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あなたたちの死んだ理由  作者: アイリス
2/10

フェンリル


「起きろ××」


どれほどの時間が立ったろう

あの公園で

二人が居なくなって


「おい」


もう涙も枯れて

生きる意味すら無くなりかけて


でも救えるかもしれないと言ってた


「………」


けど

何をどうすればいい


分からないし


もうそれを願う力すら…




なんだろう

視界が上昇していく

何かに持ち上げられているかのよう


そっか

また世界が変わるのか

今度は誰と




……………あれ

止まった


持ち上げられている感覚は無くなり


地面にうつぶせになっていた私を

立たせるのが目的だったかのような


「おい

こっちを向けテュール」


とても低い

唸るような声がすぐ真後ろで聞こえた


すぐさま振り返ると


「久しぶりだテュール

よく生きてくれていた」


…!?


体高二メートルをゆうに越える

巨大な獣が目に入る


熊!?いや犬!?

違う

狼!

藍色の綺麗な毛並みに

鋭い目付きが目立つ


私が立った目線の先にちょうど大きな牙があって

今にも食べられそうな


まて今 喋った?


「お、お前誰だ!

私は多分だが食っても美味くないよ!」


言葉が通じるのが分かったのであれば

もう少しなにか意志疎通するための言葉があったのであろうが

このときの私はとにかく

食べられないようにすることで頭がいっぱいだった

目の前に大きな牙があるんだ

仕方ないだろ


「なに言ってやがる

もう食ったりしないさ

ひとまず落ち着けテュール」


なだめるような声に変わった

私が怖がっているのが分かってそうしてくれたのだろうか


「あ、ああ」


とりあえずは私を食うために私の前に現れた訳ではないらしい

言われたとおり 落ち着こう

色んなことがありすぎて

訳の分からない状況に馴れてしまってはいるが

そもそもの起きる出来事の特異さが凄まじく

冷静でいられる心の許容範囲をすぐに越えてしまう


まず色々気になることはあるが

ひとつ


「ありがとう

少し落ち着いたよ

けれどテュールとは誰のこと?」


純粋な疑問点

私のことを他の誰かと勘違いしてるのではないか


「だから何を言ってやがるテュール

お前のことに決まっているだろ」


やはりだ

私を他の誰かと勘違いしている

私は自分の名前を思い出すことは出来ないが

少なくともそんな横文字の名前ではないことを知っている


「あの時はすまなかったテュール

私はお前を心から信じていたし

その心に今も嘘はない

だが自分の心の弱さに屈してしまい

お前の右腕を食ってしまったこと

何をしても償いきれまい」


尻尾を丸めてお座りの態勢で

私に頭を下げる 巨大な狼


こんだけ化けものみたいな大きさでも

そこは変わらないのか

中々可愛いじゃないか



…そうじゃない

私は少なくともテュールという者じゃない


「まてまて

私が謝られても困るよ

私はお前の知っているテュールという人間じゃない」


そう言った瞬間

まずった と

この狼は私をテュールだと勘違いしてくれているからこそ食われていないだけで

私がテュールじゃなければ

私を食わない理由なんて…


「…そうか…

そうだったな…

すまない お前の姿を見たら

感極まってしまって


もう一度テュールに会えたのではないかと

錯覚してしまってな」


良かった 大丈夫だった


しかし

狼の本当に残念そうな姿

こんなに大きくともかわいそうになってくる

そのテュールとはこの狼にとって本当に大切な人だったのだろう

言葉を介さなくとも伝わってくる


それにしても


狼の

そうだったな… という言葉の意味は


「その

誰に何を聞いて私に会いに来てくれたんだ?

私の現状をお前は少しは知っているのだろう」


「ああトールとフレイヤ………

いや お前のよく知る人物


理緒とエリシアにだ


お前を 救ってくれ と

お前を 導いてくれ と言われてきた」


!?

なんで


「どういうことだ!

詳しく教えてくれ!

あの二人は今どこにいる!

どうすればあの二人に会えるんだ!

会わせてくれ!頼むよ!

私は

あの二人を救わなければならないんだ!」


首を横に振った狼


「残念だが今はどうにもならん

そんな簡単にいくなら

こんな方法はとらないさ」


言われて

気付いて

うつむく


言うとおりだよ

頭では分かっている

だけどどうしようもないんだ


「あいつらは何も教えてくれなかった

私自身記憶が曖昧で あいつらのことをよく覚えていないんだけど

それでも、私にとってかけがえのない存在だってことは分かるんだ」


そうだ

どんな考えを振り絞り 理論だてようが

情報の少なすぎる私の理論などたかが知れている


この狼は少なくとも私の敵では無さそうだ


私の今のすべてを提示して手伝って貰おうと考えたが

きづくのが遅すぎた

力不足この上ない


どんな完璧な理論も時がたてば情報量の多さと科学の発展により打ち崩される

だが

私の持ち得る感情は

私が忘れなければ崩されることは絶対にない


「私はあなたの名前も分からないし

あなたが望んだテュールという人物でもない

さらに今の現状を何も把握できていないし

私は何をしてこの先どこへ行けばあの二人を救えるのか

その道すら分からない

それでも何もしないなんてことは絶対に出来ないし

あの二人をどうしても助けたいんだ

あの二人が私に託した意味はきっとあるはずなんだ!

だからどうか私に何をすべきかを教えてくれないか?」


あの二人に言われてここに来てくれたんだろう この狼は

だが最初に前提条件を飲んで貰わなければならない

"今の私は役立たず"

であることを


そこに現れた 救いの手

失望させたくはない

逃したくはない

嘘を言うわけにはもっといかない


あの二人は

私が私であったからこそ私の犠牲になった

これから先私は自分を曲げるわけにはいかないし

そして現状のままで足踏みすることも許されない

だからこそ


そんな決意のさなか

何を言っているんだこいつは

と半ば呆れながらに笑う狼


「心配しなくとも

俺はテュール お前の味方だよ

お前が願うのであれば 全てを捨てて世界を敵にして戦うこともいとわないし

お前が言うのであれば

今すぐこの命を絶つことだってはばからん」


「…!」


私の気持ちと意図に気付いて

それをくんでくれた


その上命まで授けると…

いや

「まて

力を貸してくれるのは嬉しいが

命はお前のものだよ

大切にしろ」


「ん?そうか

お前がそういうのであれば大切にしよう」


なんか違うような気がするが

テュールという者との絆が私には想像も出来ないほどに深いのだろう


「あと私はお前の言っているテュールとは違う人物ってことを言ったはずだが…」


「ああ 知っている

そしてそれでいい

お前はテュールの生まれ変わりなのだから」


「!?

まてまて!どういうことだ」


「言葉通りの意味だ

お前はテュールの生まれ変わり

かつてかのオーディンと肩を並べた天空神だ」


銃で撃たれたような衝撃が頭を響かせる

歴史的人物にはさして詳しくはないが

オーディンとはどこかで聞いたことが

某ゲームだとか某漫画程度の浮わついた記憶だが

そしてその者と肩を並べるほどの者の生まれ変わり

「わ、私が!?」


「そうだ

そしてそれはお前に限らない

この時代に他の者達も連立、呼応するように生まれてきた

そしてこの俺もそう

名前を『フェンリル』という

かつて神々に"魔狼"と畏れられ追放された獣だ」


つまり

つまり

なんだ

頭は追い付いていないが

まあ理解はできるようだ


「そして私の目的はオーディンの望む"ラグナロク"

世界の終わりを阻止することだ」

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