申し訳ありませんがそのようなものは聞いたことがありませんね……」

 「では一番効果が強い痛み止めはどれだ」

 「でしたらこちらになります。ただし、その分副作用として中毒性が高く注意が必要です。私としてはあまり使うことはお勧め出来ませんね。非常に苦痛が激しく治りようもない怪我などの時に使うなど以外は危険がそれなりにあります」


 アヘンのようなものか……?ということは魔法のような不思議な効果がある薬は存在しておらず、技術も大したことはないのかも知れない。ジュアンドルの売れる可能性は十分にありそうだ。


 「これらの薬の価値としては高いのか?」

 「薬草の加工や判別などが薬師にしか基本的には出来ませんので薬師としては希少性などはあまりないのですが、薬師自体が希少な職なので必然的に薬に高い価値が生まれていますね」


 なるほど、薬屋が少ないのは薬師がいないからか。


 「ということは、仮に薬師が大量にいれば薬の流通量は増えるのでその薬は価値が下がるのか」

 「はい、まあ、それは困りますがそういうことでございます」

 「薬の加工や調合はどうやって学ぶ?」

 「基本的には親から子へ伝えられ、貴族の方の中にも研究をしている方はいらっしゃいますから貴族の方に学ぶということもあります」


 教育の水準が低いから高度な知識を要する仕事は出来る人間が少ないということか。


 「エマ、屋敷の薬の備蓄はどれくらいだ?」

 「先日の襲撃の件でかなり消費しましたのでほぼないです」

 「では買っておこう。エマ後は頼んだ」

 「お任せください!ご主人、これは高すぎます、まとめて買うので安くしなさい!」

 「そ、それは幾らなんでも……」

 「これくらいならどうでしょう?」


 急に人が変わったように値段交渉を始め出した。大人しかったさっきまでの態度が嘘のようだ。

 注文に関しては彼女に任せておけば大丈夫だろう。


 「なあ、ロウゼ」

 「なんだ」

 「俺マジで退屈やわ」

 「我慢しろ護衛だろ」

 「いや、今が退屈って言うわけじゃなくて最近の話や。護衛言うても立ってるだけやし強いやつと戦いたいんやけど。街でたら襲撃の一つでもあるかと思ったけど皆んなビビって距離空けてくるしなんもあらへん」

 「戦うって言ってもそんなイベント発生して欲しくないのだが。てか聞き捨てならない告白をサラッとするな。仲間と訓練でもすればいいだろう」

 「いや、あいつらの実力なんか知ってるから面白くないしただの訓練やんけ。俺らが本気でやったら殺し合いになるからって禁止してるのお前やろうが。どっかで戦えへんのか?」

 「まず、強いやつは貴族の騎士だろ。そんなやつとやり合ったら主人同士の問題になるからそんな簡単には無理だぞ」

 「は〜しょうもな。つまらんわ。俺らは強いやつと戦ってなんぼやろうが」

 「すみません、お待たせ致しました。荷物は城に運ぶように頼んでおきました。お次はどうしますか?」

 「今日はあらかたの相場や商品も調査出来たしそろそろ帰る」

 「かしこまりました」


 三人で市場を歩いて城まで戻る。気がつくと夕方になっており電気のない街は薄暗くなっていた。

 リュンヌとエマは反りが合わないらしくずっと口喧嘩をしながら歩いていた。エマがバカにする。リュンヌがキレる。の繰り返しだ。


 「明後日の武闘会楽しみだなあ、やっぱりオルレアンの壊し屋か?」

 「いーや、今回こそギーズの兵士の中から壊し屋に勝てるのが出てくるかもしれんぞ。あそこは炎の兵団の中で予選してから出場だから毎回違うやつが出てきたりして面白えんだよな。層が厚いから年々強くなってるって噂だぜ」

 「昔はフラームが最強だったけどな〜また見てえなあフラーム」

 「今はフラームが炎の兵団の育成してんだろ?軍事力考えたら仕方ないけど勿体ねえよなあ」


 ふと、そんな会話が市場を歩いていると耳に入った。当然、リュンヌの耳にも入っている訳だ。ガッと強い力で肩を掴まれた。もう、何が起こるか予想はつく。ため息をつきながら渋々振り返る。ほらやっぱり、最悪にいい笑顔でこっちをみている。


 「はあ、分かったよ」


 二日後のリュンヌ・ディパッシの武闘会の参加が決定した瞬間だった。

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