ep.3 破改兎のバリー・バニー
ドンッ!ドンッ!
バリー・バニーが柱を砕き、足の踏み込みで地面を割る。幸いあの巨体が難なく通るほどここの廊下は広くない。でなければとっくに追いつかれていただろう。
「この部屋に入って!」
バニーの拳を避け部屋に飛び込んだ。そこはカフェテリアだった。俺とアリスは急いでテーブルの下に隠れる。
「協力するとは言ったが、具体的にどうする?あの兎から逃げるにも限界があるぞ?」
「ええ、まずは彼をどうにかしないと」
考えろ…ゲームじゃないとは言ったがゲームならどうする…ふと、あの言葉を思い出した。
「なぁ、あいつ知能は低いか?」
「えっ?ええ、改造されてからは思考能力があるのかすら怪しいわ」
なら、やれるかもしれないな。まったくあの人はどれだけ俺を助ければ気が済むのやら…!
「昔、ある偉大な人がこういったんだ「どんなに強く賢い存在も力に溺れればただの愚か者だ」ってね。」
「えっ?その言葉って…」
「つまりあいつはただの愚か者、罠にかけるも容易しってね」
椅子を放り投げる、反対側の壁に向けて。
ガンッ!
予想通り奴はその音の方に向かって拳を叩き込んだ。
「今のうちだ、1度離れるぞ!」
音に反応したバニーの視界の外から俺たちは駆け出した。勝利の予感を感じ取る俺を追いかけて戸惑うアリスも必死に走る。
「何をする気?罠って言ってもそんなもの無いわよ!」
「無いなら作るんだよ!」
俺たちは部屋を出て再びあの倉庫に戻っていた。バニーは自身の放った拳の衝撃で連鎖的に起こった椅子やテーブルの落下の音に気を取られているようで、俺たちの移動に気が付かなかったみたいだ。
「ここならなにか使えるものがあるはずだ、君の知恵を貸してくれ。ここにあるもののことは君の方が詳しいだろう?」
「ええ、わかるけど…彼を倒せるような武器なんてないわよ?危険物はもっと地下に保管してるから。」
アリスは戸惑いを隠せずにいるが俺 は倉庫を駆け巡るかのように物色している。
「地下があるのか、それってどこから行ける?」
「さっき通った廊下の先だけど?まさか落とす気?今の彼は落ちた程度じゃ倒せないわよ?」
バリー・バニーの身体能力ではどんなに高所からの落下でも無傷に着地ができても不思議ではない、むしろ床の方が無事では無いだろう。
「わかってる、なら燃やしてしまえばいい、あいつ見るからに毛むくじゃらだろ?なにか火を起こす方法は無いか?」
その返答にアリスは何かを思いついたようにある棚に向かう。
「それならできるかもね、これを使って!」
アリスが棚から取り出したのは小さな懐中電灯のようなものだった。
「懐中電灯?光を集めて燃やすにしても懐中電灯じゃ無理だろ?」
一般的な懐中電灯は200~400lm燃やすなら最低でも10000lmは必要だ、とても現実的じゃない。ん?現実的じゃない…?
「これはただの懐中電灯じゃないわ、アリスギア特製よ!明るすぎて問題になった初期型を倉庫の奥にしまったのを思い出したの」
「これの光量は50000lmよ!余裕で燃やせるはずよ」
なら出来る、やっぱりここは現実離れの特産地だな…アリスギアの技術力は世間が思ってる以上に高かったのか。
「ルーペはこっちにあったが、問題はどうやって15秒もの間光を当てておくかだ。さすがのあいつも光には気づくだろう」
「そうね、そこが問題なのよ…」
俺たちが思考を巡らせているうちに少しずつまたあの衝撃が迫っている。バニーがあのカフェテリアを破壊し尽くしたのだろう。
時間がない…やむを得ないか…
「わかった、俺が囮になる。だからアリス、君がその間一切外さずに光を当て続けろ」
「でもあなたは普通の人間よ?少しでも捕まれば即死してしまうわ」
ああそうだろう…でも俺は負けない…負けたら死ぬ、そんだけだ。俺が死なない限りはこの作戦は最適解だ。
「いいか?15秒稼ぐあとは任せた!」
そういい俺は近くのロープと金具をかき集めバニーに向かって走り出した。
その瞳には闘志が宿っていた、恐怖で震えていた男はもう居ない。
「あのバカ…」
アリスも慌てて追いかける。そして男がバニーの前に立ち、近くの瓦礫の影にアリスが隠れる。
「ハンプティダンプティ!ここからが見どころってもんだ!」
宣言した男はバニーの脇を通り抜け廊下を走り出す。
グォォオ!
