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第6話 中川市とマスコミ

 「五郎、すごいじゃん」


 「ありがとう」


 「何よ。せっかく彼女がほめているんだからもうチョイ良い態度があるんじゃない」


 「そうだな……そういう態度はできない」


 「ひどっ!」


 あれから少し経ち時計の針はすでに11の文字を指したところだ。俺は一連の電話の処理をした後、今日は休むと言って家において休憩をしていた。その休憩しているところに突然玄関のインターホンを押して俺の家にやってきたのが幼馴染で彼女でほぼ俺の嫁確定の愛だったのだ。愛が何をしに来たのかまったく想像もついていなかった俺は素直に今回のことでほめられているのだと気付かなかったのである。


 「っでも、まさか愛が応援してくれとはな意外だよ」


 俺は愛がまさか阿久川について知っているはずがないと思っていたので驚いていた。愛はそもそもついこないだまで中川市から離れた場所で暮らしていたはずだからだ。


 「私だって少しぐらいは気になるもん。そ、その、彼氏のしていることとか……」


 俺はその言葉でものすごく顔が赤くなるような気がした。まるで湯気上がったかのように顔付近の温度が上がっているような気もした。


 「お、おいっ、それ自分で言ってても恥ずかしくないのか」


 俺はついに我慢することができず恥ずかしさを抑えて愛に質問をぶつけてみる。愛は俺の質問が予想外だったのかそれともやはり先ほどの影響なのか顔を赤くして答えた。


 「そ、それはやっぱり恥ずかしいよ。でも、事実だから……いいでしょ」


 最後の部分は開き直っていた。ただ、俺は怒っていたわけではないのでそれ以上は深く追及をするなんてことはしなかった。


 「で、何か用があるのか?」


 俺は愛が家に来た理由を尋ねている。愛は俺がそれを言うとあっと何か忘れていたものを突然思い出すかのようにハッとした顔をした。


 「そうだった。今日は結婚式について話に来たんだよ」


 結婚式。

 その言葉を聞いた瞬間自分でも顔が真っ赤になったのが分かった。未だに自分でもこの状況を理解し切れたわけではない。現実感が帯びていないんだ。


 「け、結婚式か」


 思わず何か言おうとしてみるが動揺を抑えることができない。愛にもそれが伝わってしまっただろうか? 俺はおそるおそる愛を見てみる。愛も顔が真っ赤であった。


 「愛。顔が真っ赤だぞ」


 「う、うるさい」


 その言葉の後気まずい空気がこの場を支配した。何だかんだいっても俺達はやはりこの現実を受け入れることができていないんだなと考えてしまった。でも、このままだとオヤジやお袋にも悪いし早く結婚式の話は進めないといけない。俺はどうにかこの状態を打破し話を進めようとする。


 「と、とにかく話を進めよう」


 「ええ、そうね……」


 その後のことは言うまでもない。オヤジやお袋、愛のお母さんが入ってくるまでは何の話も進まなかった。


 ───────────


 そんなこんながあった前日は終わり翌日。

 俺は事務所へと向かった。

 昨日は休みをもらってしまい悪かったが今日からはしっかりと仕事をしなければならない。俺は決意を新たに事務所がある通りへと足を踏み入れた。そこで信じられないものを見た。


 ザワワワワワワワワワワワ


 「すいませーん」


 「一言でも一言でもいいのでっ!」


 「誰かお願いしますっ!」


 俺は信じられないものを見た。

 そこで俺が見たものはマスコミの人が俺の事務所の前でたかっていたのだ。

 一体どうして? 俺はふと疑問に思う。どうして、マスコミの連中は俺の事務所の前に集まっているのだ。俺にはそれが到底理解できなかった。ただ、今の俺に分かることは自分の事務所に入ることができないこととこのままだと質問の嵐の餌食になることだけだ。マスコミ連中が気付く前にこの場から離れようと思い足の向きを事務所とは逆方向にリターンさせる。


 「あっ! あれは関係者では」


 「質問だあああああ」


 「げっ!」


 どうやらマスコミ連中にバレテしまったらしい。

 俺はすぐさまある行動をとる。マスコミ連中に気付かれたのならばやるべき行動は1つしか存在しない。それは……


 逃げる


 普通に逃げるに決まっているだろう。

 俺は一目散に逃げた。マスコミ連中をまくために道をくねくねと曲がったりして追っ手を撒く。そして、事務所がある通りの1個隣の通りの方へとやってくる。その理由はこっちには一応裏口が存在しているからだ。俺は裏口の方から事務所の中へと入っていく。中にはすでに安住さんや小林さんなど仲間たちが集まっていた。


 「こんにちは」


 「こんにちは」


 「こんにちは」


 俺が挨拶をすると続けて安住さん、小林さんと挨拶をしてくる。他の仲間たちも席に座ってそれぞれが仕事をしていたが俺の顔を見て挨拶をしてくれる。ちなみに、安住さんと小林さん以外の人は実を言うと俺の高校時代の友人である。だから、みんなため口で会話をすることができる。

