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辺境の街にて  作者: 山本ヤマネ
最初のお話
3/29

02 なんとも豪華な我が屋敷にて

 その後、少し和らいだ雰囲気の中、改めて6人で自己紹介やら、現状確認やらを行った。もちろん皆でソファーに座って。

 執事のバルトさんは「私にも職務に対するプライドがございますので」とか言って口調を変えてはくれなかったけれど。


 そのバルトさんは、実は屋敷の前所有者な貴族と妾との間の子であるとのことで、本人は貴族としての爵位は持たないものの、テンプルサイドの街では結構な顔役なのだそうだ。


「長老会の3人の中でもバルトさんは街の人達から一番好かれてるんです。バルドさんにお願いされて断れる人なんていないんですから!」


 とは、なぜか自慢げなリーネちゃん。

 となると、そのバルトさんを雇用している私の立場はどうなるのだろうか?

 興味本位で購入した屋敷に、なんだかとんでもないオマケが付いてきてしまっている気がする。

 とりあえず、あまり考えないことにしておこう。とりあえずは。


 その年上そうな方のメイドさんことリーネちゃんは街から馬車で1日ほど離れた場所にある農家の6人目の子供で15歳。出稼ぎに来ているだそうだ。

 リーネちゃんのように近隣の農村から街に出てきて屋敷や商家で働くというのは珍しい事ではないらしい。


 ちっちゃい方のメイドさんことユーリちゃんは何かしらの事故で両親を亡くしてしまったらしく、バルトさんがこの屋敷で働けるように手を回したのだそうだ。私がメイドを募集をしたタイミングが良かったとのこと。

 喋りがたどたどしいのも境遇の影響があるのだろう。それでも2年前に比べると随分と変わってきたとの事。


 私達の境遇に関しては、正直説明に困ってしまった。何より私達自身が現状どのような境遇にあるのか理解できていない状態なのだ。


 バルトさんの説明によると、いわゆるゲームであった時のログアウト状態というのは、〈冒険者〉が自分達の住居へと転移していたのだと認識されていたらしいので、とりあえず「多分、私たちを含む全ての〈冒険者〉が本来の住居に転移することができなくなってしまった」のだと言う事にさせてもらった。

 それを聞いてバルトさんは難しい顔をする。さっきまで居た広場には20から30人の冒険者がいた。街全体ではもう少し多い人数になるかもしれない。バルドさんが街の顔役だというのなら、これから発生しうる問題を懸念してしかるべきだろう。

「他の街の人達にもこの事を伝えてもよろしいでしょうか」と聞かれたので問題ないと返す。本当に真面目な人である。


 今までよりもやってもらう仕事が増えてしまうだろうから、といことで給金の値上げを提案したのだが、これは断られてしまった。


「現状でも十分な額をいただいております。無意味に額を上げていただいては他の街の住民との軋轢をを生む可能性がございます」

「住み込みをさせていただいていて、お食事だって出して頂いてます。頂いているお給金の半額を仕送りしても貯金だって沢山増えてるんです。おまけにバルトさんには読み書きまで教わってますし、これ以上頂いてしまったら罰があたります!」

「今でもここで働いてるだけで、羨ましがられる。駄目」


 なのだそうだ。

 思った以上に〈冒険者〉というか私がこの街に与える影響が大きそうなことに冷や汗が流れる。


 リーネちゃんとユーリちゃんの寝泊りする部屋だけは現在のベットだけしかないような狭い部屋から、余りまくっている広めの客室の一つに変更するように指示を出しておいた。

 自分たちには贅沢すぎると反対されたのだが、これは譲ってあげない。


「なんだかクシ、えらそ~だし、大変そうだね~」


 とか横でヤエがニヤニヤしてやがる。

 自分だけ逃げられると思うなよ。巻き込んでやるから覚悟しやがれ。


 とりあえず、私たちも調べたり試したい事が沢山残っているし、バルトさんも連絡を取りたい相手が居るだろう。

 メイドさん達にも部屋の引越しをしてもらわなくてはいけない。

 とりあえず、夕食の時間まで一時解散、ということにしたのだ。



 ◆




 で、私とヤエとユウタさんの〈冒険者〉組は屋敷の庭に集まっている。

 我が屋敷、テニスコートが3つは作れてしまいそうな面積のある庭付きなのである。

 庭の8割ほどは綺麗に整えられた芝生になっていて、その他の部分は池やらちょっとした林やら、さながら大名屋敷ばりの豪華さなのだ。

 おまけに池の水は湧き水で、生活用水にもなっているらしい。

 月に1回は庭師が入って整備もしてくれているらしく、その費用は屋敷の管理費からバルトさんが手配してくれているとの事。なんというセレブリティ。


 で、何で庭に出てきたかというと、私達の〈エルダー・テイル〉の〈冒険者〉としての能力を確認してみようという理由があったりする。スキルや魔法をつかうとなると、屋内は危ないだろう。


