8. 教育という名のいじめ
いじめられる側に問題があるのではなく、いじめている側に問題があることが、ほとんどだと思います。
そのような方は、どうか自分を責めたり、卑下したりしないで欲しいと、心から思っています。
義母カリスタが来てからというもの、教育という名のいじめは、エスカレートしていく一方だった。
「カテリーナ、食器が汚れているわ。ちゃんと確認したの? お客様の食事の一切を取り仕切るのは、貴族の家では、正妻の務めなのですよ!」
このような時だけは、カテリーナがルクサリス家の継承権第一位である立場を上手く利用して、教育を行っていた。
内容はもっともなのだが、その端々に見える言葉遣いや、見下したような目つきから、それがカテリーナに対する教育ではなく、嫌悪感だという事は隠しきれていなかった。
――ニヤニヤ
義妹と義弟の皮肉たっぷりの笑顔や、失笑にも似た笑い声が、カテリーナの心をさらに傷つける。
「あなたは魔力が無いのだから、せめてこれくらいは、出来るようになりなさい!」
今回の出来事は、本来は下働きの者たちの失敗なのだが、カリスタは、それをカテリーナの失敗だということを、周囲の人間に上手く印象付けていた。
その結果、使用人たちも、何かあるたびに「カテリーナが悪いのだ」と無意識の内に考えてしまうようになった。
「……チッ!」
「はぁ、またかよ……」
「……私まで、あとで叱られるじゃない!」
使用人たちは、時には本人に聞こえる声の大きさで、陰口を言うようにまでなっていた。
カリスタからの指導は、食事だけでなく、言葉遣い、マナーや仕草、貴族間の交流の仕方、手紙の書き方、淑女としての考え方、使用人への指示の出し方、などなど、ありとあらゆる項目に渡っていた。
カテリーナは、カリスタからの教育が入る度に、心が削られていった。
やがてカテリーナは、カリスタから見られていると感じるだけで、身体が緊張してしまい、微かな震えまで起こるようにまでなっていった。
そのためカリスタの前では、その緊張から、かえって失敗をしてしまう事が多くなっていった。
――ガッチャーンッ!!
すぐさま、カリスタの叱責の声が、屋敷の中に響き渡る。
「何で、誰にでもできる事が、あなたにはできないのっ!」
カテリーナは目を伏せ、声を絞り出す。
「……も、申し訳ございません!」
「申し訳ないと思うだけなら、動物にでもできることよ! あなたには、貴族の娘として、最低限のふるまいが出来るようになりなさい、と言っているだけなのよ! 全く、魔力が無いだけでなく、何て落ちこぼれなのっ!」
親の考え方、ものの見方は、子供たちにも移っていく。
年齢を重ねて成長していく度に、義妹のゼノビアと義弟のキリロスは、カテリーナに対し、見下したり、尊大な態度を取っていくようになった。
魔力が無く、屋敷まで破壊し、高貴なる血統の責務も果たせずに、縁談の話も来ない。
それだけでなく、何をやらせてもダメな人間。
義母の影響を強く受けて育ったゼノビアとキリロスの目には、カテリーナはそのような姿に映っていた。
二人のカテリーナに対する接し方は、年々ひどくなっていき、特に何かした訳でもないのに、何かとカテリーナに突っかかるようになっていた。
しかし、傷つく度に、落ち込む度に、カテリーナの心を救ってくれる存在がいた。
それが兄、アレクシオスだった。