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第二話 遊愛なる言葉

ホームルーム前の朝の時間。

神愛たちが通う翼望学園(よくぼうがくえん)の高等部二年の教室はいつもより活気に溢れていた。


「何だかみんな元気が良いみたいだね。」


「今日から転校生がやって来るみたいで、みんなそれで盛り上がっているみたいだよ。」


神愛の言葉に隣の席の友愛が答える。


「それは無理もないな。

ぼくも事前に知ってたら歓迎パーティーの一つでも計画してる所だよ。」


「あんまりすぐに距離を詰めようとしすぎて、転校生をドン引きさせないでよね。」


「ぼくだって、過去の失敗から学んでるから大丈夫だよ。」


「信用できないな~。」


そんなやりとりをしているうちにチャイムが鳴り響き、担任教師が転校生を連れてやって来た。

転校生はセミロングの金髪でライムグリーンのマニキュアも塗っている、いかにもなギャル系の女子だった。


担任教師が転校生が来たことを告げ、転校生に自己紹介を促す。


「ウチは戯楽愛遊(ぎらくあゆ)って名前です。

みんなウチを呼ぶときはあゆあゆでもあゆっちでも好きなように呼んでね。」


愛遊の自己紹介を聞いた神愛は、周囲の男子たちが女子の転校生の登場に歓喜するなかで立ち上がり、


「もしかして、あゆゆなのかい?」


転校生を昔からの知り合いのようにあだ名で呼んだ。


「もしかして、じんあっち?

マジで、すごい偶然じゃん。」


その光景を見たクラスメイトたちはこんなラブコメみたいな展開が実際に起こるもんなんだと思ったのだった。




その日の放課後、ボランティア部の部室でボランティア部部長の八百万神愛は副部長の絆田友愛に詰め寄られていた。


「だから小さい頃に母の実家に遊びに行った時に知り合った、近所に住んでた子で、ある程度いっしょに遊んだ事があるだけで付き合っていたとかそういう事実は一切無いんだって、だからそういう下衆の勘ぐりはやめてくれない。」


