終わりから始まり ★
2020/07/11 ロウゼのキャラデザを後書き部分に追加しました。
「馬鹿なっ!? 小領地に圧されるなんて! 人数はクシーが圧倒的に上のはず!」
「戦闘力が違うのだ。有象無象の兵とレベルアップを重ねた我々とではな。因みに我が兵は負傷者は居ない」
「だ、誰だ!?」
「テルノアール領、領主ロウゼ・テルノアール。戦犯者として貴様を拘束させてもらう」
「な、いつの間に!? それにどこから!!」
「どこからって空からだが?」
「空を飛んだだと……あり得ん……」
「私にとっては日常でしかないのだがな」
フィッツ卿は歯ぎしりをしながらロウゼを睨みつける。
手を前に出し呪文の詠唱を始めた。
「殺してやる! ロウゼ・テルノアール!」
「キャンセル」
ロウゼは指をパチンと鳴らした。
「なっ!? 魔力が断たれた!??」
「私の前で魔法など使えん。……火よ!」
ロウゼの手からは炎が生まれ、それはまるで生き物のように自在に動き出した。
「詠唱も無しに魔法を!? しかも火が生きているだと!」
「生きてはいない、私が操作しているだけだ」
「あり得ん!! 魔法は力を放出するものだ!何故力の方向を変えられる!?」
「貴様が知ってる『魔法』なら無理だろうな」
火はフィッツ卿の周りを囲むように動き、包囲した。
「終わりだ、投降せよ」
「ぐっ……!」
「ロウゼ様こちらは終わりました」
四角い黒の通信の魔道具から男の声が聞こえる。ロウゼは通信の魔道具を取り返事をする。
「ああ、こちらも終わった。捕らえたものは殺すな」
「了解しました」
「なあ、こいつらどうするんや?」
筋肉の鎧を着たような白髪の青年、リュンヌが話しかけてくる。
「首謀者に命令されていただけの事だ。俺に命令されて戦ってるお前たちと変わらん。主人が馬鹿だった不幸な者たちだ。だが、これからは俺の領民になるのだ。わざわざ人口は減らさん。その代わり働いてもらうがな。こいつは殺す。下らん目的で戦争を起こして無駄に命を減らしたのは許せん」
「まあまあ、落ち着け。ほら、これ吸えや」
リュンヌは吸っていたジュアンドルを俺の口に押し込んだ。
「ちょっ……スー……ふう、やはり落ち着くな」
「これが原因でこんなことなったって思うと何とも言えんけどな」
「確かに。あの時からこうなる事は決まっていたのかもしれない。それに俺のせいだな……」
病室の中でポツンと眠る若い男がいた。男は21歳で普通なら大学に通って楽しい学生生活を楽しんでいるはずの歳だ。
実際、彼は途中までは大学生だったが元々病弱なこともあってか肺炎を患い、今は入院生活だ。
こんな、はずではなかった。と男は思いながらも体は思うように動かず毎日寝ることしか出来ない。
もうかれこれ半年ほど病状が回復しては悪化を繰り返し次第に体力も免疫も衰えていた。
在学中は積極的に勉学に励み、趣味の創作活動を楽しみ客観的に見れば意識の高い学生だった様だが、個人的には充実した生活を送っていた。
こんな生産性の無い毎日はもう自分では生きているとは思えなかった。
「健康な、いや、人並み程度の身体があればなあ」
そう呟き眠りについた。
男は眠っていしまい意識が途絶えたので知る由もないのだが、『この男の身体』が目を覚ますことはこれから先無い。
目を覚ますと見知らぬ天井がそこにはあった。
「どこだ……?」
しかし目覚めと同時にまるで見に覚えのない場所にいる驚きもあったがそれよりも身体が軽い事に気が付いた。
いつもなら息が苦しく、大抵熱が出ていて身体が怠くまともに動くことは出来ないからだ。
ふと、自分の腕に目をやる。健康的で血色の良い肌、痩せて骨と皮しかなかったはずの腕に標準的な筋肉がついている。
奇妙なことだが、自分の『身体』ではないことをその一瞬で悟った。
まるで別の人間の身体に自分の精神が乗り移ったようだ。
手を閉じたり開いたり、身体の調子を探っているとドアが開き初老の男性が入ってくる。
初めて辺りの景色を眺めたが明らかに日本ではないことは分かった。
中世というとあまりにも大きなくくりであるので、そういうのは憚られるが、中世ヨーロッパ的な建築であることが分かる。
一般にイメージされるのはロココ調の様式であると思うがどちらかというとそれよりも古い時代のロマネスク様式というのだろうか、石が目立ち無骨で冷たい感じだ。
「お目覚めになりましたか、ロウゼ様」
初老の男はホッとした様子で自分に向かって声をかける。どうやら執事か召使いのようで自分は貴族か何かなのだろう。
日本語ではなかったが理解できた。どうやら自分はロウゼという名前らしい。しかし、ロウゼとしての記憶が全くない。物や言語の知識だけはあるのだが、自分に関係することは何も覚えていない。
しかし馬鹿正直に言うのもまずいと思い、どうしたものかと考える。
ロウゼは彼の声に答えず、深く考えるように黙っていたので心配そうに再び声をかけられる。
「あの、ロウゼ様お身体の方は大丈夫で?」
「あ、ああ身体は大丈夫だ」
さあ、困ったものだ。どうしようか、取り敢えずは記憶が曖昧ということにして様子をみるか。
「何があったんだ……?」
「覚えてらっしゃらないのですか? 旦那様が亡くなられて暫くした後の葬儀の途中にいきなり気絶されたんですよ。ロウゼ様まで、と、屋敷の者たちは大慌てでした」
「それは迷惑をかけたな……実は記憶が無くて何も思い出せないんだ」
「そんな……これは困りましたねえ、一体どうしたことやら」
「色々教えてくれ、それを聞いて何か思い出すかも知れない」
今はこうやって身の回りの情報を集めるしかないだろう。
話を聞くと、彼の名はロラン。そして自分はロウゼ・テルノアール。小さな領地の領主になったらしい。
なった、というのは先日領主である父が他界したので自分が引き継いでいるということらしい。
この世界には人間以外に知性をもった種族がいるらしく悪く言えばそれらを隔離しているための外れ領地であるらしい。
父が武勲で土地を王より賜ったが荒れている土地を押し付けられたという方が正しいようだ。
しかも貴族として最低の地位らしい。
身体は元気になっているはずなのだが頭が痛くなってきた、それをこの世界について右も左も分からない自分が統治しなくてはいけないとは前途多難だ。
やっていけるんだろうか?心配でロウゼは頭を抱える。