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辺境の街にて  作者: 山本ヤマネ
最初のお話
4/29

03 街の駅前広場にて

 少し日が傾き始めた街の中、バルトさんを先頭に私達4人は駅前広場へと向かっている。

 さっきは余裕がなくて気づきもしなかったのだけれど、街には結構多くの〈大地人〉があふれている。

 私達が歩くこの道は主要な商店街だったらしく、肉屋、魚屋、八百屋などの食料を販売する店だけでなく、衣料品や雑貨を扱う店や鍛冶屋までもが並んでいる。

 馬車が複数停まっているあの大きめな建物は他の街との交易を行なっている商家だろうか。

 プレイヤー都市であるアキバやミナミ、日本サーバーにおける最大規模の街であるマイハマの都などに比べれば、このテンプルサイドは小さな街なのではあろうが、十分立派なものである。


 ただし、道を歩く〈大地人〉の表情は険しい。広場の騒動の話が伝わっているのだろう。

 人々はバルトさんには心配するような表情、私達には怯えた、または敵意をもったような厳しい表情を向ける。

 まあ、そんな視線を向けられてもヤエはニコニコしながら周りに手を振ったりしているわけだが。

 注目されて嬉しいとかでもなかろうに、相変わらず変なところで図太い。


 現状街の人たちに良い顔をされないのは仕方がない。とりあえず、〈大地人〉から向けられる敵愾心は後回し。駅前広場に待っている問題をどうにかするのが先だ。というか、広場のトラブルがどうにかできれば、関係改善のきっかけになるだろう。

 街でそれなりの地位のあるバルトさんと早々に知り合えたのは私の持つ大きなアドバンテージだ。

 とはいえ広場のトラブルを穏便に解決するのが前提条件なわけで、広場に着くまでに少々情報を整理しておいたほうが良いかもしれない。


 私達が広場を離れていたのは多分2~3時間位だったであろう。

 その間に50人に増えているという事は、街の他の場所をスタート地点としたプレイヤーが集まってきたのか、近場の狩場から戻ってきたプレイヤーが居たのか。

 まあ、私達みたいに集団から離れる選択をする人は例外だろうから、テンプルサイドにいるプレイヤーがほぼ全員広場に集まっていると考えるのが妥当だろう。

 拡張パックが適用される時間は通知されていたから、多くのギルド加入プレイヤーはお祭り気分でギルド本拠地のあるアキバやミナミに集まっていたた筈。となると此処に居るプレイヤーはギルド未加入の初心者が大多数だろうか。

 強制的に巻き込まれたこの状況で、初心者プレイヤー達は何を考えるだろうか?

 広場に集まっているのは少しでも情報を集めるためだろう。いや、心細いという方が先かな。次に考えるのは大人数のベテランプレイヤーが居るであろうアキバへの合流?

 とはいえ、モンスターの出現する可能性のある街の外のゾーン移動は、この世界での戦闘がどのようになっているかが把握できなければ無謀に思える。

 あ、情報収集といえば、フレンド・リストは? 念話機能は使用可能なのだろうか?


「あー、クシが悪巧みモードだ。きっとどうせ作戦組んでも自分でひっくりかえしちゃうのにねえ」


 ヤエが何か言っているが、今は無視。

 なんでそう緊張感がないかな、こいつは。


 片目を閉じてシステムメニューを広げると、フレンド・リストの機能は残っている。ログイン中を示すプレイヤー数は私のリストの中の4割強。とはいえ私の知り合いは〈エルダー・テイル〉重病患者が多いから、この状況に巻き込まれたのは日本サーバー全体からすれば3割程度だろうか。

 念話機能も使えそうだ。


(だけど、知り合いへの連絡は後回しかな)


 思考は中途半端なところで中断となってしまった。

 私達は戦場たる駅前広場へと到着してしまったのである。



 ◆



「だから、すぐにでもアキバに移動すりゃいいんだ !此処に居たって何にもできねえって言ってるんだよ!」


「そんなこと言ったって、此処に居るほぼ半数はレベル30未満の初心者じゃない!もしモンスターに襲われたとき、戦えるかどうかだって判らないし、もし死んでしまっても大聖堂で復活できるのかどうかだって判らないのよ!」


