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9. 兄アレクシオス・ルクサリス

 す、すみません! 年末の「ガキの使い」をやってしまいましたぁぁ!



 皆からないがしろにされていた私だったが、兄アレクシオスだけは誰よりも優しく、私を大切に扱ってくれた。

 ただ、大切にしすぎるあまり、私は兄に悩み事の相談ができなかった……。


――以前、このようなことがあった。


 ちょうど、義母からの教育が厳しくなり始めた頃、私は使用人たちから、小さな嫌がらせを受けていた。


 そう高くはないが、小物がいつの間にか無くなっていたり、入浴を終えると下着だけ準備がされていなかったり、朝に用意されていたタオルが、前日に使ったものであったりなど、嫌がらせとしては、些細なものではあった。


 しかし、それらも積み重なると、心の負担は大きくなっていく。


 ある日、魔物討伐から帰ってきた兄に、そのことで悩んでいると打ち明けてしまった。

 すると、兄はすぐさま立ち上がり、男性と女性の侍従長を呼び、屋敷にいる使用人全てを、ただちに大ホールに集めるように命じた。


 使用人たちは「いったい何事なのか?」という感じで、ざわついていたが、最後の使用人が揃ったところで、兄の演説が始まった。


ガッデー(オー・トン・)ーーーム!(ディアヴォロン!)

「この中に、我が愛するカテリーナの私物を盗んだ者がいるッ!」

「心当たりのある者は、一歩前に出よ!」


――えええーーーっ!

 カテリーナは、些細な嫌がらせが、今、まさに大事件に変化しようとしている事に驚いていた。


「……誰も前に出ないのか? 今、正直に前に出れば、軽い罪で許すッ!」


 集まった者たちは、皆一様に困惑の表情を浮かべながら、きょろきょろとお互いに周囲を見渡している。


 焦ったカテリーナは、慌てて兄に近寄った。

「ちょ、ちょ、ちょっと、お兄さま、そこまで大ごとにしないでくだしあぁくぁwせdrftgyふじこ!」


「……そうか、誰も前に出ないのだな」


 すると兄は、神聖魔法の詠唱を始めた。

「……心にやましき思いを持つ者よ、神の名の元に、その真実を明らかにせよ」


 ホールの中が、白い聖なる光に包まれていく。



「ビンタァー!」



 兄の掛け声と共に、バチンという大きな音が響き、数人の使用人が吹き飛んでいた。


――こ、こんな事に高レベルな神聖魔法を使ってしまうなんて……


 兄は、正義や導きの女神と呼ばれるユースティリア神を信仰する聖騎士で、同時に高位の神官でもある。

 母譲りの膨大な魔力量を持ち、その範疇にある自白の魔法は、得意中の得意だった。


「……副メイド長。本来、監督すべき地位でありながら、お前まで加担していたのだな!」


 吹き飛んだ者たちは、皆、顔面蒼白になっていた。


「皆に伝えておく! もし、カテリーナに嫌がらせをした者は、即刻解雇する! それだけでなく、もしそれがカテリーナの身体を傷つけるようなものであった場合には、絶対に容赦しない! 二度とこのような事をするなっ!」


 その後、嫌がらせを自白させられた5人の使用人は、即日解雇され、屋敷から追放された。


「もうこれで安心だよ、カテリーナ。お前は何も心配することは無いんだよ」

「あ、あ、ありがとうございまふ・・・」


 一連の顛末に、カテリーナ自身も顔面蒼白になっていた。

――ひぃぃぃぃ、お兄さま、やりすぎですぅぅぅ!


 ちらっと、使用人たちの方を見てみると、皆が一斉に目を背けた。

――あー、これで私は、恐怖の対象になったのね……


 心の優しいカテリーナは、嫌がらせをされたことよりも、むしろ使用人のことを心配していた。

 そんな性格ゆえに、「お兄さまにだけは、もう、いじめの相談は出来ないな……」とカテリーナは思うのだった。



   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 その後、これら一連の顛末は、実家の用事で不在だった義母カリスタたちにも伝えられた。


「……アレクシオスさまが屋敷に帰ってきているときは、控えるようにしなさい」


 カリスタのこの一言で、兄の滞在中は、カテリーナへの嫌がらせがピタリと止むようになった。

 義妹や義弟すらも、嫌みの言葉を発しなくなり、ただ睨みつけるだけになった。


 兄が帰ってきている日は、カテリーナにとって、心が休まる日となった。


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