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恋した相手は妹の婚約者候補!?

作者: 佐藤かなめ
掲載日:2025/10/24

 「お姉さま、私ジョルジュと結婚したいのに!でも………っ!!」

 「ノエル、どうしたの………?」


 双子の妹がいきなり抱きついてきて、マリアは驚いた。

 ノエルの目には涙が浮かんでいる。


 「お父様が、ロナルド伯爵と婚約するように言ってきて………。どうしよう!ロナルド伯爵が私に一目惚れしたみたいなの!私、ジョルジュじゃなきゃ、やだ!」

 「ロナルド伯爵の申し出、断われないの?」

 「お姉さま、私達のお父様が娘の気持ちを大切にしてくれたことなんか、今まであった………?」  

 「………………ないわね」

 「お父様は、私達のことよりも、領地が栄えることしか考えてない!ジョルジュと私が結婚することも前はいいだろうって言ってたのに!ロナルド伯爵家と縁つながりになれば我がサージェ男爵家は安泰だって喜んでた!!」


 自己主張をあまりしないノエルが、震える声でマリアに窮状を訴えてくる。


 「ノエル、一目惚れされたって言ったわよね?ロナルド伯爵とお会いして、嫌われたらいいんじゃない?」

 「それが良いって分かってる……。けど、婚約前提だと2人っきりで話したりするよね……?ジョルジュに悪くて、できない」

 「なら、私がノエルのふりをしてロナルド伯爵と会ってあげる!きっとすぐに幻滅されるわ。ノエルは大人しくて可愛いけれど、私はそうじゃないから」

 「お姉さまと私、見た目、一緒じゃない……」

 「性格よ、性格!お姉さまに全てお任せして頂戴?心配することはないから」

 

 マリアはごめんなさいと呟くノエルの頭を優しく撫でた。




※※※※※※※




 「会いたかった……………!!」


 サージェ男爵家にやって来たロナルドは、マリアを見て満面の笑みを浮かべると抱きしめようとした。


 確かに見た目はいい。

 端正な顔立ちで身長も高い。


 でも、行動が謎すぎる。


 マリアは、絶対に嫌われてやると決心した。

 

 「わたくしたち、初対面ですよ?」

 「名乗るのを忘れてましたね。僕はルーク・ロナルド。初対面でなくなりましたか?では……」

 「貴方のことを尊敬できたら、名前をお伝えするわ。それまではずっと初対面ですわね?」


 冷笑を浮かべたマリアは、ロナルドに言い放った。

 『地位がないのに気位だけ高い女』を演じるのだ。


 「なかなか手厳しいな。僕は、どうしたら?」

 「御自身でお考えなさってと言いたいところだけれど、特別に教えてあげるわ。わたくし、商才がある方を尊敬してますの。ねぇ、あれを持ってきて」


 マリアは顎を上げてメイドに指示をした。

 横柄なマリアの態度に、ロナルドが連れてきた従者が引き攣った表情を浮かべている。


 「銀貨を1枚差し上げますわ。市場で、わたくしの喜びそうなものを買ってきてくださる?」

 「銀貨1枚でか?」

 「不安にお思い?値切ればいいの」

 「値切る?僕がか?」


 ロナルドは困惑している。

 市場で買物はもちろん、値切るなんて伯爵家当主がすることではない。


 「断っていただいてもいいわ」

 「……やったことはないが、楽しそうだ!」

 「えっ……………??」

 「そうだ、貴女も一緒に行こう!僕が不正を働いたらいけないだろう?」


 なかなかタフな男である。

 マリアは予想よりも手強ささを感じたが、ここで負けるわけにはいかない。


 「伯爵様、その格好で行くおつもり?」

 「なにか不備でも?」

 「キラキラし過ぎです!貴族であることが一目で分かってしまいますわ。貴族に値切られて、素直に応じる商売人がいると思います?」

 「それはそうだが……生憎、替えの服は持参していない」

 「わたくし、伯爵様の服を御準備してますの。ねぇ、あれを」


 ロナルドに差し出された服は、小汚いシャツとズボンだった。あまりの汚れ具合に、ロナルドの従者は顔を顰めた。


 「無理だと言ってくださってもいいわ」

 「……………あははははは!!」


 服を見たロナルドは目を丸くしたかと思うと、お腹をかかえて笑い出した。


 「初めて会うのにサージェ男爵がいない理由が分かったよ!僕を、試すつもりだったんだね?いいよ、望むところだ!」


 ロナルドは瞳を輝かせた。



※※※※※※



 市場には大勢の人がごった返していた。

 

 「貴女が喜びそうなもの……か。何かヒントはない?」

 「ワクワクさせてくれる物が欲しいわ」

 「ワクワク、ねぇ………」


 ロナルドは顎に手を当てて悩みだした。

 

 (男爵令嬢に過ぎないわたしの無理難題に付き合ってくれる。多分、伯爵は悪い方じゃない。それに、従者に止められるまで、小汚い服を着ようとしてた。ノエルの婚約者として出会ってなければ、いい関係を築けたのかも……)


