18 古宮廷近くの森にて(其の4)
ご都合主義とか中二病とか俺TUEEEとか、その他いろいろ警報発令。
あと、神祇官は回復職です。
こんな攻撃的な職業じゃないよまちがってるよ!と私も思います。
正面から斬りかかる〈武士〉が振り下ろす太刀の一撃を逆転身の体捌きで躱し、カウンター気味の一撃を返す。
しかし直後、金属同士が大きな力でぶつかり合うような音が私の鼓膜に響く。それは、間髪いれずに襲いかかってきた〈武闘家〉の拳を覆う鉄甲が、私の張った障壁を殴りつける音。
私のダメージ遮断魔法、〈禊ぎの障壁〉によってダメージ自体はないものの、その衝撃によって私の身体は後ろにのけぞる。
「いい加減にくたばれ! 〈ヴァイパー・ストラッシュ〉!!」
体勢を崩した私に、隙を窺っていたであろう〈盗剣士〉が、ここぞとばかりに襲いかかる。
「させるかよ! 〈シールド・スマッシュ〉!」
しかし、その攻撃は左手に持つ盾でそのまま殴りつけるようなダル太の攻撃によってそらされる。
「でかした! でもって、食せ五黄土星 (ごおうどせい)! 〈大禍の神呪〉マガツヒ!!」
ダル太の作ってくれた数秒を使って、私は命中力低下の付加効果を乗せた剣戟を〈盗剣士〉に叩きこむ。その一撃を受けてよろめき、〈盗剣士〉は後ろに数歩下がるのだが、他のPKたちが素早く体勢を整えて退路を塞ぐ。
私の体を覆っている〈禊ぎの障壁〉は、まだその姿を留めてはいるものの、もってあと1、2発程度。ダル太の方も同じようなものだろう。一度距離を置いて態勢を整えたい所ではあるのだけれど、相手もそう簡単には隙を見せてはくれない。さすがにこれだけ長い時間戦っている為か、バラバラだった前衛3人の動きに連携がみられるようになり、最初のように簡単にはインターバルをとらせてはくれないのだ。
自慢ではないが〈幻想級〉の防具を装備している私の防御力は回復職としては結構高い方で、ゲームの時であればここまで障壁の維持に拘る必要はなかったのだけれど、色々と勝手の違うこの世界の戦闘ではゲームだった頃と同じように考えるのは危険だ。
今のこの状況で言うと問題になってくるのは、相手に〈盗剣士〉が居るということ。〈盗剣士〉の売りといえば両手に持つ武器を用いた連撃と、広範囲攻撃、そして様々な状態異常効果付きの剣戟。この状態異常効果というのが曲者なのだ。
現在私がこの不利な戦力差の中でどうにかやりあうことが出来ているのは、時代劇の殺陣を参考にした体捌きや、ユウタさんを見習った格闘ゲームを模倣した格闘技の動きなんていう、ゲームだった時には無かった要素のお陰。要するに、この冒険者のハイスペックな体の性能をフルに使えているかどうかという所で、戦力差を埋めている状態だ。
しかし、ここに移動力低下などの状態異常効果をもたらす〈盗剣士〉のスキル、たとえば〈ブラッディ・ピアッシング〉なんかをもらってしまうとそのアドバンテージが一気に消滅してしまう。そうなってしまえばどうにか均衡を保っていたこの戦況は一機に押し込まれてしまう可能性が高いのだ。
「ボス、もう何分くらい経ったッスかね、気分的にはもう1時間くらい戦いっぱなしって気分なんスけど・・・」
敵に囲まれ、お互いの背後をかばうように背合わせな状態で、ダル太がそう呟く。
その息は荒く、額には大粒の汗をかき、肩で息をするような状態。しかしそれも仕方がないだろう。何せダル太以外は全員がレベル90近いなんて状態の戦闘にここまで食らいついてきているのだ。
「大体10分ってとこかなあ。まあ、そういう意味ではもう私たちの勝ちって感じなんだけどね」
