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俺の彼女はヤンデレなのかもしれない

作者: 鶏ニンジャ
掲載日:2026/04/15

「俺の彼女はヤンデレだと思う」


 俺の彼女はヤンデレだと思う。

 たぶん。いや、でも……うーん。


 深夜二時。

 仕事から帰ってソファに倒れ込んだ俺の耳に、トントントン、というリズミカルな音が聞こえてきた。

 台所から。


「……誰?」


 返事はない。ただ、包丁の音だけが続いている。

 俺は起き上がって台所を覗いた。


 エプロンをつけた彼女が、無言で何かを刻んでいた。

 深夜二時に。無表情で。


「何してんの」

「ご飯」

「……なんで」

「あなたが食べてないから」


 それだけ言って、彼女はまた包丁を動かし始めた。

 コンロに置かれた鍋からは出汁のいい香りが漂っている。


 しかし、食べていないとは心外だと思う。

 俺は首を傾げながら自分の食事内容を再確認した。

 いや、食べてる。ちゃんと食べてる。


 朝はエナジードリンク、昼はエナジーバー二本、夜は……エナジードリンクとエナジーバーとサプリ。

 カルシウムとビタミンCとマルチビタミンを完璧に摂取している。

 栄養は足りてるはずだ。


「食べてるよ」

「食事をしてないという意味です」

「エナジーバーは食事だろ。サプリも取ってバランスもいい」


 彼女が初めてこちらを向いた。

 無表情のまま三秒間。

 何も言わずに振り向くとまた包丁を動かし始めた。


 そんなことを話していたら、スマホの着信音が鳴る。


「女の子から?」


 彼女の手が一瞬止まった。

 声のトーンは変わっていない。

 でも包丁を持ったまま振り向かないのが、なんか怖い。


「ああ……」


 俺はメールを開く。

 そして言葉を失った。


「……旦那さんが……オオアリクイに殺されたらしい」


 オオアリクイ……有毛目アリクイ亜目アリクイ科に属する猛獣だ。

 たしかにあの爪で襲われたら、天敵のジャガーでさえ致命傷を負う可能性がある。


 それがか弱い人間だとしたらひとたまりもないだろう。


「オオアリクイ……」


 彼女が一言だけ発した後、沈黙が場を支配する。


「……そうですか」


 彼女はそれだけ言って、また包丁を動かし始めた。


 とりあえず、メールの送り主のアドレスを連絡先に登録しておこうと思う。

 なにかあったときに、助けになれるかもしれない。


「……なにをやっているんですか」


 気づいたら隣に彼女が立っていた。

 スマホを取り上げて、何か操作をしている。


「……これでいいですね」


 返ってきたスマホを見て、俺は絶望した。


「記憶喪失の少女の連絡先が消えてる!」


 そう、記憶をなくして困っていた彼女の連絡先が消えている!

 最近、記憶を思いだして会ってお礼をしたいと言ってくれていたのに……。


 いや、彼女が記憶を思いだしたなら、遠くから応援するのがいいのかもしれない。

 彼女の人生に幸あれ!


 と、それはそれとして


「現金三十億をくれる大富豪のお嬢さんも消えてる!!」

「はい」

「なんで!?」

「必要ないので」


 それだけ言うと、彼女は台所に戻って料理を続けた。

 30億あれば旅行や凄いプレゼントだってもらえただろうに……無欲なやつだ。


 いや、もしかしたら彼女は俺自身が頑張って稼いだ金でプレゼントをしてほしかったのかもしれない。

 そう考えれば、あえて消したのも納得がいく。


 まったく、かわいいやつだ。

 俺は彼女の料理する姿を見ながら、頬が緩む。


「……出来ました」


 しばらくすると、彼女が料理を運んできた。

 湯気を立てながらいい香りを漂わせる『卵雑炊』……うん、めちゃくちゃ美味しそうだ。


「冷める前に食べてください」

「うん、ありがとう」


 一口食べると、口の中に温かな出汁の味が広がっていく。

 隠し味のしょうがも効いている。


 体もポカポカと温まってきた。

 なんだこれ、普通に最高だ。


 こんな料理が毎回食べられるなら、彼女がヤンデレでも……まあ、いいかもしれない。


 そんなことを考えていると、スマホからまたメールの着信音。

 食事中だが、緊急のメッセージかも知れない


 メールを開いてみる。


「おめでとうございます。あなたは特別に選ばれました。今すぐコンビニでギフトカードを――」

「何だって!?」


 これは一大事だ!

 俺は財布を掴んで立ち上がった。


 だけど――


 ガチャン。


 玄関の鍵が閉められた。

 振り返るといつの間にか彼女が無表情で立っていた。

 俺のスマホを取り上げると、無言でメールを削除する。


「ちょっと! せっかく選ばれたのに!」

「……何に選ばれたんですか」

「それは……」


 言われてみれば、よくわからない。

 人の話は最後まで聞かないといけないよな。


 うん、今度は消される前にちゃんと最後まで読もう。


 選ばれたのに答えられないのは残念だとは思う。

 でも、これはきっと彼女の愛の鞭……よく出来た彼女だ。


ヤンデレと言うのは勘違いかもしれない。


「コンビニには私と一緒に行ってください」


 それだけ言って、彼女は台所に戻った。


 またメールの着信音が鳴る。

 メールを見れば再び驚愕の内容が表示された。


「オオアリクイとの60分一本勝負のチケット販売だって!?」

「……スマホ、しばらく禁止です」

「なんで!?」


 やっぱり彼女はヤンデレかもしれない。

 難しい。


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