一人目
「初めまして、リン(続く名前)です」
「リン・れい、え? なんだって?」
しばらく呆然と見つめ合っていると、茶髪でショートカットの女性がこちらに向かって走って来た。
「愉快くーん! 遅れてごめんね!」
「おばさん!? 一人で行けるって言ったのに!」
おばさんは仕事が忙しく、始業式にはこれないが送るぐらいはすると何を言っても聞かなかった。学校への道はよく通る道だったので一人でも大丈夫なのだ。
「でも今日ぐらいいいじゃない?」
おばさんはそう言って微笑んだ。
「あら? その可愛い女の子は?」
「あなたは愉快君のおばにあたる人ですね? 知ってます!」
少女うれしいそうにそう言った。
「私はリン(名前)です。ーーさて、早速ですが私には帰る家もお金も今日食べるごはんもありません……」
そして少女は上目ずかいでまるで迷子の子猫のような目で俺たちに問いかけた。
「私を光道家の養子として迎えてくれませませんか?」
沈黙……。
(く……! や、やばい……可愛いすぎるだろ……!)
「か、可愛ぃー! いいわよ! 大歓迎よ!!!」
可愛いものなら何でも大好きなおばさんも、全く同じことを感じたようだ。
「ちょっとおばさん! そ、そんな簡単に!?」
「やったー! じゃあ私はユカたんの義理のお姉ちゃんってことで!」
リンは心底うれしそうな笑顔を見せる。
「ゆ、ユカたん!? あとなんで俺が弟?」
「私のほうが1日誕生日が早いからかな。それで名前は、『ユカたん』の方が可愛いし、呼びやすいじゃん!」
これが義理の姉、リンとの出会いである。
そして10年後、なぜかこの恥ずかしい呼び方がすっかり定着してしまい、一向に止めてくれないため、この時しっかり言うべきだったとすごく後悔することになる。