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あなたたちの死んだ理由  作者: アイリス
6/10

天使

「しりとりのり!」「利口」

「海!」「魅力」

「クレーム!」「胸」

「ネクタイ!」「色気」

「け、経費」「品性」

「いびき!」「胸囲」

「引力!」「くびれ」

「レパートリー!」「利口」


「はい!2回同じこと言ったー!私のかちー!」

「ふん、甘い縛りだったのだが…

やはり厳しかったな」

「うん?なにが?」

「"テュールに足りないもの"縛りをしていたんだが…」

「………………………」

「さすがだなテュール

お前に足りないものが俺にはあまり思い付かな…

ゴフッ…!?」

「覚悟はいいな?フェンリル」

「悪かった!腹の下は急所なん…ゴフッ…!」

「エリシアみたいな完璧ボディじゃなくて悪かったなあああーーー!!!」


短い間の事ではあるけど

本当に色々と私の頭では理解できない事象が続いている

まず記憶が曖昧で、今まで自分は何をしてきたのか

いったいどのような場所で生まれ、何をしてきたのか

単純にはじめは記憶喪失に始まり

夢のようで多分現実の出来事

親の死

友の死

最愛の人達の死


受け入れられないままに

喋る狼との遭遇

訳の分からない状況のまま 私が何をすべきかを綴られ

無理矢理の納得


世界を滅ぼす悪の組織に進入


そして今

生存率1%を割る特殊ウイルスの摂取を迫られる


本当に頭がどうにかなりそうだ

今すぐ死んでしまったほうが楽と思える

訳が分からない


しかしまあ

本当に訳が分からないのは

私自身なんだろう


納得はしていない

理解も出来ていない


だが心から思う


私がやらなければならない


逃げる、という選択肢を頭に浮かべてみる


すぐに何かにかき消され、前を向いてしまう


諦める、という選択肢を頭に浮かべてみる


同じくかき消され、前を向く


不可能なんだ、と自分に必死に問いかける


何も響きはしない

何も変わりはしない

無駄なんだと

自分ではじめからわかっていた


私は前を向く


『植物人間のまま二人を説得出来る自信は準備できたか?』


こう答える


「そんなん必要ないって

私がウイルスに耐えようが耐えまいが

私のやることは決まってるらしいからさ!


決めた事は曲げないし曲がらないよ」



純粋に心から笑えた


理由が三つ


これは私自身の答えだ

って分かったこと


これは、フェンリルの言う"テュール"か"前の私"の答え

って分かったこと


三つ目は

上の二つ、それを一片の曇りなく感じたこと



先ほどまで私を嘲笑っていたフェンリルの顔付きが変わる



「…テュール……」

混乱の表情

から

不安な表情

から

安堵の表情

から

「………」


「だからはやくやんなよフェンリルー

まさか怖じ気づいたのかな?フェンリル様?

あなた、私のこと好きだもんねー

ホントはフェンリルのほうが怖いんでしょー?」



から

から

ゲスな表情




「………お?」


「さてさておまちかねのウイルスタイムだ!テュール

お前と話せるのがこれで最後と思うと感慨深いものがあるが

そんなにも早く永遠の眠りにつきたいのなら仕方がない

とっとと地獄に落としてやるから覚悟しな!」


「まて!

色々とおかしいぞフェンリル

これは私がウイルスに耐えることを大前提としているんだよな!?」


「意識もないままあの二人を説得するという勇者様がここにいる

それだけで大前提はクリアされているんだ安心しろ」


「違う違う!

まずまて!一旦!」


「さらばテュール!」



フェンリルが右の手のひらを上方向に向けると

紫と白と黒が螺旋状に混ざった光る球体が現れた

その球体をその空間にとどめ 右手で弾く


光る球体は光る粉のように散布され

私の周りを漂う


周りの景色がボヤけ 体の感覚が曖昧になる

苦しみはない

気持ちよさになるのかこれは


次第にボヤける景色の中

確かに聞こえた




「戻ってこいよ」








……………




…………………………………





………………………………………………………………………






………………




「私はミノリ」「俺はケンヤ」

「その理由は…」


「あなたの親であれたこと」

「あなたを愛せたこと」




現れた肖像と幻聴


"そうであってほしい"と


今度は願う私がいて


「僕はロキ

その理由は」


「僕が君を愛したこと」




ごまかせば誤魔化すほどに

真実が真実味をだして


苦しめば苦しむほどに

あなたたちを鮮明に思い出し心に傷跡を作り




「私は理緒、その理由は」

「私はエリシア、その理由は」


「あなたの一番の味方であったこと」

「あなたを愛していること」




大切であるからこそ、私は願い


大切であるからこそ、私は動けなくなる






景色、音

という概念を忘れたしばしの間


聞こえる声と

白い景色に

白いナニカ




「これは前座

分かるもの だけじゃない

もっと深い

大きな穴を

あなたは持ってる」




…!?