そう、この戦闘はもう10分は続いている。この時点で私たちの役目は既に終わっていると言ってもいい状態だ。ミヅホさん達はもう衛兵の控える安全地帯、〈エターナルアイスの古宮廷〉の影響範囲に差し掛かる頃だし、百眼君と〈大地人〉の人たちもある程度安全な距離は稼げただろう。ヤエの所だけが不確定要素ではあるのだけれど、あれは普段は腹黒ロリで我侭でごうつくばりでおまけに腹黒だけど、やると言った事はやるやつなのだ。おまけにユウタさんもついているのだから心配する要因はない。
であればもしここで今、私たち2人が殺されたとしても、荷物や荷馬車の積荷を漁るであれ他の仲間を追うのであれ、そこから10分以上の時間がかかるのは必至。その頃には〈D.D.D〉の救援が到着してPK共は一網打尽とそういう訳なのだ。
あとはちょっと悔しくはあるけれど、大神殿経由でみんなより一足お先にアキバの街にたどり着き、到着を待っていれば良いとかっていうのが最初に立てた私の計算。ただ、私の計算を越えたのがこのダル太の活躍なのだ。
そのダル太の奮闘もあって、比較的無理なく障壁を維持し続けることが出来た結果、私たちのHPはいまだに全快状態、MPの残量も私が3割でダル太が2割といったところ。2人でぎりぎりどうにか10分が稼げるかと考えていた事前の予測に比べると雲泥の差だ。
「って訳でさ、ダル太のお陰でひとつバクチ打つくらいの余裕は残ったんだけど。って、こんにゃろちくしょう。で、ダル太はどうしたい?」
そうする間にもPKたちは攻撃を仕掛けてくる。殴りかかってきた〈武闘家〉の攻撃を交わし、その胴に膝をいれつつ会話を続ける。
「どんな訳だかもオレのお陰ってのも良くわかんないんっすけど! ぐ、痛ってえ!! で、おまけにどうするってなんッスか?」
ダル太も斬りかかってきた〈武士〉の刀を盾で受け止める。その盾ではダメージを全ては相殺できなかったのだろう。私の掛けた障壁が、まるでガラスが割れたかのようなエフェクトを残して四散する。
ダル太の盾で刀が弾かれた事によって一瞬攻撃が止まった隙を狙って、私は〈武士〉に対してショルダータックル気味に体をぶつけて相手の体を吹き飛ばす。ユウタさん直伝の確か〈鉄山靠〉とかいう名前の中国拳法の技だ。
「っともひとつ〈禊ぎの障壁〉! あ、ごめん。いやね、このままズルズルと時間稼ぎして〈D.D.D〉の救援が間に合うかに賭けるか、だいぶ勝率低いんだけど勝負に出るかってそんな感じなんだけどさって、〈霊縛り〉!!」
出来た数秒の空白でダル太に障壁をかけつつ、後ろから忍び寄ってきた〈盗剣士〉の動きを〈霊縛り〉で封じる。
これでやっとで退路が出来る。私たちは動きを止めた〈盗剣士〉の脇を抜けて、PKたちの包囲を脱する。
「と、そういう訳なんだけれど。まあ簡単にいえば逃げるか戦うか、どっちにする? ってことかな」
「なら戦うッス。ここまで来て逃げるとか無いッスから」
私の質問に対して、間髪いれずダル太の答えが返ってくる。
それは決して大きなものではなかったのだけれど、すごく力が籠った、そんな声で。
「よく言った男の子! 分の悪い賭けってのは得意じゃないんだけどさ、じゃあいっちょやってみよか・・・」
その声につられて私の体にも力が湧いてくるような、そんな感覚が私の体に駆け巡る。
「ダル太、10秒。合図出したら10秒私に頂戴」
だから私も覚悟を決める。ゲームだった頃にも殆ど使った事のない魔法を起動するアイコンを頭の中で探り、タイミングを見計らう。
再び襲いかかってくるPKたち。私達との距離が一歩また一歩と縮んでいく。
しかしまだだ、もう少し、あと少し。
「ダル太、今!!」
「っしゃ! 食らえ、〈アンカー・ハウル〉! 続けて〈キャッスル・オブ・ストーン〉!!」
