第1話 「GOODEVENING」
「現場からの中継です!現在午後9時32分ピカデリー•サーカス駅で発生した無差別テロを鎮圧する為ロンドン市警の特殊部隊が到着しました!」
リポーターの女性が実況する中ピカデリー•サーカス広場では負傷者の手当てが行われていた。
「いいか!事件は今日の午後6時17分に起きた!容疑者は4名、全員重火器を所持している。」
広場から少し離れた場所にロンドン市警の対テロ作戦本部が設置されており年配の隊長が指示を出していた。
「新入り緊張するかい?」
隊員の1人が動きのぎこち無い若い隊員に話し掛ける。
「え?俺ですか!」
「お前しかいないだろ?吸うか?」
先輩隊員がタバコの箱を渡す。
「いえ、結構です」若い隊員が断ると先輩隊員はタバコを一本取り出し火を点ける。
「まあ、この隊に居ればいやでも人を殺す事になる、それが無理になって辞めた奴も沢山いたよ」
「ワトキンスさんは大丈夫なんですか?」
若い隊員に言われワトキンスはタバコの煙を吐く。
「俺はもう慣れすぎちまってるのさ」
ワトキンスの言葉を聞き若い隊員は黙った。
「隊列を乱すなよ!それでは今から突入する!」
隊長の号令と共に30名の隊員達が突入する。そして突入から2時間経っても隊員達が戻る事は無かった。
「ヴェケット警部!ヴェケット!応答しろ!中で何が起きている!」現場の指揮をしていた警部が何度も無線を送るが誰一人応答が無かった。
「クソ!どうなっているんだ我が市警の精鋭達なんだぞ!」突入から2時間現場に突入した隊員達からの連絡が途絶えた。構内の監視カメラも破壊されており安否確認もできずにいた。
「警部!署長から電話です!」
若い警官が電話片手に作戦本部へと来た。
「はい、こちらアリソン、、それは本当ですか?でも何故政府の組織が?はい、はい、分かりました。では失礼します。」
「皆直ちに集まってくれ今から政府の人間が来るらしい」アリソン警部は警官達を集め署長からの指示を伝えた。
10分後1台の黒い車が到着した。運転席からブロンド髪の美しいスーツ姿の女性が降りてきた。
そして、後部座席から2人の人物が降りてきた。1人は赤毛の若い女性、もう一人は長い黒髪の少女だった。
「貴方達が政府からの」
警部が迎えるために歩いてきた。
「はい、私達は王室直下の特務機関クラージマン•ハウンズです以後お見知り置きを」ブロンド髪の女性が政府のバッジを見せながら言った。
「貴方がヘルシング卿なのですか?」警部が言うと。
「いえ、我が主人はこちらの方です」
女性の指した方を見ると先程の少女が居た。
「君がヘルシング卿?まだ子供じゃないか!」
警部にそう言われ少女は不機嫌そうに答える。
「人を見掛けで判断してはいけませんよ、初めましてクラージマン•ハウンズ長官のエルザ•ヘルシングと申します。因みに年齢はこう見えても28です」
少女は不機嫌そうに警部に挨拶した。
「これは大変失礼しました、貴方がヘルシング卿だったんですね。」作戦本部の椅子に座った状態で警部が謝罪する。
「いいですよ訳あって身体の成長が17の時で止まっているので」エルザはコーヒーを飲みながら言った。
「エルザ様、気になさらないでくださいよ」
「そうですよ!それに警部も悪気があって言ったわけじゃないんだし」二人の従者がエルザをなだめる。
「お二人方もヘルシング卿の関係者ですか?」
「はい、私はエルザ様の執事をさせていただいています、レイス•キャメロットと申します」ブロンド髪の麗人が会釈する。
「それで私がエルザ様の秘書のドナ•コールマンです」
赤毛の女性も名乗り会釈する。
「後1人私の従者が居るんですが彼女には直接現場に向かってもらっています」
エルザが時計を見ながら答える。
「直接向かったのですか!?でも駅の入口は封鎖していた筈ですよ。」
警部が青ざめた顔をして狼狽える姿を見ながらエルザがコーヒーを飲んでいると。いきなり対策本部に置かれた電話が鳴り響いた。