咆哮と共にバニーは男を追いかける、さっき通った通路のため前よりも速く走るバニー。その後ろを懐中電灯を構えたアリスが追いかける、その光はバニーの黒い毛の模様に向けられた。
「思ったより速いなっ!」
男は走りながらロープに金具を括り付ける。それを近くの鉄パイプに目掛けて投げつけた。そのロープは見事に絡まった。
「よしっ!やってみるもんだなっ!」
男はロープを強く握りターザンのように勢いをつけて角を曲がる。バニーは視界から急に消えたことに困惑するがすぐ再び追いかけ始めた。アリスはカーブで光を遮られぬように、翼を広げ飛び上がる。
「急に曲がるなんて…!光を当て続ける身を考えて欲しいわね」
バニーの黒い毛が少しづつ熱を帯び始めると同時に下層へと繋がる穴へと近づいている。
「もうすぐ穴に着くわ!間違ってもあなたが落ちないでね!」
先頭の男に向かって叫ぶ、彼が落ちては作戦の意味がない。アリスが心配をしているうちに再び廊下が狭くなった。さっきのカフェテリアを通過したようだ。
「よしっ!大分距離が取れたか」
男は穴の手前で足を止め、後ろを見る。バニーが壁を破壊しながら追いかけてその後ろを飛んだアリスが追いかけ光を当てている。
15秒はあくまで最短の時間だ。おそらくとっくに過ぎてる…あの角がダメだったか?いや今は気にしてられないか…
男は休む暇なく次の作戦に移る。倉庫で拾ったロープとは別でワイヤーを持ってきていた。それを柱に結びつける。
「頼む、燃えてくれよ…」
壁を砕く衝撃と共にバニーは迫ってくる。だがまだ奴は燃えてはいない。
ドゴォォン!
バニーが最後の障害を破壊し、目前となりゆっくりと迫って来る。その表情は気味の悪い笑みが張り付いていた。
「きたっ!着いたわ!」
よしっ!間に合ったか!あとは落とすだけだ!
アリスの叫びがその場に響いた。それを聞いた男は再びバニーの脇をすり抜ける。
急な発火に戸惑い暴れるバリー・バニー。だが暴れるほどに火は広がる、そして瞬く間に火だるまとなった。
「アリス!合わせろよ!」
2人はバリー・バニー目掛けて飛び出し、会心の蹴りを入れる。
ドンッ
ガ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァァァァァァ!
その叫び声ははるか地下深くへと消えていった。
ドォォォォン!
叫び声が消えると共に衝撃の音が聞こえた。穴を覗くと遠くで光が揺らめいている。まだ奴は燃えているようだ。
「やった…みたいだな」
「ええ…お疲れ様…」
「バニー…ごめんなさい…」
アリスの表情に悲しみが宿る。かつての友達を燃やし地下深くにたたき落としたのだから無理もない。
ジジジ
「おやおや、これは予想外ですね…彼はそう簡単な相手では無いはずなのですが…」
どこからかまたあのいくつもの声が重なった声が聞こえる。ハンプティダンプティか…。
「どうだ?楽しんでもらえたか?ハンプティダンプティさんよ」
「アリス様…我らが社長がアナタを待っています。どうです?戻る気は無いですカ?」
「いっ嫌よ!私はもうあなた達の道具になりたくない!」
アリスが小さな体を震わせ怯えた様子で返す。
アリス…
「だとよ、ところで楽しんでもらえたか?次はそこでふんぞり返ってるお前を落としてやろうか?」
俺は天井のスピーカーに指を指し睨みつける。
「ええ少しは…楽しませてもらいましたよ…でも私を相手にするのはまだまだ先でしょうネ…」
底が知れない存在に少し不安が戻ってくるが、俺は大丈夫だ、あの兎にも勝てたんだ。そう鼓舞させながら前を向く。
前を向いた、はずなのに俺は下を見ていた。いや下に落ちていた…
「うぁぁぁあ!」
落とされた!背中に殴られた感覚が残っている。だが死んでないってことは兎みたいなパワータイプじゃなかったみたいだ!
「では、第2ラウンドと行きましょうか!まだまだ楽しませてくださいね、試作No.20 キャット・チェイス」
体をくねらせ上を見る、そこには細長い化け猫が穴からこちらを覗いていた…
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試作No.18ーーバリー・バニー 炎上の後落下
試作No.20ーーキャット・チェイス
全長5mの細長い化け猫。長く鋭い爪を持ち、高速移動が特徴。その速さは風のようである。