後半は使用を控えていたタウンテイングスキルの不意打ちを受けて、PKたちの攻撃がダル太に集中する。
そして、ダル太の行動と同時に私もスキルを発動する。
片足でその場でくるりと場を清めるかのように舞い、その動きに連動して足元には八卦図が展開される。
何処から聞こえるのか、錫杖の遊環がぶつかりあうような金属音が鳴り響く。私の体は両手で九字の印を切りつつ、口は呪文を唱える。
「行け!〈竹葉荒籠の呪詛〉!!」
そして、その呪文を唱え終えた途端、足元の八卦図が籠目文様に書き代わり、それがまるで蛇のように地を這いうねり、PKプレイヤー達に絡みついていく。
〈竹葉荒籠の呪詛〉はレベル90でなおかつ特別なクエストをクリアすることによって覚える事の出来る〈神祇官〉唯一の範囲攻撃魔法。術者を中心とした範囲内の敵を縛り上げて動きを止めることに加えて、生命力を絞り取るなんていう、どう考えても神祇官よりも〈妖術師〉とかに似合いそうな効果の魔法なのだけれど、入手自体が困難な事に加えて、発動までの時間が長すぎて使い辛いという理由で私自身も殆ど使った事がなかったり。おまけに「術者本人も呪詛の反動で苦痛を受け、残りHPの半分を失う」なんていうおまけも付いてくるあたり、ゲームだった時には完全にネタ魔法だったのだ。
フレーバーテキスト通りに律儀にも私の体を駆け巡る激痛をこらえて、私は走る。標的は一番HPも防御力も低い〈盗剣士〉。攻撃の中心となっているこいつさえ倒せれば、次の手はまだ打てるのだ。
「集え、九紫火星! 〈顕火の神呪〉カグツチ!」
残りMPは少ないが出し惜しみはしない。呪詛に絡め取られて身動きができない〈盗剣士〉に対して、私は炎を纏わせた太刀の一撃を見舞う。
「あと一撃! ダル太、とどめ!!」
「イエス・マム! いくぜ、クロス・スラッ・・・うぉ!!」
ダル太が〈盗剣士〉に斬りかかろうとしたその瞬間、足元から伸びたツタがダル太の足に絡みつき、その動きを阻害する。〈森呪遣い〉 の移動阻害魔法、〈友なる柳〉。慌てて振り向けば、いままで必要以上に距離を取り、回復魔法を掛けるだけだった敵の〈森呪遣い〉がいつの間にかに近寄り、次の魔法の詠唱を始めようとしている。
〈森呪遣い〉はMP効率こそ悪いものの、瞬間的には回復職3種の中で一番の回復能力を持っている。ここで全体回復魔法を掛けられてしまえば、今与えたダメージも全て回復されてしまう。そうなればもうMPの残量が少ない私たちの勝ち目はない。
(せめてもう一撃、間に合え!)
スキル行使後の硬直時間が解けた体を急かし、次の一撃を放とうとしたその時、まるで太陽が厚い雲に遮られたかのように、大きな影が私達を覆ったのだ。
◆
「な、なんだこいつは!」
「〈平翅蟲〉。なんでこんな所に・・・」
不意に森の中から飛び出してきたそれは、細長く平たい体を持つ巨大な蜻蛉のようなモンスター。その出現に私を含めたこの場の全員が一瞬言葉を失い、動きを止める。
〈平翅蟲〉は周囲を窺うかのようにその巨体をぐるりと一回転させると、次の瞬間、敵〈盗剣士〉に向かって押しつぶそうとでもいうような勢いで、襲いかかる。
「行っけえ、ゾゾ君! そいつをぺちゃんこにするです!!」
それと同時に響いたのは聞き覚えのある少女の声。百眼君と一緒に〈大地人〉を守ってこの場を離れた筈の双子の声だ。
「ぐおおおぉぉ!!」
その場から身動きの取れない〈盗剣士〉は頭の上に双剣をクロスに構え、巨大な羽蟲の体当たりを受け止める。
いくら見た目的に巨大だとはいえ、〈平翅蟲〉はレベル20ちょっとの〈従者召喚〉モンスター。この接触でHPを超えるダメージを受けたのか、その大きな姿を一瞬輝せた後、光の粒に分解されてゆらめき消えていく。
