第8話
体育館裏を疾走する巽の姿があった。
彼は、今、2体の悪霊を相手どり戦闘の最中であった。
2体のうち1体に接近し、短刀を降り下ろした。だが致命傷に浅く、悪霊は、後ろに後退する。その瞬間、もう1体が黒いもやを槍のように突きだした。
「ちっ!こいつら、戦術的に動きやがる」
思わず巽は、悪態をつく。
その間にも、自分に向かってくる槍を短刀で受け流していた。
「憑依前の悪霊も、2体の揃うとなかなか厄介だな。」
そんな事を言いつつも、巽はもう一度悪霊に肉薄した。
ザシュ!
肉薄した悪霊から、そのような音が聞こえると同時に、1体の悪霊は、霧が晴れるかのように消滅した。
「よし、残りは1体!」
最後に残った悪霊は、もや全体を槍に巽に襲いかかる。
それの間をくぐるように、巽は、ステップを用いて接近する。
「もらった!」
今度は、確かな手応えをその手に感じる巽であった。その手応え通りに暗いもやは、霧散したのだった。
「ふ~やっと終わったな。」
俺は、額に浮かんだ汗を軽く拭い、通信を入れる。
「状況は終了。恵、そっちは、どうだ」
「こちらには、悪霊による異常はありません。ただ、早乙女さんが、仕切りに脇腹を押さえて、痛がっているので、念のため保健室に連れて行きます」
「雪美さんがか?」
「はい、もしかしたら、何らかなの異常があったのかもしれませんね」
「了解した。俺も今から保健室に行く」
「わかりました。お待ちしています」
俺は、通信を終えると保健室に向かおうとする。
その時、木の上から拍手が聞こえた。
何事かと視線を向けると、一人の青年が座って居た。
「女王の波動を感知して来てみれば、面白い余興に会えて、満足したよ」
青年は、歪んだ笑顔を浮かべながら、言う。
俺は、吠えるように青年に言った。
「何者だ!お前は!」
青年は、さも当然と言うように語る。
「君達の表現で言うなら、僕は、特級の悪霊さ♪」
「なっ!?貴様が特級悪霊だと!」
「そう、僕はウリエラ、女王を探し求める者」
悪霊ウリエラは、俺の前に降りてくる。
その瞬間、銀色の一閃が舞う。
だがウリエラは、何ともないように、その攻撃を指先で止めた。
「危ないな~。これだから、人間は恐いんだよ。」
俺は、顔に憤怒の表情を浮かべ言う。
「貴様らの方が人間に憑依し、危害をくわえているじゃないか」
「それは、意見の相違だね。僕達はただ女王を探し求めているだけだ。その過程で邪魔なものを掃除しながらね。」
ウリエラは、また歪んだ笑顔を浮かべ言う。
「貴様らの行動が掃除だと、そのせいで多くの人が不幸になっても!」
「そう、掃除さ。邪魔なものが無くなれば、女王を見つけやすくなるかね。」
その言葉を聞くやいなか、巽は、また銀の短刀を振るうが、ウリエラは軽く後ろに仰け反り、逃れる。
「君とは戦う意思はないよ。」
再度、短刀を振るうが、ウリエラには届かなかった。
「まぁ今回は、女王がここにいるかもしれないとわかっただけども良かったよ。それじゃ僕は帰るとするよ。じゃねぇ女王のナイト君」
ウリエラは、影の中に溶け込むように、この場を去ったのだった。