正直者【ショートショート】
あまり実のある内容は書きません。拙作の極みで御座います。お時間に隙間が空いた際などにご覧頂ければ幸いです。
わたしのことですか? あまり話したくはないですけれど、仕方ありませんね。
よく《馬鹿をみる》っていうじゃないですか。だから止めたんです。だって、馬鹿な目に遭いたくないですから。わたし、平和が一番好きなのですよ。
そうです。小学生のとき、忘れ物をしたら《盗まれた》と言いました。中学生のとき、遅刻をしたら《事故に遭った》って言いました。高校のときも、図書室の本が盗まれて話を聞かれました。わたしはもちろん《知らない》って言いました。
大人たちは全て信じてくれました。だからわたしも怒られずに済んだんです。正直者だったら、こうはいかなかったんではありませんか。包み隠さず話すことが良いこととは限らないと思います。場合によっては、正直者でない方が良いこともある。
刑事さんも、ご経験はおありでしょう?
え? わたしが嘘つきですって?
とんでもありません。わたしは《正直者ではない》というだけですよ。特定の場面によって使い分けているだけです。嘘をつくのが好きというわけでもありません。こんなの大なり小なり、全ての人に当てはまるものではありませんか?
……またその質問ですか。大人はしつこいから嫌いです。あら、失礼。言葉が過ぎましたわ。ほら、今みたいに素直なときもあるんですよ、わたし。是非、信じてほしいものですわ。
ああ、肝心の質問ですね。叔父を殺したのはわたしじゃないのか、でしたね。
何度でも申し上げます。わたしではありません。
え? わたしの指紋が出てきた? 目撃者もいらっしゃる? そんなこと知りません。
だって、それが本当だっていう証拠がないじゃないですか。誰かが嘘をついているのかもしれません。みんなが正直者というわけではないのですよ。
そんなことよりも、こんなに正直に話してきたわたしの言葉、信じてはくれないのですか?
宜しければ他の短編、あるいは長編も御座いますのでご清覧下さいませ。