「それじゃあ、どうするってんだ! 此処で座り込んでたって何も変わらないじゃねえか!」


(ああ、なるほど。ある意味予想通りな展開なのね)


 口喧嘩をしているのは、アキバ移動派と、反対派の代表者って所と見えるが、随分とヒートアップしちゃっている。今にも掴みかかって口だけではない喧嘩になってしまいそうだ。

 他のプレイヤーたちは口を挟むことも出来ないのか、不安気にその口喧嘩を見守っている。


「バルトさん、この街に衛兵って居るんでしたっけ?」


「供贄の一族ですか?この街にはおりません。近隣ではアキバ、シブヤあたりの規模がないと、供贄一族は組織されておりません。」


 『衛兵』というのは〈エルダー・テイル〉のゲーム設定においては非戦闘地域を警備するノンプレイヤーキャラクターだ。街中などの非戦闘地域でダメージの発生するような暴力行為などが行われた場合、直ちに加害者の前に転移し捕縛する。

 とはいえこのテンプルサイドの街にはその機能は無いとのことなので、暴力沙汰になってしまった時の抑止力はないということになる。

 まあ、衛兵無双で阿鼻叫喚みたいになるよりかマシかもしれないのだけれど。


「どうしよう? とりあえず、冷静になってもらって代表者たてて、話し合いの場を持つというのが目標で良いですか?」


「可能であれば、そう願います」


 まあ、私にできるのはそこくらいまでだろう。まさか私がこの街のプレイヤー代表というのも烏滸がましい。というか柄じゃない。


「あ、そうだ。ヤエが間に入ってさ、涙目で喧嘩はやめて、二人を止めて! ってのは?」


「ヤダ。却下。クシ古い」


「まあ、ゲーム的にいえば、クシさんがこの広場の中で唯一のレベル90みたいですし、何を話すとしても一番説得力があるんじゃないでしょうか。レベルが高いと偉いとかっていうのが正しいとは思いませんけど、まとめやすいとは思います。もちろんお手伝いはしますけど」


 確かに、広場に集まるプレイヤーのステータスをひと通り見回してみても、一番レベルが高いのが、アキバ移動派で怒鳴ってる〈守護騎士〉(ガーディアン)の彼でレベル52。次が反対派の〈吟遊詩人〉(バード)のお姉さん(とはいえ多分年下)で48。次となるとヤエとユウタさんになる。

 他のプレイヤーはレベル25から35の間で、20代がほとんどだ。


「まあ、しょうがないか。ヤエには期待しないけどユウタさん、何かあったらフォローお願いしますね。バルトさんはちょっとここで待っててください」


「わかりました。任せてしまってすみません」


「ぶ~、クシが困っても助けてあげないんだから!」


「了解いたしました。くれぐれも無理はなさらないで下さい」


 しゃあない。それじゃいっちょ、交渉人としゃれこんでみますか。



 ◆



 いつものように、まるで待ち合わせ場所でまっている友人に声をかける時のように、クシが広場の中央へと歩いて行く。

 現実なんだかゲームなんだかよくわからないこんな状況でも、なんというかクシはクシのまま。本人はそれなりに困ったり悩んだりしてるんだろうけど、外から見ると落ち着いているというか、飄々としているというか、不思議と皆を安心させる雰囲気をもっている。

 まあ、本人に全く自覚はないんだけど。


 「代表者たてて」なんて他人ごとみたいなこと言ってたけど、この状況、どう転んだって、代表者になりそうな人なんてクシ以外にいるわけないと思うんだけど。多分自分ではそれにも気づいてないんだろうな。

 まあ、これくらいの状況なら任せておけば大丈夫だから、ユウタ君、そんな深刻な顔しなくたって良いと思うよ?


「もし、ご両人、まずは落ち着きなされ。周りの方々も怯えておりますぞ」


 トラブっている二人に話しかけたのはそんな時代がかった口調の言葉。多分色々ぐるぐる考えた結果、変な言葉が出てきちゃったんだろう。

 自分でも失敗したと思っているのか顔があっというまに真っ赤になってく。

 まったく「昔の時代劇のDVD鑑賞」ってのが一番の趣味だからって、それはないんじゃない?

