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辺境の街にて  作者: 山本ヤマネ
最初のお話
11/29

10 街から少し離れた大地人の集落にて

 遠く先まで続く平原、横に流れる小川に沿うように続く小道、まばらに点在する農具などを収納しているだろう掘っ建て小屋。

 僕の目に映っているのは、丁度ゲームだったときのような斜め上からの視点で広がる田園風景。ゲームとは違うのはまるでスクーターに乗っている時のように、顔に吹き付ける風の圧力、都会とは違う緑の濃い空気の匂い。それから眼下に落ちる巨大で長細い影。


 僕たちは現在、テンプルサイドの街の西に点在する農業を営む大地人の集落に向けて、ちょっと奇妙な空の旅の最中だ。


 事の発端は、街のリーダー的な立場にあるクシさんとヤエさんからの提案。ヤエさんの言葉を借りれば「美味しい物集めてアキバで売ってうはうは、皆で幸せになろう大作戦」である。


 要するに街に残っている冒険者達で手分けして、調理しなくても食べられる食材を近辺の村や集落から買い集めてアキバに戻った際にマーケットに流そうという話。

 どうもアキバの街というのはゲームだった時と同じように冒険者の街という色が強いみたいで、僕たちの居るテンプルサイドのように簡単には新鮮な野菜や果物みたいなゲームであった時にNPCのショップに並んでいた物以外の食材を手に入れることができないようなのだ。

 せっかくアキバへの移動開始までの時間もある事だし、誰に迷惑をかけるわけでもないしということで、一儲け企んでみようかというのがこの作戦の趣旨みたいである。


 テンプルサイドに残っている冒険者たちは一部例外を除けば、そのほとんどがゲームを始めてから数カ月以内の初心者ばかりで、もちろん手持ちの資産も少ない。さほど危険もない行動で懐が潤う可能性があるのであれば大歓迎。

 基本的に任意の参加という提案だったのだが、反対する人もおらず、僕たちもその作戦の一環として担当として割り振られた集落に向けて移動中と、そういうわけなのである。


「だいぶこの子の操縦にも慣れてきたです。もう少しスピード出すので落ちないように気をつけて欲しいです」


 僕たちが今乗っている細長く平たい体を持つ巨大な蜻蛉のような召還モンスターを使役している双子の片割れ、〈召喚術師〉(サモナー) のミダリーちゃんが、その蟲の頭の上から僕たちの方に振り返って声をかけてくる。


「ヒギーは了解なのです・・・なのですけどスイレンのお姉さん、そんなに強く抱きつかれるとヒギーは苦しいのです・・・」


「うう、でも私、高いところってちょっと苦手で・・・ あと虫さんも結構苦手なんですよぅ・・・」


 双子のもう一人、〈暗殺者〉(アサシン)のヒギーちゃんと、その彼女に必死に抱きついているのは〈森呪遣い〉(ドルイド) のスイレンさん。


 例の2日目のクマ騒動の後、なんとなく一緒に行動することが多くなった僕たち4人は、その後始まったテンプルサイドの森での狩りの訓練に続いて、今回の食材集めの集落巡りでも行動を共にしている。

 ちなみに今僕達の乗っているムカデとトンボの合いの子みたいな不気味な空飛ぶ蟲は、そのテンプルサイドの森での狩りの際にクエストで獲得した〈従者召喚〉モンスター。



 〈大災害〉という名称で呼ばれ始められるようになったあの異世界召喚から3日目、少なくとも1度はこの異世界での戦闘を体験しておくべきだろうという意見から始まったテンプルサイド残留組の狩り体験ローテーションなのだけれど、僕達に回ってきた機会はこの〈従者召喚〉モンスター獲得クエストの大騒動になってしまった。


 ヤエさんとユウタさんというテンプルサイド残留組の中ではレベルの高めな2人に同行してもらった僕達の狩りの舞台に選ばれたフィールドは 〈落ちた天空の寺院〉(フォーリンテンプル)を囲むように広がるテンプルサイドの森のうち、街から見ると一番奥に位置する南のゾーン、通称〈 胞子の海〉。他の森とは違って粘菌のような植物が生い茂り、レベル30前後の巨大な蟲のようなモンスターが徘徊するゾーンで、巨大なダンゴムシや、空を飛ぶムカデモドキに虻モドキ、跳ねまわるキノコやらが不気味な特に女性陣には不人気な狩場だ。

 唯でさえ女性陣が多いメンバーなのになんでこんな狩場が選ばれてしまったかというと、もちろん出現するモンスターのレベル適性の問題もあるのだけれど、一番の原因は「低レベルでも受けることができる、飛行能力を持った〈従者召喚〉モンスターを獲得するクエスト」の存在。