「じゃ、ヤエから。ヤエはヤエザクラ。〈ハーフアルヴ〉で46レベルの妖術師(ソーサラー)。スキルは主要な攻撃魔法のうち5つが中伝、あとは初伝。会得はもうないかな。奥伝は〈フロストスピア〉だけだよ。もちろん秘伝はナッシング。装備は杖が(製作級)で、それ以外は(魔法級)」


 〈フロストスピア〉は妖術師のスキルのうちでも効果のバランスが良く人気の高い攻撃魔法。攻撃的で派手好きなヤエにしては随分と堅実なスキル構成な気もするけれど、実際ユウタさんとのペアでの戦闘を考えると行動阻害のバッドステータスの副次効果を持つ〈フロストスピア〉を主軸に据えるというのは悪くない選択だ。

 会得、初伝、中伝、奥伝、秘伝というのはスキルの習得具合を指す言葉で、名前のとおり前から順に能力が高くなる。

 奥伝、秘伝となると、結構まとまった額や取得するのが難しいアイテムを必要とするので、ヤエのレベルでは奥伝がひとつあるだけでも相当に強力だといえる。


「レベル46となると、カバンは取得済?」


「もちろん。ユウタ君も一緒にクエスト受けたよ。基本でしょ」


 カバンとは〈ダザネックの魔法の鞄〉という〈エルダー・テイル〉では基本とも言われるマジック・アイテムの総称だ。サイズ無視で重量200キロまでのアイテムを納めることが出来る。

 45レベルから受けられるクエストで獲得できるメジャーなアイテムなのだが、クエスト自体がどうなってしまっているのか分からない現状では、これを持っているか持っていないかは、これから先の活動において大きな問題になると思ったのだ。


「僕は46レベルの武闘家(モンク)で、サブは〈調剤師〉です。種族は〈人間〉ですね。スキルの習得状況はヤエと同じような状態ですが奥伝はありません。ヘイト操作補助の〈ラフティングタウント〉と、〈ファントムステップ〉、各スタンススキルが中伝です。装備は(魔法級)がほとんどですね。ああ、あと〈エルダー・テイル〉は5年ほど前に1年間プレイ経験ありで、その時は盗剣士(スワッシュバックラー)で最高レベルは70中盤でした」


 ほほう、攻撃はヤエに任せて、あくまでサポート役という訳ですか、こんちくしょう。

 状況に合わせて基本性能を変化させるスタンススキルから優先的に上げていくって言うのもさすがに経験者だけあって中々に面白い選択だ。

 サブの〈調剤師〉も回復職の居ない2人でのプレイであれば回復薬が必要だからという考慮からなのだろう。

 ダメージどっかんな派手好きなヤエとの相性も悪くないかもしれない。ほんとヤエにはもったいない御仁だ。


「私はヤエから聞いてるかもしれませんが、見たとおり〈エルフ〉の神祇官(カンナギ)で、サブは〈料理人〉です。他は・・・」


「クシさんの事は、ヤエが楽しそうに色々と話してくれたので結構詳しく聞いてます。自慢の親友だって。ちょっと妬けちゃうくらいですね。ともあれこんな状況ですし、クシさんみたいな方と一緒というのは頼もしいですよ」


「っ!、ヤエそんな自慢なんてしてないもん!いつも夜ビール呑みながらインしてよく寝落ちするとか、暴走した後思い出しちゃ欝になってめんどくさいとか、本当は身長170cmあるのに168cmとか嘘ついてるのがみみっちいとか、そんな話しかしてないもん!」


「ゴラ、ヤエ!何勝手に人の恥さらしてるか!そこになおれ!綺麗で優しくて思慮深いお姉さんだと訂正しろ!あと、自分が低身長でお子ちゃまな見た目だからって僻んで話つくるな!私は正真正銘168cmだ!」


「ぶ~、ヤエ嘘ついてないもん!お子ちゃまじゃないもん!」


「ははは、とりあえず、それは置いておいてスキル確認を進めましょう」


 またユウタさんにあしらわれた。

 いやこれは違うのだ。ヤエが絡むとなんというかペースが乱されるというか・・・



 ◆



 攻撃系は街中ではまずかろうということで、回復魔法や仲間の能力を向上させる能力付与魔法、ユウタさんはダメージの発生しない攻撃系スキルをそれぞれ試しに発動してみることにした。

 結果から言えば、私たちの所持しているスキルは例外なく発動することができるようだ。


 左目をだけをウィンクのように閉じ、その暗くなった視界の部分にシステムメニューを浮かび上がらせて(私の場合、それが一番効率がいいのだ、ヤエは違うようなのだが)メニューを操作し魔法スキルのアイコンを選択する。

 すると私の口が勝手に呪文を詠唱し始め、左手は勝手に人差し指と中指を立てた状態で胸の前に。

 神祇官専用のエフェクトなのか、その指の間にはいつのまにか半透明なお札のようなものが挟まっている。

 その後それっぽいポーズを体が勝手にとった後、魔法が発動する。

 ここは中途半端に〈エルダー・テイル〉のゲームだった時の仕様が適用された何とも無茶な世界なのだと再認識させられる。


 たしかに〈エルダー・テイル〉がゲームだった時には液晶ディスプレイ上で何度も見たことのある一連の動作なのだが、それを自分の体で実際に行うとなると、なんだか下手な学芸会の演技をしているようで恥ずかしいったらない。