「まだです! もひとつ行きます! 〈兜割り〉!!」
しかし、それだけでは終わらなかった。〈平翅蟲〉の消えかかった背を蹴り、消滅エフェクトの中から飛び出したのは一人の〈武士〉の少年。その少年、百眼君は左の脇に〈召喚術師〉のミダリーちゃんを抱えたまま、片手で刀を振り下ろす。
「そしてやっぱり真打ちは私なのです! これでおさらばなのです! 〈絶命の一閃〉おぉ!!」
そしてもう一人、百眼君の背後に隠れていたのだろうか、双子の片割れの〈暗殺者〉、ヒギーちゃんが百眼君の肩を蹴って宙に舞い、一回転の後に〈盗剣士〉の背中へと短剣の一撃をねじ込む。
彼女の言葉とおり、その一撃がとどめとなったのだろう。〈盗剣士〉は驚愕の表情をその顔に浮かべたまま、その場に崩れ落ちる。
「私じゃちょっとかもしれないですけど、回復しますから! 〈ハートビート・ヒーリング〉!」
不意に聞こえた声に振り向くと、そこには〈狐尾族〉の少女の姿。百眼君チームの〈森呪遣い〉、スイレンさんだ。
体の中に何か温かいものが流れ込む感覚。それが強い鼓動となって〈竹葉荒籠の呪詛〉の反動で半減していた私のHPが回復してく。
「えっ? 百眼君たちがなんで此処に!?」
「勝手な事をしてしまってごめんなさい。でも、まずは残りのこいつらを!」
一瞬呆然としてしまった私を、百眼君の声が一喝する。
その言葉で再起動した私の頭は、一気に変わってしまったこの展開を把握するために高速に思考を展開する。
「えっと、まずはみんな私の後ろに! でもってミダリーちゃんは召喚・・・」
しかしその思考は再度、新たな展開によって遮られてしまう。
「一斉掃射いきます! 目標は敵、〈森呪遣い〉!!」
「赤信号、みんなで渡れば怖くない、ってね! 一撃離脱だ、当たっても外れても深追いはなしだよ!!」
それは、もう〈エターナルアイスの古宮廷〉に離脱した筈のミヅホさんとアマネさんの声。
ミヅホさんの号令と共に、森の中から弓や投擲武器、それに魔法の攻撃が〈森呪遣い〉に集中する。
そして、不意をつかれてそれを避ける事ができなかった〈森呪遣い〉に、アマネさん達、近接攻撃職の仲間達が一気に襲いかかる。
〈妖術師〉よりはましとはいえ、〈森呪遣い〉は回復職の中では一番防具の装備制限が厳しく、打たれ弱いといわれている職業。ミヅホさんたちの遠距離攻撃に加えて、アマネさんたちの渾身のスキルの連打を受けては耐えられる筈もなく、がくりと膝をおとす。
「ちっ 雑魚が調子に乗りやがって! 蹴散らしてやる!!」
それに最初に反応したのは、私のかけた〈竹葉荒籠の呪詛〉の効果時間が終了したことにより、束縛から逃れた敵の〈武闘家〉。
移動速度が上がるスキルを使ったのだろうか、彼は憤怒の表情で、そして恐ろしいスピードでその場を離脱しようとしているアマネさんたちに襲いかかる。
「冥府の底より湧き上がる憎悪の炎よ・・・」
しかしその時、少し幼いような声色の、けれど内容はおどろおどろしい呪文が、森の中から響く。
森の中から、ユウタ君に抱きかかえられて現れたその声の主は、その手に持つ杖を、アマネさんたちに肉薄する〈武闘家〉に標準する。
「我が仮初の身体に纏わり付くこの痛みを介し、その醜き姿を晒せ! 怨念ドロドロ、〈デモンズ・ペイン〉!!」
その詠唱の終了と共に、〈武闘家〉の足元から赤黒いねばるような炎の柱がたちあがり、〈武闘家〉の姿を一瞬にして呑みこむ。
「ぐ、ぐわあぁ!!!」
そして、その炎は〈武闘家〉のあげた絶叫さえも焼きつくし、焼け焦げた地面だけを残して、禍々しい姿を消したのだ。
◆
「畜生! なんでこうなる?! なんで俺達がこんな雑魚どもに!!」