「時間通りだな」エルザが直ぐに電話を取る。
「もしもし私だ、そうか着いたか状況は?分かった生存者は極力救う様に。そしてターゲットを見つけたら」エルザが途中で止め警部を見る。警部は無言で頷く。
「見つけ次第制圧しろ、手段は任せるそれじゃあ必ず私の元へと帰ってくるんだぞ?」エルザの表情が少し穏やかになりながら受話器を置いた。
「たった今私の従者が現場に着きました、これから生存者の探索とターゲットの制圧を行います。」
「封鎖していたのに一体何処から入ったんだ?」
「さあ、でも後の事はプロである彼女に任せるに限ります。」
「アリシアなら大丈夫ですよ」
「やり過ぎないといいけどね」
エルザ達の反応を見て警部は大人しく従う事にした。
「まだ生きてる奴はいるか?」
「いやもう1人も生きちゃいねえよ」
照明がチカチカと点滅する駅のホームで男達が話していた。
「それにしてもこの薬凄えな!銃で撃たれても直ぐに治るぜ!」
「その分喉が異常に渇くけどな」
男達の姿は人間とは程遠いものだった。口には鋭い牙が生え揃い、目は獣の様な鋭い眼光をしていた。
そして彼らは辺り一面血の海と化したホームに居座り床に転がる人の肉を喰らっていた。
「しかし特殊部隊も大した事無かったよな!奴等俺にありったけ打ち込みながら、「何で死なない!」なんて叫びやがってよ!あの絶望した顔ときたら最高に笑えたぜ!」
男の1人が隊員の生首を持って笑う。
「隊長の警官も必死に逃げようとして何度も倒れてたよな、挙げ句には小便漏らしながら助けて下さいって泣きながら言ってたな!」
「あれは最高に笑えたぜ!」
男達が笑いながら無残な姿のヴェケットを照らす。その身体はズタズタに引き裂かれ内臓を引き出し首に掛けて駅の看板にぶら下げられていた。ポタポタと血の滴る音をたてながらヴェケットは苦悶の表情を浮かべて揺れていた。
そんな変わり果てた仲間達の姿を駅のホーム下に隠れていた若い隊員ウォレンスが見ていた。彼は仲間達が突入する際一番最後尾に居た事で難を逃れていた。
「配属初日であんな化物が相手かよちくしょう!」
ウォレンスは手にしていたアサルトライフルの弾倉を確認する。中身は一発も撃たれておらず全弾入っていた。彼は仲間達が一斉に発砲する中咄嗟に線路へと飛び込み戦闘に参加していなかった。幸か不幸か仲間達はテロリストに引き裂かれ隊長は断末魔を上げて死んだ。彼は全てを震えながら聞いていた。
「全部お前が手伝ってくれたお陰だぜワトキンス!」
聞き覚えのある名を聞いてウォレンスがホーム下から顔を覗かせ確認する。
「良いってことよ俺もそろそろ転職を考えていた所だからな。」ワトキンスは男達と同じ様に手に人の足を持ったまま現れた。その姿は男達と同じ様に牙が生え揃い、獣の様な瞳をした姿だった。ワトキンスは肉を頬張りながら近くのベンチに座る。
「所でお前達のボスには会えるんだろうな?」
「もちろんさ、ここから逃げ延びたら直ぐにでも紹介するぜ」
ワトキンスと男達が談笑する。ウォレンスは静かに下に戻ると肩に掛けた無線に話し掛ける。
「本部こちらウォレンス巡査応答してくれ」しかし無線からは砂嵐の様な音が聴こえるだけで返答がない。
「本部!本部!クソ!壊れてやがる」ウォレンスが無線を切った時だった。
突然ヴェケットの死体が上から降ってきた。
「よお、ルーキー生きてたのか?」そして邪悪な笑みを浮かべながらワトキンスが降りてきた。
「離せ!止めろ!止めてくれ!まだ死にたくない!」
ウォレンスは引き摺り出され血塗れのホームへと投げられた。怯えるウォレンスを見て男達が笑い出す。
「おいこいつ漏らしてるぜ!」
「坊やそんなに怖いのかい?心配するな直ぐにお前も仲間の所に送ってやるからな!」男達が次々に嘲笑う。
「ワトキンス!あんたなんでこんな奴等に協力しているんだよ!アンタも警官だろ!」
「言っただろうルーキー俺はもうこの仕事に慣れちまったって、つまりだな俺はこの仕事にやり甲斐ってのを無くしちまったんだよ」