 近衛十四郎の殺陣が至高とか言われたってヤエにはさっぱりわからないって。


「え?あれ?どなたですか?プレイヤーの方ですか?」


「んだよ!割り込んできやがって、何処からきやがったんだよ、オマエ!」


「ええと、何処からと言われると街の中からと言うか・・・」


 なんて言いながら頭をかいてるクシ。


「とりあえず2人とも、とりあえず深呼吸でもして周りを見回してみたらどうだろう。そっちで座り込んでるプレイヤーの子達も、遠巻きに見てる街の人たちも怯えちゃってるよ。何をどうするのか決めるにしたって冷静になんなきゃ。何をそんなに揉めてるのかな?」


「NPCが何だってんだよ!後から入ってきて口出すんじゃねえよ!」


「え、いや、彼がここに居るみんなで、今すぐテンプルサイドの街を出てアキバへ向かおうと言うんですが、みんなレベルも高くないですし、街の外の状況も分からないので、私はもう少し様子をみようと提案したんですが・・・」


 〈吟遊詩人〉の子はクシのステータスを確認したのだろう。ちょっとほっとした表情になってる。

 上級者が来たからオマカセしても大丈夫かもってな感じだな、多分。

 ヤエが考えたって、なんにも用意もせずにアキバへ移動なんてお馬鹿さんのすることだと思うんだけど、顔を真っ赤にしているあの守護騎士(ガーディアン)の子は何だか随分余裕が無い。

 まあ、こんなのに巻き込まれちゃったから、冷静ではいられないのは判るんだけど。


「ふうん、私は彼女の言う事に一利あるかなあと私は思うんだけど、君は何でそう急いでアキバへ向かおうと思うんだい?」


「何でも何もアキバへなんか、20分もかからないで着くじゃねえか!アキバは日本の本拠なんだ。こんな所にいるより良いに決まってるじゃねえか!」


「20分か。うーん、それはちょっと安直かもしれないよ?ゲームだった時の〈エルダー・テイル〉ではゲーム内の時間は現実の12倍の速さで進んでたよね。2時間で1日が経ってた。でも、私達が此処に放りこまれてから、多分2時間以上は十分経ってると思うんだけど、日は変わってないよね。ってことは、ここでの移動にかかる時間は乱暴な計算だけど、ゲームの時の12倍かかるってことになるんじゃないかな」


 そうなんだよね、ゲームの感覚ではすぐそこだったシブヤやアキバだけど、この状況だと結構な距離になっちゃう。

 確か吉祥寺から渋谷までの直線距離って10kmちょっとで、秋葉原まではその倍くらいはあったんじゃなかったかな。

 むむ、地球を半分の距離で再現するとかいう〈ハーフガイアプロジェクト〉の設定が反映されているなら、その半分?


「となると君は20分って言ったけど、実際にはヘタをすると、ええっと4時間はかかるわけだよね。太陽の位置を見るにとっくに正午はすぎちゃってるから、今から4時間はかかるとなると途中で日が暮れるかどうかのギリギリかな。ただでさえモンスターに出会っちゃうかもしれない街の外で、なおかつ日暮れの時間とも勝負というのはちょっと厳しすぎやしないかな。おまけに上から見下ろしたゲームの時の視線と違って景色も見渡せない。もしかしたら暗くならなくたって道に迷うかもしれない。別にアキバに向かうというのに反対するわけじゃないんだけど、今すぐってのは考えなおしてみたらどうかな?」


 クシがたたみかける。まあ、正論だとおもうんだけど、彼、完全に頭に血が上がっちゃてるみたいだし、逆効果じゃないかなあ。


「ふざけんな! ぐたぐた屁理屈ばっかりぬかしやがって! お前らは俺の言う事聞いて、さっさと今すぐこんなチンケな街から出てアキバに向かえばいいんだ!オマエもあとから来たくせに文句ばっか言ってんじゃねえよ!」


