84. 炎弾
第一章のクライマックスです。
どうぞよろしくお願いいたします。
――ブファァァァァッ!!
魔人の口から真っ赤に燃える灼熱の火球が、流星群のように試合場へと降り注いだ。
そして、火球が地面に着弾すると、大きく爆ぜてさらに一面を火の海へと変えていった。
その内のひとつが受験生たちの近くに着弾した。
爆ぜた炎の塊が飛び散り、周囲にいた三名の受験生を一瞬で呑み込んでしまった。
「うわぁぁぁぁっ!!」
火に包まれた受験生たちは、慌てて火を消そうとして地面を転げ回ったり、必死に燃え移った防具を外そうとしていた。
「消火だ! 早く!」
「誰か水を!!」
悲鳴と叫びが交錯し、その場所にいた者たちは戦慄した。
「……じ、地獄だ!」
被害を免れた受験生の一人が呟いた。
受験生たちが大騒ぎになる様子を見下ろしながら、魔人は空中で愉悦に浸っていた。
「グワァァァッハッハッハーーーー!!」
――そうダッ! 最初カラ、こうスレバ良かったノダッ!
変身したばかりで、自らの能力を理解していなかった魔人は、今ようやくその能力の使い方を理解し始めていた。
翼を使って空を舞い、障壁に触れぬ高さを保ったまま旋回する。
地に降りて剣を振るう必要などなかった。上空から一方的に焼き払えばよかったのだ。
「クッ……何なんだ、あいつは?」
セバスティアノスが呻いた、その直後だった。
――バシャァァンッ!! ジュゥゥゥッ!!
炎に包まれた受験生の方向で、大きな音が響いた。
轟音とともに大量の水が降り注ぎ、炎が一気に蒸気へと変わっていく。
炎は瞬く間に鎮まり、受験生たちから安堵の声が漏れた。
「おお……!」
そして、マギストロス学長の声が雷のように響いた。
「試合場の魔法制限は解除した! 魔法が使える者は、魔人に対し魔法で対抗するのだっ!」
受験生の騎士トーナメントでは魔法の使用が一切禁じられており、さらに、試合場には魔法を無効化する結界が幾重にも張られていた。
マギストロスはその結界を解呪しながら、なおも障壁魔法を維持し、さらに水魔法で消火まで成し遂げたのだ。
それは、人間の限界を超えた、まさに神業だった。
「ぐっ……」
マギストロスの膝が揺らぎ、倒れかける。
「だ、大丈夫ですか、マギストロスさま!」
盾の騎士団長フォロスが、倒れ込みかけた学長を咄嗟に支えた。
マギストロスは肩で荒く息をしながら答えた。
「……さすがに負担が大きかった。もはや私は、障壁魔法を維持するだけで精一杯だ。
私の魔力が尽きる前に、皆であの魔人を斃さねば……」
その覚悟を感じ取ったフォロスが、大きな声で叫んだ。
「騎士たちよ! 国民の命は君らの力にかかっている! 頼んだぞ!」
フォロスは受験生たちを、あえて「騎士」と呼んだ。
それは、騎士を目指す者はすでに騎士の一員であり、王国と民を守る責務を負っているという意味が含まれていた。
そして、命を懸けて戦う若者たちに対し、すでに君たちは一人前の騎士であることを認めるという意味でもあった。
「はいっ!!」
透き通るような若い男女の声が、試合場に響いた。
若き騎士たちの目線の先には、再び真っ赤な口を開き始めた魔人の姿が映っていた。
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