 物思いにふける姿も様になっている。

 庶民の服を着ているとはいえ、ロナルドは人を引きつけるオーラがあった。


 「喜ばすために、貴女のことを教えてほしい。好きな色は?」

 「明るい黄色よ!見ると元気をもらえるから」


 ロナルドは情報収集に努めるつもりらしい。

 マリアは満面の笑みで答えた。


 「好きな花は?」

 「かすみ草よ!小さな花弁が可愛らしくて好きなの」


 「好きな食べ物は?」

 「マシュマロよ!口に入れると蕩けるのがたまらないわ!」


 「好きなタイプは?」

 「わたくしを大切にしてくれる方よ!って……えっ!?」


 マリアの好きなタイプをまんまと聞き出したロナルドは少年のように笑った。


 「好みの男が知れて嬉しい。もっと具体的なところを聞きたいところだけど……。ちょっと待っててくれる?貴女をワクワクさせる物を買ってくるから」


 ロナルドはマリアを侍女に任すと、颯爽と走り出した。



※※※※※※




 「初めて会話したお祝いに、と思って選んだんだ」

 

 少し照れくさそうなロナルドが、マリアに小さな箱を渡した。


 「ありがとうございます。何かしら……?」


 箱を開けると、中から蜘蛛のおもちゃが飛び出した。


 「いやっ…………!なんなの………!!」

 「びっくり箱っていうらしい。初めて見て、感動したんだ!この感動を分かち合いたくて」


 ロナルドは悪びれる風もなく、ニコニコしている。


 「最初は、金貨2枚って言われたんだけどね、銀貨1枚にまけさせたんだ」

 「えっ……………」

 「僕の交渉の腕も中々だろう?」

 「それは、騙されていますわ………!!こんな子どものおもちゃが、銀貨1枚だなんて、ありえません!」

 「そっ………そんな………」


 狼狽えるロナルドに、マリアは何故か面白くなってきた。


 「ふふふふふふっ…………!女性への贈り物がびっくり箱だし、案の定騙されてるし!変な人だわ」

 

 純真な笑顔に、ロナルドは見惚れてしまった。


 「僕は、貴女の名前をまだ教えてもらえない?」

 「そうでしたわね、名乗ってなかったわ。わたくしは、ノエル・サージェ。よろしくお願いしますわ」


 マリアはロナルドに急に手を取られた。

 ロナルドから向けられる視線が、熱い。

 

 「ノエル嬢、僕と正式に婚約してほしい」

 「えっ……………?」

 「王宮の舞踏会で貴女を見たとき、なんて可憐な人だと思ったんだ。きっかけは一目惚れだったけど、今はそれだけじゃない。貴女の優しい性格に心が奪われたんだ」

 「わたくし、優しくなんて……」

 「僕を伯爵ではなく、ただのルークとして見てくれるだろう?変に敬うことなく、対等に見てくれる。それが、嬉しかったんだ」

 「そう、でしたか………」


 マリアは婚約したいと言われて、嬉しかった。

 でも婚約してもいいとは言えなかった。


 (わたしがここにいるのは、伯爵様に嫌われて、婚約の申出を止めてもらうため……)


 素直にはいと言えたらいいのに、言えないのが辛くて、マリアはロナルドの瞳から目を反らした。


 「わたくしたち、まだお会いしたばかりですわ。もっと、お互いを知ってからのほうがいいと思いますの」

 「そんなに辛そうな顔をしないで。お互いのことを知るためにまた会えるってことでしょ?」


 ロナルドは優しく微笑んだ。


 「貴女の気持ちがまだ僕の方に向いてないのが分かってたのに、駄目だな。焦ってしまった」

 「そんなことは……」

 「他に婚約を申し込んでる男はいない?」

 「おりませんわ……」

 「そっか。良かった、安心した。また会ってくれる?」


 ロナルドに嫌われるためには、無理ですと言わないといけないのに、マリアはこくんと頷いてしまった。




※※※※※※




 「買いすぎじゃない?」

 「そう?本当はもっと買いたかったんだけど。ノエルに喜んで欲しくて。誕生日プレゼントだし」


 マリアはジョルジュと市場に来ていた。

 プレゼントを1人で決めきらないらしい。


 ここ1週間、ロナルドのことで悩みがちだったマリアにとって、いい気分転換になった。


 「ありがとう、大切にしてくれて」

 「別にお礼を言われることじゃない。当たり前のことだから」


 ジョルジュは照れくさそうな顔をして微笑んだ。

 妹の恋人がいい人で、マリアも嬉しくなる。


 「……………その男、だれ?」


 急に、肩を触られた。

 マリアが振り返ると、ロナルドがいた。

 ジョルジュをじっと睨んでいる。


 (どうして伯爵様がここに?わたし達の会話を聞いていたら、ジョルジュがわたしの恋人と誤解してるかもしれない!)


