第3話 「ショータイム」
バーミンガム市内では厳戒令が出されていた表向きはピカデリー•サーカスで起きたテロ事件の影響だと発表されていたが、実際は街に蔓延る売人対策だった。そんな人気の無い道路を1台の黒塗りの高級車が駆けていく。
「本当に夜は誰も居ませんね」
「かえってやりやすいわ」
車は歓楽街へと入って行く厳戒令にも関わらず街は賑わっていた。「ここで止めて、アリシアとレイス、二人に調査を頼みたい所があるの」
エルザの頼みに二人が答える。「分かった直ぐに取り掛かろう」「お嬢様の為なら如何なる頼みも聞きましょう。」レイスが車を歩道の脇に止める。
「それじゃあ二人が行っている間私はドナと待って居るよ」
「ええ!お嬢様と二人きりですか?」
ドナが慌てふためく。「私と二人きりは嫌か?久しぶりにドナとお茶でも飲みながらトークでもしたいなと思っていたのだが。」エルザが溜息を付くとドナが直ぐにエルザの手を握る。「エルザ様のお誘いを断る理由なんてありません!是非二人きりでお話しましょう!」
そんな二人の様子を見てアリシアとレイスも言う。
「直ぐに終わらせて戻ってくる我が主人よ」
「私もエルザ様と語り合いたいので直ぐに終わらせます」
「二人共待って居るよ」エルザがにこやかに笑いながら車の窓を閉じる。
「それでは行きましょうかアリシア」
「ああ、背中は任せるよ」二人はそう言うと地下のクラブへと続く階段を降りて行った。
「お嬢さん方会員証は持ってるか?」クラブの扉の前でガードマンの男が言ってくる。
「私達はこうゆう者です」レイスが政府機関の手帳を見せる。「何か事件でもあったのかい?」男が慌てた様子で聞くが。「貴方は自分の仕事に集中した方が良いと思いますよ、それで入ってもいいですか?」レイスの言葉を聞き直ぐに男が扉を開け通す。
「撃っていれば速かったんじゃないか?」アリシアがレイスに耳打ちする。
「手荒なことはいけません、それに仕事はスマートに行う物ですよ」レイスの説明を受けアリシアが「そうかそれなら仕方ないな」一人呟きながら進んで行く。
クラブの中は激しいEDM調の曲が鳴り響き、若者達が奇声を上げながら躍っていたり、バーのカウンターで若い男女が酒を飲み交わしていたり。奥の通路ではキャップを被った男が現金と引き換えに白い粉のは入った小袋を渡していた。
「いつ来ても慣れないな、ここは動物園と何も変わらない。」アリシアがうんざりしながら言う。
「その意見は私も同感です、とりあえずカウンターまで行きましょうか」二人はバーのカウンターまで移動する。
「注文はお決まりですか?」バーテンダーが二人に話し掛ける。
「私はスコッチで」
「私はピーチカクテルで」二人が注文するとバーテンダーが酒の用意をする。
「二人共見ない顔だね、ここに来るのは初めてかい?」話し掛けられた方を見ると先程ドラッグを売っていたキャップの男が話し掛ける。
「ええ、私達観光できたんだけど外は戒厳令が引かれて暇でしょう?そんな時にホテルのボーイに紹介されてきたの」レイスが何時もの丁寧な口調を止め気さくに話し掛ける。その姿を隣のアリシアが笑いを堪えながら聞いている。
「へぇ~そのボーイは優秀だね、この街で一番のクラブだから退屈はしないぜ俺はデリントって言うんだ君達は?」デリントが二人に聞く。
「私はレイチェル、そしてこっちがアリスよ」レイスが偽名で紹介する。
「レイチェルにアリスかいい名前だな、所でアリスは何で一言も話してくれないんだい?」デリントが不思議そうに言う。
「貴様のような屑と話したくないだけだ」アリシアが小声で呟くのをレイスが聞き直ぐにフォローする。
「この子凄く人見知りで無口なの、だから初対面でハンサムな貴方を前にして緊張しているのよ」
「何だそうだったのか、それなら良いけど怖がらせちゃったらごめんねアリスちゃん」デリントとレイスのやり取りを聞きアリシアが拳を握り絞める。
「レイス、後で覚えていろよ?」アリシアが小さく耳打ちする。「ごめんなさいアリシア、でも今は仕事が最優先ですよ?お話なら後でじっくり聞くので」二人のやり取りをデリントが訝しげに見る。
