仲夏の候
仲夏の候
長い雨がようやく終わり、セミの鳴き声が聞こえ始めた。
大気は熱を思い出し、また私はのどの渇きに悩まされるのだった。
私以外の皆は壮健なのだろうか?
願わくば幸多からん人生を歩んでいてくれていることを願わん。
私はというと、特に何かを成したかというわけではないが、それなりに人生を楽しんでいる。
時に無力な凡人であるという事実は私をひどく傷つけるが、まあそんなものさと許容することにしている。
ただ生きていると面倒なことが多い。そんなことを感じることがよくある。
生きるということが、そもそも面倒なことなので仕方もないのだけれど。
空は高く、青く、日陰にいれば、風が時折吹いて昼寝には持って来いだった。
雨の残り香を空に返しながら、日は昇る。
気が付くと私は木になっていた。
煩わしい一切を断ち切り、ただ生を謳歌していた。
水を求めて根を張り、太陽の光を求めて精一杯葉を茂らせた。
太陽に恋をし、月に嫉妬し、雨を焦がれた。
鳥や虫が幹に穴をあけたりもされたが、まあ、そんなこともありるさと許容した。
今もセミの幼虫が根をチュウチュウと吸っている。
やがてセミは大きくなり、羽化して、木にとまり、生を叫んだ。
仲夏の候
そして、それらを私は見つめていた。
私の腕の中の小さな命は安らかな寝息を立てていた。