「そんな事言って、実は将来の約束をしていたとか、親同士が決めた許嫁だったとかそんな設定が後から明かされるんでしょ。」


「現実にそんな漫画みたいな展開ないだろ。」


友愛は『友愛なる理解』を神愛の現在の交遊関係を把握する事を優先して使っているため、昔の知り合いである戯楽愛遊の事は把握していなかった。


こんな事ならもっと神愛くんの頭の中を念入りに読み込んでおけばよかった。

人前で『友愛なる理解』を使えない以上、すぐには神愛くんの心を覗いて、戯楽さんの事を調べられないのだから。


欲能を発現して能力者となった人間の脳には欲能の名前や使い方などの情報が刻まれる。

その中に欲能は二つのタイプに分類できるという情報がある。

一つは任意発動型。

欲能を能力者の意思で自由に発動できるタイプの欲能。

『友愛なる理解』と『美愛なる変身』は任意発動型に分類される。

もう一つは自動発動型。

特定の条件を満たした時に自動で発動するタイプの欲能。

一見すると任意発動型の方が融通がきいて便利そうに感じるかもしれないが、任意発動型にはある共通の特徴がある。

それは欲能を発動させた時、その能力者の体が発光するというものである。

これは能力者である事を隠して生きる者にとって明確な欠点である。

人前で体を発光させていたら、まず間違いなく能力者だとバレるのだから。

つまり、任意発動型の欲能の持ち主である友愛は人前で欲能を使う訳にはいかないのである。


『友愛なる理解』には読心距離の上限が無いから、自宅からでも神愛くんの心を読めるからいいけど上限があったら、もっと不便だったでしょうね。


「もっといろいろ聞きたい所だけど、そろそろ助っ人に行かないといけないので今回はこれくらいで勘弁してあげます。」


友愛が名残惜しそうに言った。


「演劇部の助っ人だっけ。」


「演劇部の田崎さんが足を捻挫してしまったので、その穴埋めですよ。

それじゃあ行ってきます。」


友愛がそう言って退室する。

残された神愛は机に座って、本を読み始める。

そうして、しばらく経って、


「おっす、じんあっち、あゆゆだよ~。」


話題の転校生戯楽愛遊が扉を開けて、元気良く声をかけてきたのだった。


「おっす、あゆゆ。

あゆゆはどうして、うちの部室まで来たんだい。

まさかボランティアに興味があるのかい。」


「実はそうなんだ。

前々からボランティアには興味があったんだ。

でもウチみたいなギャルが入ったんじゃ、部のイメージが悪くならないか心配してて。」


「別に気にせず好きな格好して、好きな事をすれば良いと思うよ。

少なくともうちの部員にそんな事を一人も居ないよ。」


「じんあっちは今も昔も変わらないね。」


「日々精進しているから昔と大分変わってると思うんだけど。」


「そういう意味じゃないよ。」


「そうか、でも体験入部とかしてもらうにしても今はぼく以外の部員が出払ってるからな。」


「へえ~、部員は何人いるの?」


「部長のぼくを含めて四人。

一人は演劇部に助っ人。

もう一人はかけもちしている文芸部の活動中。

最後の一人はかけもちしている家庭科部の活動中。」


「助っ人とかけもちのオンパレードじゃん。」


「うちはけっこうユルい感じの部だから多少はね。」


「じゃあ、今はじんあっち一人だけなのか。」


そう言って愛遊は思案する。


ここはしかけ時かもしれない。

うちの欲能、『遊愛なる言葉(ルダスワード)』。

その力で勝負をしかけるのだ。


勘の良い読者のみなさんは察しているかもしれないが戯楽愛遊は神愛に恋する乙女であり、恐るべき欲能を持つ能力者でもある、つまりは新たな恋愛能力バトルの参戦者である。


愛遊の欲能の名は『遊愛なる言葉(ルダスワード)』。

それは効果範囲内で[あい]と言った者を発情させる自動発動型の欲能である。

意中の相手を発情させれば、容易く既成事実を作ることができる。

それはつまり、どんなに恋敵たちに好感度で負けている状況でも既成事実を作る事で一発逆転を狙える恐るべき能力であるという事である。

まさに恋敵たちにとっての最悪の能力なのである。


ウチの『遊愛なる言葉』はウチのパパとママに妹を作らせる事に成功した実績がある最高の能力。

じんあっちとの間に既成事実を作るくらいわけないはずっしょ。


『遊愛なる言葉』にはいくつか欠点があり、その一つはあくまで発情させるだけで相手を魅了して洗脳したりできるわけではなく、発情した者がその性欲を誰にぶつけるかはコントロールできないという点である。

