第1話
始めに感じたのは、足の少しした痛みだった。
次に感じたのは、ほのかに甘い香りだった。
なんとか無事に少女は、助ける事ができたようだ。
俺の中でほっとした気分になる。
「た、隊長大丈夫ですか!?」
恵が焦ったように通信を入れてくる。
その通信に出ようと思い、通信機に手を伸ばして俺は気付いた。
俺の左手が、何か柔らかいものを掴んでいることに……
その瞬間、殺気に気付き、上体を反らせた。
ヒュン!
俺の前髪が数本散った。
「すいません。誤ってトリガーを引いてしまいました。」
「いやいや、恵さん今のは確実に頭直撃コースでしたよ!?」
「誤射です。」
「あくまで、しらを切るとは恵さん恐ろしい子っ!?」
「……ちっ」
「今、舌打ちしたよねっ!?」
「誤射です。」
「俺、何も言ってないよっ」
そんなやりとりの中、先ほどの少女が目を覚ました。
「うーん、うるさいよ~」
少女は目をパチクリさせながら、周りを見る。
「あれ~家じゃない。ここ何処なの?」
そして、気付く。
自分の前に一人の少年が狼狽えながら、何か叫んでいる事に。
「だから、不可抗力だって言ってるだろう!」とか「確かに誰かと比べたら大きかった」とか色々言っている。
彼女は、状況を確認するべく少年に話し掛けてみた。
「あの~ちょっと」
「ごめん!今取り込み中!」
第一声は、少年の言葉で途切れてしまった。
さらに大きな声で話し掛けようとした時に、ようやく少年がこちらを見てくれた。
「あっ気が付いたんだね?どう体とかは、怠くない?」
「えっあ~ちょっと怠いですけど大丈夫です。」
先ほどの様子とは、うってかわって爽やかな笑顔で少年は、話し掛けてきた。
「そっか良かった」
「良かったって、どう言うことですか?」
「君は覚えてないだろうけど、悪霊に憑依されていたんだよ。」
少年は、さらっと重大な事を言った。
「ということは、私もしかして、憑依暴走したって言うことですか?」
「そういう事になるね」
少年は、さも当然のように頷き、続けて言った。
『僕の名前は、日並=F=巽。君の名前は?』
「私は、早乙女雪美です。」
「早乙女さんね。了解っと」
巽と名乗った少年は、背を向けて、何か通信機のようなものに手を伸ばして連絡をしている。
「恵、輸送班をこっちに回してくれ」
そして、巽は振り返り、こう言ったのだった。
「早乙女さん、悪いんだけど一緒にきてくれるかな?僕達の組織『アマテラス』の研究所に。」