 いや、そんなことはどうでもいい。俺が今聞きたいことは別のことだ。


 「安住さん、あの、事務所の目の前のあれはどういうことですか?」


 俺はさっそく安住さんに本題の話を聞く。安住さんは小林さんと目を合わせてからどう答えるか悩んだみたいで代わりに小林さんが答えてくれた。


 「実は……どこから情報が漏れたみたいで私たちのことがバレました」


 ばれたってそれはかなりやばいんじゃないか。俺はそう思った。


 「一応連絡はしてみたんですけど上馬新聞の羽田編集長は知らないと言っていました。つまりはその下の者が流出させたと考えるべきです」


 安住さんが小林さんの言葉に付けたしをする。

 俺はその言葉を聞いてうぅーんとうなってしまう。

 おそらく、羽田さんの言葉は嘘ではないだろう。ただ、その下の者が流したということは羽田さんとしても相当ショックであるはずだ。一体何のためにそんなことをしたのか。いや、単純化。報酬が欲しかっただけだ。マスコミに情報を売って金が欲しかったに違いない。だからこんなことを……

 俺はとりあえず頭の中だけでは現状を理解した。冷静ではなかったがどうにか把握はできたと思う。


 「それじゃあ、これからはどうしますか?」


 俺は安住さんや小林さんそれに他のみんなの意見を聞く。このままずっとマスコミに事務所の前にいてもらっても困る。だから、何としても打開策を打ち出さなければならない。


 「そうですね……やはり大川さんが直接話に行けばどうですか?」


 小林さんがそう言う。すると、今まで何も意見を言うことがなかった親友の1人である森太郎がその提案に反論してきた。


 「それはダメですよ! マスコミからの集中砲火に五郎は耐えることはできませんよ」


 「うん。その通りだな」


 「だな」


 他の親友たちも太郎の意見に賛同している。

 あんにゃろお。俺はそう思ったが、反論をすることはなかった。それは俺もその通りだと思ったからだ。俺はマスコミからの集中砲火に耐える自信は一切ない。


 「じゃあ、どうするべきなんだよ」


 俺は親友たちに尋ねてみる。親友たちは俺の質問に対して一瞬凍りついたかのように動かなくなった。

 ……まさか意見がないなんてことはないよな。

 俺はそう思ったがあえて口に出して言うようなことはしなかった。


 「え、えーと。あ、あー、まあ何かあるだろう。うん」


 「そ、そうだな」


 「何人いれば文殊の知恵とか言うしな」


 こいつら。完全に目が他の方向へと踊っていた。俺の方をまともに見ていなかった。


 「こいつら……」


 俺は呆れて憐れんだ目で見てやった。だが、その視線に対して親友たちは反論もすることなく誤魔化すかのように他の仕事を急に始めた。


 「仕事、仕事」


 「あれこの資料はどこだ」


 「もしもし……」


 その動作を見た俺はもうこれはダメだと思い再び安住さんと小林さんの方へと振り向き話を始める。


 「もう、安住さんと小林さんしか頼れる人はいないのですけどどうしましょうか」


 「そうだな。とりあえず私が聞いてこよう。マスコミの中から1人だけに独占権を与えればいいだろ」


 「安住さんに同感です。私もそれがいいと思います」


 安住さんの意見に小林さんが賛同して俺もそれならばと賛同した。他の仕事へと逃げた親友たちもそれでいいと賛成をした。

 俺たち全員が満場一致で賛同すると安住さんは「行ってくる」と言ってたった1人で大勢のマスコミがいる事務所の前の玄関へと向かったのだった。


 ─────────


 それから20分後。

 安住さんが1人の記者を連れて事務所の中へと戻ってきた。


 「それではよろしくお願いします」


 俺はそう言ってお茶を出してもてなしを一応はしておく。


 「ありがとうございます。それでは、私は週刊誌ウェンズデーの記者をやっております風間といいます」


 風間さんが丁寧に自己紹介をしてくれた。それに合わせて俺も軽く自己紹介をしておく。


 「この大川事務所の責任者の大川です。それでさっさく本題に入るのですが、今日のこの騒ぎは何なんですか?」

 

 俺は風間さんにいきなりで悪いと思ったが本題に入らせてもらった。


 「阿久川市長逮捕の件ですよ。すでに逮捕は確定であり今後1か月の間に中川市長選挙が行われるのですがその情報を売った大川氏側からは誰か出馬するのかをインタビューしようとしていたんですよ」


 「それならば今のところその予定はないと他の人にはお願いしておいてください。それにまだ告示もされていませんので判断なんかできません」


 「そうですよね」


 風間さんはそう言って俺が中川市長選挙に出る気はないのかを必死に調査していたが今の俺にはそんな気はないと言ってよい情報がなくて残念ですと言ってそのまま帰っていった。


 ただ、俺はこの時はまだ選挙に出る気など1パーセントもなかったが翌日にはそれを変えるような出来事が起こったのだった───

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