そのため発情した相手に自分を確実に襲わせるためには相手と二人きりの状況を作る必要があるがそれは既に満たされている。

『遊愛なる言葉』は発動自体は自動的だが、効果範囲の広さは愛遊の意思でコントロールできる。

普段は体表から1cmの範囲に抑えている効果範囲を部室全体に拡げる。

準備を整えた愛遊が行動を開始する。


「それはそうとじんあっちってかわいい顔してるよね。

人前で歌ったり踊ったりする仕事とかしたら稼げそうだよね。」


この話の流れならアイドルと言ってもおかしくないっしょ。

[あい]と発音させる事さえできれば『遊愛なる言葉』は発動する。


「歌手やダンサーは外見の美しさだけで務まる仕事じゃないし、ぼくは言うほど美形なわけでもないから普通に無理だと思うけど。」


この流れでアイドルと言わないとは、じんあっちの会話の癖をもっと把握してからしかけるべきだったかな。


相手に対する理解度。

NGワードゲームのような、相手を特定の言葉を言うように誘導する試みは相手に対する理解度が重要になる。

極端な話、『友愛なる理解』によって神愛に対する理解を日々深め続けている友愛なら、

この程度のミッションは容易くこなすであろう。

それに比べると、愛遊は幼い頃に神愛と少しばかり交流した時期があるだけで、今日再会するまで交流が断絶していたため、理解度はそれほど高くない。

そのため、良い意味で人間至上主義者、ガチすぎる人間オタクなどと周囲から呼ばれる変人である神愛を思い通りに誘導するのは困難を極めるのである。


「じんあっちくらい魅力があればわからないっしょ。

女の子から情熱的な告白とかされる事も十分あり得ると思うんだけど、実際そこんところどうなの。」


愛に関する話題を振りつつ、神愛の女性関係に探りを入れる一手を愛遊は打った。


「そういう事は無いよ。

どうもぼくは周りから変人だと思われてるみたいで、そういう対象じゃないってことなんだろうな。」


「じんあっちみたいな人はそうは居ないからそういう意味では変人かもしれない。

もちろん、良い意味で。」


「良い意味って言えば何でも許されるわけじゃないぞ。」


「それじゃあじんあっちの方から情熱的な告白をしたいと思った事はあったりするのかな。」


勝負を決めるために積極的に攻める愛遊。

だか、そのタイミングで、


「それは「神愛くん、この衣装見てよ~。」


神愛の言葉を遮るように部室のドアを開けて入ってきた友愛がハイテンションでそんな発言をした。

友愛は演劇に使う衣装らしき、お姫様のようなドレスを着ている。


「助っ人として演劇に出るための練習はいいのかい友愛ちゃん。」


「神愛くんにこの衣装を見せたくて衣装合わせを抜け出して来ちゃった。」


「すごいなその衣装。

聖反対戦争(せいはんたいせんそう)のパルリナの服にそっくりだ。」


聖反対戦争とは神愛がハマっているラノベ原作のアニメである。


「でしょう~。

衣装を作った神崎さんは聖反対戦争を知らなかったから似てるのは偶然みたいだよ。」


「偶然でここまで似る事あるんだ。」


神愛と友愛の仲良さげな様子を見せられて、愛遊は心中穏やかでは無かった。


ウチのじんあっちがよく知らない女とよくわからない話題で盛り上がってる。

女の勘だけど絶対その女は神愛くんの貞操を狙っている卑しいメスだよ。

じんあっち、そんな女よりウチを選んだ方が良いよ。


愛遊には自分の事を棚に上げてものを考える癖があった。


「戯楽さんはどうしてここにいるの。」


友愛は思い出したように言う。


「ボランティア部に興味があって、いろいろ聞くためにここに来たんだよ。」


「そうなんだ。

私はてっきり神愛くんの方に興味があって、ここに来たんだと思ってたんだけど勘違いだったんだね。」


友愛が軽いジャブ程度の気持ちで放った言葉が、


「ウ、ウチは別にじんあっちに()()たくて来たわけじゃ、アッ。」


愛遊の動揺を誘い、ミスを誘発する。

『遊愛なる言葉』は[あい]と言った者を発情させる。

それは愛遊自身であろうと例外では無い。

『遊愛なる言葉』により愛遊の体は発情し始める。

頬は赤く染まり、呼吸は荒くなり、性欲は増大する。

すぐにでも誰かを押し倒したい衝動が沸き上がる。


この劣情に理性で耐えるのは辛すぎる。

だからと言って、ウチの方からじんあっちを襲うのはダメ。

じんあっちの方から襲ってくる事に意味があるんじゃん。


「あゆゆ、顔赤くないか。

心なしか息づかいも荒いし、体調大丈夫?」


ごめん、じんあっち。

体調が悪いんじゃなくて、単に発情してるだけなの。


「本当に顔が赤いじゃない。

保健室に案内しましょうか?」


「大丈夫、ちょっとお腹の調子が悪いだけだから!

トイレに行けば良くなるから!!」


愛遊は『遊愛なる言葉』の効果が切れるまでトイレにこもる事に決めた。

そのまま、劣情をこらえながらトイレまで行き、欲情が治まるまで耐え続けたのだった。


今回の恋愛能力バトルは愛遊の敗北だったがそれは彼女の脅威度が低い事を意味しない。

『遊愛なる言葉』が恋愛において一発逆転を狙える恐るべき能力である事は間違いなく、

これからの恋愛能力バトルで勝利する可能性も十分にある……はずである。










































































劇中作紹介コーナー


聖反対戦争……ラノベ原作のファンタジー作品。

アニメだけでなく、漫画化や舞台化もされている。

ストーリーは黒い鳥の翼を持つ命翼族と白い蝙蝠の翼を持つ殺翼族の争いを描いたもので、二つの種族の生き様の違いは今でもファンの間でよく議論される。

敵も味方も美形しかいないため、そういう作品を好む層のファンも多い。

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