74. 動揺の先
決勝戦が始まりました。
どうぞよろしくお願いいたします。
――ん?
セバスティアノスの表情がふと和ぎ、その微かな違和感をカテリーナが感じ取った瞬間だった。
「さあああぁ、皆さまっ!! お待たせいたしましたぁ!!」
司会の声が雷鳴のようにスタジアムを貫いた。
「ついにやってまいりました決勝戦です! 今年の宮廷大学・騎士科受験者の頂点に立つのは、いったいどちらになるのでしょうか? 決勝に勝ち上がってきたお二人を、改めて紹介させていただきます!」
観客席から「おぉー」というどよめきのような声があふれかえり、スタジアムの空気が震えた。
「まずは青のコーナー!!
セバスティアノス・レオニダス殿!
言わずと知れた名門レオニダス公爵家の長男にして、若き雷撃の騎士ィ!!
数々の大会で優勝を重ね、今回も優勝候補筆頭です!
しかも今大会では、一本も取らせぬ完全無敗でここまで勝ち上がってきましたぁ!!」
「セバスティアノスさまーー!!」
「きゃああああ!!」
若い女性からの黄色い歓声が、観客席の中を嵐のように吹き荒れる。
セバスティアノスが微笑みながら手を振るたび、その歓声はさらに大きくなり、会場の熱気は一気に高まっていった。
「続きまして白のコーナー!!
カテリーナ・ルクサリス殿!!
こちらも名門ルクサリス侯爵家のご令嬢です!
そして皆さまもご存じ、大聖女アナスタシアさまの娘君であられます!」
――ウワァァァッ!!!
爆発するような大歓声が、スタジアム全体を揺らした。
「お母さまの影響って……本当に、今でも大きいのね」
カテリーナは、ポツリと呟いた。
「聖女さま万歳!」
「娘も優勝だー!」
「パワーでねじ伏せろー!」
――ん? なんでパワー?
どこか方向性の違う声援が混じっていることに首をかしげつつも、カテリーナは余計なことを考えるのをやめ、意識を目前の戦いへと切り替える。
司会が言葉を続けた。
「カテリーナ殿は、準決勝で第三位に入賞したヨアニス選手に一本を取られたものの、それ以外は全勝で勝ち上がってきておりますっ!!」
――よかった。……ヨアニス、三位決定戦に勝ったんだ。
カテリーナは、そっと「おめでとう」と呟いた。
「それでは決勝戦を前に、お二人に意気込みを伺いましょう! まずはセバスティアノス選手から!」
その瞬間、会場は一斉に静まり返り、セバスティアノスの声に耳を傾ける。
「ここまで来られたのは、皆さまのご声援のおかげです。心より感謝の気持ちを表したいと思います。
そして――カテリーナ・ルクサリス殿。
体格差もある中、それを乗り越えて勝ち上がってきたその実力に、深い敬意を持ちたいと思います。
互いに全力を尽くし、最高の決勝戦をお見せしましょう!」
――ウオォォォォッ!!
言い終わると同時に、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
国王までもが立ち上がり、力強く手を叩き始める。
その結果、スタジアムの熱狂は最高潮に達するのだった。
――え、私の名前!? え、え、次、私!?
目に見えて動揺するカテリーナを見て、司会はすかさず場を盛り上げようと、茶化すように声を張り上げた。
「おっとおっとー! カテリーナ殿にとって、その言葉は想定外だったようです!
まあ、これだけの美男子に褒められれば、無理もありません!」
会場からどっと笑いが起こる。
「それでは、カテリーナ殿の意気込みも伺いましょう! どうぞ!」
カテリーナは挙動不審の状態のまま答えた。
「あ、あば……あばばばば……が、がんばりましゅっ!」
……盛大に噛んでしまった。
次の瞬間、爆笑がスタジアムを包む。
恥ずかしさのあまり、カテリーナの顔は真っ赤になった。
セバスティアノスは、そんなカテリーナを可愛いと思い、思わず口元を緩めるのだった。
「落ち着くんだ、ルクサリス殿。君はここまで勝ち進んだ強い騎士だから大丈夫!」
その一言で、カテリーナははっと我に返る。
――動揺しちゃダメだ。まずは、落ち着いて呼吸を整えないと!
目を閉じ、深く息を整える
「ふぅーーー。」
カテリーナは落ち着きを取り戻した。
――セバスティアノスさまには、何度も助けられてばかりね。ありがとうございます!
心の中でお礼を言い終わると、その瞬間、彼女の纏う空気が一変した。
そこに立っているのは、動揺しているような可憐な少女ではなく、静かに闘志を燃やす歴戦の騎士のような姿だった。
――まただ、一瞬で切り替わった! ……どちらが本当の君なんだろう?
セバスティアノスは、背筋に微かな震えを覚えたのが分かった。
司会が退場すると、今度は審判が前に出てルールの説明を行う。
二人の装備と状態を確認した後、二人は互いに礼を交わし、定位置に着いた。
「――始め!!」
その声の直後だった。
――ドンッ!
鋭い音とともに、カテリーナの剣は閃光となって、セバスティアノスの右手首のわずかな隙間を正確に貫いていた。
――先の先。
集中力が極限まで高まっていたカテリーナは、剣を構えようとするセバスティアノスの動きと同時に、自然に身体が動いていた。
「ぐっ!!」
セバスティアノスが思わずうめき声をあげた。
それを見た審判が、即座に宣言する。
「一本!」
「……え?」
セバスティアノスは信じられないという表情のまま、反射的に言葉を口にしていた。
「……え?」
その様子を見たカテリーナも、何かを間違えたのかと思い、思わず同じ言葉を口にしていた。
小説を書くのが初めてです。
どんな内容でもよいので、感想をいただけると執筆の励みにもなりますし、本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m