 ほら、きれちゃってる。今まで強気にでちゃってたから後に引けなくなっちゃってるのかな。

 こりゃ、穏便に説得というのは難しいかもしれないよ。


「んー、随分と乱暴な言い分だけど、どうしてみんなが君の言う事を無条件に聞かなくちゃならないのかな?」


 クシの目が細くなった。あの顔真っ赤っ赤な彼を敵とロックオンしたかも。クシはあれで結構短気だから。

 吟遊詩人(バード)の子はおずおずと引き下がって退場。ユウタ君は緊張した顔で臨戦態勢だ。

 振り返ると、執事さんの顔は真っ青だったり。

 私?私はああいうクシは見慣れてるからねえ。


「俺がこの広場に居た中で一番レベルがたけえんだよ!上のヤツに従うのがこいつらみたいな弱っちいのの義務ってもんだろうが!」


「ふーん、たかがゲームをしていて上がったレベルがそんなに偉いってわけなんだ。レベルが高ければ自分より低い人間は格下? 私はそうは思わないけどな。成程レベルねえ。じゃあ私のレベルは君にも確認できているかな?私のレベルは君より上だったと認識してるんだけど、そうすると私の方が偉いってことになるのかな。どう?」


「?!っ、んだよ、何でこんなところに90のヤツなんているんだよ、畜生! レベル90ったってお前なんて所詮未所属じゃねえか。俺は〈D.D.D〉のメンバーだぞ!てめえらみたいなギルド未所属や、弱小ギルドの奴らとは装備も経験も違うんだ!いいからおとなしく言うこと聞けってんだ!」


 もうめちゃくちゃだ。おまけに今切ったそのカードはよろしくない。

 ほらクシ、悪~い感じの笑顔になっちゃったし、背後に黒いなんかがドロドロみえはじめた。

 うん、ユウタ君もとりあえず、5歩さがってその冷や汗拭こう。


「レベルの次はギルド? その〈D.D.D〉というギルドに君が所属していると何がそんなに偉いのかな?」


「〈D.D.D〉を知らねえのかよ! アキバで一番大きな戦闘系ギルドだぞ!」


「もちろん〈D.D.D〉は知ってるよ。人数も随分多くなったし、大規模戦闘(レイド)をこなした数でいったら日本サーバー内のギルドの中では一番かもしれないね。クラスティ君も頑張ってキルドをまとめてるし、その周りのみんなも頑張って上手くサポートしてるのも私は知ってる。じゃあ、君は?君が〈D.D.D〉のメンバーだというのは聞いた。じゃあ、それで?それが君が強がるどんな理由になるんだい?」


 あ、真っ赤っ赤君が言葉を返せなくなってきた。


「ああ、装備と経験って言ってたっけ。それがあれば言う事を素直に聞いてくれるのかな。それじゃあまずは私の装備を紹介しようか。まずは私の装備している防具だけど、これは〈源氏の鎧〉と〈源氏の篭手〉っていう(幻想級)アイテムだ。某なんとかファンタジーに出てきそうな名前だけど漆のような黒い光沢が結構気に入ってる。状態異常への耐性も高いし、防御力は〈神祇官〉(カンナギ)の装備できるものとしては私の知っている限り最高じゃないかな。篭手の方にはちょっと変わった能力もある。ただ、重くて移動にペナルティが発生するっていう困った設定があって、皆が手を出さなかったから私が入手することができたんだ。ただ私の場合、この〈黒耀の袴〉に移動スピード向上の能力があるから相殺されてるけど。これは(秘宝級)の装備だね。私の今持っている(秘宝級)以上のアイテムはあとはこの神剣だけだったかな。」


 場の雰囲気は絶対零度、正直言って私たちが来たときよりも悪い。

 吟遊詩人(バード)の子は、じりじりと後ろにさがりつつ涙目で逃げ腰だし、遠巻きに様子を伺ってた他のプレイヤーたちも震え上がってる。

 もちろんクシはそんな事には気づいてなくて、ノリノリだし。


「次は経験ね。恥ずかしながら〈エルダー・テイル〉はもう10年もやっているから、私も結構なベテランなんだと思う。本当に自慢にならないなあこれは。歳がばれるじゃないか。実は君の言っていた〈D.D.D〉だけど、私も3ヶ月前まで所属していたんだ。君のことは見たことがないから私が抜けた後加入したのかな?結局〈D.D.D〉には5年くらい所属していたかな。最初はここまで有名なギルドじゃなかったんだけど、こんなに大きくなるなんて当時は思ってもみなかったよ。大規模戦闘(レイド)には初期の頃は大体いつも参加してたと思うんだけど、ごめん、ちょっと数えてはなかったから参加した回数は・・・」


