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《みんな欠けている》

持ってないから、盛ってみた

作者: 白い黒猫

 天は二物を与えずというが、現実は持っているヤツは二物も三物も持っていて、そうでないヤツは一物も持ってないという状況。


 俺なんかは、特別な才能もなく、誰もが羨む整った顔立ちをしている訳でもなく、かといって何かしら欠陥があるわけでもないので、それ相応の幸せな生活を過ごしているだけ。人とより差別化する為に勉強に精出し、少しでも見た目をクールにする為にお洒落には気を遣いシニカルで知的な会話を心がけ、持ってない分盛っているのが現状。


「しかしな、テスト明けのこの日に身体測定をもってくるウチの学校ってどうかとおもうよ!」


 俺の言葉に友人の星野はニコニコとした笑みだけを返す。別にコイツは身体測定が楽しみな訳ではない。寧ろ俺と同じくらい億劫に思っている筈だが、俺と違ってグチグチ言うことはしない。ただ俺の言葉を楽しんでいる表情なのだろう。

 健康診断とは、学校においては嬉しくも何ともない面倒なだけのイベントである。しかも俺の通っている高校ではそれが中間テスト開けにあるからますます億劫なイベントとなる。


「テスト最終日って、生徒が最も憔悴しているタイミングだろ? そこで何を調べるっていうのさ。目だってもう疲れ果てて、ショボショボで霞みまくりだぞ」


 しかも今並んでいるのが、視力検査となるとさらに気持ちも萎えるというもの。身長はこの年齢だけにまだ成長の余地はあるものの視力はもう低下の一途と辿っている。


「まあね~」


 それは眼鏡かけている星野も同様で、困ったように笑う。


「一・八です~」


「やりぃ!」


 そんな事を話していたら、布のパーテーションの向こうからそんな明るい声が聞こえ、俺達はソチラに目を向ける。そして上機嫌な顔で友人の鈴木が出てくる。コイツは俺らとは違って、身長もそれなりにあり、顔はアイドル並によく、しかも頭もよくいつも主席をキープしている。勉強に関してはコイツもかなり努力した結果なのだろうが、顔と身長は持ってうまれた恵まれた素敵な要素。しかも俺が残念な事になっている視力まで良いなんてどんだけ恵まれているんだろうか? と思う。それにしても、良すぎである。


「お前、アフリカ人かよ! 一・八って」


 俺が声をかけると鈴木は此方を見て不敵に笑う。


「いやいや、今日はお前も余裕でいけるって!! 頑張れ!」


 頑張れば視力は上がる訳ではない。しかし鈴木はニッカリと笑い俺にエールを送って検査エリアへと送り出す。俺は溜息をつきながら用紙を検査員に渡し斜眼子(しゃがんし)を持つ。 

 検査員は俺のやる気のない態度なんて気にもしてないようで、ニコニコとポインターを視力検査版に向ける。


「此方、どちらが開いているのか分かりますか?」


 指した所を必死に見るが、微妙にぼやけて曖昧にしか見えない。


「右?」


 俺がなんとなく答えると、検査員は信じられないと言う顔ををする。


「え!?」


 間違えていたらしい。


「……左」


 今更だが訂正してみる。すると検査員はあからさまニコニコし始める。


「ですよね!」


 セーフだったらしい。男は何を考えているのか更に上の小さい切れた輪をさす。先程も怪しかったというのに。

 ジッと見つめるが、ますますどちらが開いているのか分からない。多分上か下。男を見ると口が何かの言葉を訴えている。その唇が示す言葉を俺は口にする。


「上?」


 男は嬉しそうに頷く。その後も男の口は正しい向きを示し続ける。生徒の視力が低下していると何かこの男にとって不都合な事でもあったのだろうか? とも思ったものの、正しい方向を示したときの顔があまりにも無邪気に嬉しそうな事からそういう訳ではないのを察する。そういう天然な人物なようだ。

 お陰で、気が付くと零・六あるかどうかの俺の視力は一・二とかなり盛り気味の数値が検査表に示されてしまった。ついついつまらない所まで盛ってしまった事に俺は溜息をついた。


『アダプティッドチャイルドは荒野を目指す』に出てくる清水くん。

彼も彼なりに悩み、色々頑張っています。


清水くんから薫と星くんはこんな感じに見えています。

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