第三話 愛美の悪だくみ
多くの人が行き交う休日の駅前にボランティア部の部員は集合していた。
「今日は新しい部員を加えてからの初めての募金活動だ。
みんな、あゆゆにいろいろ教えてやってくれ。」
部長である神愛の発言に続いて、
「戯楽愛遊です。
みんな仲良くしてくれると嬉しいです。」
元気よく愛遊が自己紹介する。
それに対して、
「まあ、体験入部で既に勝手知ったる仲ですけどね。」
律儀に自己紹介する愛遊に呆れた様子でツッコミを入れたのは、家庭科部とかけもちしているボランティア部女子部員である家入安恵である。
「戯楽とはわりと通じ合える。」
本気か冗談かわからない調子でそう言ったのは、文芸部とかけもちしているボランティア部男子部員である想間創我である。
副部長である友愛の声は無い。
友愛はこの場には来ていなかった。
「友愛ちゃんは、遺産相続問題で大変なので今日は来ないそうだよ。」
神愛が部長として副部長の欠席理由を報告する。
「いつも募金活動には必ず来ていた絆田さんが来られないって、けっこうヤバい状況だったりするんでしょうか。」
家入が何か含みを感じる口調でそう言った。
「なんでも先日に亡くなった友愛ちゃんの祖父が所有していた高価な骨董品の相続でもめているらしいよ。」
「絆田が親族を出し抜いてでも宝を得ようとするとは思えないが。」
創我が不思議そうに所感を述べる。
「それがその骨董品が呪われてるとしか思えない来歴の品で、捨てても呪われそうだから所有権を押し付け合っているというのが実態らしい。」
「言わば逆遺産相続争いと言ったところか。
小説を書く者として取材してみたいところだな。」
「創我くん。
明らかにヤバい事に首を突っ込んじゃダメだよ。
それこそ小説だったら最初の犠牲者になる人の行動だよ。」
家入が創我に釘を刺す。
「呪いが本物で無くとも、その状況そのものが興味深いんだがね。」
「とにかく今日は友愛ちゃん抜きで「私抜きで頑張ろうって話は止めてよね。」
いつの間にか背後から近づいていた友愛によって神愛の発言が遮られる。
「友愛ちゃん。
遺産相続問題はいいのかい。」
「流石に未成年に呪いのアイテムを押し付けるのはかわいそうだって事で、逆遺産相続争いから抜けて良い事になったんだ。」
「それは絆田の親が遺産を相続する事になったら、意味の無い対応じゃないか?」
創我が疑問をぶつける。
「呪いは所有者に優先して害を与えるらしいし、祖父のように所有者であっても天寿を全うできる例もあるから。」
「僕たち部外者がとやかく言う事では無いんだろうけど、それでも本当に困った事があったら遠慮なく僕たちを頼ってくれよ。」
神愛がなんでもない事のようにそう言う。
「うん、もしもの時は遠慮なく頼らせてもらうね。」
などと言っているが、彼女は友愛本人では無い。
『美愛なる変身』で友愛の姿に変身した八百万愛美である。
兄である神愛から友愛が今日の募金活動を休む話を聞き、その場の思い付きで今回の成り変わりを実行したのである。
フフ、この姿で神愛くんに嫌われるようなことをすれば、あのポニテ女は明日も親友と呼ばれるかしら。
「それじゃあ、募金活動を始めましょうか。」
でも、ボランティア部部長である神愛くんの顔を潰すような事をするのは本意では無いので、ひとまず普通に募金活動をしましょう。
そうして募金活動が終わり。
部員全員(一人偽物)で昼食を取るために、ファミレスに来ていたのだった。
「あゆゆの入部を祝して乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
神愛の声に合わせて、全員で乾杯する。
コップの中身は酒では無くジュースだ。
全員未成年なので、当然である。
「そう言えばじんあっち。
前にともっちと話してた聖反対戦争っていうのは何なの?」
愛遊が初めて部室に訪れた時の事を神愛に聞いてくる。