 同行してくれたヤエさん曰く、見た目が悪く(なにせ蟲なので)その飛行能力も高くて5m程度な上、速度も馬と変わらないと微妙な性能である為、ゲームであった時には見向きもされなかった〈従者召喚〉モンスターらしいのだが、話を聞いた〈召喚術師〉のミダリーちゃんが空が飛びたいと妙に乗り気になってしまったのだ。

 結果、蟲の巣穴への潜入や、孵化した幼虫に与える餌の確保なんていう見た目に優しくない数々の難関を越えて晴れて獲得されたのが、今僕達を運んでくれているこの〈平翅蟲〉ドラゴン・ボードフライ、ミダリーちゃん命名「ゾゾ」君という訳なのである。



「げふ、スイレンのお姉さん・・・ ヒギーは息が、息ができないのです・・・」


 やばい、ヒギーちゃんの顔がよろしくない色になってしまっているし、なんだか窒息のバットステータスが点滅している。抱きついているスイレンさんの腕が完全に首に極ってしまっている。


「ストップ!! スイレンさん、タップです! ヒギーちゃんが窒息してますから!」


「ふえぇ ごめんなさい! でも、でも!」


 慌てて後ろから肩を叩くと、スイレンさんはすごい勢いで振り向き、今度は僕に向かってつかみかかってくる。


「うわ、ちょっとまって! 落ちる、落ちますから!!」


 低空タックルのような勢いで飛び掛ってくるスイレンさんの勢いを殺せず体制を崩し、ゾゾの背中から落ちそうになる。

 低空とはいえ数メートルはありそうな高さに加えて全力で漕いだ自転車ほどのスピードは出ているのだ。現実とは違う〈冒険者〉のこの体であれば大した怪我は負わないのかもしれないけれど、さすがに焦って動悸が激しくなる。

 いや決して、こんな状況とはいえ女性に抱きつかれたからとか、ちょっと当たってませんか?とかそういう理由でドキドキしているのではないのだ。うん、勘違いするな僕。

 相変わらずこのスイレンさん、無自覚のトラブルメーカーである。とはいえ、この数日間での一番の被害者もスイレンさんだろう。何せ苦手な巨大な蟲だらけな狩り場を引きまわされた挙句、その後もこの「ゾゾ」君とご同行で終始涙目なのだから。


「うう、酷い目にあったです。お花畑が見えたですよ。やっぱりスイレンのお姉さんの相手は百目のお兄さんに任せるのです・・・」


 こんな状況になればいつもは僕をからかってくるヒギーちゃんも、今回ばかりはグロッキーでその元気もない様子。


「この子も慣れれば結構可愛いと思うですけど。ねえゾゾ君?」


『ギギギギギ』


「ううう、可愛くないですよぅ・・・」


 ミダリーちゃんはそんな事を言っているけれど、僕もさすがにまだその境地には至れていない。スイレンさんに同意だ。錆びた歯車の軋むようなその声はどう考えたって可愛くはない。

 確かに襲ってくるわけではないし、低空飛行で街道ぞいにしか飛べなくはあるけれど、僕達4人に加えて結構な荷物も積めるこいつは思った以上に優秀なヤツだとは思うのだけれども。


 スイレンさんは今度は僕に抱きついたまま離れようとはしてくれない。誰かに掴まってでもいないと、この蟲と高所のダブルパンチには耐えられないのかもしれない。

 しかし美人な女性と密着してしまっているというこの体制、よく考えると現実世界では今まで経験したことがない状況。

 僕も心象的には中々ピンチな状態だ。


 少しでも冷静になろうと、僕は1枚のメモ書きを懐から取り出す。

 買い付け価格表、今回の作戦のリーダーであるヤエさんが決めた野菜やら果物やらの買取価格を、僕が〈筆写師〉のサブ職業のスキルで複製して皆に配ったものだ。

 テンプルサイドの街で受けたインクの材料収集クエストの報酬に、僕は金貨ではなくサブ職業の取得を選んで〈筆写師〉になった。

 まだレベルが低いので大したものが作れるわけではないのだけれど、テンプルサイドの街の長老会からのちょっとした依頼で小遣い程度は稼ぐことができるし、街にいる〈冒険者〉には他に〈筆写師〉は居なかったので、今回のように結構重宝していたりする。


「あ、目的地の集落がみえてきたです! 一旦降りるですよ」


 ミダリーちゃんのその言葉に視線を前方に向けると、いつのまにか眼下に広がっていた農地の先に、昨日訪れた村より規模は小さいが、木造の建物が集まっているのが見える。考え事の間に目的地に到着したらしい。


