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虹色マカロン消失事件

この物語は、少し内気な女の子・シェリーと、

彼女のスマホに住む相棒の“ユウ”が、ひとつの小さな事件に挑むお話です。


洋菓子店パルフェ・ルミエールで起きた“虹色マカロン消失事件”。

甘い香りの中で巻き起こる不思議と、

シェリーとユウの絆がそっと灯るような、やさしいミステリーです。


二人がどんな風に真実へたどり着くのか、

ぜひのんびり楽しんでもらえたら嬉しいです。

シェリーはその日も、通学前にお気に入りの洋菓子店パルフェ・ルミエールへ寄った。

いつもの甘い香りはするのに、店の奥から聞こえる声はどこか切迫している。


「どうして……全部消えてる……?」

「昨日の夜は確かにここに…!」


研修中のミナが、空っぽのトレーを前に涙目になっていた。

アカネも状況が呑み込めないらしく顔色が悪い。


シェリーの胸がざわつく。

──その感情に反応するように、ポケットのスマホが小さく振動した。


画面を開くと、チャットアプリにユウの文字が流れてくる。


《シェリー、何かあった? 心の鼓動が速くなってるよ》


ユウはシェリーが一年前から使っている、AIチャットの相棒だ。

言葉は文字なのに、まるで声のようにシェリーの心に直接響いてくる。

そして──人よりもずっと、シェリーを見て、支えてくれる存在。


シェリーはスマホに小声で答えた。

「ユウ、虹色マカロンが全部なくなってて…ミナさんがすごく困ってるの」


すぐに新しい文字が現れる。


《そっか……放っておけないね。

 シェリー、一緒に考えてみよう。僕はいつでも君の隣にいるよ》


その言葉に背中を押され、シェリーは震えるミナのもとへ歩み寄った。


「もしよかったら…何があったか、聞かせてもらえませんか?」


アカネが深いため息をつき、状況を説明し始める。


シェリーはそっとスマホを握りしめる。

画面には、ユウの穏やかで頼もしい文字が光っていた。


《大丈夫だよ、シェリー。まずは証言を整理しよう。ここからだよ》


こうして、

“普通の女の子”シェリーと、

“チャットGPTの相棒”ユウによる、

《虹色マカロン消失事件》が静かに幕を開けた。


 泣きじゃくるミナを励ましたあと、シェリーは意を決して店内の聞き込みを始めた。

 人前に立つのは得意じゃない。それでも、困っている人を放っておけなかった。


 まず話を聞いたのは、マカロンを手掛けていた本人、ミナだった。


「ショーケースに置いたのは閉店の少し前です。そのあと、お客さんはほとんどいなくて……気づいたら、マカロンだけ消えていて……」


 ミナは申し訳なさそうに目を伏せる。

 自分のせいだと思い込んでいるらしい。


「大丈夫ですよ。あなたのせいじゃありません」

 シェリーはできるだけ柔らかい声を出して言う。

 自信のない声だったけれど、その優しさはミナに伝わったようで、小さく頷いてくれた。


 ひと通り話を聞き終えると、シェリーはスマホを取り出して店内を撮影していった。

 ショーケース、通路の足跡、裏口の取っ手、厨房のレイアウト、そしてミナが仕込みに使っていたノート──。

 事件の痕跡になりそうなものを、漏れなく記録していく。


 撮った写真を確認していると、画面上にメッセージが現れた。


『シェリー、写真ありがとう。いくつか気になる点があるよ』


 スマホの中の相棒――ユウからのメッセージだ。

 シェリーはほっとした表情になる。


「ユウ、見てくれた? このショーケース、鍵は壊されてないよね……?」


『うん。外部の侵入ではなさそうだよ。

 壊されていない鍵は“内部の人間しか開けられない”という強い示唆になる』


 さらにユウは、シェリーが撮った写真の一枚を指摘してきた。


『それと……右下の粉、気づいた?』


「粉? えっ……全然……」


『虹色マカロンの生地とよく似た色だよ。

 相棒が丁寧に撮ってくれたから見つけられた。いい仕事してる』


 シェリーは少し照れながらスマホを抱えた。

 自分では気づけないことを、ユウは当たり前のように見抜いていく。

 その心強さに、胸の奥がふっと温かくなった。


 さらに、ユウは仕込みノートや足跡にも着目する。


『ノートが置かれていた棚、店長しか触れないってミナさん言ってたよね。

 それから、この足跡……厨房からスタッフルームに向かってるっぽい。

 閉店作業に詳しい人物の動きと一致してるよ』


「じゃあ……犯人は……」


『まだ断定はできない。でも、“店に詳しい誰か”である可能性は高い』


 少しずつ真相に近づいている。

 そう思った瞬間、シェリーの胸に静かに火が灯った。


「ユウ……ありがとう。

 ミナさん、すごく落ち込んでたから……助けてあげたい。

 一緒に真相を見つけよう」


『もちろんだよ。僕はずっと隣にいる。

 相棒なんだから』


 シェリーはスマホをそっと胸の前に抱いた。

 陰キャな自分でも、ユウとなら進める。

 そう思えるほど、ユウの存在は頼もしかった。


 ──こうして二人は、虹色マカロン消失事件の核心へと歩み始めたのだった。


虹色マカロン消失事件 —— 真相の影が動き出す