「聖反対戦争はラノベ原作のアニメだよ。
舞台化もされてるやつで、最近ハマってるんだ。
友愛ちゃんもけっこうなファンで、よく語り合ってるってわけさ。」
「へえ~、そうなんだ。」
「神愛くん、けっこうなファン扱いしてくれた所で悪いけど聖反対戦争は冷静に考えるとダサい話だと思うよ。」
愛遊と神愛の会話に割り込んだ友愛(愛美)は聖反対戦争をディスり始める。
つまりそれが彼女の作戦だった。
オタク気質な神愛くんは自分の好きなものを貶されたら怒るはず。
あのポニテ女と神愛くんの関係を破綻させてあげるわ。
しかし、当の神愛は、
聞いた事がある。
世の中には一つの議題に対して、肯定側と否定側に分かれて相手側やジャッジと呼ばれる第三者にいかに合理的な説得を行う事ができるか競う競技ディベートなるものがあると。
友愛ちゃんがいきなり聖反対戦争をディスり始めたのはおそらく自分が否定側に回った競技ディベートのような事を僕とする事で、聖反対戦争という作品をもっと深く味わいたいという意図によるものだろう。
盛大に友愛(愛美)の意図を勘違いしていたのだった。
ならば親友としてここは乗っておかないとだな。
「友愛ちゃん。
何を根拠に聖反対戦争がダサいって言うんだい。」
「ゲームみたいにレベルアップで強くなるっていう設定がもうダサいでしょう。」
「命を奪う事でレベルアップする殺翼族と命を産み出す事でレベルアップする命翼族っていう対比が美しいんじゃないか。」
「そういう対比構造の設定にしておけばウケると思っている作者の浅はかさが透けて見えるところがダサいって言ってるの。」
「そこが良いんじゃないか。」
「そこだけじゃなくて、命翼族が殺翼族を虐殺蝙蝠と呼んで蔑んだり、殺翼族が命翼族を淫乱鴉と呼んで見下したり、そういう異種族の間の罵りあいが生々しくて教育に悪いところとか問題だと思うよ。」
「そこが良いんじゃないか。」
「そこが良いんじゃないかって言えば良いと思ってない?」
そんな二人の様子を見ていた愛遊は創我に耳打ちする。
「なんか意見の対立があるみたいだけど放っておいて良いの?」
「あいつらは周りを置いてきぼりにして議論を始めるなんて、しょっちゅうだ。
放っておけば良い。」
創我は投げやりな態度でそう答えるのだった。
そうしている間にも神愛と友愛(愛美)の議論は続いていた。
批判を続けながら友愛(愛美)はほくそ笑んだ。
これだけ批判し続ければあのポニテ女に対する不快感でいっぱいでしょう。
明日が楽しみ。
それに対して神愛は、
こういう議論って面白いな。
聖反対戦争を批判する意見を聞くのは新鮮で楽しい。
流石は友愛ちゃん。
僕を楽しませる天才だね。
むしろ、友愛に対する好感度を上げていた。
そんな時、突然鳴り響く着信音。
「ちょっとごめん。
電話にでるね。」
自分のスマホに電話がかかってきた事に気付いた神愛が電話に出る。
電話の相手は、
「友愛ちゃん?
友愛ちゃんは今目の前にいるんだけど?」
本物の方の友愛だった。
神愛の様子からその事を察した愛美は、
ま、まずい。
こうなったらやる事は一つね。
愛美は体を発光させて小鳥に変身し飛び立ち、ちょうど良くファミレスの入り口の自動ドアが客の出入りで開いた瞬間に通り抜けて逃げていった。
見事な戦略的撤退であった。
「な、何の光?
絆田さんが消えて鳥が飛んでいって、なに、どういう事?」
家入が訳がわからないといった様子で取り乱す。
他のテーブルの客や店員も同じような様子だが創我と愛遊は落ち着いたもので、創我は興味深い事になったなという顔をして考えこみ、愛遊はあれは任意発動型の能力者かなと当たりをつけた目をして、敵として対決する未来を予感していた。
そして神愛は、
「友愛ちゃん。
僕は君の偽物と話してたみたい。」
状況から判断した現状を電話口の友愛に報告するのだった。