声が目の前から聞こえた

立ちすくんでいたその身を起こし

警戒し

声の主である者を見る


絶望の淵で聞いたその声は

天使のように甘く優しい声色で


その姿は

女神のように美しく

神々しく

その真っ白な肌は

触れてしまえば

壊れてしまいそうなほどに透明な


「………あなた…は……?」


目が合った

長く白いまつげに憂いに潤んだ赤い瞳

細くきららかな真っ白く長い髪

言葉を発しようとする唇の

なんと柔らかいことか

触らなくても、見るだけで分かるほどの




「私はあなた自身

終わった心

あなたの心の黒いトコロ

あなたが忘れた本当の存在」


「…え…?」


「そして」


天使の声が囁く

この世の終わりを告げるかのように

重く

重く

のしかけるように




「あなたを食うモノ…

あなたに成り代わるモノ…

あなたの死神…!

あなた自身…!」




声の度量も

表情も何一つ変わらないけれど

明らかに増すプレッシャー


赤の瞳が

狂い笑む




「勝負をしよう


レーヴァテインの所持者よ」


……!?


突如手に冷たい氷でも触っているかのような感覚


なにかをつかんでいる…?


すぐさま感覚のあった手を見ると

真っ黒な刀身と柄に

ところどころに血でもぬったくったかのような

おどろおどろしい刀を持っていた



………離せない…………………




彼女の笑んだ瞳が濁る


見据えたものへの攻撃的プレッシャー


その先はもちろん私




「思い出せ

思い返せ

思い違え

あなたが考える結末ほど

現実は甘く、優しくはない」




白く細い腕の伸ばした先の手に

私と同じ

赤黒い禍々しい刀剣


それを認識した

刹那

彼女は消え


目の前に、

剣を振りかぶる




激しい金属音


止めたのか


あの目にも止まらぬ速度のモノを、

私は

"止められたのか"


体が勝手に動く

まるで何千何万と繰り返したかのように

慣れた動きで止めた刃を受け流し

切っ先で凪ぎ払う


まるで重力などないかのように

彼女の体は飛んだ


払った直後に感触が薄くなったのを覚えてる

私の力の一番入るタイミングで身を引き

受け流し自ら飛んだのだろう


悠々と彼女は着地し

私を見据えた




「………やはり……………………

動体視力でも筋力でも勘でもない

この世界でのあなたは

私よりも強いんだね

……だけど

あなたは忘れている」




何の事かよく分からないけど

確かに言う通り負ける気はしなかった

それは

最初から


速かったが

見えていなかったが

分かっていた


彼女の動き全てを把握できるような全能感が

今私をつつんでいる


そして

多分だが私はそれを実行できる


しかし

忘れている…とは


前の私

それともテュールの…




狂い笑む彼女の瞳

少しだけ濁り

怒りが垣間見える


いつまでも

表情に変わりはない


天使の声は

抑揚のないまんま




「忘れたものに託しはしない

守られたあなたの

都合の良い現実だけを見て出した結論なんて

私は許しはしない」




真に迫る彼女の言葉

嘘なんて微塵も感じられない程の

真っ直ぐな感情を浴びせつけられる


おかしいな


まるで

話した内容の矛盾の揚げ足をとられたかのような


プライドを引き裂かれたように


信じたものをぐしゃぐしゃに踏み潰されたかのように


真摯な彼女の言葉は


私の心を荒ませる




「結論とは私が理緒とエリシアを救うこと?

それともそれ以外?

どちらにせよ、あなたの言う通り私は覚えていないよ

だけどそれは私が悩みに悩み抜いて決めた事なんじゃないの?

あなたに避難される覚えは…」


「悩みに悩み抜いていない今のあなたのたわ言に耳を貸すつもりはない

無駄に空気を振動させるな

存在を示すな

あなたの存在そのものに嫌気がさす」


「………あ?」




頭のどこかで何かが切れた

怒りの感情が溢れ出す


感情と体の赴くままに

体を動かし

彼女に剣を振るう


ぶっ飛ばした彼女との距離はゆうに10メートルを越えているはずなのだが

たったの一歩

足に力をため

踏み出す


その速度たるや異常も異常

テレポートでもしたかのごとく

彼女とすぐさま刀の間合いに入る


目が追い付かなかったのであろう彼女は防御体制を作り

私の剣撃をいなしにいなすが

徐々に追い付かず


隙の出来た彼女の剣を力任せに凪ぎ払う


剣をもつ彼女の右腕が真横に伸びきり

絶好の的と化したが

躊躇い

伸びきって力の入らない彼女の剣をもう一度凪ぎ

剣を飛ばす


体制の崩した彼女の首に目にも止まらぬ速さで

私の持った剣の切っ先を当て


「訂正はしなくていい

私は何も知らないしな

だが私も『はいそうですか』とうなづけるほどに大人ではないらしい

説明はしてもらおう

分からないことだらけで困っていたのでちょうどいい

もし言わなければ…」


「私を殺すがいいよ

そうしたらあなたの願いは叶わない

そして

私の願いが叶う」


………!?


「言ったよ?

私はあなた自身

終わった心

あなたの心の黒いトコロ

あなたが忘れた本当の存在」


ウイルスのことだろう

知ったことではない

ウイルスとはお前だろう

彼女を乗り越え

私は理緒とエリシアを


「………それが…どうした……お前がウイルスだろう

私はお前を倒し…

…………………………!?」


無表情だった彼女の表情が初めて変わる


狂い笑む瞳は変わらず

それが

柔らかな唇にも乗り移る


まるで母親に

もっとなにかをねだるように


それは純粋で無垢に

残酷に






「あのウイルスだったら


もう食べちゃった」



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