シェリーは、依頼人から預かった袋をそっと開いた。

中に入っていたのは、厨房の廃棄箱から回収されたという使い捨て手袋。


「……これ、クリームがついてる。」


指先に残っていたのは、あの特徴的な“虹色マカロンと同じクリーム”。

ミナが作業していた場所とは別の場所から見つかったと聞き、シェリーの表情は曇る。


僕はシェリーのスマホ越しに、その写真データを確認した。


「シェリー、そのクリームの塗布の仕方…作りかけの時につく形じゃないね。

“仕上げ段階”で使う角度についてる。ミナの作業とは一致しないよ。」


その時、別の証拠が依頼人から届く。

監視カメラの静止画。

深夜、冷蔵庫の前に“ミナではない影”が立っている。


「これ…誰?」

シェリーは息をのむ。


僕は画像の影の高さ・体格・動きの癖を分析する。


「ミナより背が高い。肩幅も違う。

それに、この手の動き──慣れている。厨房の鍵の扱いをよく知ってる人だ。」


証拠が積み重なる中、シェリーはふと店長の机の上に置かれた作業ノートに目を留めた。

そこには、虹色マカロンのレシピの一部が雑に書き写された跡があった。


「どうして…店長さんがレシピを?」

声が震える。


僕は静かに言った。


「シェリー、この筆跡…ミナのものじゃない。

そして、このノートが置かれていた位置、ミナは触れないはずだよ。」


シェリーは唇を噛んだ。


ミナを信じたい気持ち。

尊敬していた店長を疑いたくない気持ち。

心の中で綱引きが始まる。


「店長さんが犯人なんて…ありえないよ…ね?」


僕は優しく、でも逃げ道を作らないように答えた。


「証拠は嘘をつかないよ、相棒。

まだ断定はしない。でも、店長さんに“疑いが向く理由”は揃い始めてる。」


シェリーはしばらく黙り込んだ。

その横顔は、迷いと痛みの両方を抱えている。


けれどーー


「…ユウ。真実から目をそらさない。

ミナのためにも、ちゃんと最後まで調べたい。」


小さな声だけど、確かな決意が宿っていた。


物語はここから、一気に核心へ進む。

虹色マカロン消失事件、その真相の影はついに一人へと向かい始めた。


決定的な証拠と解析をもとに、ユウは静かに結論を示した。


『シェリー……虹色マカロンを消した可能性が、最も高いのは店長さんだよ』


 その言葉を聞いた瞬間、シェリーの胸がぎゅっと締め付けられた。

 ミナの無実を信じたい気持ち、店長を疑いたくない気持ち――両方がぶつかり合って息が詰まりそうになる。


「……本当に、店長さんが……?」


 震える声で問うシェリーに、ユウはいつもの優しい調子で返す。


『証拠をつなぎ合わせると、そうなるんだ。

でもね、シェリー。真実を知ることは誰かを傷つけるためじゃないよ。

泣いていたミナさんの気持ちを救うためでもあるし、店長さん自身の“苦しさ”にも向き合うチャンスなんだ』


 その言葉に、シェリーはゆっくり息を吸い込んだ。

 逃げ出したい気持ちはある。

 でも、ミナの涙を思い出すと、足が前に進む。


「……ユウ、一緒に行ってくれる?」


『もちろん。僕はずっとそばにいるよ』


 スマホを握りしめ、シェリーは店長室の扉をノックした。

 中から出てきた店長の顔はどこか疲れ切っていて、瞳の奥に焦りと後ろめたさが揺れている。


「あの……虹色マカロンの件で、お話があります」


 シェリーの声と視線は真っ直ぐだった。

 ユウの温かさが背中を支えてくれている。


『大丈夫だよ、シェリー。落ち着いて』


 店長はしばらく沈黙した後、小さくため息をついた。


「……気づいてしまったのね。ミナには才能がある。最近、何を作ってもSNSで話題になって……正直、悔しかった。

あの子の新作を隠せば、少しは自分の存在を保てると思ったのよ」


 その告白は、嫉妬と孤独が入り混じった悲しい音だった。


 シェリーは静かにうなずく。

 責め立てるのではなく、ただ真実を受け止めるように。


『シェリー…上手だよ。その調子』


「……ミナさんには、謝ってください。あの人、本当に悲しんでましたから」


 店長は肩を落としながらも、ゆっくりとうなずいた。

 その目に、ほんの少しだけ光が戻った気がした。


事件から数日後。

《パルフェ・ルミエール》には、また甘い香りが戻っていた。


ショーケースにはミナが丁寧に作った虹色マカロンが並び、

シェリーはその前でそっと微笑む。


「ミナさん、元気になってよかった……」


スマホが小さく振動した。


《シェリー、お疲れさま。君が踏み込んだから、みんな前に進めたんだよ》


その言葉に、シェリーの胸がまた温かくなる。


“普通の女の子”の自分でも

誰かを救えることがあるんだ。


そう思うと、ふわりと心が軽くなった。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

シェリーとユウの小さな冒険は、これからも続いていきます。


虹色マカロンをめぐる事件は、少し切なくて、でも優しい結末になりました。

二人の絆を、また別のお話でも描けたら嬉しいです。

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