ep.1 最悪の目覚め
ある天才はこう言った「どんなに強く賢い存在も力に溺れればただの愚か者だ」と。彼は賢かった、そして知恵から力を作り出した、彼は力には溺れることはなかったが愚か者だった。力の強大さを見誤ったそれ故に…
世界一の企業[アリスギア]AI技術の最先端を行く会社、その活動内容は深い闇に隠されていた。昔は一般的な電子機器を生産していた。だが現在は何をしているのかを知るものはいない。その会社を皆はこう呼ぶ[不思議の国]と。
「うっ…」
冷えた床に横たわったまま意識が浮上した。
頭を針が刺すような痛みの中叩き起す。ゆっくりと目を開けるとそこには長らく使われていなかったであろう埃や瓦礫の積もったオフィスがあった。
「ここはどこだ?」
見渡す限り人はおらず、外の景色も見えないまるで牢獄のような部屋。明かりもつかなければPCも動かない。
「なんでこんな所に…」
記憶を辿るも思い当たることはない、見覚えもない部屋、歩き覚えのない廊下。カラスの鳴き声も聞こえない廃れた会社を彷徨い出口を探していると。
「ようこそ[アリスギア]へ、ここはアリスギア本社兼試作開発部。私は案内人ハンプティダンプティ。久しぶりのゲストのあなたには申し訳ございませんが、社長の命令により最高のおもてなしをさせていただきます。」
安定しない多くの声を重ね合わせひとつにした様な声、部屋に響き渡る不気味な放送に身の毛がよだつ。放送が終わり再び静寂に包まれ俺は警戒する。
「最高のおもてなしだと?最高と言う割にいい予感はしないな」
ギギギィ
静寂の中扉が開く音が響く
「進めということか、思いどうりになるのは釈然としないな」
そう言いつつも進むしかない俺は扉に向かって歩き出す。
足を踏み出した瞬間、靴底が冷たいコンクリートに張り付いた。
カツン。
音が廊下の奥へ吸い込まれ、すぐに倍になって返ってくる。
吐く息が白く、視界を一瞬曇らせる。
蛍光灯は間隔が不規則で、壁のひび割れが、歩くたびにゆっくり近づいてくるように見える。
ただ、果てしなく続く灰色の通路と、俺の足音だけ。
カツン。
反響が、今度は少し遅れて聞こえる。
まるで、誰かが俺の歩調に合わせているみたいだ。
背筋に冷たいものが這い上がる。
ただ、前へ。
前へしか、進めない。
たどり着いたその先にあったのは4m程の扉と言うには大きな扉。扉の前に立つと呼応するかのように開きその先に空間が広がる。
「ここは…」
「ここはアリスギアの試作品開発工房、全ての製品の元となる存在を生み出したアリスギア本社の最も昔から存在する唯一の場所。アリスギアはこの部屋から始まりました。」
俺の疑問に答えるようにあの不気味な声がハンプティダンプティが話し始めた。
「ここに連れてきて何を考えてる?」
相も変わらず冷え込む部屋に広がった血の香りに私の鼓動は大きくなり背筋に冷たいものが這い上がる。
大掛かりな機械の節々にこびりついた黒い何かがその匂いの正体であると主張する。
不安の中微かに聞こえる衝撃の音、私の鼓動に隠れ少しずつ大きくなっていたそれは…
ドコォン
「紹介しましょう、我らが社長が作り上げた生物兵器、試作No.18[バリー・バニー]!」
轟音とともに扉が開く、いや扉だったものは壁とともに吹き飛んだ。瓦礫の山と砂煙の中から現れたのは白い兎だった。兎と言うには大きく、筋肉の発達した3mの大兎だ。
「化け物っ!」
この世のものとは思えないそいつは鋭い赤く光る眼光をこちらに向ける。
「ハンプティダンプティさんよ、こちらの質問には答えてもらってないが、もうひとつ追加させてもらうよ、こいつはなんだ?」
恐怖で足が震える、それを悟られぬように強気に振る舞う。または自分自身に恐れを知られたくなかったのか。
「いいでしょう答えてあげます、まああなたの望むような答えはないでしょうけど。社長にはあなたが必要なのです、理由は知りませんが。社長が下した命令はあなたの確保、ただし生死は問わぬと。我々もここにずっといるので少し楽しませて頂こうと思いましてね。」
「悪趣味なやつだ…それを聞いて自ら差し出すほど俺は安くないぞ」
声はわざと低く抑えた。 嘘だ。本当は足が震えてる。心臓が喉まで上がってきて、息が苦しい。でも、ここで弱音吐いたら終わりだ。何がなんでも生きなくては。
「ええすぐに死なれてはつまらない。少しは楽しませてくださいね。」
そう残し放送が終わる。と同時に大きな兎は叫ぶ
ギェェ!
バリー・バリーは太く長い腕を振り上げる
俺はその隙を突き股下を滑り通る。幸い知能は低いようで助かった。奴の壊した扉を超えて一般的な部屋ほどの広さの廊下を走り出す。廊下に出てすぐ近くの部屋に駆け込んだ。恐らく入るところは見られていない。
グルルル
奴の呻き声が廊下を響き渡り壁を震わせる。とても兎とは思えない声を。何故声帯を持たない兎に声があるのかすら分からないが今はどうでもいい。
息を殺し物陰に隠れる。今もハンプティダンプティがこちらを見ているかもしれない。そんな色んな思考を回しているうちにやつは居なくなっていた。
「ひとまず延命できたが…どうやってここを出るべきか」
瓦礫の影から立ち上がり周囲を見渡す。どうやらここは倉庫や物置のような役割をしていた部屋のようだ。
なにか使えるものはないかと期待する。だがほとんどが瓦礫の下敷きだった。無事なものも俺にはなんのものか分からないものばかり。
「ゲームじゃないんだ、そう都合よくは行かないか…」
その言葉でこの状況が現実だと再確認する。
「ふぅ…」
冷静になるため呼吸を落ち着かせる。再び探索に戻ろうとすると。近くの棚から声がした。
「あなたは誰?」
その声の方向に目を向ける。ハンプティダンプティでもバリー・バニーでも無い少女のようなその声に。
「誰だ!」
俺は不安と恐怖を振り切りすぐに近くにあったパイプを掴み構える。その警戒とは裏腹にその声の主は話し始める。
「そんなに警戒しないで、気づつくじゃない。私はアリス。あいつらには試作No.01って呼ばれてる。よろしくね」
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試作No.01 ーー アリス
30cm程の小柄な翼の生えた少女。白い翼による飛行が可能。意思疎通が可能。
試作No.18ーーバリー・バニー
3mの大柄の白兎、大きな腕が特徴。その筋力はコンクリートを砂の城のように容易く破壊する。ただし知能はなく一部を除いた目に映る全ての生物を破壊しようとする。