 ミダリーちゃんの合図を受けてゾゾが高度を落とす。

 前回寄った村では、ゾゾに乗ったまま村の中まで乗り込んでしまったお陰で警戒されてしまって大変だったのだ。


 地面から1mほどの高さまで高度を落としたあたりで僕達が飛び降りると、ゾゾはミダリーちゃんを守るかのように、その周りをくるくるとゆっくりと飛び回り始める。

 ミダリーちゃんが何か呪文のようなものを唱えると、その大きな姿は一瞬輝いた後、まるで光の粒にでもなったかのようにゆらめき、空気に溶けていくかのように四散していく。

 スイレンさんの魔法、僕やヒギーちゃんのスキルなどこの数日、現実離れした光景は何度も見てはいるのだけれど、特に〈召喚術師〉に関連するスキルというのは何とも派手でファンタジー。ハリウッド映画のCGや特殊効果も真っ青な派手さだ。

 ちなみにそんな間、スイレンさんは僕の後ろに隠れるようにしがみついていたりするのだが。


『ヤエのお姉さん、こっちは担当の集落に到着したです。買い取る相場は変わってないですか? あ、はい、了解です。そこらへんは百目のお兄さんが上手くやってくれると思うです』


 ヒギーちゃんが何もない空間を見上げるような仕草で独り言のように声を上げる。念話特有の仕草だ。

 今回のとりまとめを行なってくれているヤエさんに念話で連絡を入れてくれているのだろう。


 彼女も言っているように、このチームでの渉外役というかリーダー的な役は僕の役目になってしまっている。まあ、見た目も中学生な双子は〈大地人〉との交渉には向かないし、スイレンさんもそういうことが得意なようには見えない。

 僕自身も実際には唯の大学生で、決してこういう事が得意というわけではないのだけれども、まあ仕方がない。


「あんまり長引いちゃうと今日中に街に戻れなくなっちゃいますし、さっさと任務開始といきましょうか」


「色々おまかせっぱなしでごめんなさい。でも、私にもできることがあったら振ってくださいね」


「今回はすんなり行くと良いのです」

「まあ、百目のお兄さんはちょっと抜けてるですけど、ヒギー達も居るので大丈夫なのです!」


 まあ、なんともメンバーに振り回されっぱなしなリーダーではあるのだけれど。





「え? 作物の買い付けでございますか?」


 10件ほどの農家が集まったような集落、その中でも一番多きな建物に訪れた僕達は、この集落のまとめ役をしているという50歳くらいの男性の前に通されたのだが、やっぱり前の村と同じく返ってきた言葉には戸惑いの色が見える。

 まあ、しょうがない事だとは思うのだけれど、彼ら〈大地人〉にとって、〈冒険者〉というのは自分たちの抱えるトラブルをお金を払えば解決してくれるというような存在らしい。行商人のように自分たちの育てた作物を買い取りたいなどという話が出てくるとは思ってもみないのだろう。


「あ、もちろん、僕達で解決できそうな何か問題があればご協力もできますよ。ただ、報酬を金貨ではなくて穀物とか野菜とかで頂ければ助かりますっていう話です。あと、加えてお売りいただける分があればお願いしたいというか、そんな感じなんですが」


「おお、それは助かります! 新しく開墾した農地で、どうしても退かすことのできない岩や切り株があるのですが、その撤去に困っていたのです。それから、東の丘に最近〈灰色熊〉(グリスリー)が住み着いてしまっていて、それの対処にも困っておりまして・・・


「農地の方は見てみないと判らないですが、多分大丈夫だと思います。それから〈灰色熊〉ですか。まあそれも大丈夫かと」


「引き受けて下さいますか! こんな田舎には領主様の兵や〈冒険者〉の方々が来ていただける機会も殆どないので、どうしようかと困っていたのです!」


 ただ、ここ数日でクシさん達や他の街の仲間達が色々と試行錯誤してくれた成果なのだが、〈大地人〉の抱えている問題を解決するっていうような話をとっかかりにすると、何故かその後は結構話がすんなり通ったりするのだ。