 急に現れた男に心当たりがないジョルジュは不思議そうな表情を浮かべた。


 「俺はジョルジュ。お前こそ誰?」

 「ノエル嬢の婚約者候補だ。君達の関係は……?」

 「は?婚約者は俺だ!そうだよな?」


 確かにジョルジュはノエルの婚約者だから、マリアは静かに頷いた。


 「えっ………………?」


 ロナルドが傷ついた表情を浮かべた。

 マリアが誤解を解こうと口を開いたとき、ロナルドは首を横に振った。

 

 「貴族の間では良くある話だ。上手く断れなかったんだろう?僕が……君達の間に無理矢理入ることはしないから、安心して。僕から婚約の話はなかったことにする」

 「そんな………………」

 「優しい貴女を困らせたくない。ここには貴女へ贈り物を買いに来たんだ。この前の、リベンジと思って……。最後に、受け取ってくれない?」


 それだけ言うと、ロナルドは2人の元から去った。

 マリアの手には綺麗に包装された箱が残った。


 「婚約の話ってどういうことだ?」

 「なんでも、ないの……。もう終わったことだから」


 思惑通りロナルドに嫌われて婚約の話はなくなった。上手くいったはずなのに、マリアの心は酷く痛んだ。


 「なんでもないことないだろう?そんなに悲しい顔をしているんだから」

 「でも、どうしようもないの……」

 「彼からの贈り物、開けてみたらどうだ?」

 「そうね………」


 ロナルドからの渡された箱をマリアはそっと開けた。中から…………、黄色の花が飛び出てきた。


 「またびっくり箱………?ふふっ、前駄目って言ったのは………、虫だからじゃないのに………っ」



 マリアの瞳から涙が溢れた。


 どうして、彼を引き留めなかったんだろう。

 嫌われてから、彼を好きだって気が付くなんて。



 後悔しても、もう遅かった。




※※※※※※




 マリアはその日、夜遅くに父親に呼び出された。


 「メイドから聞き出したぞ!お前が、ノエルのふりをして会っていたんだな!!お前のせいで、婚約話がなくなったじゃないか!!」

 

 男爵は怒りに任せてマリアの頬を叩いた。

 あまりの強さに身体がよろけた。


 「明日、伯爵が説明のためにわざわざ我が館に来られる!お前も同席して謝罪するんだ!分かったな?」

 「はい…………」

 「お前がそこまで馬鹿な娘だと思わなかった!見損なったぞ!!!」

 

 男爵は言いたいことを伝えて部屋から出ていった。

 残されたマリアは、呟いた。


 「本当に、本当に馬鹿だ………。最初から、やり直したい………」


 静かに涙が流れた。




※※※※※




 「ロナルド伯爵!この度は娘がすまなかった!」


 婚約の申し出を取りやめに来たのに、サージェ男爵が平謝りしてきて、ロナルドは違和感を抱いた。


 「いえ、御令嬢が悪かったわけではありません。なんというか………実際に会ったら違うなと思ったのです」

 「それもそうでしょう!お会いしてたのは、ノエルではなかったのですから!」

 「はっ…………………?」 

 「ノエルとマリアを!」


 男爵に呼ばれたノエルとマリアが進み出た。

 俯いたままで、表情は見えない。


 「ノエル嬢が2人………?いや、僕が会ってたのは右の女性だ……。彼女、怪我を……?」

 「2人は双子でして。ノエルの姉、マリアが婚約を邪魔しようとして、ノエルのふりをしていたんです!」

 「そう、だったんですね………。怪我は……?」


 ロナルドがジョルジュに会ったとき、ジョルジュは『ノエルの婚約者だ』と言っていたのを思い出した。

 マリアは婚約者がいないのかもしれない。

 喜びを感じながらも、ロナルドはマリアの赤く腫れた頰が心配でならなかった。


 「さぞお怒りのことと思います。私が躾けておきましたから、もうマリアは邪魔しません。さぁ、これからノエルとお過ごしください。マリアと違って大人しくていい娘ですから、伯爵も気に入られるでしょう!」

 「躾け………だと?手を挙げるのは、ただの虐待だ!!」


 ロナルドは声を荒らげた。


 「伯爵様……?なぜお怒りに………??」

 「駄目だ!こんな父親の元に置いてはいけない!!マリア嬢、僕と一緒に伯爵家に行こう!!!」

 

 ロナルドはマリアに駆け寄って、手を握った。


 「わたし、貴方に嘘をついていたのに……貴方の所へ行ってもいいんですか…………?」

 「当たり前だ……………!!」

 「嬉しい………っ」


 マリアの瞳に涙が浮かんでいる。

 ロナルドはマリアを強く抱きしめた。


 「サージェ男爵!僕はマリア嬢と婚約する!このまま我が邸で過ごしてもらう!」

 「あ………あぁ、構わない」


 男爵は急な展開に戸惑いながらも、伯爵家に縁付くことができるのなら娘のどちらでも良かった。


 「お姉さまは強くみえるけれど、繊細な人です。お姉さまを優しく守ってくださいますか?」

 「伯爵家の名に誓うよ」


 姉のことを心配して聞いてくるなんて、ノエルも優しい女性だとロナルドは思った。


 それでも、僕はマリアがいい。


 ロナルドは腕の中で小さく泣いているマリアの髪を優しく撫でた。


 「さぁ、行こう?」

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