「っわあああああ!!」


 とうとう耐えられなくなった彼が、クシにつかみかかる。

 小さな悲鳴、息を飲む音が周りから漏れる。

 ユウタ君は助けに入ろうと一歩踏み出す。


 そしてクシは動かない。



 ◆



 彼の手はクシには届かなかった。

 当たる直前、見えない壁に当たったかのように手は弾かれて、真っ赤っ赤君はそのまま尻餅をついた。

 一瞬、半透明な五芒星みたいなエフェクトが見えたから、《カンナギ》のダメージ遮断魔法だ。

 まるで某なんとか決戦兵器のなんとかフィールドみたいな。

 いつの間に魔法かけていたのか私も気づかなかった。そういうところは相変わらずそつない。


 何もなかったかのように彼を見下ろして、クシは言葉を続ける。


「一応、スキルの取得状況も説明しておいたほうがいいかな?基本的には全部のスキルは奥伝。これは長くやっていれば誰でも上げられるから自慢にもならないね。秘伝は4つ。これでも私は〈神祇官〉だからね。ダメージ遮断魔法が最優先。それに〈物忌み〉と、もう一つは凶祓い系を選択しているよ。それから・・・」


 顔真っ赤な彼改め、顔真っ青君は尻餅をついたまま、口をぱくぱくして何も言えなくなっちゃってる。

 というかこの広場で状況を見守っていたほぼ全ての人達が怯え顔だったりする。


「あ、〈D.D.D〉の〈突貫黒巫女〉って確か・・・」


 何処からかつぶやいてる声が聞こえたり。

 そだね~、それはクシの2つ名だね~

 怒らせちゃいけないって、一部では結構有名だね~

 とはいえ、ここらへんで止めとかないとヤバイかな。


「はいクシ、すと~っぷ。ほらほら周りを見てみよう。みんなドン引きだよ~」


 と、クシの白衣の袖を引っ張る。


「へ?あ、ああ。ゴメン。脱線しちゃった?」


「脱線というか暴走だし」


 元の表情に戻ったクシが、怯えた表情で自分を見る周りのプレイヤーの表情を見て慌てる。

 ひとしきりわたわたした後、おずおずと話し始めた。


「ええと、私が言いたかったのはだね、今のこの状況じゃあ、きっと誰にも何にも分からないわけで。だからって焦ってヤケになっちゃったり、喧嘩しちゃったりしたら、もっと悪い状況になっちゃうよってことで・・・」


 どう考えても言い訳にしかきこえないよ、クシ。


「ほら、こんなのに巻き込まれちゃったけど、せっかく元は同じゲームをしてた仲間なんだしさ、ここはいっちょみんなでカッコ良くずばっと一致団結して行きたいと思うわけなんですよ。でね、ほら喧嘩も収まったことだし、今後の方針を決めるにあたって話のまとめ役というか進行役というか、そういうのを決めてだね・・・」


 もう自分でも気づいてるくせに、往生際わるいよ、クシ。


「クシ、こんなドン引きな雰囲気作っちゃった責任とって、まとめ役やったら?」


「まあ、この状況じゃそれしか解決方法ないと思いますよ。それにレベルと装備と経験じゃないですが、この世界が〈エルダー・テイル〉のゲーム内なんだとしたら、この中で一番詳しいのって多分、クシさんだと思いますし」


「それじゃ、クシがリーダーってことに賛成な人、拍手~」


 ぱちぱちぱち。


 皆がおずおずと拍手をし始める。

 さっきまでの怯えた感じは消えてきたみたい。

 かわりに餌を運んでくる親鳥を待つ雛鳥みたいな感じになっているような気もしなくもないんだけど。


「ヤ~エ~」


 クシがジト目で私をにらんでる。


「まあ、自業自得だから。ご愁傷さま」



 私は親友の肩をぽんと叩いた。


主にスキル系の記述とかを修正

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