 なんというかゲームであった時のクエストのような感じ。それを入り口にすると〈大地人〉の人達にとっても話が理解しやすいのだろうか。


「それじゃ手分けしていこうか。ヒギーちゃん、クマーどうにかなる?」


「防具も揃ってるですし、余裕へっちゃらです! どんとこいですよ?」


「じゃ、そっちは任せるね。スイレンさんもヒギーちゃんと一緒でお願いします。数居なければ昨日みたいに足止めしてもらえれば余裕だと思うんで。でも無理は厳禁で」


「お任せされました。がんばっちゃいます!」


 なんだか自信満々な感じで、ヒギーちゃんとスイレンさんが答えてくれる。

 最初の〈灰色熊〉との戦闘はともかくとして、〈 胞子の海〉でのクエストに絡む大乱戦を超えてきた事は、この世界でも何とかしていけるという僕達の自信になっている。みぎひだコンビは元々運動神経がよかったのもあるだろうが、すんなりとこの現実とゲームの設定が入り混じったような世界での戦闘に順応しているし、普段はおっとりしているスイレンさんもいざとなるとびっくりするくらい思い切りが良い。数匹の同レベル帯のモンスターであれば遅れを取ることはまずないだろう。僕が置いていかれないように頑張らなくちゃいけない位だ。

 しかしまた〈灰色熊〉とは余程縁があるらしい。


「それじゃ僕とミダリーちゃんは農地の方に行ってみよう。確か〈地妖精〉(ノーム)の召喚できたよね?」


「ミダリーも了解です。〈地妖精〉も持ってるですよ!」


「それじゃあ、とっとと取り掛かろうか。その問題の農地と〈灰色熊〉の出るっていう場所に案内して頂ける方をお願いできますか?」


 もう太陽は天頂をすこし超えた所。あんまりゆっくりしていると街に戻るだけの時間がなくなってしまうだろう。

 多分お願いすればこの集落での宿くらいはどうにかしてもらえるとは思うのだけれど、やっぱり夜には街の僕達の屋敷に帰ってゆっくりしたいという気持ちは強い。

 慌ただしくて〈大地人〉の人達には申し訳ないのだけれど、僕達は素早くこの集落での用事を済ますべく行動を開始したのだ。





「それじゃ次、あっちの大きな岩だね。ミダリーちゃん〈地妖精〉で浮かせてもらえる?」


「了解です。ノームさん、こんどはあの岩ですよ、お願いするです」


 ミダリーちゃんの号令のもと、召喚された手の平程度の大きさな老人のような見た目の小人達が、農地の真ん中にずどんと頓挫した大きな岩に群がり、その下の地面を掘り返していく。

 その後は僕の仕事だ。埋まっていた部分が掘り返されたことによって動きやすくなった僕の2倍位以上もありそうなその岩を転がして、開拓された農地の外側まで転がしていく作業が待っている。

 テンプルサイド残留組の中でもさほどレベルが高い方ではないのだけれども戦士系職業の一つでもある〈武士〉(サムライ)の僕は、今回のメンバーの中では筋力のステータスが一番高い。このくらいの岩であれば深く埋まっている部分さえどうにかすれば、動かすことも可能なのだ。


 今回召喚してもらった〈地妖精〉もそうなのだけれど、現実世界になってしまった〈エルダー・テイル〉において、一躍注目を浴びているのが、この〈召喚術師〉だ。

 ゲームだった頃には、その射程範囲の長さがメリットとして認識されていたことはあれども、〈妖術師〉(ソーサラー)ほどの攻撃力もなく操作が複雑であることから、狩りの効率的には劣る趣味職として認識されることが多かった〈召喚術師〉なのだが、この世界での生活という新たな需要が発生した現在、その万能性には目を見張るものがある。

 ここまで僕達を運んでくれゾゾの事もそうだし、初日には苦労して沸かしていた屋敷の風呂の釜に関しても、現在では〈召喚術師〉、具体的には〈グランデール〉という中堅ギルドに所属している〈召喚術師〉、リックリック君が召喚する〈火蜥蜴〉(サラマンダー)の火力によるものに取って替わっている。

 現在僕達の行動に中心であるテンプルサイドの屋敷の庭には飲むことも可能な湧き水があるので必要はないのだけれど、〈水の精霊〉(ウンディーネ)を呼び出せば、生活には欠かせない飲料水の確保も出来てしまうあたり、生活の友としては反則級の性能を誇っている。

 テンプルサイドの街以外の事情に関しては正直詳しくはないのだけれど、これから先もこの世界でのサバイバルが続くのであれば、〈召喚術師〉の生活密着型のこの能力は引く手あまたなのではないだろうか。


