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17 黄の大樹

「とうとう黄の大樹まで来たのね」

 あれからキュアへの信頼も多少芽生え、全力で遊んだりダンジョンに挑戦したりしながら緑の大樹で数日間過ごした。

 今コガネ達が目指しているのは黄の大樹。世界を回る旅も半分以上過ぎ、戦いの大樹はこれが最後だ。

「旅に出てから一月近くかー」

「そろそろ旅の終わりも少し見えてきたな」

 まだ見ぬ物が見たいと始めた旅。実際に色々な人と会い、色々な物を見て、色々な事が起きた。

「見えてきたって言っても、まだ黄の大樹に着いたばかりだし、橙と世界樹も残ってるわけだけど、そろそろ今後の事も考えて行きたいよな」

 橙まで辿り着けば、もうほぼ世界一周したような物。赤の大樹へも簡単に帰る事が出来るだろう。

「やっぱり、橙まで行ったら次は一度赤に帰ろうかなあ」

「私は早く世界樹へ行きたいのです!」

「お前の事情は分かってるから、まずは俺達の事情だ」

 キュアが元気よく挙手をして主張したが、コガネがそっとその腕を下ろさせた。

「俺も一度戻った方がいいと思う」

「だよな。じゃあ、全会一致で里帰りか」

「全会一致じゃないのです!」

 キュアの意見はさておき、コガネは何となく不安が降り積もっている気がするのだ。

「これまでは半ば惰性のように続けてきた部分もあるが、不安になる事もあったし、意味深な事を言われる事もあった」

 口には出さないが、実はキュアが主張し続ける意見も不安な事の一つだ。

 倒した化け物の中から現れたキュア。本人曰く、化け物に近付きすぎて呑まれたと言う事だったが、そんな話は他に聞いた事が無いし、キュアもそこまで不注意な性格には見えないのだ。

「改めて話題に出れば、ちょっとはホームシックな気分にもなるし、世界樹へ行く前にしばらく休養を入れて気合を入れ直そう」

「賛成ー」

「うー、仕方ないのです……」

 変わりそうにない総意にキュアは渋々引き下がる。

「アスターも一度里帰りしてみたらどうだ?」

『む? 私は特にホームシックな気分は無いが……。世界樹に向かう時はあらかじめ合流する日を決めておかねばならないな?』

「その事だけど、その時はまたいつかのように歩いて岩山の洞窟まで行けばいいんじゃないかな」

 アスターはアカネの提案に少し驚いたように目を見開いた。

「いつも頑張って貰ってるからさ。たまには労わってやりたいと思ってね」

 突発に始まった話し合いだった割に、意見は思ったよりも初めからまとまっていた。アスターにたまには感謝したいと言う意見は以前にも出ていた話であり、それが今回綺麗に繋がったのだった。

「さて、ちょっと早めにしんみりしちゃったけど、旅はまだまだだ。今回の黄の大樹には素早さ関連の他に魔物使いみたいな変わったスキルなんかが沢山あるって話だし、早速いろいろ見て回ろっか!」

「そうだね!」




 改めて黄の大樹の景色を見渡してみれば、赤や青の大樹とは決定的に違う部分が目に付いた。

「随分魔物が多いね」

 騎獣にはなれないような小さな魔物や、いかにも強そうな迫力のある魔物など、さまざまな種類の魔物が人と共に歩いている。

「魔物を仲間にするスキルぐらいなら赤の大樹にもあったけど、魔物に命令したり、特殊な強化をしたりするスキル、それから、魔物用の装備なんてのは他ではほとんど見なかったもんな」

 辛うじて非好戦的な人が多い紫の大樹や、マニアックなものが大量にあった緑の大樹では多少見かけたが、それ以外ではやりたい人が勝手に魔物使いになる程度で、支援に乏しい職業として、気楽な趣味の要素が強かったように思える。

「あと、なんか変わった格好の人多くない……?」

 割合としてはそこまで多くは無いのだが、よく見るとおおよそ戦いには向かないようなごてごてとした衣装の人などを時々見かける。


「お兄ーさん達、ちょっと変わった魔物を連れてるね!」

 少し下を見れば、兎のような魔物を抱えた少女がキュアを興味深そうに見ていた。

「私は魔物じゃないのです! キュアと言う名前があるのです!」

「キュアって言うんだー。 ゴーレムとか連れてる人はたまに見た事があるけど、こんなに綺麗なお人形さんは初めて見たのー」

 少女はキュアよりも小さいが、並べればどっちが上か分からない。キュアが強く主張する様子を少女はのほほんと眺めている。

『キュイッキュイッ』

「あははー。うさちゃん、キュアちゃんって言うんだってー」

『キュイッ』

「上手く言えてないのですよ!」

 兎のような魔物は長く垂れ下がった耳を揺らしながら鳴く。キュアの名前にニアミスした鳴き声を繰り返し、二人は冗談めかして笑い合っていた。

「あの兎の魔物とか、それが成長した感じの魔物が割と多いな」

「この辺りで最初に出会う魔物の一つかもしれないね。……可愛い魔物いいなあー」

「お姉ーさんもほしいの?」

 アカネが物欲しそうに見ていたのが伝わったのか、少女はアカネにも話しかける。

「この子はねー、私が外へ出て初めてあった魔物なの! いきなり突進してきてちょっとびっくりしたけど、頑張って抱きしめてたら仲間になったんだよー」

「へー」

 しばらくして、少女は友人に呼ばれて去っていった。

「……魔物使いと言うのもちょっといいかもしれない」

「えっ、今更方向転換するの!?」

「仲間にした魔物はアスターに乗せっぱなしになりそうだね」

 少女が去っていった方を見つめながら発せられたアカネの言葉には、冗談と僅かばかりの本気が混ざっているように見えた。

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