「だから仲間も全員殺したのか?それになんだよその姿は!」ウォレンスは怯えながらもかつての仲間に問う。
「お前はまだ若いから分からねえのさお前も俺くらい歳を取れば分かる、おっとお前は今日死ぬんだったな。」ワトキンスはそう言うとウォレンスの足を拳銃で撃ち抜く。
ウォレンスの悲鳴がホームに鳴り響くそれを聴いた男達の目が紅く染まる。
「いいかルーキー最後にお前に教えてやる餌ってのはな新鮮な内に食うのが一番美味いんだぜ」
ウォレンスはその言葉を聴き今から自分に起こるであろう事態を察し青ざめる。
「よせ!止めろ!止めろーー!」男達がワトキンスの合図でウォレンスに飛びかかろうとした瞬間。
突然銃声が鳴り響き男の1人が倒れる。見ると男は頭を撃ち抜かれており痙攣していた。やがてそれもおさまり男の身体が砂状になり消滅した。
「ディランが殺られた!どうなってやがる!銃は効かないはずだろう!」他の男達に動揺が広まる中ワトキンスだけは冷静だった。
「そこにいるんだろう?出てこいよ!」ワトキンスの声がした後トンネルの暗がりからカツン、カツンと足音が聴こえてきた。そして暗がりから黒いコートを着た女が現れた。その女は片手に古い散弾銃を持っていて銃口から硝煙がでていた。
「こんばんは、醜い化物達」女は散弾銃にの銃身を折ると弾丸を装填する。
「2連式のショットガンか随分な骨董品だな」ワトキンスが不適に言う。
「この女!よくもディランをやりやがったな!」
「よせジョンソン!」
男の1人が激昂しながら彼女に向かって行く。彼女はゆっくりと銃口を男に向けた。
「撃てるなら撃ってみろよ!俺には効かねえ!」
男が目の前に来た瞬間銃口から火花が出る。
男の身体は宙を舞いながら砂になった。
「どうなってんだよ!銃は効かねえ筈だろ!」
最後の男が騒ぐ。
「通常の弾丸なら効かないだろうな、だが私の弾丸は水銀を練り込んだ特別製だお前達化物には効果抜群だよ」
「面白えな、ジェームズ二人がかりで行くぞそうすればあの銃も使えないからな」ワトキンスが最後に残った男と共に走り出す。
彼女はショットガンを背中のホルスターに差すと腰のホルスターから大型の拳銃を2丁取り出す。
「そりゃねえぜ」ワトキンスはその台詞を最後に砂になり消えた。
「助かったのか」ウォレンスが力無く呟く。
「エルザ、こちらアリシアターゲットは排除した、生存者は1名これより生存者を連れて戻る」アリシアは無線機で連絡するとウォレンスに手を伸ばす。
「立てるか坊や?」ウォレンスはアリシアの手を取り立ち上りアリシアの肩を借りながら歩いて駅を後にした。
「生きていたのかウォレンス巡査!」警部がウォレンスを直ぐ様緊急隊の元へと連れて行く。
「無事に帰ってきたなアリシア」
「ああ、帰ってきたよ我が主よ」アリシアが手を差し出すとエルザが優しく握る。
「ちょっと私達の事忘れていませんか?」
「全く直ぐに二人の世界に入るんですから」
それを見ていたレイスとドナが割って入る。
「居たのか全く気付かなかったよ」
それを聴き二人が顔を見合わせ溜息をつく。
「相変わらず貴方はエルザ様以外に興味がないんですね」
「一応私達も貴方の仲間なんですよ?」
「分かっているさ二人には何時も助けられているよ、ありがとう」アリシアの謝意を聴き二人が頬を染めながら言う。
「そんな改めて言われちゃうと」
「悪い気はしないですね」
「アリシアって本当に人たらしね」
エルザに言われアリシアがフッと笑う。
「それじゃあ帰りましょうか、私達の家に」
エルザがそう言うとレイスが車のドアを開ける。
「ヘルシング卿今回の事件は貴方のお陰で解決できました。ロンドン市警を代表して深く感謝いたします。」警部が見送りながら深く礼をする。その姿に軽く会釈しながらエルザ達が車に乗り込む。そして車が走り出しピカデリー•サーカスの闇へと消えていった。
第1話 完 第2話に続く。