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突き刺さるもの

 生きていれば人との衝突は付き物です。しかし私は弱い。非常に弱いのです。誰からも好きでいて貰いたいと思う。そんな事無理なのに。私は傷付きやすく、弱い。非常に弱い。こんな事では生きていけない。それくらい分かっている。人との喧嘩も衝突も別れも、そんなもの耐えればいいのに、もっと軽く受け止めればいいのに。浅く広く。私は衝撃的に受け止めちゃって、頭の中がぐらぐらふわふわするのです。

 涙さえ出ないのに、ふらふらした頭で必死に考えるのです。そして、もう一人の私は、冷静に、「もう考えるな」と眺めています。世界は封鎖されています。目の前に映る光景は見えていません。世界に存在していません。世界を外側から見ているだけです。私の世界は何かにぐるりと囲まれて、覆われています。

 心ばかりがぎゅうぎゅうとします。目はとろんとしています。指は何をしているかさえわかりません。頭はもっとわかりません。だけど、もう一人の私が言うのです。冷静に言うのです。

「この状況から脱出しなければいけない」

「もっと大人の対応をしなければいけない」

「この手順で、動揺を知られないように、丁寧に対応しろ」

「それで諦めろ」

 それだけ。それだけで終わりにしろ。前に進め。ここで停滞している場合じゃない。そう私に働きかける。頭のどこかにそんな私が居る。

 それでも私は辛いのです。今は動けないのです。今動いたら、ちゃんとした文章を書けません。それは失礼な事です。そうやって逃げている。

 頭ばっかりがぼーっとしちゃって、生ぬるい空気にあてられて、全然実感のないどこかに浮いています。心は苦しい、苦しいと言っています。

 自分が何かわかりません。それでも進めと言われます。「人間であれ」と落ち着けと言われます。


 画面越しの言葉は何が起きたかわからなかった。画面の向こうには機械に触っている人間がいるのは知っている。直接言えば違ったのかな。前に直接言われたのはいつだっけ。もう随分と私は優しい世界に浸かっている。誰も私を傷つけようとしない。腫物の様に、壊れ物の様に、私を慎重に扱う世界。

 私はそこから勝手に飛び出して、世界と繋がった。別の世界と。きっとそこが本物の世界と錯覚した。

 思い出したのは、理不尽な言葉の暴力だ。あの言葉をまた見に行こうか。私は私に向けられる悪意が怖かった。敵意が怖かった。今思えばとてもとても安っぽい悪意だ。画面の向こう側に私の存在を否定する人間がいるのが怖かった。相手が何を考えているのかわからなかった。それも怖かった。私という存在が、相手がそんな行動を取るまでに至らせたと思うと後悔した。その人に見えた私という存在は、相手にどんな影響を与えたのか。どんな悪影響を与えたのか。怖かった。

 今思えば、その人は安い人だった。当たり前だが、真剣ではなかった。暇潰しだった。それでも私は怖かった。安物で安売りのナイフだからって傷つかない訳ではないんです。切れる 事は切れます。刺さる時は刺さります。深くまで抉ります。

 私はもうそんなナイフには負けないと。刺さっても気にしない。すぐに傷を回復させると。くだらない小さな悪意の礫が降っても、そんなの気にしないと。つまりは強くなると願いました。


 それは願っただけで終わりました。強がりだけなら出来ます。昔の様に寝込む事も泣く事もありません。その代りふわふわしています。ふわふわしながら、ただ、頭の整理をする為に物を書く事だけを覚えました。そうやって、きっと本心を抑えています。もう本心がどこにいるかわかりません。この苦しい苦しいと言っているのが本心でしょうか。イヤホンからリピートし続けている音楽も遠くに聞こえたり、時折どこかに行ったりしています。たまに歌詞と心がシンクロします。

 私はどうしたらいいかわからない。何が起きているのかわからない。だからもう、逃げたい。現実から逃げて、全てを放棄して、もうずっと寝ていたい。

 でもそれはダメだと私が言う。もう一人の私が言う。どこかで、多分後頭部の裏ぐらいで、前に進め、行動しろ、と手順を教えてくる。

 それで良いのか、それで良いのか。私には判断出来ない。でももう一人はそれで完璧だと思っている。完璧な大人の対応だとか思っている。それがちゃんと出来るのか。私にそれが出来るのか。今のふわふわした私だぞ。何をしているのかも、よく認識していない私だぞ。そんな私に任せていいのか。仕方ないだろ。他にやるやつはどこにいるんだ。しっかりしろよ。

 覚悟を決めろ。笑えよ。冗談みたいに笑えよ。そんなに一々真剣に傷付いていたら、生きていけないぞ。

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