「気分を悪くしたなら謝るよ、お詫びと言っちゃあなんだがこれをプレゼントするよ」デリントがレイスに何かを渡す、見ると先程売っていたドラッグだった。
「実を言うと私達今回の観光はこれが目的なの」レイスが小袋をヒラヒラとしながら言う。
「そいつはよかった、俺の扱う商品は純度100%の純正品だからなきっと気に入ってくれるぜ!」デリントがそう言いながら巻煙草に火をつける。
「私達これくらいじゃあ満足できないの、この街に来たのも新作の噂を聞いて来たんだけど貴方は扱ってないの?」レイスがカマをかけるとデリントが答える。
「そうか、ならヘロインなら300ユーロ、コカインなら500ユーロ、その2つとケシを混ぜたブレンド品なら1000ユーロは掛かるぜ?」デリントが3種類の小袋を出しながら言った。
「ユーロ?ポンドじゃないの?」
「ポンドだと後々足がつきやすいからな、俺はユーロでしか取引しないんだ」デリントが耳打ちする。
「これで全部なの?」レイスが再び聞く。
「俺が扱っているのはこれで全部だ、他に何が欲しいんだ?」デリントが苛立ちを見せる。
「私達が欲しいのは最近出回っているって噂の奴なんだけど?」
「遠回しに言わないでハッキリ言ってくれよ、物によっちゃあ仕入れるぜ?」その言葉を待っていたとばかりにレイスが本題をきり出す。
「ディアボロイドってある?」それを聞きさっきまで余裕げな表情を見せていたデリントの顔が強張る。
「何処で聞いたんだ?」
「ロンドンの知り合いからちょっとね、最近バーミンガムで新作のドラッグが流行ってるから試して見ろって言われたの」レイスが言うとデリントが返す。
「仕入れる事は出来る、だけどこの事は他言無用で頼む。でないと俺も消されちまうからな」デリントが怯えた様子で言う。
「出来れば何処で買えるか知りたいんだけど?」レイスが甘えた声でデリントに言う。
「それだけは言えないんだ勘弁してくれ」デリントがテーブルに置かれた酒を一気に飲み干す。
「教えてくれるなら今直ぐトイレで私を好きにしても良いって言ったらどうする?」レイスが胸元を開けさせながら言う。それを見たデリントが覚悟を決めたように言う。
「分かったよ、でも絶対に他言無用で頼むからな?」
「ええ、良いわよ」レイスが話を聞こうとすると。
「その前に楽しませてもらってからでいいか?」デリントがレイスの手を握りながら言う。
「勿論良いわよ、アリスちょっと待ってもらってもいい?」レイスがアリシアに言う。
「ここで待ってる。」アリシアがそういいながらスコッチを煽る。
「それじゃあ行きましょうか」レイスがデリントの手を引きトイレへと向かう。
10分後、、トイレからレイスだけが帰って来る。
「お待たせしました、情報は全て聞き出せましたよ」
レイスが何時もの無表情な顔でピーチカクテルを飲む。
「レイス一つ聞いてもいいかい?」
「はい、何でしょう?」
「もしかして本当にあの男に抱かれたのか?」
そう言われレイスが吹き出す。
「ありえません!私の身も心も好きにしていいのはエルザ様だけです!あんな蛆虫に抱かれる位なら死んだほうがましです」アリシアが笑いながら「さっきのお返しだよレイス」と答える。
「冗談にしては笑えませんよ、私を好きにしていいのはエルザ様と貴方だけなんですから」レイスが頬を染めながら小さく呟く。
「それじゃあ、愛しの主人の元へと帰ろうか」
「そうですね」二人はそのままクラブを後にする。
「おい、誰か入って居るのか?おい!」
男性用トイレの個室の前で複数のチンピラが叩く。
「鍵が掛かってるから誰か居ると思ったんだけどな」
「任せろ俺が蹴破ってやるよ!」1人が扉の前に立つと思い切り蹴飛ばす。扉の鍵が壊れチンピラ達が開けると。
「うわぁぁ!何だよこれ!」
「警察、警察を呼べよ!」
中には眼球と舌が無く苦悶の表情で息絶えたデリントの死体があった。空洞になった目と口からは黒い液体が流れていた。
第3話完 第4話に続く。




