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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

なきにしもあらずなその先

作者: 矢光翼

久しぶりに書きました。


(どうしてこうなったんだろう……)

 眼鏡をはずしているせいで時計がぼやけてどれぐらいの時間が経ったのかわからない。一時間なのか十分なのか、それすらも体内時計に任せるしかない。でもその体内時計も正確に働かない。僕は今寝起きだから。


 さっき僕は勉強中に少しだけ横になって、つい寝てしまった。そして起きたら、一緒に勉強していた(みつる)が僕の背中にすり寄って寝ていた。

(背中が温かい……いや、そういう場合じゃなくて)

 なんで? いつから? 様々な疑問が頭の中を駆け回る。

(えっとつまり……今僕と充は、添い寝してるってこと……?)

 俯瞰して僕らの体勢を想像する。

 ……添い寝だ。他に例えようがない。完璧な添い寝。

(そもそもこれは充?)

 できる限り部屋を見まわす。ぼやけていても人の有無ぐらいはわかる。誰も居ないからやっぱりこの背中の温かみは充のものだ。

 残念ながら、今の僕には「まったく充も寝ちゃうなんてしょうがないなぁ」なんて言う余裕はない。それは同じ男子である充と密着して寝ているせいもあるけど、それと同等か、下手すればより大きな問題がある。

 それは充を僕と壁が挟んでいるということだ。

 つまり、充は自らここに入ったということ。確かに今とは反対側に寝ると床に落ちるかもしれない。でも僕は壁側に寄って横になったんだ。それは眼前の広いスペースが物語っている。

(こっちで寝ればいいのに……)

 もはや充が僕の隣で寝ていることに慣れつつある。「わざわざ狭い方に潜り込んで、身を寄せている」ことの方が僕にとっては重い議題だからだ。

(わかるでしょ、そこに入ったらくっつくって……!)

 怒っても仕方がない。でもその行動の真意がつかめない今、どこかに感情をぶつけないと……。

 なぜかひどく高鳴っている心臓の音の意味を理解してしまいそうだった。

 たかが添い寝、ただ距離が近いだけ。でもそんなこと今までの生活で味わったことがない。

(充に、ドキドキしてる……?)

 ドキドキ、としか言えないぐらいの音。

 普段充と接しているときには鳴らない音。

(こういうのは、もっと、こう、恋愛とかでなるものじゃ……)

 恋愛というワードが引っ掛かる。

(わ、やば)

 胸を打つ速度が上がるのが分かる。

(き、聞こえる……!?)

 そうしたらいいのかわからなくてとっさに息を止める。

 こんなに焦っているのに微動だに出来ない矛盾が頭の中を駆け巡る。

 少しだけスピードが緩む。ただろくに息を吸わずに止めたからすぐに限界が来る。

 息をすると、また早くなる。自分の体が熱くなるのを感じる。

(僕は、充にどういう感情を抱いてる? 今、何を考えてる?)

(充はこうなりたくて、わざわざ僕の後ろに?)

(あれ、なんで体勢変えちゃいけないんだっけ)

(起こしたらまずいのかな)

 心音が一気にこの瞬間を考えさせる。考えることが多くてなにも考えられない。

 さっき引っ掛かったワードが一向に過ぎ去らない。

 アクシデントだ、偶然だ、僕に気を遣ったんだ。

(的外れでも何でもいい、とにかく今のこの状況に理由をつけないと)

 第一僕は別に何かをしたわけじゃない。今この状況だって充からの働きかけで、全部が僕の気にしすぎかもしれないんだ。そもそも考えてもみろ。普段の充の姿からこういう行動は想像できるか?

(想像できないから焦ってるんじゃないか!)

 どんどん、思考が散らばっていく。僕がこれからどう動けば正解なのかが一切わからない。

 どれだけ体が熱くなるのを感じたって、背中の温かさはそのままで、きっとこの熱は心が勘違いした幻なんだとわからせてくれる。

 そう思ってから、だんだんと落ち着いてきた。

 (そうだ、何も気づかなかったふりをして起きればいい。ただそれだけでいい)

 そうして何もなかったように接すればいい。それで何かが変わるようならそこで考えて、変わらなければ僕の杞憂だったと息を吐けばいい。そうして僕は……。

 充をわざと起こすように、起き上がった。

 眼鏡をかけて、時計を見る。最後に覚えている時間から一時間経っている。一時間!?

 驚きをうやむやにするために、まだ起きていない充に声をかける。

「ごめん……寝ちゃってた。一時間も……」

 言葉を失った。というか、何も言えなくなった。

 起きていないはずの充と、目が合った。

 それは寝起きの目なんかじゃなく、ずっと僕を見ていたかのような……。

「ごめん。このままじゃいられないかも」

 その充の言葉は、決して穏やかな響きではなかった。

「まずは、話をきかせて」

 酷なことを言ってしまった。けれど僕にはそれを言う権利がある。考えるのはそこからだ。


どうもありがとうございました。

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