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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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王都召喚 後編

 「初めまして新しいテルノアール卿。私はデモンディ・ミステル。宮廷内で学者をやらせて頂いております。一応貴族なのですが家が滅びたので領地を持たない貴族ですのでどうかそこまで貴族としてのお気遣い頂かなくても構いません」


 そこにいたのは病的に肌が白い、いや青白いと言ったほうがいいだろう。いつ死んでもおかしくないような繊細さを持つ痩せた男だった。余裕のある笑みというのだろうか、とにかく気味の悪い笑みを浮かべてこちらを見つめている。


 「初めまして……ロウゼ・テルノアールです」

 「よろしくお願いします。そうだ、話を戻しますがこの花は私が栽培しているのですよ他の貴族様にも物珍しいらしく好評でこうやって庭園においているのです……フフフ」

 「お願いだ!これを譲ってくれ!いや、お願いします!どうか!」

 「ポムドテルをですか?こんなに欲しがる人がいるなんて驚きましたねえ。どうしてそんなに欲しいんですか」


 デモンディは何故だ?考えるようにして目玉を斜め上に動かし、しかめっ面になりながら片眉を上げ片眉を下げる。


 「これさえあれば我が領地の食料問題は解決だ……こんなものがあるとは……」

 「ポムドテルが……?外国の珍しい種だったので試しに栽培しているだけのただの花ですよ別に美味しくもないですし貴重なものでもないです。……しかし、ただで譲るというのは」

 「そこをなんとか!」

 「そうですねえ……では代わりに何か頂きましょうか」


 ニヤニヤと何かよこせと交渉を始めて来た。しかし我が領地には金がない。どうしたものか。

 展開が些か早いのでその場にいるリュンヌは自分たちをただ茫然と眺めながらジャンガ草に火をつけ吸っていた。……待てよ?


 「っ!ふふ、それならいいのが良いものがありますよ」

 「ほほう!と言いますと?」

 「これです」


 リュンヌを指差す。リュンヌが「俺っ!?」と驚きながら自分の顔を指差す。


 「いやお前じゃない。この者が吸っているこれを差し上げましょう」

 「先ほどから気になっていたのですがそれは一体何なのですか?」


 妙なものを注意深く観察するように眉間にシワを寄せてジャンガ草を凝視する。


 「あ?ああこれは……」

 「おい、リュンヌ黙っていろ。貴族同士の会話に勝手に入るな」

 「はあっ!?……ちっ」

 「護衛が失礼しました。これは特殊な薬草でしてこれに火をつけ、この煙を吸うことで気分が落ち着き傷の痛みが和らぐ効果があるのです」

 「なんと珍しい……聞いたことがありませんね。それは一体何という植物なのでしょうか?」


 ここで入手と栽培が容易なジャンガ草ですと正直に言えばただの間抜けだ。


 「それは言えないのですが、我が領地に生息する希少な薬草から作られています」


 よく言うぜこいつ。と引きつった顔をしながらリュンヌは黙っている。お前は絶対に何も喋るなという強い視線を送って威圧しておこう。


 「まあまずは一本お試しになってはいかがでしょう?実はこれ近々我が領地の新しい特産品として卸す予定なのです。お気に召せばデモンディさんには特別にお先にお譲りしましょう。代わりにポムドテル?だったでしょうか?をお譲りしてはくれませんか?」

 「良いでしょう……しかし、まずは試してからです。さあ、早くくださいませ!」


 先ほどまでは病気ではないのかというほど覇気がなかったのにいつのまにか好奇心に満ち溢れ目が血走っている。新しい、未知なものに対する興味が尋常じゃないのだろう。まあそれくらい好奇心がなければ学者など出来まい。

 痩せこけて目の隈が酷い色白の顔はただでさえ怖いのに興奮して目が血走るとめちゃくちゃ不気味だ。早く渡せ!とリュンヌに催促して吸い方を教える。


 「ゴホッゴホッ!なんですかこれはゴホッ!まるで拷問だ」

 「最初は皆そう言うんです。慣れれば問題ありません。騙されたと思ってしばらく吸ってみてください」

 「言われなくても既に騙されたと思っております……オッファアッ!」


 咳き込むデモンディを面白がりながら雑談まじりにしばらくしているとデモンディに変化が現れた。


 「お?おおお……なんでしょうこの感覚は、物凄く身体の余計な力が抜けて頭の中で煩雑な情報が整理されていくような……酔った時とはまた違うこの浮遊感……」

 「どうですか?お気に召したでしょうか?」

 「面白いですねこれ。良いでしょう。ポムドテルと交換致します。私の個人的な庭にそれなりの量を栽培しているのですが幾ら必要ですか?」

 「可能な限り全部ください。こちらはそうですね……50本でどうでしょうか?」

 「50ですか!?そんなに希少なものを頂けるのです?」

 「この花は私にとってはそれくらい価値があると思っているので」


 などと言っているがそこら辺に生えてる繁殖力の強い雑草と言っても過言ではないので全然希少じゃないし価値としては全然低い。


 「そこまでして欲しいというこの花にどんな使い道が……食糧問題がどうとか言ってましたが食べるんですか?」


 面白そうにこちらを伺う。まだぶっ飛んでいるのだろう表情が緩んでトロンとしているが。


 「まあそれなりに使い道があるのですよ」

 「ほお、それは気になりますねえ。ところでこれは何という名前ですか?原料ではなくものとしての名前です」

 「ああ、これは……」


 よく考えたらこれから売り出す際に材料の名前をそのまま言うわけにはいかないし、かと言って名前が無いのでは不便だ。


 「これは、ジュアンドルです」

 「ほう……繋ぐとか継ぎ目とかそういう意味ですか」

 「はい。領地と国を、人と人を繋ぐという願いを込めて」


 デモンディと話している間に宴はいつの間にか終わってしまっていた。

 明日からはジャンガ草……いや、ジュアンドルの商談や絵師の発掘の為にしばらくはビジネスだ。


 「それではポムドテルとジュアンドルに関してはまた後日よろしくお願いします。私はしばらくは王都に滞在していますので」

 「はい、本日はとても楽しい時間を過ごせました。テルノアール卿。またお話したいです、あなたと話しているとまた何か新しい発見がありそうです。では私はこれにて失礼します……フフ……」


 フラフラとしながらデモンディは暗闇の中へと消えて言った。


 「はあ、変なやつやったな。それにしてもジャンガ草あいつにただでやるほどお前が欲しがってたこの花は何なんや?」

 「ああ、これはな領地の飢えを解決する食い物だ」

 「こんな花がか?食べられる部分なんか知れてるやろ」

 「違うこれは土の中に入ってるところを食べるんだ」

 「根っこか?食えんのかいな」

 「ああ。しかも俺はこれが好きだったんだ」

 「ん?ということは前に食ったことがあるんか?でもここにしかないんやろこれ。しかもあの学者は食えること知らんみたいやったけど」

 「あ、ああいや何でもない。前に書物で読んだことがあったのだ外国の植物なのだがな」

 「ふーん……?」

 「そうだ、これからはジュアンドルと呼べ。何が原料となっているかは絶対に秘密にしておきたい。真似されたら商売にならんからな。分かったな?これはディパッシの為でもある」

 「ディパッシの為、ねえ……まあ分かったわ。要するに勝手に珍しい植物やって勘違いさせてぼったくるってことやろ」

 「そういうことだ。なんだ意外と分かってるな。さあ、そろそろ戻るぞロランたちも心配してるだろう」

 「せやな、帰ろか。眠なって来たわ」

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