最後に残った〈武士〉が半狂乱といった顔で叫び、私を睨む。人数が多いとはいえ、相手は私以外はレベル60にも満たない初心者プレイヤーの一団。今まで通り一方的な蹂躙で終わる筈が、今となっては自分の命さえも風前の灯という現実を受け入れられないといった所だろうか。
「んー、勇気と努力と根性。最後に正義は勝つってやつかな?」
まあ、私自身もここまでの展開は全く予想していなかったのだから、その気持ちは分からないでもないけれど、だからって同情する理由にはならない。私はわざと挑発するような言葉を投げかけて、太刀を正眼、剣先を相手の目に向けた中段に構える。
「ふざけんな!!」
怒声と共に地を蹴り、〈武士〉が斬りかかる。一直線に私の胸を貫こうかというような突きの攻撃。しかしそれは、私の眼には悲しいほどスローモーションに映る。
円を描く動きで、相手の剣先を自分の太刀で絡めるように。そして、上へと弾き出す。
刀が〈武士〉の手を離れ、空へと舞う。
私は呆然とする〈武士〉との間合いを一気に詰め、その首に太刀を突き付ける。
「畜生、なんだよ今のは、このバケモノが! お前さえ、お前さえいなけりゃ!!」
青ざめた顔で声を上げるPKに対して、威嚇の意味も込めて私は微笑みかける。
「じゃあまた。アキバの街で会いましょう?」
ずしりと鈍い感触。そして刃物が物を穿つ音。
私が首をそのまま突き貫いたその音と、空へと弾き出された〈武士〉の刀が地面に突き刺さる音は、ほぼ同時に響いた。
刀に反射する光。見上げればそこには初夏の太陽が天頂に輝いている。
眩しさにかざした手の先には、こちらに近づく翼を広げた四足獣の影が3つ。それを視認した直後に、私の耳元で念話の着信を示す鈴の音が響く。
『先輩、今到着しました。戦況を!』
続いて耳に届いたのは、昔からの後輩にして今では日本サーバー随一の戦闘系ギルド〈D.D.D〉の幹部様であるところの高山三佐こと山ちゃんの声。その声に緊張で力の入っていた私の体から、ふっと力が抜けていく。
『あー山ちゃんが来たのか、ありがと。でも今丁度どーにか終わったところでさ』
『え!? でもダルタスの報告では、レベル80越えのフルパーティーが相手だと・・・』
『いやまあ、そうだったんだけどさ、なんていうか勇気と努力と根性?』
『なんですかそれは! そんな物で道理が覆るようなら誰も苦労はしませんよ先輩!! 今下りていきますから、詳しい話を・・・』
急に大きくなった山ちゃんの声に、思わず耳を塞いで念話を切ってしまう。ぐう、なんでそんな急に不機嫌になるのだ山ちゃん。しかしこんな念話の切りかたをしてしまうと、後での小言がまた長くなってしまう。
余程疲れたのだろう、見渡せばすぐ横にはへたりと座り込むダル太の姿。それに走り寄ってくる百眼君やミヅホさんたち。
その奥にはユウタさんに抱きかかえられたままのヤエの姿や、〈鷲獅子〉から降り立ってこちらに向かってくる馴染みの〈D.D.D〉の面々の顔も見える。
そして、少し離れた私達の荷馬車の周りには荷物の無事を確かめるエリックさんたち〈大地人〉の商人さんたち。
「強い、すごいなあ、みんな・・・」
私一人では守り切れなかったであろうこの光景に、私が思っていたよりもずっと強いこの仲間たちの姿に、笑みがこぼれてしまう。
私はその場に座るダル太の横に大の字に寝転がり、こらえきれなくなって声を出して笑いだしてしまう。
私の目に映るのは雲ひとつない初夏の青空と、燦然と輝く太陽。そして私を見下ろす集まってきた仲間たちの笑顔。それがものすごく眩しくて、思わず目を細めてしまう。
こうして私達を襲ったPK達との戦闘は、その幕を下ろしたのだ。
次でラスト。たぶん。