 ヤエはコスプレで慣れているのか、ノリノリで楽しそうだが。

 ユウタさんも「カンフー映画みたいに自分の体が動くので楽しい」そうで、庭を飛び回っている。

 こういうところは落ち着いた印象のあるユウタさんも男の子らしくてちょっとかわいい。わんこみたいだ。


 しかし、このモーションはどうにかならないものか。魔法発動までに時間がかかりすぎるし、何より私の羞恥心が大ピンチである。


 神祇官の魔法の中にも幾つか詠唱時間が長く、その分効力が大きい物があるのだが、その一つを発動させてみたところ、片足でその場でくるりと一回転、足元に八卦図のようなものが展開された後、いつの間にかに現れた札を手に印を結ぶ始末である。

 おまけに何処から聞こえてくるのか、しゃんしゃんという鈴の音のBGM付きだ。何処の魔法少女かと問いたい。

 ヤエ、腹を抱えて笑っちゃいるが、レベルが上がれば覚えるそっちの魔法も多分同じようなものだと思うぞ。


 とりあえず私は、その後の大半の時間を私は魔法発動の簡略化の試行錯誤に費やしたのだ。死活問題なのである。



「ヤエ、攻撃魔法も撃ってみたい!モンスターが居なくても標的さえあればイケルと思うの。ちょっと街の外出てみない?」


 ひとしきりスキルの確認を行った後、ヤエが上目遣いで首を傾げて私を見て言う。人を厄介ごとに巻き込む時にいつも使う表情だ。自分の長所を最大限に生かしたなんともズルイ攻撃である。何度これに騙されたことか。

 上位攻撃になると、これに涙目オプションがついてくる。


 とはいえ、今回の提案はさほど突拍子もない内容ではないし、いつまでも屋敷の中に篭っているわけにもいかない。

 ゲームの設定のままであればという条件であればテンプルサイドの街の周辺から離れなければ、さほど危険なモンスターも出現しなかったはずだ。

 今まで確認した内容からすると、〈エルダー・テイル〉の仕様というのがこの世界では少なくない範囲に影響を与えているようだし、街を出たとたんレベル90のレイドモンスターに襲われるということもないだろう。そんなであれば、そもそも〈大地人〉の人達の生活が成り立たないはずである。


 それじゃいっちょ、行ってみますか、と思ったその矢先、執事のバルトさんに声をかけられた。



 ◆



「街の入り口の広場に〈冒険者〉の方々が50人ほど集まっているのですが、先程から言い合いが激しくなっており、街の者達がおびえているようなのです。私が街を代表してお話を伺いに行くことになったのですが、もし可能であればクシ様にもご同行を願えないでしょうか」


 バルトさんは深刻な表情だ。もしかしたら既に〈冒険者〉の知り合いというか雇用主がいるからということで、白羽の矢が立ってしまったのかもしれない。いや、街の顔役と言っていたからバルトさん自信が名乗り出たのかも。そのほうがこの真面目な執事さんらしいか。


「ああ、なるほど。エタイの知れない集団がピリピリした雰囲気作って広場占有してちゃそりゃ迷惑ですね。身内? が迷惑をかけてしまって申し訳ありません。私に何ができるかは分かりませんが、仲介役と最悪の場合の護衛くらいはしましょう」


「ありがとうございます。(あるじ)であるクシ様にこのようなお願いなど、真に失礼であるとは自認しているのですが、他にたよる相手が居ない状況でして。交渉に失敗して〈冒険者〉の方々に敵意をもたれてしまっては私の首だけでは済まないので・・・」


 バルトさんに今までで一番深く頭を下げられてしまった。

 いやいやそんな事なさらなくってもこっちが迷惑かけているわけで。

 私達も他に〈冒険者〉が居ることを知っていたのに放置して、この屋敷に逃げ込んできちゃったわけだし、ちょっとは冷静にもなったんだから、ここらで少しは挽回もしておかないと格好悪い。


「というわけなんだけど、ヤエとユウタさんはどうする?」


「クシ一人じゃ心細いだろうから、付いていってあげよう。感謝しても良いよ?」


「まあ、ここで待っている理由はないですね。他のプレイヤーの様子も気になりますし」


「ありがとです。ほいじゃいっちょ暴動鎮圧といきますか!」


「おー!」


「・・・くれぐれも穏便にお願いいたします」


 きっと私一人ではこんなに早くこんな気持ちでは動き出せなかったに違いない。

 きっと一人でこんな世界に投げ出されていたら私も広場でパニックになっている〈冒険者〉の一人だったはずだ。

 ヤエが居て、ユウタさんが居て、バルトさんやリーネちゃんやユーリちゃんに出会えて。私はすごく恵まれている。


 「気をつけてくださいね!」と言って手をぎゅっと握り締めて送り出してくれたリーネちゃんと、その後ろに隠れて、でもじっと見つめて頷いてくれたユーリちゃんを見て、私はそう思ったのだ。


ログ・ホライズン資料集の内容を参考に、スキル周りの記述を修正

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