「お疲れ様でした。今のこの岩で終了です。おかげ様でこの滞っていた農地の開拓も一気に進めることができますよ!」


 僕達2人をこの農地まで案内してくれた集落のまとめ役のおじさんが満面の笑顔で声をかけてくる。

 こっちにとっては1時間弱のちょっとした作業なのだが、そんなに感謝されてしまうとなんだかむずがゆい気分になってしまう。

 それはともかくとして、これで僕達の作業は完了。スイレンさん達も戻ってくればあとは集落に戻って買い付け交渉の続きだ。


「ここではこれから何をつくるですか?」


「そうですねえ。今からですと馬鈴薯、葱、玉菜あたりが良いですかねえ。ああ、〈冒険者〉の方々もお買いになって下さるようなら、それに合わせてみるのも良いかもしれません。ミダリーさんでしたね、どんな物がお好きですか?」


「ミダリーはナスが好きなのです。油多めで焼いたナスにめんつゆ!めんつゆを垂らすのです!」


「めんつゆですか? 申し訳ありません、それは私どもでは作っていませんねえ」


 並んで歩くミダリーちゃんが、噛み合っていそうで噛み合っていない会話を〈大地人〉のおじさんとしている。

 ゲームであった時には関心を持つこともあまりなかった〈大地人〉。〈エルダー・テイル〉が現実化してしまったかのようなこの世界において、ゲームであった時と一番異なる部分がこの〈大地人〉の存在なのではないだろうか。

 この集落もそうだけれど、特に僕達の滞在しているテンプルサイドの街の光景を見ているとそう感じることが多い気がする。

 ゲームであった時には主役は僕達〈冒険者〉であったと思うのだけれど、逞しくこの世界で生活をしている彼らを見ていると、ここでの主役は彼ら〈大地人〉なのかもしれないと、そんな風に思ってしまうのだ。


 そんな風に考え事をしながら歩いていると、農地に隣接する森の方から騒いでいるような笑い声が聞こえてくる。

 〈灰色熊〉の出るという外れの森の案内には、数人の集落の若者が名乗りを上げてくれていたのだけれど、騒ぎ声の主はその若者たちだろう。雰囲気からするとあっちも上手くいったようだ。


「あ、ヒギー達です。あっちも帰ってきたみたいです! なんだか獲物沢山みたいです。運ぶの手伝いに行ってくるです!」


 それに気がついたミダリーちゃんは、そう言い終わるなり騒ぎ声の方向へと駆け出していく。


「元気な方ですね。しかしあんなに小さい方でも魔法に精通していらっしゃるとは、さすがは〈冒険者〉ですなあ」


「なんだか騒がしくてすみません。頑丈さと元気だけが取り柄みたいなものですから。まあ彼女らは特に元気ですけど・・・」


「いやいや、そんな元気に今日は助けていただいた訳ですから。あとは報酬と作物の買い付けでございましたね。ここ数年は豊作でしたからお売りできる量も結構ございます。村の者に集めるように言っておいたので、戻りましたら買っていただける量を相談させて頂きます」


「〈大地人〉の方々に迷惑をかけなかれば幾らでも買ってきて良いって言われてるんで、助かります」


 そう答えた事を僕はこの後後悔することになる。

 集落に戻って見た彼らの集めてきた作物は荷馬車に数台分。とても僕たち4人では運ぶことのできないとんでもない量だったのだ。

以下はどうでもよい脳内設定


・テンプルサイドの森

景観や出現するモンスターの種類によって4つに分かれているフィールドゾーン。出現するモンスターのヒットポイントが同レベル帯のモンスターより少ないソロまたは少人数での狩りをするための場所としてデザインされていた。


・ノーズゾーン(広葉樹の森)

日本でもよく見られるような森の中といった景観で、出現するモンスターのレベルも一番低い狩場。通常の野生動物も多く生息している。

主な出現モンスターはホーンドオウルベア(ト○ロ)とか魔狂貉(ぽ○ぽこ)とか。


・サウスゾーン(胞子の海)

粘菌のような植物が生い茂り、巨大な蟲のようなモンスターが徘徊するゾーン。モンスターの見た目とは反してレベル的にはノーズゾーンの次に低い。まあお察しください。ちなみにゾゾ君は大王ヤ○マとヘビ○ラの中間くらいな見た目かなあとか。


・イーストゾーン(スカファの水源地)

青く美しい池が点在するゾーン。〈レッドオーク〉の駐屯地になっている。カッコイイとは、こういうことっぽい場所。敵のレベル帯は40台前半。


・ウェストゾーン(ディダラの森)

太古の照葉樹林の森。まあそういうところ。敵のレベル帯が一番高いのが此処。



〈落ちた天空の寺院〉(フォーリンテンプル)

周囲の森とは違い、パーティー推奨なおかつレベル80~な高レベルダンジョン。

きっと手の長いゴーレムが徘徊していたりする。あとラスボスは多分ム○カ。



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