高齢化対策
高齢化に悩む王国があった。
王様は対策会議の招集を掛け、集まった担当大臣を前に会議の口火を切った。
「我国は先月、七十五歳以上の後期高齢者が国民の四十%をついに超えてしまった。高齢化が益々加速している。何か対策が必要な状況になっており、今日は何か名案が出るまでみんなで話し合ってもらう。まず財務大臣、現状を」
財務大臣は元気なく立ち上がり、「高齢化に比例して、税収は減り続けています。それに反して、医療、介護などの支出が急激に増えています。我国の財政は破綻寸前です。国債の買い手もいません。何か手を打たないと、本当に国が破産してしまいます」と沈んだ声で言った。
「医療や介護を切り捨てることはできない。何か対策はないのか。我国は技術立国だ、先端技術を使って、なんとかならないのか?」王様は大臣達を鋭い目で見回した。
重苦しい静寂を破り、科学技術大臣がゆっくりと手を挙げた。
「王様、七十五歳以上の老人全員にロボットを買ってもらうというのはどうでしょうか」
「ロボットが何をするのか?」
「我国は、言語を理解し、行動することができるロボットを生産できます。ロボットが老人の身の回りの世話、介護をするのです。我国の介護費用の縮減に大きく寄与できると思います」
「それならば、介護を要する老人だけでいいのではないか?」
「いいえ、要支援・要介護の方には『介護型』。介護を要しない元気なお年寄りには『マッサージ型』。つまり全員にロボットを使ってもらわないと、根本的な解決にはなりません」科学技術大臣は頷きながら言った。
「根本的……?」王様が首を傾げた。
「介護費の減少及び機械産業も活況になり、税収が増え、財政も改善されると思います。さらに老人が持っている莫大な資産も現役世代に分散されるかと思われます。公平性を期すために介護型とマッサージ型は同じ価格にします」科学技術大臣は胸を張った。
「ロボットの安全面は問題ないのか?」王様が身を乗り出した。
「ロボットは力が有り、家事において考えられる力仕事は全てできます。従って、使い方ひとつで凶器にもなるので、その老人の声以外には反応しない構造にします。また老人以外の人の身体には接触できないようにします」
王様はしばらく目を瞑り、勢い良く立ち上がり、大きく頷いた。
「分かった。老人の方には申し訳ないが、七十五歳以上の人にはロボットの購入を、法律で義務付けよう。購入期限は半年としよう」
法律が即座に施行され、老人はロボットを仕方なしに購入した。買えない老人には、国が無担保、無金利で融資をした。
数か月後、介護を要する老人が風呂場で溺死する事件が起こった。警察は傍にいたロボットを取り調べたが、異常は認められなかった。
「事故ではありませんでした。自殺のおそれもあります。ロボットに『手を離せ、殺してくれ』などと言った可能性が強いと思われます」警察が発表した。
科学技術大臣がすぐに会見した。
「自殺に使われたとのことですが、誠に残念です。今後は二度とこんなことがないように、『手を離せ、殺してくれ』という言葉などに反応しないようにリコール改善措置を行います。皆さんもロボットに対し、丁寧な言葉使いで、より慎重に対応してください。この度は誠に申し訳ありませんでした」科学技術大臣と幹部達が深々と頭を下げた。
数か月後、今度は健康な老人が撲殺される事件が起こった。今回も警察はロボットの誤作動を認定できず、ロボットを犯人と断定できなかった。
それ以降も、要介護の老人は風呂で溺死をし、健康な老人は何者かに撲殺されていった。
「非常事態だ。パニックになる」王様は一切の報道を規制した。
何も知らされない老人はロボットを使い続け、老人の数はすごい勢いで減っていった。
王様は科学技術大臣に真相の究明を求めた。
科学技術大臣の説明は簡単に終わり、王様は「うーん」とうつむいた。
しばらくして、「そうか。みなさん、気持ちよく逝っているんだな」王様は寂しそうに微笑んだ。
「そうです。気持ちのいい絶頂期に亡くなられています。ロボットは後押しをしているだけです」科学技術大臣は静かに頷いた。
「君が言っていた根本的という意味も分かったよ」王様は小さくつぶやいた。
「七十五歳過ぎても、みなさんお元気ですから。ここを減らさないと根本的解決にはなりません。お陰で財政も改善しました。しかし王様、そろそろ、心から思ってもいないことを口にしないようにと注意を促しますか?」
「こういうことを言う人も徐々に減っているからな」王様は囁いた。
「確かにそうですが、健康な老人は若者の言葉を敢えて使う人も増えているんです」科学技術大臣が応えた。
「どちらにしろ、もう少し様子をみよう」王様は一点を見つめて、それ以上は言わなかった。
その日も、介護を要する老人がお風呂に入れてもらい、介護型ロボットに、
「ありがとうよ。極楽、極楽、あァ~もう死んでもいい」と目を瞑るとすぐに、ロボットは手を放した。
同じ頃、健康な老人が身体を揉んでもらい、マッサージ型ロボットに、
「ありがとうよ。極楽、極楽、あァ~もう死んでもいい」と目を瞑るとすぐに撲殺された。
一方、若者言葉を使う元気な老人は、
テレビで押しのアイドルを見ながら「尊すぎて死ぬ」。
美味しいものを口に入れた途端に「まじやばい死ぬ」。
と叫ぶと同時に傍にいたロボットに撲殺された。
「ポカッ」
「何?~あァ~」
思っていないことを言葉にすることは止めましょう。言葉には言霊があるそうです




