18 魔物
「え……!?」
つい先ほどアカネと会話した少女は、友達の話に驚きの声を上げていた。
「それホント!?」
「多分……。まだ噂話だからホントかは分からないけど……。」
友達も信じられないといった風にひそひそと話す。
「化け物が街中で人を襲うなんて……!」
◇
「可愛いー! これからよろしくね!」
『ピュイッ!』
大樹からそう遠くない場所。アカネは鼠に小鳥の翼とふさふさの長い尻尾を足したような小さな魔物を両手で持って頬ずりをした。
「結局買ったんだ……」
「だって安かったんだもーん」
「所詮一番最初に手に入るスキルだからな……」
「じゃ、早速この辺りのダンジョン行こー!」
「あれ? そのままそいつ連れてくのか?」
「うん。基本は後ろについて来させるけど、よく考えたらコガ兄にくっつけておけば安心かなって」
「ああ、その手があったか」
「……最近俺の荷物が増えて行ってる気がするのは気のせいか?」
測定器やバズーカのように対化け物用の非常装備や、今回の仲魔のようにあまり危険な場所に置きたくない物等。あまり動かない上に力のステータスが高い所為で、以前から戦利品は殆どコガネが持っていたが、アスターも含めて色々なものがコガネの周りに集められていた。
「だったら、私もご一緒させてもらうのです!」
「ちょっ!?」
大人しく見ていたはずのキュアがコガネの横からぴょこんと生える。
「これまで大人しく留守番してただろーが」
「お前が一緒なら私も大丈夫のはずなのです! あと、戦う時は代わりに持っていてあげるのですよ!」
『ピュイー?』
キュアが笑いかけると、アカネの魔物は小鳥のように鳴きながら首を傾げる。
「……しかたないな」
「やったです!」
コガネが折れると、キュアは魔物とハイタッチをするように手を合わせた。
「ところで、この子の名前はなんていうのです?」
「え、えーと……」
「アスターの時みたいにまた後で決めればいいんじゃないのか?」
「でも、これから連れて行くのに名前が無いと不便なのです」
「確かに、こう小さくてあちこち飛び回ってると、名前で呼び寄せる時とか多そうだもんな」
「とっ、とりあえずピュイちゃんで!」
「おー、可愛らしい名前なのです」
「そのまま定着しそうだな……」
「ちゃんとした名前は早めに決めるし!」
「ピュイ、これからよろしくな」
『ピュイ!』
『ギャアギャア!』
少し遠くから魔物が騒ぐ声が聞こえる。
「魔物の群でもいるのか?」
「わっ!」
頭上を掠めるように何匹かの魔物が横切っていく。彼らはこちらに見向きもせず、声のする方へと真っ直ぐ飛んで行った。
「様子がおかしいな……」
空は怪しい曇り空。風もどこかざわついていて、不穏な気配が漂っていた。
「様子を見に行くです?」
キュアがコガネの裾を引っ張って促す。
「そうだな……」
「何あれ……!?」
多数の魔物が何かに群がっている。何かは魔物の陰に隠れて全く見えず、普段集団で何かを襲う事が無い魔物にしては異様な光景だった。
「誰か襲われてるの!?」
「いや待て!」
近付こうとしたアカネの腕をクロが掴んで引き留める。
「測定器が反応している。化け物は近いぞ!」
『グオアア!』
『ギャアッ!』
「わっ!」
中心にいたものが暴れ、何匹かの魔物が吹き飛ばされる。
『ギギ……』
動けるものは再び向かっていったが、向かおうとしながら起き上がれずにもがくものもいた。
「大丈夫?」
アカネが近付いてみれば、鴉のようなその魔物は傷だらけで、大小の傷口は黒く塗りつぶされたように断面が見えなかった。
「これは……!」
『グオオオ!』
「あっ!」
ほとんどの魔物を弾き飛ばしてそれが立ち上がる。様々な生き物を無秩序に混ぜた輪郭。表面は黒くドロリと汚れていたが、少しずつその汚れがしたたり落ち、中から鮮やかな狐色の毛皮がのぞいていた。
「エグジストニードル!」
手負いの化け物は真正面から魔法を食らう。
『グオアッ!』
「あまり効いてない!?」
「下がって!」
コガネ達の前にアカネが飛び出し、突進を受け止める。
『グググ……』
「コイツ……!」
加護の力によってアカネにはほぼダメージが通らず、盾によって化け物の攻撃を完全に受け止めているが、化け物は構わず押し続ける。
「あっ」
黒い盾がピシリと音を立てる。どこかへ受け流そうと僅かに盾を傾けた時、横から黒い塊が化け物に飛びかかった。
『ギャアッ』
化け物の汚らしい黒とは違う、緑や青を含んだ美しい黒。
「さあ、食らうですよ!」
「おい、キュア!」
「離れて!」
おいてあったバズーカを、キュアが魔物に群がられた化け物に向ける。
「おわっ!」
間一髪、アカネの合図で魔物達が避けて、化け物だけに当たる。キュアが反動で少し目を回している他に味方の被害は無く、コガネ達はほっと胸をなでおろした。
『グアアア――!』
化け物は塵のように消えて行く。それを見たキュアがすっと立ち上がって化け物の残骸に近付いて行った。
「キュア?」
「えいっ」
小さな白銀の短剣で何かを突き刺すと、白い光が天に昇って消えて行った。
「何をしたんだ?」
「魔物の核を潰したのです」
「へえー」
「最後まで油断しちゃダメなのですよ」
その時、アカネのスマホが着信を告げる。
「電話が鳴ってるな」
「さっきの戦闘中もちょっと来てたんだよね。あれ? シザからだ」
「珍しいな?」
「もしもーし」
『アカネか! よかった繋がった!』
電話口からシザの慌てた声が聞こえる。
「繋がったって、ちょっと戦闘中だっただけなんだけど……」
『そんな事より大変なんだ!』
「え?」
『フルルが街中で化け物に襲われた!』
「……え?」