君と僕の交換日記
どんよりとした空気が倉本春樹の髪を乱した。
周りより少し低いビルはあらゆる場所から風を巻き込んで小さな台風の様な風を起こしていた。
数年前から誰も入っていなかった屋上の安全の為の鍵は錆びれておりその意味を果たしていなかったのは春樹にとって好都合だった。
「見てくれよ。最期だって言うのに俺はこんな小さなビルで人生を遂げようとしてるんだぜ。所詮その程度だったんだよ。気がちいせぇからな。」
誰が聞いてる訳でもない一人言をつぶやきながらその歩みは少しずつ少しずつ最期へと進んでいた。
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一年前
希望する会社の面接にことごとく落ち途方に暮れていた春樹は学食でバイトまでの間時間をつぶしていた。
春樹の通う大学は最近学食の内容が変わり有名シェフとコラボレーションをして前と比べ格段と上がったと評判だ。
よくわからないカタカナばかりのメニューから選んだパスタは確かに美味しいが今の春樹にとってはそんな事どうでも良かった。
周りの女子達の昨日のドラマの話とか、あの俳優が好きとか嫌いとか、年上の彼氏と最近うまくいってないと、そんな話は今の春樹の耳には鬱陶しい雑音でしかなかった。
「こら、ハル何ぼーっとパスタ食ってんのよ。もっとないの?うめぇな、やっぱ有名なシェフの考えるパスタはちげぇなぁとかさぁ。」
そうやっていきなり春樹に寄りかかってきたのは同じく就活中の三宅拓真だった。
「ん、どーしたの。」
さっきの衝撃で口元に飛んでしまったトマトソースを指ですくいながら拓真を肩ではね除けた。
「どーしたのじゃないよ。ハルずっとそんな調子だろ。俺不安で不安で仕方ねぇんだよ。」
「いや、やめろよ気持ち悪い。くっついてくんじぁねぇよ。」
「俺は好きなんだよハルの事ずっと好きなんだよ。」
拓真はそう言って春樹にまたすり寄ってくる。
そんな様子を見て先ほどの女子達が二人を見てざわついていた。
「お前がそんな風だからいつの間にか変な噂が広がんだよ。」
「へっ何が?」
「お前鈍感だよな。まじで。」
「鈍感なのはハルの方だよこんなにも感情を出してるのにハルはいつだってそれにちゃんと返してくれない!」
周りの目もあったがそんな事気にならないくらい春樹にとって拓真が心の安定剤にもなっていた。
「そういや俺最終面接まで行ったんだ。」
「すげー言ってた会社か?」
「そう、俺が昔から大事にしてた絵本を出版してた所。明後日なんだ。なんか緊張しちゃってさ。柄にもねぇだろ。」
そう言って拓真は下唇をかみながら照れくさそうに笑った。
就職が決まってない春樹にとっては嫌な話をしてくる空気が読めないやつと思うかもしれないが二人の関係はそんなものでは壊れないものだった。
自分の事のように春樹は喜び拓真の頭を突いた。
「頑張れよ!お前ならいけるよ。」
「そう言ってくれると行けそうな気がするよ。」
拓真はわざとらしく胸を張って今度は歯を剥き出しにしてニカッと笑った。
それに対抗するように春樹も同じように笑う。
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